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【4-7】ハーレムルートは無理かもしれない






「…………」


 馬車で寝始めてからどのくらいたっただろうか? 馬車の外から聞こえてきた物音……というより断末魔が、俺を一瞬で目覚めさせた。


 慎重に馬車の外に出てみると、辺りはまだ薄暗い。それでも目を凝らして音の先を確認してみると、剣を構えたアンジェと槍を構えたヴェラの後ろ姿が確認できた。


 彼女達の前に横たわる大きな影が複数。それが魔物の死体であると分かった時は、寝起きになんて物を見せてくれたのだと二人に文句を言いたかった。



「なんであたし達の時に限って大量に出てくるのかしらね。クロエ達は全然動かないし」

「でもこれで最後。もう辺りに気配はない」


 どうやら魔物の襲撃があったようで、見張り番をしていたアンジェとヴェラが対応していたようだ。


 馬車の付近に目をやると、座ったまま目を閉じているイネッサと、横になって可愛らしい寝顔を披露しているラリーザの姿があった。


「閣下! お目覚めですか! 清々しい朝ですなぁ!」

「おはようございます。ヨルヤのアソコもお目覚めですか? おはようございます」


 全く清々しくないし、寝起きで元気だった我が息子も目の前の光景に萎え萎えだ。


 どうやら守護者達はずっと馬車を護っていてくれたようだが、ヴェラの言葉から察するに二人の手伝いはしなかったようだ。


 睡眠を必要としない守護者こそ見張り番に相応しいのだが、命令を出すのを忘れてそのまま寝てしまった。


「ん……起きたか、ヨルヤ」

「ふわぁぁあ……おはよう、ヨルヤ君……」


 モモヒゲの大きな声のせいか、眠っていたイネッサとラリーザも目を覚ましたようだ。一瞬で覚醒した様子なイネッサと、まだ少し寝ぼけている様子のラリーザ。


 そんな様子に気が付いたアンジェとヴェラが戻って来る。微妙に返り血を浴びていたので、水魔石で綺麗にしてこいと伝える。


 二人が水浴びから戻るまで時間があったので、俺はクロエとモモヒゲを連れて魔物の死体の方に向かった。


 モモヒゲに魔石回収の指示を出す。見慣れない魔物ばかりなので、大きな魔石でも持っているかもしれないと思ったのだが。


「放置バトルを起動しとけばよかった……ん…………? げぇぇっ!?」


 魔物と魔物の間に転がる物を見て、俺は叫び声と共に後ずさった。


 そこに落ちていたのは人の顔、首。黒い布で目元以外を覆い隠している忍者みたいな男の頭が、目を見開いた状態で転がっていた。


 なんで人の頭がこんな所に……!? そう思っていると、叫び声を聞いたイネッサとラリーザが近づいて来て、説明をしてくれた。



「マーシャルからの刺客だ。ヨルヤが眠ってすぐに、襲撃があったのだ」

「そ、そうなのか……」


「魔力を含んだ死体は魔物が食べちゃうから放置してたんだけど、お腹一杯だったのかな?」

「そ、そうなのか……」


 人の頭がゴロンと転がっているのに、冷静に二人に軽く恐怖を覚える。イネッサなんかは携帯食を食べながら首を見ている、よく食えるな。


 以前、厄災の襲撃時に人の死体は沢山が見たが、インパクトでいうと今回の方が強い。それなのに美人二人は全く狼狽えている様子がない。


「まぁ放って置いても処理されるだろう、捨て置け」

「そうだね。じゃあ軽く食事をして、すぐに出発しようか」


「……俺、いらない」


「疲れているのか? だが無理にでも食べないと、体力が持たないぞ」

「そうだよ、食べなきゃダメ! 森を抜けたらまた馬車の運転があるんだし」


 強烈な臭いを放つ魔物の死体、そして生首。それらが転がるすぐ近くで飯を食えと?


 そういうの、気にならない人間なら良かったのだが、生憎と俺は気になってしまう人間だ。


 いつか慣れるのだろうか……? いや慣れたくはないが、なんとなくこういう事は今後も起こりそうな気がしてならない。


 その後、頑張って食事を取った後で従馬を召喚した。一人一頭ではなく、今後のGP消耗の事を考えて三頭の召喚に留める。


 俺の従馬は人が二人乗った所でビクともしない。二人一組となって従馬に乗ってもらい、進める所まで森を駆け抜ける。


 問題は、誰が誰と組むかという事なのだが。



「「「「…………」」」」


 牽制しあう四人。誰も口には出さないが、一緒に乗りたい人物がいるようだ。


 ずっと羨ましいと思っていた。世に蔓延るハーレム物語、ハーレム男。無理だとは分かっていても、自分も経験してみたいと思った事は何度もある。


 だが実際、そのような状況になっている今、凄く分かった、ハーレム主人公の気持ちが。


 困惑、面倒、辟易。今の状況が、あまり嬉しくない。もしかしたら俺、ハーレムだめなのかも。


「私が最も馬の扱いに長けているだろう。後ろに乗った者の負担を、大きく軽減させる事ができる」

「御者ギフト持ちだよ? 逆にね、あまり馬の扱いに長けてない私のような人が一緒に乗るべきじゃないかな?」

「バランスを取るべきよ、体重でね。一番重い人と、一番軽い人が組むべき。ちなみに一番軽いのはあたしね」

「絶対に譲らない。他の子と組むなんて……認めない、斬る」


 なんか物騒な奴もいるし、彼女達の会話を聞いているだけで胃が痛い。ハーレムってもっとこう、きゃははうふふじゃないのか!?


 というかまだハーレムじゃないからか? 個人同士がぶつかり合って反発している状態で、混ざり合っていないと?


 混ざり合う未来がマジで見えねぇ。



「……クロエ、俺はお前の後ろに乗る」

「「「「っ!?!?」」」」


 俺の発言に驚いた顔を見せる面々を無視して、クロエを選択する。あんな状態のヒロイン、誰か一人を選べるわけがない。


 こういう時こそ守護者の出番。ほんと、いつだって俺を護ってくれるんだな。


「畏まりました。クロエの胸にしっかりお掴まりください」

「胸じゃなくて腰だろ……」


「か、閣下……? ワイは……?」

「あ~、お前は馬車で待機」


「そ、そんな……! 閣下! そのような痴女ではなく、ワイの後ろの方が快適ですぞ!?」

「……すまんなモモヒゲ。俺も男なんだ」


 意気消沈した様子のモモヒゲを馬車に押し込み、インベントリに収納する。


 クロエと馬に跨り、後ろを振り向くと渋々といった感じでパートナーを選んだ彼女達も従馬に跨っていた。


 先行してくれるのはイネッサとアンジェ、後方を警戒してくれるのはヴェラとラリーザ。クロエと俺は中央で安全に走らせてもらう。


 まだ少し薄暗いが、俺の従馬なら大丈夫だろう。馬たちには基本的に彼女達の命令を聞き、サポートをするように命じる。


「じゃあ行くぞ、行ける所まではノンストップだ!」


 本来であれば人の手が入っていない深い森、馬を走らせるなんて不可能だろう。だが従馬たちは面白いように木々を避け、根を飛び越え、軽々と進んでいく。


 イネッサやアンジェがヴェラたちのように、この馬欲しいと呟くのは走り出してからすぐの事だった。


お読みいただき、ありがとうございます

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