【4-2】化粧が発達した世界
王城が少し慌ただしくなるのを感じながら、俺たち先遣隊も準備を進めていく。
先遣隊と言ってみたが俺たちは完全に別部隊。それどころかファルエンド王家とは無関係の立場を貫いて行動する事になる。
だというのに、俺の隣には真剣な表情で愛剣の手入れをしている王女アンジェリーナの姿がある。
「……なぁアンジェ。一応さ、それは脱いだ方がいいんじゃないか?」
「脱ぐ……///」
「いや違う言い方が悪かった! 着替えた方がいいんじゃないか? お前の雰囲気と服装、アクセサリー……どっからどう見ても一般人じゃない」
「でも私、あまり私服を持っていないです」
ならエリー辺りから服を借りたらどうだと提案するが、色々な所の大きさが違うので難しいらしい。色々な所とはどこか具体的に聞きたいが、今は自重しよう。
ヴェラとラリーザは王女に服を貸すなど恐れ多いと消極気味、イネッサは今着ている服が持ってきた全てだそうだ。
ならば仕方ないかと、俺はインベントリを開いてショップから良さげな衣服を見繕う。
なんの力が働いているのか分からないが、ショップから購入した服は着用する者のサイズに完璧に合うようになっているので便利だ。
まぁゲーム内で購入する服に、サイズなんて面倒な項目があったらクレーム物だろうが、俺が渡す服はいつもサイズが完璧だという事になると、違った意味で渡した物から俺にクレームが入りそうだな。
「この辺りか……? 王女感も隠せるし、あまり安すぎる服を王女に着せるのもあれだしな」
軽装騎士装束(SR)を購入。高級感はヴェラの服と大体同じ感じだし、これなら渡す服としては問題ないだろう。
というかよくよく見たら、ヴェラもラリーザもお洒落だな。ヴェラなんかは生足を出していてエロし、ラリーザは肩出しの服装でエロい。
もうちょっと冒険者らしく防御に気を回した方がいいと思うが……冒険者であり女性だという事なのだろうか。
「ほい。これでいいなら着てくれよ」
「うん、着る。これがヨルヤの趣味です?」
「いやそういう訳じゃ……動きやすさ重視だよ」
「分かった、着替えるです」
「いやここで着替えるな、向こうで着替えてこい」
目の前で着替え始めようとする痴女王女。そんな彼女の行動を遮り、別の部屋で着替えるように促す。
痴女はどっかのエルフだけで十分なんだよ……なんて考えていると、痴女ではないエルフが話しかけてきた。
「ヨルヤ。私も今一度、着替えてこようかと思うのだが……」
「え? イネッサはもう着替えただろ? また軍服を着るのか?」
「そうではない。ヨルヤにプレゼントしてもらった、あの服に着替えようかと思ってな」
「いやあれはダメだろ。戦う女子学生エルフ……色々と見えるぞ、絶対」
「「プレゼント……?」」
好きな奴は好きそうだが、あの服装は可愛さに全振りしており防御力は皆無。さらにはひらひらスカートなので、戦えばチラどころかモロであろう。
どこか不満げな顔をするイネッサだが、何を張り合いだしたのか……なんて考えている場合ではなく、護衛たちの様子がおかしい。
「ちょっとヨルヤ。あたし、服なんてプレゼントされた事ないんだけど?」
「私もないんだけど」
「いや……それは色々とタイミングというか……」
「アンジェリーナさんとイネッサにはプレゼントしたのに、あたしにはないの?」
「私にもないの?」
「…………分かったよ」
手を組み始めてから厄介さが増した二人。キリッとした美女とおっとりした美女という、一見すると凸凹コンビだが上手く噛み合っていやがる。
仕方がないのでヴェラとラリーザにもショップから服を購入する。無言の圧がイネッサからも飛んできたので、こちらの分も泣きながら購入する事に。
冒険者装束(SR)、魔術師装束(SR)、女森人装束(SR)を購入しそれぞれ手渡した。SRじゃなくRにすればよかったと後悔するほどの大金が吹き飛んだ。
「すごっ!? 随分と質のいい服ね!」
「うん。サイズがピッタリなのが少し怖いけど」
「森人の服装か……故郷を思い出すな」
「……言っとくけど、それ売れないからな」
「売らないわよ!」「売らないよ!」「売ったりしない!」
まぁ、喜んでくれたのならいいけどさ。力を貸してくれるのだし、なりより俺のヒロイン様だしな。
嬉しそうに着替えに行く彼女たちに、少しだけ外すと伝えて俺は城外へと出た。
――――
ヒロイン達が着替え終わるのを待つ間、俺は城外へとやって来ていた。
結構な時間になったというのに、街は変わらず騒がしい。王子の生誕日を祝い、喜び叫ぶ街の者達。
王城で人が誘拐され、戦争にまで発展してしまうかもしれない状況になっているなど、思ってもいないのだろうな。
「さてと……何て言われるかな」
今回の事件が片付くまで、どれくらいの時間が掛かるのか分からない。だが一日二日でストーリーエンドとはならないだろう。
だがそんな事などコイツはお構いなし。こっちの事情を説明した所で、同情もしてくれないし譲ってもくれないだろう。
俺は人気の少ない場所で成長馬車を具現化させ、個室車両の中に足を踏み入れた。
「……アーケディア? ちょっと話があるんだが…………アーケディア? いないのか?」
怠惰の厄災アーケディアに、オウカが攫われた事を説明する必要があった。今は専ら、アーケディアの世話をオウカに任せているからだ。
暫くの間、オウカの代わりにまた俺が世話をする……そう伝えるために来たのだが。
「……いない? 遊びに行ったのか……? いや、そんなアグレッシブな奴じゃないよな」
個室車両の中にアーケディアの姿はなかった。大声を出しても、念話で呼びかけても反応がない。
もしかして、存在が消えたのだろうか? 厄災は存在するのに魔力的な制限があると聞いたが、アーケディアがその周期に入ったのかもしれない。
まぁどこかに出かけているのだとしても、いないのならそれでいい。探す方法も探す必要もないから、アーケディアの事は無視して良さそうだ。
「良かった良かった……イネッサとかに見つかったら、どうなるかって心配だったからな」
世界警察の執行者であるイネッサは、厄災の存在を絶対に見逃さないだろう。今回、イネッサと行動を共にする上で一番心配していたのだが、回避できそうだ。
従馬で移動しようかと考えていたが、アーケディアがいないのであれば馬車での移動が出来そうだ。馬車で移動できれば、アンジェ達の負担を大きく減らす事が出来るだろう。
とりあえず個室車両はアーケディアが戻って来た時の事を考えて、使用不可にしておこう。
馬車の状態と物資を確認し終えた俺は、アンジェ達を迎えに行くために再び王城へ戻った。
「……なにしてんだ?」
「化粧」
「いや化粧って……これから賊を追うのに? なんだよイネッサまで」
「い、いや……私も少し、見られる顔にしておこうかと思ってな……」
「化粧なんかしなくても美人だろうが……ラリーザも、そのつけまつげは必要か?」
「ん~ちょっと待ってねぇ……うん、いい感じ」
「ヴェラ、私にもしてほしい」
「はいはい畏まりました……ムカつくくらい肌が綺麗ね、流石は王女様か」
王城に戻ると、女四人が身を寄せ合って顔に粉を塗りたくっていた。その光景には文化レベルを考えると違和感がありまくるが、以前にオウカが言っていた事を思い出した。
この世界、文化レベルを考えると異常に発達した物がいつくかあると。
それは女性の物が多く、下着や服、生理用品、そして化粧。聞いた話だと、つけ爪やマニュキュアなどもあるそうだ。
過去の異世界召喚者が伝えたのだろうと言っていた。美容の専門学生でも召喚されたのだろうか?
どちらにしろ、そこまでの知識や技術が必要なく、十代の学生でも作り出せるもの。それどころか、十代だからこそ熱量が凄かったのだろう。
「男と女の違いなのだろうか……?」
異世界に召喚された男は冒険に目を輝かせて飛び回るイメージだが、女性はまず身を固めるようなイメージもある。
「これ、エリーが最近発表されたものだって言ってた。あいらいなーだって」
「アイライナー……すげぇな、女子学生の熱意」
「なぁにこれ? これをどうするの?」
「目に入れるって」
「はぁ!? 嘘でしょ!? 目に物を入れたら痛いじゃない!」
「目を書く……だったかも?」
「目を書く……目を書く……? 分からんな。第三の目を書けという事か?」
「オウカが詳しいだろうからさ……助け出したら聞いてくれる?」
つい先ほど、騎士の遺体が見つかったと報告が上がったそうだ。あと少しで証拠が確固たるものとなるので、ここまできたら少しだけ待ってほしいとカールから言われたそうだが。
だからといってこの緊張感のなさはなんだろう? そりゃ何をやっていても待ち時間は変わらないから、リラックスした方がいいとは思うけど。
「流石は王城ね、質がいいものばかり」
「うん。これとかすっごく高いもんね」
「私も少し化粧を覚えようと思う」
「女として、身だしなみは大事だ」
女三人、四人寄れば……なのか。俺は口を挟む事が出来ず、カールが部屋にやって来るまで美しく変身していく女性たちを黙って見守った。
本当にこれから、誘拐犯を追いかけるのだろうか?
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