【3ーEX】拐われた人、国。拐った国、助力した組織
毎話いいねをくれる数人のお陰で書き続けられたと言っても過言ではありません
ありがとうございました
ここはどこだろう? 目が覚めたら見知らぬ部屋にいた私は、簡素なベッドから降りて辺りを見渡した。
どう見ても、ここはフェルエンドの王城ではない。それはこの部屋の雰囲気が物語っていた。
街の宿屋よりは質の良さそうな家具が揃えられているが、王城の物と比べると質が悪い。
部屋は少し薄暗く、心なしか空気が悪くも感じる。
「……私、何があったんだっけ」
最後の記憶を辿ってみる。カールハインツ様の生誕祭に参加させてもらっていて、とあるタイミングで手洗いに立った。
お手洗いから出て、再びパーティー会場に戻ろうとしたら迷ってしまって、少し王城を彷徨った事を覚えている。
黙って警備している騎士の人に道を聞けば良かったのだが、なんとなく恥ずかしかったので、迷ってませんよ? みたいな顔で歩き回ったっけ。
「そうだ、そこで……」
私が担当していたクラスの子、ヒナノちゃんが泣きながら私に向かって走ってきた。
彼女は誰かに追われていたようで、私の事を見つけると少しだけ安堵したような表情で私に抱き付いてきた。
『オ、オウちゃん! シュウゴが……! リョウマ君が……!』
話を聞くと、シュウゴ君とリョウマ君が知らない男達に連れ去られたという。
そしてその男達はヒナノちゃんの事も拐おうとしたのか、追い掛けられていると。
急な話に狼狽えかけるが、そんな暇もなく事態は再び急変した。
『おいおい、まさかアンタも異世界の者か? こりゃいいや、二人とも来てもらおうか』
ヒナノちゃんの言った事は本当だった。その発言から、私たち異世界から来た者を狙っている事も理解した。
私はすぐさま擦れ違った騎士さんの事を思い出し、ヒナノちゃんの手を引いて彼の元へと走り出した。
「でも、私のせいであの騎士さんは……」
警備をしていた騎士さんの元へと辿り着き、助けてくれと懇願した。
追って来た男を見て状況を理解した騎士さんは、すぐに私達と男の間に入って剣を構えてくれた。
これで一安心だ。しかし、そう思ったのも束の間だった。
『ひっ……きゃぁぁぁぁぁぁ!?』
騎士さんの頭が、胴体から離れてボトりと床に落ち、転がった。
それを見たヒナノちゃんは、叫び声を上げながら逃げ出してしまう。
逃げれるだけ、足が動くだけ凄いと思う。私は恐怖に足がすくんでしまい、一歩も動けなかった。
『足だけは早ぇ女だ。見られたからには捕まえなきゃねぇが、どうするかね』
ヒナノちゃんの叫び声を聞いたのだろう、数人の騎士さんが駆け付けてくれたけど、状況は変わらなかった。
男の手によって、駆け付けてくれた騎士さん達も倒されてしまい、再び私は男と対峙する。
『チッ……! あの女、余計な面倒をかけさせやがって! 騎士達も処分しなきゃねぇし、ここまでか』
その言葉を最後に、私の意識は暗闇に沈んだ。恐らく男に意識を失わされたのだろう。
そして気が付いたら、この部屋にいたという訳だ。
「私、どうなるんだろう……」
何か目的があるから誘拐されたのだろう。思い浮かぶのはお金や物を要求するために、なんていう事ではあるが。
でもこの世界は現代ではない。身代金目的ではないかもしれない。
異世界から来た人を狙っていた事実を考えれば、奇想天外な目的があるのかもしれない。
「ま、まさか私の血とか!? 異世界の人の血は高く売れたり!? 変な儀式をしたり!?」
ファンタジーな事を妄想するのであれば、十分にあり得る話だと思った。
血を抜かれてミイラにされるのは嫌だ。何とかしてここから逃げないと、そう思って扉に近付いた……その時だった。
誰かが向かって来る、足音が扉の外から聞こえた。
血を抜かれるんだ……そう思った私は扉から離れて、部屋の隅まで下がった。
「おぉ起きてたのかよ?」
部屋に入ってきた男には見覚えがあった。ヒナノちゃんを追い掛け回し、騎士さんの事を殺して、私を連れ去った男だ。
「腹はへってねぇか?」
「わ、私の血は美味しくないですよ!?」
「……はぁ? なに言ってんだお前? 俺は腹へってねぇかって聞いたんだよ」
「べ、別にお腹なんてへってな――――」
「――――ん、ウチはお腹すいた」
緊張した空気の中、なんとも気の抜けた覇気のない声が聞こえてきた。
反射的に声がした方に目を向ける。そこには壁しかないはずなのだが……その壁から、生首が生えていた。
「ア、アーちゃん!? そんな所で何をしてるの!?」
「オーカ、やっと見つけた。けーきちょうだい」
壁から首だけを覗かせていたのは、怠惰の厄災アーケディアであった。
どうやらお菓子欲しさにオウカの事を探していたようだが、その行動力は怠惰とはいえないものであった。
――――
「父上、証拠が揃いました」
「……そうか」
「ヒナノさんの証言、誘拐現場と思われる場所に残された血痕。そして、街道に打ち捨てられた四名の騎士の遺体を発見しました」
「そうか……」
「その打ち捨てられた騎士の内の一人の手の中に、これが」
「ボタン……そしてこの刻印は……」
「我らの騎士が、文字通り掴み残してくれた証拠です。此度の、異世界人誘拐の犯人は……マーシャル王国です!」
王城内の一室で、ファルエンド王に誘拐事件の証拠を提出する王子カールハインツ。
王の傍らには王妃ツァリーヌが、カールハインツの隣には王女エカテリーナの姿があった。
「異世界人の強奪という世界法律違反、生誕祭中に事件を犯すという我が国への侮辱行為。そしてなにより、彼の国は我が国の騎士を殺めたのです!」
「…………」
その言葉を聞き、ファルエンド王は静かに目を閉じる。現国王は穏やかであり、争い事を嫌う傾向にあった。
しかし目を開いたファルエンド王の目は力強く、その眼光は流石に大国の王であった。
「……騎士隊を編成せよ。第一騎士隊は戻っているのか?」
「第一騎士隊は第一王子と共に遠征中です」
「では第二騎士隊長のチルハイドに指揮を任せる。第二王子カールハインツ、騎士を率いてマーシャル王国へ向かえ」
「はっ! 仰せのままに!」
部屋の中にいる王族、近衛の騎士、政を担う文官達が顔を引き締めた。
それを確認したテオフィールド・リドル・ファルエンド王は、声高らかに宣言した。
「これより、ファルエンド王国はマーシャル王国に宣戦布告をする! 諸外国に通達せよ!」
大国同士の戦争は、ここ数百年では一度も起きていない。
これがもし、王城内での騒動でなければ、生誕祭中でなければ、世界警察が間に入り両国の橋渡しを行う事が出来た。
しかし事件は、世界警察の手が届かない場所で発生してしまう。
これにより、調停者の役割をも担う世界警察は介入できなくなり、大国同士の戦争という未曾有の事態へと発展してしまった。
しかし大国同士とは言っても、その二つの国の国力差は圧倒的であった。
ファルエンド王国の勝利は揺るがない。もしマーシャル王国が下手に抵抗しようものなら、一つの国が滅びる事になるだろう。
――――
「くそっ! あの愚臣どもがッ! なんという事を仕出かしてくれたのだ!」
マーシャル王国の一室で、筆頭文官の一人であるトマス・ボーンが声を荒げ、机に拳を打ち付けていた。
つい先ほど知らされた凶報。あの愚王は吉報だと喜んだようだが、アホか!?
「まさか王子の生誕祭中に、それも王城内で動くとは思ってもいなかった……ここまで愚かだとは思ってもいなかった!」
私がいつまでも本腰を入れて動かないから、痺れを切らした愚王が愚臣に命令したのだろう。
だが王が愚かなら周りを固める臣下も愚かだったのだ!
「王家主催の祭典中に、それも王家が管理する城内で不埒を働けばどうなるか、そんな事も分からないのか!?」
愚か……愚か愚か愚か! 本当に愚か者だ! 愚か過ぎて救いようがない!
目は光らせていた。愚かな行動をしないように密偵を付けていたが、想像を絶する愚かさは想定外だ。
外交力に乏しい我が国。経験が浅いとはいえ、常識的に考えれば分かりそうなものなのに。
外交のがの字も知らないのなら、いつものように黙って国に籠っていろ!
「戦争か……」
まず間違いなく、ファルエンド王国はマーシャル王国に宣戦布告をしてくる。
勝てる戦ではない。抵抗する事は無駄に民の命を消すだけだ。
だがあの愚王、愚臣は無血開城などしないだろう。それどころか、勝てると思って迎え撃つとか言い出すに決まっている。
ファルエンドは大国中の大国。対して我が国は大国とは名ばかりの大国である。
同盟国も多いファルエンド。マーシャル王国は国柄ゆえに同盟国は一つもない。
「マーシャル王国は、終わりだ……」
……いや、それでいいのだ。あの愚王の一族、愚臣どもを国から排除できるのなら。
だとすれば私達がすべき事は、民の命を守る事、民の立場を守る事である。
ファルエンド王国には、報復として国の上層部を燃やしてもらう。
そして我が国が誇るあの技術を、ファルエンドに差し出すのだ。
それで手打ちにしてもらう。マーシャル王国が、マーシャル国として生き残る道はそれしかない。
「となればまずは……なんとしてでも奴らより先に、先遣隊と接触しなければ」
数日中に、大部隊を率いてファルエンドは国境を超えてくるだろう。
だかその前に先遣隊が来る。戦争宣言を告げに使者もやって来るだろうし、その者達と愚者どもを会わせる訳にはいかない。
「はぁ……胃が痛い……これが終わったら、私は引退させてもらおう……」
ヒロイン達を引き連れたヨルヤ達が、胃痛に苦しむトマスと出会うまで、あと数日。
――――
「ファルエンド王国がマーシャル王国に宣戦布告を行いました」
重苦しい雰囲気に包まれた世界警察の会議場。
円卓に座るのはコンダクターと呼ばれる、世界警察の指揮者たち。
世界警察が大きな行動を起こすのは、基本的にこの指揮者たちからの命令によるものだ。
「報告は上がっている。今回の事は世界警察の範疇外の出来事ではあるが……」
「無視できない報告が上がっている。執行者の一人が、今回の事に関わっているという」
「執行者ヂモフェイ・ノノムラ。彼の者がマーシャル王国の人間に手を貸したというのは本当か?」
「状況証拠しかないが、もしそれが本当であるのならば……」
いくら大国同士の戦争とはいえ、通常であれば今回の事に世界警察は介入しない。
下手に介入をし、どちらかの国に加担する事は世界法律違反。世界警察は自ら制定した法を犯すという事になる。
だが組織の一人、それも要職に就く人間が片方の国に加担したという報告が上がっていた。
「異世界人を強奪したマーシャル王国。ファルエンドからマーシャルに戻る際の大検問を通過させた……か」
「それだけであれば如何様にも改竄できようが、問題はヂモフェイの姿が見えぬ事だろう」
「まず間違いなく、ヂモフェイはマーシャル王国の一団と共にマーシャル王国へと向かったのでしょう」
「それが意味する所は、一つであるな」
ヂモフェイが異世界の事に執着しているのは周知の事実。
彼の行動は不思議ではないが、世界警察にとっては無視できない行動である。
「今回の事に、世界警察の助力があったと各国に知られれば、世界警察の信用は地に落ちる」
「確固たる証拠がないと言っている場合ではない。疑わしきは罰せよ、理念とは異なるが仕方あるまい」
戦争が始まり、ヂモフェイがマーシャル王国の人間と一緒にいる姿を、ファルエンドないし他国に見られる訳にはいかない。
そうなる前に、ヂモフェイを排除しなければならない。
ヂモフェイさえ排除できれば、今回の事件に世界警察は介入していないと、如何様にも説明する事が出来る。
「一応、報告では執行者イネッサが個人的にマーシャル王国へ向かったとあるが」
「世界警察の執行者として行動している訳でないのであれば、問題はないだろう」
「あぁ、彼女は聡明だ。こちらの事情も把握して行動しているはず」
「だが彼女だけで事足りるのか?」
「念には念を入れるべきか……抹殺者を遣わせろ。ヂモフェイがファルエンドと接触してしまう前に……消せ」
世界警察には、執行者と同等の力を持った抹殺者という者がいる。
それは世界警察の裏の顔。表に出せない事を秘密裏に排除したり、不始末を起こした身内の者を粛清するために遣わされる。
世界警察の上層部は、今回の事にヂモフェイが関わっていたという事実を消すため、ヂモフェイを消すために抹殺者を送り込む。
「さて、どちらにしろ歴史が動く」
「全ては神の思し召し。我らはただ、見守るだけだ」
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次話から第4章となります
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