【3-48】人探しは至難の業
騒がしくも賑やかな城下町を駆け回り、イネッサの事を探し回る。目についた世界警察の人間に手当たり次第に声を掛けてみるが、誰も取り合ってくれなかった。
見ず知らずの一般人が、最高戦力者である執行者の所在を聞いても答えてもらえず、地道に探し回るしかなかった。
だがこの広い王都で、目立つとはいえたった一人の人間を探し出すのは至難の業。イネッサの部下の顔は覚えているとはいえ、今の王都には何千という数の世界警察がいる。
イネッサは見つからず、時間ばかりが過ぎていく。時間が勝負だと言っていたカールの言葉が脳裏をよぎり、焦りばかりが募り始めた。
「一人じゃダメか……来い! クロエ、モモヒゲ!」
王族の馬車を運転すると決まった日から、送還していた守護者達を人目に付かない場所で呼び出す。
二人の知能は俺と差ほど変わらないだろうが、身体能力は遥かに高い。単純な人探しであっても、身体能力とその高身長で少しは役に立つだろう。
「世界警察のイネッサを探すぞ! それか見知った顔の者でもいい!」
「はい」
「承知」
特に説明などしなくとも指示に従ってくれるのだから本当に助かる。急な指示に戸惑ったり、理由を聞いてきたりすることがない。
俺の危険に直結する事なら意見も出すのだろうが、時間がないこういう場面では本当に助かる仕様である。
その後、三人分かれてイネッサ達の捜索を行った。守護者とは離れすぎていなければ念話することが出来るので、そういう所も便利である。
がしかし、それから数十分探し回ったが、イネッサはおろか見知った顔の者を見つける事も出来なかった。
「(人が多すぎて人を探すのも一苦労か……お前たちは捜索を続けてくれ。俺は少し離れる)」
他人への連絡手段に乏しいこの世界での探し物は人海戦術、それしかない。しかしそうなると、圧倒的な人手不足である。
足りないのなら補えばいい。俺の唯一の力である人脈、それをフルに活用するしかない。
そう思った俺は、冒険ギルドに駆け込んだ。
「…………いたっ! 良かった!」
イネッサの事を知っていて、かつ俺の知り合いとなると限られる。そんな条件に合致する数少ない者、ヴェラとラリーザだ。
いなかったらどうしようかと思ったが、運が味方してくれたのか二人は冒険ギルドにいてくれた。
そんな二人に駆け寄り、事情を説明する。流石に二人は色々と理由を聞いたりしてきたが、最終的には納得して行動を開始してくれた。
「……この中からあの女を探すって? マジ?」
「マジだ。頼む、時間がないんだ」
「あの人は執行者だから……現場には出ていないんじゃないかな? 本部のような所で指揮を執っているのかも」
「あぁそうかも。でもその場所も分からねぇんだよ」
捜索時間と合流場所を決め、二人と別れた俺は再び捜索を開始する。後手にならないように、ヴェラとラリーザには大まかな事情を話している。
知り合いが誘拐され、馬車に軟禁されている可能性。だからイネッサを見つけたら、王都を出て行ったであろう四つの国の事について聞く。
世界警察の検問は堅固と聞いた。もし上手く検問をすり抜けていたとしても、何かしらの手がかりがある事を願う。
五人となった捜索隊。だがやはりそれでも、イネッサに辿り着く事は出来なかった。
「なんでだ……なんでいねぇんだよイネッサ……」
流石に走り過ぎて疲れた。こんなに長く走り回った事は人生で一度もない。
それでも見つからない……本当に、電話って凄く便利な物だったのだなと思い知らされる。
一つの街の中でも見つける事が出来ないのだ。この世界での出会いは本当に一期一会、知り合っても二度と出会う事がない事もあるかもしれない。
一先ず、ヴェラとラリーザと合流する時間近くなったはずなので、一縷の望みをかけて集合場所へと向かった。
その場所に向かうとすでに二人は合流していた。イネッサが見つかっていた事を願ったが、二人の表情を見るにそれはさそうだった。
「い、いなかったか……?」
「えぇ……あたしは東地区、ラリーザは西地区を中心に回ったのだけど……」
「ヨ、ヨルヤくん大丈夫!? 少し休んだ方がいいよ……」
「あ、あぁ……じゃあ少し……座るわ……」
肩で息をする俺を心配してくれたラリーザに促され、俺は下品にも地べたに座り込んで体力の回復を図った。
息を整えながらどうするかを思案する。やはり埒が明かないので、カールやエリーから世界警察に働きかけてもらうしか……そう考えていた時だった。
「(ヨルヤ、見知った顔の者を見つけました)」
「(っ!? 本当か!?)」
「(はい。場所は――――)」
クロエから念話が届き、吉報を齎してくれた。俺はヴェラとラリーザにその事を伝え、三人でクロエの元へ向かう。
クロエに導かれながら王都を走る。数分後、クロエの姿を見つけたのだが、辺りにイネッサの姿はないように見える。
そんな状況だが、嘘を吐くはずがないクロエにイネッサの場所を聞く。するとクロエは人だかりを指さし、見知った者を指さした。
「……なんだ。視線を感じたと思えば、お前か」
「コ、コンラード!?」
そこにいたのはイネッサではなく、世界警察の審判者であるコンラード・イシガミであった。バドスストーリーの際に世話になった、あのぶっきら棒でシスコンのコンラードだ。
確かにコンラードは顔見知りだが……ってそうか! コンラードなら分かるかもしれない、イネッサの居場所が。というかなんなら、コンラードに協力を申し出てもいい。
「コ、コンラード! 話がある、聞いてくれ!」
「なんだ? 財布でもすられたか?」
「そんなんじゃない! すられたのは人だ! 俺の知り合いが誘拐されたんだ!」
「……大声を出して混乱を招くな。こっちに来い、話を聞く」
相変わらずブスッとした表情のコンラードだが、眉間に皺を寄せながら話を聞くと言ってくれた。
人気が少ない場所に数人の取締者とコンラードと移動し、事情を説明した。鋭い眼光で俺を睨みつけるコンラード、嘘を吐いていないか見極めているのだろうか。
「話は分かった……が、一つ聞こう。王城内で誘拐されたと言ったが、なぜお前が知っている? 王家の催しに招待されたとでも言うつもりか?」
「そうだよ。招待されていたんだ、俺と誘拐されたそいつは……」
「にわかには信じがたい。一介の御者であるお前が招待された理由はなんだ?」
「……お前を信用して話す。お前にだけ、話す」
イネッサの言う通り、むやみやたらに世界警察の人間に異世界人であるという事は言わないようにと心に決めていた。
しかしコンラードなら大丈夫だろう、そんな事を漠然と感じている自分を信じて、コンラードだけに自分が異世界人であるという事を伝えた。
「……王家が異世界人の召喚に成功した事は知っていたが、まさかそれがお前とはな」
「まぁ俺はオマケだけど……ともかく、そういう事で招待されたんだ」
「各国に通達された事だが、一般人には知りえない情報だ。それを知っているという事は、本当なのだろう」
「じゃあ信じてくれるな? なら、続きを話すぞ?」
疑惑がなくなったからなのか、コンラードの眼光は僅かに柔らかくなり、真剣に話を聞いてくれた。
これは俺個人からの依頼であって、王家は関係ないという事。馬車に軟禁され連れ去られた可能性があるので、世界警察の検問に引っかかった可能性などを中心に話した。
「なるほど、事情も状況も理解した。だが我々は警邏隊、検問隊ではないので情報は持ち得ていない」
「そうか……なら、イネッサの場所を教えてくれ。あいつなら、なんとかしてくれるはずなんだ」
「イネッサ……まさか、執行者ランバドールの事か? お前、彼の者を知っているのか?」
「あぁ、知り合いなんだ、頼む」
「流石は異世界人といった所か……おい、ベッチホスト隊はどの地区を任されている?」
「はっ! 私の記憶では、南地区の担当だったかと」
僅かに驚いた様子のコンラードだったが、すぐさま一緒に来ていたポリス達にイネッサの場所を確認してくれた。
イネッサの担当は王都の南地区。そこまで案内してくれるというコンラード達と共に、再び走り出した。
そして南地区に付き、仮設の本部のようになっている場所でイネッサの姿を見つけた。
俺は思わず感極まって、イネッサに抱き着いてしまう。
「ヨ、ヨルヤ? 随分と熱烈だな? だがまだ仕事中なのだ」
「あ、悪い……やっと見つけたぞイネッサ、会いたかった……!」
「ど、どうしたというのだ……? いつにも増して積極的だが」
「イネッサ、頼みがある、助けてくれ!」
背後からヴェラとラリーザが睨んでいるような気がする。イネッサの周りの部下たちは俺を止めるどころか受け入れてくれて、今は微笑んでいるほどなのに。
ともあれいつまでも抱きしめている訳にもいかないので、イネッサから離れて説明を始める。
イネッサはどこか残念そうに、後ろの連中はガヤガヤと喧しくなる。
「……執行者ランバドールは大の男嫌い。触れようとした男の腕を切り落としたという噂も聞いた事があるのだが」
「触れようとしたどころか、がっつり抱き着いていたわよ! 受け入れてたわよ!」
「しかも見た? 抱き着かれた時、私達の事を見て勝ち誇った顔してたよ、あの人」
「仕事中なら拒否りなさいよね! あたしだって抱きしめられた事なんて……いや、なんでもない」
「下手に近づくと殺気を飛ばされるしね~。あれを掻い潜って抱き着くのは、至難の業だなぁ……」
「……お前達はどういう関係なのだ? しかし、流石は異世界人といったところか」
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