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【3-45】酒友・カールハインツ






 王城内にある大広間にて、生誕祭の立食パーティーが始まって数時間。


 俺の周りには人がいなくなり、一人寂しく酒を呷りながらパーティーの様子をぼーっと眺めて時間を潰していた。


 王様と共に、アンジェもエリーも他国の挨拶回りを開始したので、ただの御者である俺は一人ぼっちになってしまったという訳だ。



「おぉ! 気弱そうな子がカールに向かっていったぞ! 頑張れ……!」


 しかし王族のパーティーというもの、非常に面白い。王子にがっつりアピールしている肉食系女子に、両親に押されて王子を囲む輪に加わり頑張っている草食系女子。


 王子には目もくれず食事を楽しむ不思議系女子に、なぜか俺のようにぼーっとしている天然系の女子の姿も見受けられた。


 というか気づいたが、女子率が高い。若者の八割は女子、男は基本的にオッサンばかりなので、何を狙ってこの場に来ているのかが丸分かりである。


 自慢の娘を王子と会わせ、次期国王であるカールに気に入って貰おうと必死なのだろう。つまり必死になっていない子の国は、この国と同じような大国という事だろうか。



「カールも大変だなぁ……うぉぉっ……これもうめぇ……!」


 俺は一人でもまったく問題ない。楽しいし美味しいし、最高である。


 多少の居心地の悪さは感じるが、誰かと一緒じゃないと不安になったり行動できなくなったりする時代は卒業した。


 昔はそれこそ、どこかのグループに属して行動しなければ不安に思ったものだが……今はそれがない。


 他者の目など気にせず一人でも楽しめる、それは人として成長できたという事なのだろうか。


「あれ……? シュウゴ? アイツ、どこ行ったんだよ……」


 そもそも酒も食べ物も上手すぎるので、他に構っている余裕がないという事もあるのだが。


 そんな事を思いながら高級であろう酒を飲んでいると、見覚えのある少年が目の前をキョロキョロしながら通り過ぎた。


 見覚えがあるのは当たり前、彼は俺と一緒にこの世界に招かれた学生の一人だ。何かこの国に貢献し、この立食パーティーに招待されたのだから凄いよな。


 確か彼ら彼女らは四人くらいで固まっていたような気がするが、彼はグループから逸れてしまったようだ。一人になったことで不安になり、探し歩いていると。



「まだまだ彼らはグループじゃないと行動できない年頃か……ふっ青いな」

「なに悟ったようにカッコつけているんだい?」


 どことなく不安そうな表情を浮かべて、キョロキョロしている学生を眺めながら肉を食らっていると、ボッチな俺に話しかけてきた者がいた。


 その者に目を向けると、今日に限っては関わるのをご遠慮願いたい男が、翡翠色をしたボトルを手にして薄ら笑いを浮かべていた。


「こんな隅っこでボッチ飯かい? ヨルヤ」

「……これはこれはカールハインツ王子様。ただの御者の私になにか御用でしょうか?」


「友と酒を飲みに来たんだ、付き合ってくれるかい?」

「……本音は?」


「少し疲れた、匿ってくれ」


 やって来たのはこの生誕祭のメイン人物であるカールハインツ。メインの者が会場のこんな隅にまでやって来るとは、いい迷惑だ。


 そんなカールの背後には、彼を追って来たのであろう着飾った複数の女性たちの姿が。匿ってくれとは、彼女達からということなのだろうが。


「いい迷惑だ……」

「そう言わないでくれよ。ほら、お土産もあるんだ」


 今までは全く関心を向けられていなかったのに、会場内の視線が集まり始めた。王子と親しげに会話をする、あの貧相な身なりをした奴は何者だ?


 そんな目を向けられる俺の身にもなってほしい。特に後ろに控える女性たち、邪魔だから消えろといった表情をしていて怖い。


「土産って……それ、エルフ酒か?」

「よく分かったね! 実はエリーからのプレゼントなんだ。まだほとんど出回っていないエルフ酒、ヨルヤも飲んだ事ないだろう?」


「あ、あぁまぁ……そうだな」

「という事で失礼するよ……君たち、申し訳ない。ちょっとこの者と話があるんだ」


 エルフ酒は先日、浴びるほど飲んだ……なんて言えないので、隣に座ろうとするカールの行動を止める事が出来なかった。


 追ってきた女性たちに断りを入れるカール。その女性たちから殺意の目を向けられる俺、こんな状況で酒の味など分かるのだろうか?



「ではヨルヤ、乾杯」

「乾杯。お誕生日おめでとうございます、カールハインツ様」


「やめてくれよ……もう耳にタコが出来るほど聞いた言葉だ……」

「お疲れさん。でもまぁ、お前の生誕を祝ってくれているんだからさ」


 俺は飲みなれたエルフ酒、それを一気に飲み干したカール。俺はその様子を見ながら静かにエルフ酒を呷った。


 相当につかれている様子だが、大丈夫だろうか? 今日までの準備もあっただろうし、パレード的な事に各国の対応など、彼の誕生日なのに彼が一番疲れているのではないだろうか。


「祝ってくれている者なんて少数だよ。大多数はこの国に取り入ろうと躍起になっている者たち、残りは仕方なしの来国さ」

「あ、あははは……お、俺はしっかり祝ってるぞ! アンジェやエリー、オウカだってな!」


「うん、ありがとう。ここにいると気が休まるよ」


 仄暗い目をするカール。彼はこの大国の次期国王と目される人物、それに取り入ろうする国や他国の王女たち。


 アピール合戦が凄いのだろう。普段は穏やかで優しいあのカールが、こんな暗い目をするほどなのだから。



「そういえば、オウカ殿はどこに?」

「オウカならさっき手洗いに行って……から結構経つな。迷ってんのかな?」


「どうだろう。随所に騎士が配置されているから、場所を聞けば案内してくれるはずだけど……」

「そっか。ちょっと俺、探してこようかな」


「い、いや、もう少しいてくれよ……君、ちょっといいかい?」


 近くにいた騎士団の一人を呼び寄せたカールは、その者にオウカの事を探してくるように命じた。


 俺がいなくなったら、彼はまた取り入ろうとする者達の相手をしなければならなくなる、それがどうしても嫌なのだろう。


 上げた腰を再び落とした俺は、騎士団の人にオウカの特徴を伝え、捜索をお願いする事にした。


「さ、さぁヨルヤ、もっと飲もうか」

「……お前、ほどほどにしておけよ? 酒での失態は流石に怒られるだろ? 王様とかに」


「大丈夫だよ、やるべき事は済ませてある。ここから先はほとんどプライベートさ」

「大丈夫じゃねぇよ酒乱王子が……俺を巻き込むのは勘弁してくれ」


「分かってる。ほどほどに、ほどほどにね」


 そう言いながらエルフ酒を注いでくるカール。王子だけに注がせるわけにはいかずに、俺もカールに注いでいく。


 エルフ酒は上品な酒で、とても飲みやすく悪酔いする事もない。だから大丈夫だと思ったのだが、いかんせんエルフ酒は一本しかない。


 一本しかない酒、そんなのすぐになくなる。なくなったらどうする? そりゃ他の酒を飲むしかないだろうな。


 だからまぁ、あとは分かるよな?





 ――――





「うっそだろ!? 婚約者いんのかよ!?」

「しぃぃッ! 声が大きいよ! 実は僕に婚約者がいるなんて、そんな大きな声で叫んだらダメじゃないかッ!!」


「いやお前の方が大きい気がするけど……それで、誰? どこの国の人?」

「ベスパイア帝国の第二皇女」


「第二ィ? なんでカールに嫁いでくるのが二番目なんだよ? 舐められてんじゃねぇか?」

「僕だって第二王子なんだよ! それに第一皇女はもう四十近いんだよ!? 一回り年上なんだよ!? 僕は若い方がいい!」

「いや四十って若いし、普通に美人いるよ? というかお前、結構いうね? 人気下がるよ?」


 カールと酒を飲み始め、エルフ酒がなくなっても酒盛りは終わらず。次第にいい感じになっていった俺たちの声は大きくなり始めた。


 そのタイミングで王妃様が現れ、俺とカールを別室に投げ飛ばした。パーティーはもう終盤となっていたので、お開きにすると呆れ顔で王妃様が言っていたのを覚えている。


 王妃様はカールの酒癖の悪さを知っていたようで、注視していたようだ。余計な事を口走る前に別室送り、その行動は大正解だったようだな。


 カールと婚約するために躍起になりアピールする王女が多い中、実は本人にはすでに婚約者がいましたなど、大問題発言である。


「んで……可愛いのかその人。皇女って美人なイメージがあるけど」

「可愛らしい子だよ。皇妃様にとても似ていてね、帝国の紅玉と呼ばれているんだ」


「へぇへぇそうですか! 良かったね! その言い方だと年下か? 何歳なの?」

「今年で十二だったかな」


「ロリコンじゃねぇかよ! 一回り年下じゃねぇかよ! 若い方がいいって若すぎだろ!」

「ロ、ロリコンじゃない! なんて事を言うんだ!」


 別室に移動しても続く酒盛り。カールにはたくさんのアフターの誘いがあったはずなのに、その全てに断りを入れて男同士で飲んでいた。


 他国の王族の誘いを断るとかヤバい気がするが、大国の王子だから許されるのか? まぁ俺もカールも、すでに判断能力を失っているのでどうしようもない。


 カールはロリコンだったという話を広げて彼を弄りまくる。そんな事をしていると部屋がノックされ、数人の騎士が部屋の中に入ってきた。



「殿下。オウカ・ミカガミ様の捜索の件ですが……宜しいでしょうか?」

「オウカミカガミの捜索……? なんだったかな? それ」


「いや忘れてんなよ……すみません、俺がお願いしたんです。どうでしたか?」


 俺も正直すっかり忘れていたが、トイレに行ったっきり戻って来なくなったオウカの捜索を騎士団にお願いしていた。


 きっと部屋に戻って休んでいるのだろう、そう楽観的な事を考えていたのだが、騎士の口から出たのはそうではなかった。


「それが、十数人の騎士達で捜索したのですが……王城のどこにも、ミカガミ様の姿は見当たりませんでした」

「……え? という事は王城外に出たって事ですか?」


「いえ、入退場者を記録している者に確認したのですが、ミカガミ様が王城を出た形跡はないようです」

「はぁ……えっと、それってどういう……」


 王城に出入りする者を管理しているのは分かる。そこはしっかりしているだろうから、記録がないならオウカは王城の外には出ていないのだろう。


 なら王城内のどこかにいるはずだが、騎士団が王城内をくまなく探し回ってもオウカの姿が見つからなかったというのだから、矛盾しているのだ。


「……もしかしてあれか? 王族しか入れない秘密の部屋に、間違って入り込んでしまったとか?」

「なるほど、あり得るね! じゃあ僕と探しに行こうじゃないか! そんな部屋があるのか分からないけどね!」


「あっおい! ほんと酔っ払いが……! すみません、ありがとうございました! あとは自分達で探しますので!」


 酔っぱらったカールが意気揚々と部屋を飛び出して行ってしまったので、ずっと捜索してくれていた騎士団に礼を言い、慌ててカールの後を追いかけた。


 どこに向かっているのか知らないが、王城内を一人で探し回るのは色々と問題だし、カールが付いて来てくれるのは助かるが。


「お、おいカール! どこに向かってんだよ?」

「それはもちろん、騎士団が捜索できない区画に行くのさ」


「えっと、それって……」

「妹たちの部屋にいる可能性が高いよ。ある意味、秘密の部屋だからね」


 なるほど、ダメだこの酔っ払いだと思っていたのだが、意外にも思考はまともだった。


 別室送りになってからアンジェとエリーとは会っていないので、彼女らと一緒にいる可能性は確かに高い。


「僕はアンジェと一緒にいると思うな。随分と仲が良さそうだったからね」

「というか普通に三人でいるんじゃないか?」


「じゃあ賭けるかい? 当たった方が酒を奢るんだ」

「いいよ。俺は三人でいるにエルフ酒を三本」


 この時はまたふざける余裕があった。オウカが見当たらないとはいっても、まさか事件に巻き込まれているなんて思いもしていなかったんだ。


 アンジェの部屋にもエリーの部屋にも、オウカはいなかった。


お読みいただき、ありがとうございます

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