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【3-44】生誕祭にて






「キャーッ! カールハインツ様ぁぁっ! こっち向いてぇぇ!」

「カールハインツ様バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」

「きゃーっ! いま私、目が合ったわ! もう私二度と目を洗わない!」

「ありがたやありがたや……あの御方が居てくれればこの国は安泰じゃ」


 王都のメイン通りを、一台の豪華な王族馬車がゆっくりと進んでいく。その馬車に乗り笑顔で手を振るのは、第二王子のカールハインツ・リドル・ファルエンド。


 本日はカールハインツ王子の生誕祭。今日を含めて三日間ぶっ通しで行われる生誕祭は、大騒ぎの三日間となる。


「そこの者! ラインを超えるな!」

「通行帯には留まらないで下さい!」

「貴重品は肌身離さず持つように!」


 そんな大騒ぎの三日間、当然ハメを外した者たちも大勢現れる。中には混乱に乗じて悪事を働こうとする者もいるかもしれない。


 そのため警備にあたる人の数は普段の比ではない。騎士団や世界警察が目を光らせ、ちょくちょく連行されている人の姿も目に入った。


 そもそも王子が大勢の人の前に姿を現すのだ。警備が厳重になるのは当然だが、やはりどうしても威圧され委縮してしまう。



「しっかし、なんでこうなった……」


 俺は今、先頭を行くカールの豪華な馬車を追いかける、豪華というよりは美しいと言うのが相応しい馬車の御者席にいる。


 なぜ御者席にいるのか、それはもちろん馬車を運転しているからだ。誰を乗せて運転しているのか? それは聞かないでほしい、緊張して事故を起こしかねない。


「ふむ、素晴らしい運転技術! 流石は勇者様だ!」

「えぇ、これほど快適な馬車はそうありません。あなた達が推薦する理由も分かります」

「うん、ヨルヤは凄い」

「はい、私も初めて乗りましたが」


 その美しい馬車に乗っていたのは、なんと王様に王妃様、そして二人の王女様。この馬車一台に王族が四人、もはや一つの国である。


 なぜその馬車を俺が運転しているのだ……! それはアンジェにエリーが、俺が御者だと分かるとすぐさま王様たちに推薦を行ったからだ。


 俺が運転する馬車に乗った事がないくせに、俺の馬車や運転技術は世界一ィッ! と王様と王妃様に捲し立てたらしい。



「ど、どうぞ、お飲み物でござる……ござるます」


 まぁ俺より凄い目に合っているのがオウカだ。なんとオウカ、同じ馬車に乗り給仕のような事をしている。


 オウカも異世界から来た者、つまり勇者様。その影響というか信頼が大きく、オウカが従業員だと分かると王様自らオウカを指名し、馬車に同乗させた。


「オウカ殿、それほど緊張せずとも……口調が武士になっておるが」

「手が震えております。体調が悪いのでしたら、こちらにお座りください」


「い、いえいえ! 大丈夫です! ありがとうございまする!」


 当たり前だろうがオウカは緊張しっぱなし。あまりの緊張っぷりに、王様や王妃様が心配してしまうほどだったそうな。


 王子と王女は歳も近いし、立場的にもまだやり易いのだが、王様となるとまた違うからな。



「あなた、私と同じ匂いがする」

「同じ匂い……王城の石鹸を使わせてもらっているからですかね?」


「そうじゃない。あなたのヨルヤを見る目、雰囲気、私と同じ……いいや、真逆?」

「真逆は同じと言わないような……」


「ミカガミ様、あなた様はヨルヤ様とどのようなご関係なのでしょうか?」

「ご関係……えぇと、同郷の人で、私を見つけてくれて……だから所有物です!」


「はい? 所有物……? よく分かりませんが、ただの雇用主と従業員という事でしょうか?」

「そうですね、主従関係というか、私はあの人の物なので!」


「ヨルヤ様は従業員を物扱いしないと思いますが……」

「分かる。あなたやっぱり、私と同じ。あの人は私の物」


「「はい……? 今なにか言いました?」」


 不穏な気配を漂わせ始めた三人を見て、王と王妃は気づいたという。俺を御者に推薦してきた王女たち、何かしらあるとは思っていたが。


 その王女たちと張り合ってみせる同郷の者。彼の者の話となると緊張などどこへやら……総じて、三人とも引く気を見せない。


 そんな三人を生暖かい目で見守る王と王妃。そんな事が馬車内で起こっている事など俺は全く気付いていなかった。


 この馬車は王族馬車なので、御者席からは車内の様子も声が聞こえてくる事もない。


「はぁ……まぁ、日給くれるみたいだしいいか」


 俺は大勢の国民の視線に晒されながら、そんな呑気な事を考えて気を紛らわせていた。王族馬車なんて運転できる機会も早々ないだろうし、この際に楽しもう。


 どうせ俺の事なんて誰も見ていない。車窓から手を振る四人の王族の事しか見ていないだろう。


 周りは騎士団が固めてくれている。馬車を引く馬は俺の従馬ではないので、そこだけを気を付けながら事故を起こさないように努めればいい。


 そんな事を考えながら、王族を乗せた馬車はゆっくりと進んでいった。




 ――――




「ヨルヤ、これも食べて……くださいな」

「ありがとう、アンジェ」


「ふふっ……アンジェ……ふふふふふ……」

「いや怖ぇよ、口元だけ笑うな、可愛いけど」


「ヨルヤさん、これも凄く美味しいですよ!」

「おぉありがとう……うん、美味いな」


「私の分も……じゃなくて、私の事も食べますか?」

「言い直した方が間違ってる」


 立食パーティー会場で、俺はアンジェとオウカと共に会場の隅っこでヒッソリと食事を楽しんでいた。


 大勢の国賓であろう者達に囲まれるカールを遠目に、ただの御者が楽しませてもらっていた。


 大勢の国賓……というか囲んでいるのはほぼ女性だ。カールはイケメンだから、女性が集まるのは分かるが。


 さらに周りを見渡すと国賓の他、何名かの学生たちの姿もあった。この場は招待制らしいので、あの学生たちは招待されたのだと思うが、なにかやらかしたのだろうか?


 どんな功績を立てたのか知らないが、まさに主人公だな。異世界からやって来て、王族から招待を受けるなんて。


 俺も人の事は言えないが。まぁ俺の場合は功績ではなく、王女と仲良くなるなんて裏技を使っての参加だからな。


「はぁ、疲れました……」

「お疲れさん、エリー」


「ギュってしてくれたら疲れも吹き飛ぶかと」

「ここでそんな事をしたら俺がどうなると思う!?」


 冗談です、そう小悪魔のように可愛らしく言ったエリー。彼女の元には引っ切り無しに男性からお誘いが来ていたので、それに応じるためこの場を離れる事が多かった。


 ちなみにアンジェにはお誘いが一つも来ていない。パーティーの場でも帯刀し、キリッとした表情と邪魔をするなと言いたげな雰囲気のせいだと思うが。



「しかし凄い数だな……何か国から来ているんだ?」

「知らないですわ」


「アンジェ、お前はもう少し知っておいた方がいい立場だと思うが……」

「五十はくだらないと思います。小国も大国も、他種族の方々も大勢参加してくれています」


 次期国王の生誕祭ですから……エリーは続けてそう言ったが、もう決まっているのだろうか? 第一王子がいると思うのだが、彼女の中ではいない事になっているのか。


 そういえば、第一王子らしき者の姿がない。というか今まで見た記憶がないのだが、アンジェのようにどこかに遠征でも行っているのだろうか?


 しかしアンジェに聞いても知らんと言いそうだし、エリーは第一王子の話をしたがらない。まぁ別にいいか……そう考えていると、一人の若い男が近づいてきた。



「こんな所におられたのですか、アンジェリーナ王女にエカテリーナ王女」


 俺とオウカには目もくれず、アンジェとエリーに話しかけた男。この場にいるのに相応しく身なりが良いが、なんとなく違和感を覚えた。


 アンジェが話そうとしないため、エリーが男の相手をする。俺とオウカはエリー達の会話を静かに見守った。


「彼らの事は初めて見ますが……どのようなご関係なのでしょうか?」

「友人ですが、それがなにか?」


「いえいえ、身なりが少し質素に見えましたので……潜り込んだ輩かと邪推してしまいまして」

「……この方たちはお父様、ファルエンド王が招待されたのです。そのような邪推は、過分に失礼かと」


 不快感を露にするエリー。俺も、恐らくオウカも何とも思っていないが、俺達のために怒ってくれている事は嬉しかった。


 しかし男はエリーが軽く睨みつけても、薄気味悪い笑みのまま。なんとか俺も助けてやりたかったが、相手がどんな立場か分からないので下手は打てない。


 どうしたものかと考えていると、助けを出したのはアンジェだった。妹を守るかのように間に入った姉は、若い男を睨みつけた。


「あなた、どこの国の人?」

「マ、マーシャル王国ですが……」


「そう。あなた……どうして帯刀しているの? それにその腰回りに隠してある物……なに?」

「こ、これは……別に帯刀は認められているでしょう!? アンジェリーナ王女だって帯刀しているではありませんか!」


 さっき俺が感じた違和感の正体はこれだった。確かにアンジェは帯刀していたが、他の来賓者を見ると護衛らしき者を含めて帯刀など一切していない。


 どうやら帯刀は認められているようだが、ここは王子の生誕祭の場。おそらく暗黙の了解か何かで、帯刀する事は認められていないのではないだろうか?


 帯刀しているという事は危険に備えると言うこと。いくらでも言いようのある、護衛らしき者を傍に控えさせておくという事とは訳が違う。


 いくら他国に赴くとはいえ、生誕祭のパーティー会場で危険に備えるなど、主催者を信用していないと宣言しているようなものだ。


 暗黙の了解を理解していない者、もしくはこのような催しに慣れていない者。大国に対する行動としては、間違いだという事は俺でも分かる。



「わ、私はこれで失礼します!」


 そう言い残し、若い男はそそくさと退散していった。いなくなる前に俺の事をジッと見てきたような気がするが、俺に怒っても仕方ないだろうに。


 どっかの国の要人に付いてきた、世間知らずの護衛といった感じだろうか?


「マーシャル王国の王族に、あのような方がいた記憶はありません」

「うん、私も記憶にない」


「アンジェは他の王族の事も知らなそうだが……という事は、やっぱ護衛か」

「あはは……じゃあちょっと落ち着いたようだし、私お手洗いに行ってくるね!」


 実は我慢でもしていたのか、そう言ったオウカは小走りで会場から出て行った。人が多い所のトイレは混むから、早めに済めせておくべきだな。


 まぁ女性のトイレに関して考えるのは色々とあれなので、オウカの行動を頭の中から消して、パーティーを楽しんだ。



 そして数時間後。


「あれ? そういえばオウカは?」


 頭から消してしまったせいなのか気づくにの遅れてしまった。エリーも、流石のアンジェも他国の対応に行ってしまったため、指摘してくれる人もいなくなっていた。


 パーティーが終わりに近づいてもオウカは戻らず。王城内を手分けして探してみたが、オウカの姿は見当たらなかった。


お読み頂き、ありがとうございます

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