【3-43】コスプレをするエルフ
「これとか良さそうだぞ! 着て見てくれよ!」
「あ、あぁ……」
高級ブティックでイネッサを着せ替え人形にし始めて、どのくらい時間が経っただろう? 素材がいいものだから時間を忘れて楽しんでしまっていた。
イネッサの性格なのか、未経験からくる無知なのか分からないが、彼女は基本的に俺の言った事に素直に応じてくれるため男心が擽られる。
かなり際どい……言ってしまえばエロい格好も、ちょっと戸惑いは見せるものの基本的に拒否はせず、着て見せてくれるのだから素晴らしい。
普段は強気な性格というか、従事している仕事などを考えるとギャップが凄い。弱弱しいとは言わないが、こんな素直に従う奴ではないだろうに。
「やっぱイネッサには濃い色より薄い色の方が似合うな」
「色はともかく、スカートは私には似合わないだろう。歳の事も考えてくれ……」
「歳なんて関係ないと思うけど……じゃあストッキングを履けばいい。今もってくるから」
「お、おい。そういう事ではなく……」
高級店なので様々な物が中々な値段となっているが、イネッサへのプレゼントなら頑張れる。しかし、ただのストッキングのように見えるこれもクソ高い。
とてもじゃないが消耗品ではない。伝線したから捨てる、なんて気軽に行えるような値段ではなかった。なぜにもこんなに高いのか。
「そちらは過去の勇者様がお召しになっていたと言われているものです。作るのにもの凄い時間が掛かるので、その値段となっております」
「はぁ、そうなんですか……」
店員に聞くとそんな答えが。過去に召喚された女学生が身に着けていたと……学ランに続いて現代の服を見るのは二度目だな。
この世界に召喚された時、来ていた服はそのままだった。だが他に身に着けていた物、俺で言えば時計がなくなっていたし、学生たちはスマホがないと騒いでいた。
明らかに文明レベルが違う物は持ち込めないという事なのか。まぁ電池で動く時計も、充電が出来ないスマホなんてすぐ使えなくなったのだろうけど。
「ど、どうだろうか? 変じゃないか?」
「全然! よく似合ってるよ! というか脚長いな……何頭身あるんだよ」
試着室から出てきたイネッサは、凄く単純に言うとエルフのコスプレをした女学生といった感じだった。
だが彼女は本物のエルフ。そのエルフが女学生の制服を着ているのだから、向こうの世界から来た俺にとっては少し違和感があるが、似合っていればいいだろう。
女学生のコスプレをしたエルフ。この姿をオウカや学生たちに見せれば、騒ぎになる事は間違いない。
「この服にしようか。すごく似合っているし……まぁ個人的な好みも入っているが」
「し、しかし、結構な額になるぞ? ここは私が支払った方が……」
「まぁイネッサの方が稼いでいるとは思うけど……こういうのはさ、稼ぎじゃないのよ。素敵な女性にプレゼントを贈りたい男の気持ち、分かってくれ」
「そ、そうか……そういうものなのであれば、ありがたく受け取らせてもらおう」
どこの高級ブランドだと言いたくなるほどの値段だったが、稼ぎ始めた俺に払えない額ではない。
イネッサが少しでも喜んでくれるなら安いものだろう。まさかプレゼントをする最初のヒロインが、イネッサになるとは予想していなかったが。
その後、イネッサに洋服をプレゼントした俺は、イネッサを連れまわして王都中を練り歩いた。
いつもと雰囲気が違う王都なので、行く場所には困らなかった。まぁ目立たないために軍服を脱がせたのに、あまりの美人オーラに違う意味で人目を引いていたのには困ったけど。
多少目立ってしまったが、その他は特筆すべき事は起こらなかった。自他ともに事件などは起こらず、執行者と一緒だというのに穏やかなデートだったと思う。
そんな俺たちは今日の締めくくりとするべく、夕食を食べに良さ気な店に入っていた。
「ここの支払いは私が持つ、存分に楽しんでくれ」
「そうか? じゃあ遠慮なく」
「今日は楽しかったぞ、ヨルヤ。色々と貴重な体験をさせてもらった。強引な君には少し辟易させられたが」
「わ、悪い、なんか俺も色々と楽しくなってしまって……嫌だったか?」
「そんな事はない。男に支配される感覚というのも存外悪くなかった……が、それは君だからだろうな」
「……もしかしてMなの?」
少しお高めであろう酒を片手に、コース料理のようなものを頂く。イネッサに導かれるまま入った店だが、ここは高級店ではないだろうか?
客層のせいなのか、ジロジロ見られる事がないのでリラックスできるが……あまりハメを外すと支払いがえらい事になりそうなので自重しよう。
「そういえばイネッサ、やっぱ王都には生誕祭の警備をしに来たのか?」
「そうだ。警備の応援依頼があったのでな」
「警備依頼って、王城から?」
「王家が世界警察に表立って何かを依頼する事はないだろう。王家が他所に力を借りるという事は、色々な意味で問題なのだ」
政治的な事を言っているのだろうが、あまり俺にはピンと来ない話だ。国の威信とか威厳とか、そういう事なのだろうか?
ともあれ世界警察に警備を依頼したのは、城下町を治める者たちであると。そしてイネッサ達に応援を求めたのが王都に駐屯する世界警察という事か。
「王城に我々は入れない。そのため町の警備は主に我々が、王城の中および周辺は騎士団が担当する。決まってはいないが、暗黙の了解というものだな」
「へぇ、そうなのか」
「生誕祭中、王城には王家に招かれた者や関係者しか入れないのだ。それゆえ基本的に、王城の中は安全であろう」
「なるほど……でも町の方は大変そうだな? 酔っ払いの喧嘩とか、痴漢とかスリとか色々とありそうだ」
「ふふ、その程度で済むのなら何の問題もない」
不敵に微笑むイネッサの頬は酒のせいなのか、僅かに朱くなっていた。軍服を脱いだ今日は本当に色々な表情を見せてくれたと思う。
俺は知っているが、今のイネッサを見た者は世界警察の執行者だとは思わないだろう。それほどまでにあの軍服の威圧感は凄まじい。
「イネッサの他にも執行者っているのか?」
「王都に駐屯している者が一人、応援に私を含めて二人来ている」
「じゃあ今この街に三人か。やっぱ凄いんだな、執行者って」
取締者や審判者が何人来ているのかは知らないが、その中で執行者はたった三人。その内の一人とデートしている俺も凄い事をしているよな。
イネッサ以外の執行者の事は知らないが、どんな人物なのだろう? そんな事を考えていたのが顔に出たのか、イネッサが口を開いた。
「自分で言うのもなんだが、執行者は世界警察の中ではかなりの権限を与えられている」
「まぁ、そうだろうな。どうしたいきなり?」
「もちろん規律はある。だが規律を権力で捻じ伏せる者や、己の考えのみが正義だと言う者など、様々な者がいるのだ」
「……なんて言えばいいか、それだけ力があるって事だろうから、理解できなくはないけど」
「執行者のやる事には、たとえ執行者であっても口を挟めない。挟む時は正義と正義のぶつかり合い、最終的にものを言うのは実力となる」
「……なぁ、何が言いたいんだ?」
「ヨルヤ、君は異世界から来た者……そう言ったな?」
「あ、あぁ」
君には近づいてほしくない執行者がいる……そういったイネッサは真剣な表情で、その者の名を口にした。
ヂモフェイ・ノノムラ。その名を口にした時のイネッサは険しい表情だったが、早々会ったりしないだろうと思って楽観視していた。
だが次の言葉に、楽観視している場合ではないと思わされた。
「ヂモフェイは王都に駐屯する執行者だ。そしてその者は異世界人に……異世界から齎された技術に熱を入れているという噂がある」
「熱を入れているって……」
「異世界人は見た目では分からない。分かるとすれば魔力だが……他人の魔力を感じ取る事が出来る者は多くないので、大丈夫だとは思うが」
「…………」
ともかく、奴には近づくな。そう言いながらイネッサは、グラスに残った僅かな酒を飲みほした。
飲み干したグラスをジッと見つめ、何かを考えこんでいるような表情をするイネッサを見た俺は、ヂモフェイと出会ってしまう予感を感じざるを得なかった。
「そういう言い回しはさ、ダメなんだよイネッサ。ゲームなんだから、俺の人生」
「ゲームの……人生? ど、どういう意味だ?」
「ともかくさ、もうイベント発生しちゃうから。何かあったら守ってくれよな」
「あ、あぁ、それはもちろんだが……酔ったのか? ヨルヤ」
そんな話をされたら間違いなく出会ってしまうだろう。今ごろ運営が必死こいてイベント作成などをしているに違いない。
まぁゲーム化されるならクリアー出来るという事だから、そこはいいんだけど……相手は執行者だから、最低でもイネッサレベルの者に助力を求めないとクリアー出来ないだろうな。
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