【3-42】上官思いのいい部下たち
オウカを従業員に迎えてから数日。
慣れるまで時間がかかるかと思われた馬車運行管理だが、オウカは僅か数日で俺なんかより遥かに綿密なスケジュールを組めるようになっていた。
「今日はボルドガに向かう人が六人で、そこで四人を乗せて王都に戻ります。その途中、フードナーで五人をピックアップしますよ!」
「お、おう……行けるのか?」
「全然問題ないです! 誤差を含めて計算したから! 遅れが出た場合などはお知らせしま~す!」
「お、おう……了解で~す」
オウカには俺のギフトと成長馬車の事は説明済み。他の馬車の知識がないオウカはそれをすんなり受け入れ、今では馬車の速度まで指示できるほどだ。
街中には速度制限があるが外には速度制限がない。そもそも馬や馬車の性能的に、舗装されていない場所を高速で走れると思われていないのだ。
それを把握したオウカ。出せるスピードを把握し、一度行った場所の情報は全てメモを取り記録している。時計がないので移動時間すらも感覚にはなるが、今の所オウカの感覚に狂いはない。
「あと傭兵さんから護衛馬車の依頼が二件あったけど、どうする?」
「えっと、どうしよう……?」
最近では、依頼の受付も彼女が行ってくれるようになった。おかげで俺は、その間に放置バトルで素材集めを行う事が出来ている。
というか定期も護衛も、俺が宣伝するより彼女が宣伝した方が客入りがいいのだが……やはり彼女の見た目、雰囲気がそうさせるのだろうか。
「あのねヨルヤさん。護衛馬車なんだけど、往復運行はやめた方がいいんじゃないかな? 待ち時間って、かなりのロスだと思うの」
「まぁ、そうなんだけど……その間に出来る事もあるし、何より俺は帰り道の車内の雰囲気が好きで……」
「そっか! じゃあ今の話はなしね! ヨルヤさんの好きな事は止めないよ」
「わ、悪いな。その方向で調整よろしく! あと今回の護衛馬車だけど、数日後に生誕祭があるから止めとこうか」
オウカは基本的に、俺がやりたい事を止めない。経営に関して口出しというか意見はかなり出してくるのだが、俺が正反対の意見を出すとすぐに自分の意見を曲げている。
基本的にオウカの言ってくる事は正しく、正直オウカが提案してくる事を実行していれば事業は間違いなく成功するだろう。
護衛馬車に関しても、帰り道まで護衛する必要は本来ないのだ。この馬車の本質は目的を達成するまでの護衛であって、目的を達成した後の護衛は計算上は赤字になる。
目的達成後の依頼者がボロボロになっている場合、薬や魔石は無償提供しているので盛大に消費される。帰り道は荷物が増える事が多いので、場所も占領する。
待ち時間や人件費、消耗品の使用などで帰り道の利用は赤字寄り。汚れた物や荷物も乗せるので、清掃に素材も消耗する。
少しでも赤字分を補填しようと、そこで考えたのが酒の提供である。気分が高揚している帰り道、こういう商品は売れに売れるのだ。
だが俺は別に儲けたい訳じゃない、楽しみたいんだ。俺にとって護衛馬車の醍醐味の大部分は帰り道にある……まぁ、目的達成に失敗して暗くなる車内もたまにあるが。
「あっ……アーちゃんに呼ばれたから、行ってくるね」
「お、おう。よろしく……」
アーケディアは基本、念話で用事を伝えてくる。しかし最近は、専ら呼ばれるのはオウカで、俺に声はあまりかからなくなっていた。
アーケディアは近くに誰がいるのかを把握できるようで、オウカが用事で近くにいない時くらいしか俺に声はかからない。
「さて、じゃあ俺は馬車のチェックと、客の対応をするか……」
別に寂しくないし、この状態は俺の望んだ事なのだが……ずっと俺ばかりに頼っていた子が、急に別な奴にベッタリになると言いようのない喪失感に囚われる。
まぁアーケディアの好きにさせるのが一番だ。それにどんなに慣れようが、アイツは人に危害を加える存在だという事を忘れてはいけない。
今の所は可愛いもんだが……オウカには悪いが、頑張ってくれ。
そんな事を考えながら、俺は本日の運行を行うべく準備に取り掛かった。
――――
王子の生誕祭を二日後に控えた日。
いつもに比べて王都中が騒がしくなっているのを感じながら、俺はいつも通り馬車の消耗品などの買い出しに出ていた。
街中が飾り付けられ、まさしくお祭りといった雰囲気。カールは生誕祭の日、民たちの前に姿を見せてメイン通りを練り歩くらしい。
練り歩くと言っても、馬車に乗るのだろう。車窓から民たちに手を振る、そんな事を行うのではないかと予想する。
「しかし、賑やかだなぁ……流石はイケメン王子様の誕生日だ」
これは聞いた話なのだが、第一王子より圧倒的に第二王子であるカールの方が人気が高いらしい。
甘いマスクに穏やかな性格、民達の事を第一に考えた政策などが、民の人気を博しているらしい。女性人気も凄そうである。
そんなカールを間近で見れる機会、それが生誕祭だ。街中がカールを祝福し、賑わうのも理解できる。
飾りや出店、その他にも色々な様子がいつもと違う王都だが、なんとも言えない雰囲気も漂っている。
普段はあまり見かけない、騎士団の姿をそこら中で見かける。その騎士団に負けないくらい世界警察の姿も見えた。
この王都ハイルオールは、世界でも有数の大国らしい。その大国の王子であるカールの生誕祭だ、警備が凄い事になるのは当然だろう。
「おい、あれ見ろよ」
「ん……? おぉすげぇ! あれ、全部世界警察の人間か?」
人が多いので従馬には乗らず、大通りを歩いていた時だった。近くにいた者達が騒がしくなり、視線の全てが同じ方向を向き始めた。
それにつられて俺も見てみると、もの凄い数の馬と馬車に乗った世界警察の人間が、こちらに向かってくるのが見えた。
他の地域に駐屯していた世界警察の応援だろうか? どちらにしろこの数の世界警察の人間を一度に見たのは、これが初めてだ。
「世界警察大集合……こりゃ犯罪なんて起こす気にもならないわな」
誰かが言ったとおりだ。こんな数の世界警察が警備をする場所で、悪さなど出来るはずがない。
騎士団に世界警察。これだけの数が揃えば、たとえ厄災が攻めてきても大丈夫だろう……そんな事を考えていると、数頭の馬が列から離れてこちらに向かってくるのが見えた。
俺に向かってきている気が……それが分かったのか、俺の周りにいた野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように俺から離れていった。
俺も知らん顔をして離れようとしたのが、向かってくる馬に乗った者の姿には見覚えがあったので足を留めた。
「やはり、ヨルヤか」
「イネッサ! 久しぶり……でもないか?」
「ふむ、デート以来だな。二人ではなく四人で行った、あのデート以来だ」
「まだ根に持ってんのかよ……」
向かってきた一団の先頭を走っていたのは、世界警察の執行者であるイネッサであった。
その周りには見覚えのある顔もある。俺を宿場町まで送り届けてくれたポリスの姿や、サムズアップをしてイネッサを宜しくと言っていた者の姿も確認できた。
その者たちに軽く会釈をすると、急に笑みを浮かべ始めた。しかしその笑みは、世界警察の人間のくせにどこか悪巧みでも思いついたかのような笑みだった。
「イネッサ様。今日は移動日、到着したら特に仕事はありません」
「それがどうかしたのか?」
「王都に来るのは久方ぶりでしょう? そこの男性はお知り合いのご様子、王都の案内でもしてもらっては?」
「なるほど、デートの仕切り直しという訳か」
「「「「その通りですっ!! 是非、デートに!!」」」」
ビシッとカッコいい敬礼をしながら、なんとも間の抜けた事をいうポリスたち。上官に王都に着いて早々デートを勧めるとは、世界警察って実は緩いのだろうか?
しかし満更でもない様子のイネッサ。僅かだが口角を上げ、クールな笑みを俺に送ってくれた。
「ヨルヤ、どうだろうか? 時間はあるか?」
「時間はあるけど……本当に大丈夫なのか? 怒られたりしない?」
「心配してくれるのは嬉しいが、問題はない。問題があるとすれば、この服装だな。私は気にしないが、着替えてからの方がいいかもしれない」
「た、確かに軍服でデートはな……カッコいいけど」
一白線とかいう、一本の白いラインが入った軍服を着たイネッサ。一白線は執行者の証なので、だれが見てもイネッサが執行者だと分かる。
美人エルフに執行者の軍服、それはまぁ目立つ。逆に変な奴は近づいてこなくなるだろうが、変な噂は立つかもしれない。
【A・着替えてきてもらう】
【B・服をプレゼントする】
【C・そのままでいいから】
プレゼントとは全く頭になかった選択。やはりこの選択肢の存在は助かる。
「じゃあ、この前のお礼もしたかったし服をプレゼントするよ。服を見に行かないか?」
「この前の礼とは、エルフ酒の事か? あれは私を助けてくれた礼なのだ。礼に礼をするのはおかしいだろう」
「いいんだよ! イネッサの私服が見たいんだ! お礼が嫌だっていうのなら、俺のためにプレゼントされてくれ!」
「そ、そう言われては断りづらいではないか……意外と強引なのだな、ヨルヤは」
ハートエフェクトが発生した。服をプレゼントというより、イネッサの様子を見るに強引な態度が良かったように思えるが。
強引な男が好きなのだろうか? そういや出会った時もそれに近い事を言っていたような気もするな。
ちなみに後ろに控えるポリスたちは、全員がサムズアップ及び敬礼をしていた。本当にいい部下をイネッサは持ったと思う。
「ではイネッサ様、行ってらっしゃいませ! ファイトですよ!」
「馬は我々が連れていきます! 存分にデートを楽しんできてください!」
「尊い……この姿、逝った奴らにも見せてやりたかった……!」
「門限はありませんからね! くれぐれも! 夕食前にお帰りになる事のないように!」
「な、なんなのだお前たちは……何をそんなに喜々としている」
「ま、まぁ……行こうか、イネッサ」
馬に乗っているイネッサに手を差し出し、その手を握りながら馬から降りるイネッサはどことなく恥ずかしそうにしていた。
その様子を見たポリスたちは再び騒ぎ出すが、イネッサが睨みを効かせると即座に退散していった。
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