【3-41】子供のお世話はお手のもの?
総合業務に従事してもらう従業員、オウカ・ミカガミを雇った俺は、さっそく彼女に仕事について色々と説明を行っていた。
ちなみにクロエとモモヒゲには、紹介および説明済み。しっかりと守護対象にオウカの事も含めるようにと言い聞かせてある。
俺はオウカ、そして守護者二人を連れ王都を出た。人気のない場所まで移動したのは訳があるのだが、まず最初に仕事について話をする。
説明ごとに、明るい笑顔で元気よく返事をしてくれるオウカ。あの沈んでいた姿はどこにもなく、まさに生き生きとしていた。
「予定管理に売上管理、あと仕入の管理とかをメインにお願いすると思う」
「はい! 任せてください!」
「もちろん押し付ける訳じゃなくて、俺もちゃんと補助はするから。一緒にやっていこう」
「一緒に……はい! 一緒に!」
やはり頭は俺より遥かにいいのだろう。管理表を作り直して見せてくれたのだが、俺が作った雑な管理表なんかより数段見やすく、分かりやすい。
計算も早い。四桁五桁、果てには六桁の計算も軽く暗算をして見せる。頭の中に電卓でも入っているのかと思ったが、入っているのはソロバンだそうだ。
「あとは備品の管理とか、消耗品の管理だね。仕入れや購入、ここら辺の管理も」
「魔石とかだよね? その辺りは、ちゃんと勉強しておきます!」
「そうそう。今の所は光魔石の室内灯、火起こしとか暖を取るための火魔石……あとは水魔石に氷魔石とか」
「なるほど……電気にガス、水道、冷蔵庫みたいな感じ……かな?」
メモをするオウカは理解力も早く、即戦力になってくれる事は間違いなさそうだ。
そんな彼女と会話を続けていくうちに、俺に慣れてくれたのか口調は徐々に砕けていった。
「ヨルヤさん、これはなに?」
「あぁそれは酒。一応客が望んだら、このくらいの値段で出すつもり……」
「美味しいの? 私、この世界に来てから飲んでないなぁ」
「かなり旨いよ。飲んでみる?」
「ううん! まだ仕事中だから、後で貰うね!」
「なんかオウカって、すげぇ飲みそうだな」
オウカは総務だが、運行補助もお願いするつもりだ。見た目がいいし、明るいし、お客とすぐに仲良くなれるに違いない。
ゆくゆくは専門職を雇いたいとは思っているが、今の規模や状態では彼女にお願いするしかない。
それからも細かい事を彼女に説明し、質問に答えていく。彼女から提案される事もあり、それについて話し合いなどをしたりした。
「個室のトイレは絶対に必要だよ! 最優先だと思うの!」
「だよなぁ、女の子に野外は可哀そうだしな……」
「あとこの薬? これって基本的に外傷に使うものだよね?」
「回復材……ポーションだからそうだな。一応、鎮痛効果はあるらしんだけど」
「じゃあ他には酔い止めとか! あと、生理用品」
「生理用品……あぁそうか、長旅になる事もあるもんな」
女性ならではの意見もくれたため、大いに助かった。この馬車を成長させるにあたって、導入する物の優先度を話し合う。
馬車改造は俺が施し、その他の物品などはオウカが準備してくれる事に。馬車備品も俺よりセンスがありそうだし、今度キリールに紹介しようと思う。
「まぁ、とりあえずはこんな所だな」
「やる事はいっぱいだけど、楽しくなりそう!」
「じゃあ最後に……一番重要な話をする。正直、オウカに一番お願いしたい事はこれなんだ」
「そうなの? さっき言っていた、馬車に住む女の子の事かな?」
「そうそう、その子の事なんだけど。この仕事は、他の全ての仕事を投げ捨ててでも最優先で実行してもらいたい。じゃないと、大変な事になるんだ」
そう言いながら、俺は成長馬車を具現化させた。客車が二両に、個室車両が連結された三両編成の大きな馬車だ。
それを見たオウカは凄い凄いとはしゃいでいるが、これからお願いする仕事の事を聞かされたらどうなるか。
一応事前に、馬車に女の子を住まわせているという話はしていた。その女の子のために、ここに来る前にちょっとした準備も行った。
「凄いね! おっきい! これを運転できるなんて凄いなぁ」
「まぁ、ギフトのお陰なんだけどね」
ちょっと付いて来て、そう言ってオウカと共に個室車両の前に移動する。クロエとモモヒゲには馬車周辺の警戒を命令し、待機させた。
もちろんお願いするのは、アーケディアのお世話である。どんな仕事よりもアーケディアの対応が最優先、それを違えれば全てが無に帰してしまう。
「オウカはさ、厄災って知ってる?」
「厄災……うん、誰かが言っているのを聞いた事があるよ。凄く、危険な存在だって」
「最初は隠そうと思ったんだけど……やっぱりオウカは知っていた方がいいと思うから。隠したっていつかはバレるだろうし」
「うん……?」
「この中にはさ……怠惰の厄災、アーケディアがいるんだ」
「そうなんだ」
「うん、そうなんだ……って随分と冷静だな?」
「そう言われても……ピンと来ないよ」
まぁ俺たち異世界組にとっては、確かにあまりピンと来ないだろう。俺だって実際に被害を受けなきゃ、そんなのがいるんだふ~ん……程度だっただろう。
だがどんな存在なのか、ちゃんと知っておいてもらわなきゃいけないので、俺はオウカに厄災について知っている限りの事を説明した。
厄災の説明が終わり、次いでアーケディアの説明に移る。アーケディアは少し特殊、俺とアーケディアの関係性についてを中心に話を進めた。
「随分とヤンチャな子なんだね、アーケディアちゃん」
「まぁそうだな。アーケディアはまだ扱いやすい厄災だとは思うけど、暴れたら手が付けられなくなるだろうから。そうならないように、言う事は聞かなきゃならないんだ」
「なるほど……アーケディアちゃんが私を受け入れてくれるなら、頑張るよ! これでも先生だったからね!」
「うん、頼むよ。あとこの事は内密にな? バレたら、それはそれで終わりなんだ」
「二人だけの秘密……って事?」
そうだと言うと嬉しそうな表情をしたオウカだが、事の重大さを本当に分かってくれているのだろうか?
アーケディアの世話には、俺も最優先で対応するつもりだ。だがこれに関しては、従業員総出で対応しなければ……不測の事態や対応不能なんて事は起こしてはいけないのだ。
「じゃあアーケディアを紹介するよ。寝てなければだけど……」
「うん」
オウカと共に、個室車両の中に入る。つい先日、完全洗浄を行ったはずなのだが……すでにお菓子の食べカスやらが結構落ちていた。
まぁこれに文句は言えない。落とした物をゴミ箱に捨てろと指摘したら車両ごと吹き飛ばして、綺麗になった……とか言いかねない。
正直寝てくれていてもいいな……と思ったが、アーケディアは起きていた。ベッドに寝そべりながらお菓子を食べている。
「ヨル……? ご飯?」
「ご飯はさっき食ったばかりだろ……ちょっとさ、紹介したい人がいて」
「ヨルの彼女……? それともお嫁さん?」
「違うよ! お前は俺の母親か!?」
どうやら機嫌は悪くないのか、面倒だと拒否されることがなかったので、後ろで控えていたオウカを招き入れた。
そんなオウカにチラッと視線を送るアーケディアだったが、すぐに興味をなくしたのか目を逸らして菓子を食い始めた。
「紹介するよ、オウカだ」
「初めまして! オウカ・ミカガミです! これからよろし――――」
「――――うるさい」
キンッと、部屋の空気が張り詰めたような、気圧が下がったような感覚がした。
アーケディアは相変わらず菓子を貪っているが、元気よく挨拶をしたオウカが気に入らなかったのか、僅かに白いオーラを纏い始めた。
オウカは慌てて口を押える。俺は冷や汗を流しながらも、オウカに危害が加わらないように彼女に近づき肩を抱き寄せた。
ここまで密着すればアーケディアは手が出せないはず。オウカを攻撃したら、俺まで巻き込まれるからな。
「ご、ごめん。うるさかったね……」
「…………なに? 誰?」
白いオーラが消えると、アーケディアは面倒そうに体を起こし、オウカの事を睨みつけた。
少女とは思えないほどの凄まじい威圧感、殺意。肩を抱いているので感じるが、尋常ではないほどにオウカの体が震えている。
そのせいかアーケディアの問いに返答する事が出来そうにない。だから俺が代わりに、アーケディアに返事をする。
「この人は、その……新しい小間使いだ! アーケディアのお菓子を準備したり、ご飯を準備したり……色々としてくれる人!」
「それはヨルの役目でしょ?」
「お、俺もやるけど! 俺より早いし、俺より完璧だから! 絶対に俺より役に立つから!」
「…………」
アーケディアの睨みがオウカから俺に移った。どこか眠そうな目をしているが、その眼は完全に俺を非難していた。
認められないという事だろうか? あくまで俺が世話をしろと、そう言っているかのような視線に耐えられなくなり、この話はなかった事にしようとした時。
「あの、アーケディアちゃん……? これ、買ってきたの。よかったらどうぞ……」
体を震わせながらも、オウカは事前に準備をしておいた菓子をアーケディアに差し出した。
アーケディアに気に入られるために準備しておいた小道具の一つ。これがダメでも、あといくつかの機嫌取り用のアイテムを準備している。
しかしそれらは、どうやら無駄になりそうだ。
「……! けーき……!?」
「う、うん。この世界ってスイーツが豊富でね。なんでも以前、召喚された人達が――――」
「――――ちょうだい……!」
怠惰とは思えないほど機敏な動きでオウカに近づいてきたアーケディアは、分捕るようにオウカからケーキが入った箱を奪い取った。
箱を開け、手づかみでケーキを食べ始めるアーケディア。手と口にクリームを付けながらも、一心不乱にケーキを食べている。
「……これ、オーカが準備したの?」
「う、うん。ヨルヤさんは、アーケディアちゃんはカリン〇ウが好物だって言ってたけど、女の子にそれはなぁと思って、私がチョイスして……」
「そう、ヨルのセンスは壊滅……食べるけど」
「悪かったな! でも喜んで食ってたじゃねぇかよ!」
食べながらも話すアーケディア、オウカに向ける敵意は完全になくなっていた。それを感じ取ったのか、オウカはアーケディアに近づき、クリームで汚れた口元をハンカチでふき取り始める。
あんな殺意を向けられて、よく近づける。そしてその行動を許したアーケディア、それを見た俺はオウカに頼んで正解だったと思った。
「ん……オーカ、ぐっじょぶ」
「え、えっと……私でいいって、ことかな?」
「多分、そうだと思うよ」
オウカに向けてやる気のないサムズアップをしたアーケディアは、再びケーキを食べ始める。
それを聞いたオウカは安心したかのように大きくため息をつき、その場に座り込んだ。流石は先生、まぁどちらかというと保育園の先生といった感じだが。
ともあれ良かった。ケーキを食べ終え他のスイーツについて話をする二人を見て、心の底から安堵した。
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