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【3-39】求む、人材






「ご利用ありがとうございました。いってらっしゃい、ダンジョン踏破できるのをお祈りしています」

「おう! 体調も万全だし大丈夫だ! 帰りも宜しく頼むぜ!」


 第二王子カールハインツの生誕祭を間近に控えた今日も、俺は御者として色々な馬車を運行させ働いていた。


「ベッチホスト行の馬車、まもなく発車しますよ~!」

「友達から聞いたんですけど、本当に一日でベッチホストまで行けるんですか?」


 メインの稼ぎは護衛馬車に定期馬車。一度だけ路線馬車を走らせてみたのだが、驚くほど客が少なかったので休業中だ。


 街中を走る路線馬車の台数は多い。客たちは何を基準に馬車を選んでいるのか……贔屓にしている馬車会社なのか、値段なのか、見た目なのか。


 現状、勝負できるのは値段だけ。しかし他の路線馬車の値段を調べて、運賃を安くしてみたのだが上手くいかなかった。


「よし、冒険者たちが戻ってくるまで放置バトルで稼ぐぞ」

「桃の介、出番です。クロエはヨルヤの傍で放置プレイです」

「訳わからん事を申すな! この周辺の魔物なぞ、護衛の者だけで十分であろう!」


 空いた時間を利用して、成長馬車素材およびレベルアップポイント他を稼ぐ。次の目標は馬車外観を荷馬車から一般馬車に変更する事だ。


「ヨル~、お腹空いた……」

「このニート……! ほれ、これでも食っとけ」


 アーケディアの扱いにも慣れてきた。基本的に、アーケディアの望みに応えていれば特に問題はなかった。


 防音性をアップさせたお陰か、今の所は騒音に関する苦情はきていない。先日、傭兵たちと一緒に馬鹿騒ぎをしてしまったのだが、アーケディアが怒る事はなかった。


「ヨルヤさん! こんにちは! 今日はどのような?」

「クッションが汚れてしまってさ、新しいのが欲しいんだ」


 馬車内部の備品は職人のキリールに作って貰っている。馬車改造で行えるのは文字通り馬車の改造なので、細かい備品などは作ってもらうしかない。


「すみません。これとこれ……あとそっちの砂糖菓子も一ダース下さい」

「毎度ありがとな兄ちゃん! これからも贔屓にしてくれよ!」


 アーケディアが好んで食べるお菓子やジュースなどを購入する。見た目通り少女なアーケディアは、甘い物が好物なのだそうだ。


 中々な出費だが。あんなに小さいのによく食うんだ……寝て食って、ダラけている。ただたまに個室を覗いてみると、何か物書きをしている時があるんだよな。


「ヨルヤ様。ここの計算が間違っています」

「え……あぁすみません。算数は苦手で……」


 一番の問題は売上管理だ。計算ソフトなんてないので、全てが手書きの帳簿に売り上げの計算、そこから算出される納税額。


 いくら前の世界に比べて緩いとは言っても、適当にやると指摘が入る。脱税や帳簿改竄など出来る頭を持っていないので、動いた金をしっかり記載するだけでいいのだが。


「あれ……? 今日は私達をダンジョンに連れて行ってくれる約束ですよね?」

「はぁ? 今日の護衛馬車を予約したのは俺たちだぞ! 割り込んでんじゃねぇよ!」


 依頼をダブルブッキングさせてしまうという失態も何度か犯してしまった。その頃から予約表というものを作り始めたが、そもそも記載を忘れるという愚かな事をした事も。


 ボロが出始めてきたのを感じていた。現実は物語のように上手くいかない、俺は万能主人公ではない、助けが必要だった。


「すみません。商店を持たず後ろ盾もない商人の求人には誰も……」

「そうですよね……」


 だが商業ギルドに求人の相談をしてもダメだった。いくら給金を高めに設定しても、信頼も実績も少ない商人は見向きもされない。


「この日とこの日、護衛馬車を予約したい」

「次の定期馬車はいつ出発予定ですか?」

「このクッション、破れてますよ……」

「兄ちゃん、それも買うなら金が足りねぇぞ」

「ヨル~お菓子……あと部屋が汚くなった」

「あとここの計算も間違っていますので、修正を」


 限界とは言わないが、厳しかった。このままではいずれ、大きな失敗をしてしまう事は目に見えており、それは商人人生の頓挫を意味する。


 クロエとモモヒゲに少し管理させてみようか……そう相談したが、INTが低いのでそういう事には向いていないとの回答だった。


 なら従業員を雇おう。募集しても来ないのであれば、スカウトするしかない。運行や売り上げの管理、備品や消耗品の調達、アーケディアの世話をしてくれる人材を。


 そんな事をエルフの杜氏であるソフロンに、酒の買い付けついでに相談していた。


「怠惰の厄災アーケディアのお世話は……無理じゃないかな?」

「無理って……なんでですか? ちょっと我が儘な子供の世話くらい」


「彼女は風の化身、魔力そのものなんだ。彼女の魔力に当てられてしまって、近づくのも嫌悪してしまうだろう」

「そうなんですか……俺は何も感じないんですけどね」


「……言っては何だけど、ヨルヤ君からは魔力をほとんど感じない。だから平気なんだと思う」

「魔力を感じない……異世界人だからですね」


「異世界人!? そうだったのかい!?」

「あれ、言ってませんでしたっけ? 別の世界から来たから、魔力がないそうなんですよ」


「初耳だよ! 異世界人、召喚されていたのか……でもそれなら、異世界人のお友達はいないのかい?」

「お友達は……おりませんね……」


 だがそういう事なら、ソフロンの言う通りアーケディアに嫌悪感なく近づけるのは魔力を持たない者、少ない者が適任だと。


 魔力が少ない者となると、それこそ赤子とか幼子になる。しかしそんな小さい子にアーケディアの世話は不可能だ。


 となると異世界人、同郷の者。俺と学生たちは色々とあって完全に関りを持たなくなってしまっているが、一人くらいいないだろうか?


 まだ仕事が決まっておらず、ある程度の学があり、子供の世話を行ってくれる者。


 ……いないよなぁ。異世界に召喚された主人公達だ、もう立派に自分の物語を進み始めている頃だろう。


 そんな者達が、脇役かつオマケで呼ばれた俺の下で働くか? そんな物語をよしとするか? 売上計算をするか? 子供の世話をするか?


 しないよなぁ……まぁでも、他に当てはない。とりあえず行ってみよう。




 ――――




「…………いた」


 王城に戻り、フラフラと暇そうにしている学生でもいないかと探し歩いていると、とある一人の姿が目に入った。


 王城の入り口近くに設置されている椅子に、少し塞ぎ込んでいるような印象を受ける座り方をした女性がいた。


 先生だ。学生たちと一緒にやって来た、担任の先生の姿があった。何をするわけでもなく、誰かを待っている様子もなく、ただただ地面を見つめている。


 完璧な人材だ。先生になれるほど頭もよく、子供の面倒もお手のもの。そしてあの感じ、就職活動に失敗した就活生のようにも見える。


 彼女をスカウトしよう。よくよく考えれば、彼女も俺と同じ境遇……いや、俺の場合はゲーム化ギフトを授かれたから、彼女の方が大変だろう。



『クエストを開始します』


【特殊クエスト――――あなたが必要です】

【クリアー条件――――彼女を思い止まらせる】

【クリアー時間――――5日】

【クリアー報酬――――成長材(SR)、ヒロイン化】


 ポニーテールがよく似合う、可愛らしい彼女がヒロインになってくれるのは嬉しいけど、なんだろう? クエスト表記がどこか重苦しい。


 思い止まらせるとは、彼女は何かをしようとしているのか? あなたが必要、期限が5日、暗い表情。


 ……いやまさかね。そんな事しないよね? 例えばクエストに失敗しても、期限切れになっても、なんとかなっていくんだよね?


 しかし俺の楽観的な考えは、彼女の呟きによって即座に排除された。


「もう……死のうかな……」


 ……マジかよ。


お読み頂き、ありがとうございます

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