【3-34】赤き炎と白き風
共倒れを願った戦闘だったが、どうやらそう上手くはいかなそうだった。
目の前で繰り広げられているファンタジー戦争。真っ赤な炎が燃え上がり、白い風が全てを切り刻んでいく。
そんな超常的な戦闘だが、素人目にも互角には見えなかった。
どう見てもアーケディアが、グラーを圧倒している。アーケディアが気怠げに腕を払うと暴風が生み出され、それはグラーの業火を簡単に掻き消していた。
「う~ん、お腹が空いてるせいかなぁ」
「眠い……早く消えろ……」
「ねぇアーケディア。どうして人間の味方をするのさァ? 馬車が欲しいなら殺して奪えばいいだけでしょ?」
「うるさい……お前に関係ない」
「関係あるよぉ。だって君……僕の邪魔をしてるんだからさァっ!」
「ほんと、うるさい……」
大きな炎の渦が、アーケディアを飲み込んだ。モモヒゲの時とは比べ物にならないほど高温な炎のようだが、あんなのに包まれては原型を留めていられるとは思えない。
グラーの勝利という最悪の結果が頭を過ったが、それはアーケディアを守るように吹き荒れた風の渦によって、炎の渦と共に吹き飛ばされる。
炎の渦が掻き消されたことによって、表情が曇るグラー。子供のような笑みは完全に消え、とても子供がするとは思えない凶悪な表情となった。
それに対してアーケディアの表情は特に変わらず。半目で今にも寝てしまいそうな表情に、欠伸までするという余裕っぷり。
「魔力が薄い……存在が薄れてる」
「邪魔をするなァッ! お前も食べちまうぞォッ!」
「無理……お前は消えかけ、ウチは出てきたばかり……存在濃度が違う」
「ほんとムカつくなァ……!」
目が眩むほど大きく真っ白なオーラを纏うアーケディアに対し、グラーの真っ赤なオーラは初めの頃と比べるとだいぶ小さくなっていた。
二人の戦闘を見ながら、厄災の事についてはソフロンから聞いた。あのオーラは、魔力が可視化されたものだという。
まず奴ら、グラーもアーケディアも強欲の厄災アワリーティアも、魔法生命体であるという事。
魔力によって形作られている彼らには命がない。命の代わりとなっているものが魔力、それが消費されれば認知できないほどに存在が薄れてしまう。
だが完全に消えるわけではない。この世界に溢れている魔力は再び彼らを形作り、存在させる。この世界に魔力がある限り、奴らが完全に消えることはない。
存在するだけで魔力を消費するので、時間的な行動制限もある。魔法を使用すれば魔力を消費するので、更に存在時間が短くなる事になると。
一度消えると、膨大な魔力の器に魔力がある程度溜まるまでは、この世に存在できない。その制限のお陰で世界と人は滅ぶ事なく存続できている。
「もう時間切れ……早く消えろ」
「お前、覚えとけよぉ……!」
気のせいではなく、俺もハッキリと分かった。グラーの体が薄くなったというか、透け始めているのだ。
体が透けてグラーの背後の木々が見え始める。赤いオーラは弱弱しく、アーケディアの言う通りもう時間がない事を知らしめていた。
「次会ったら、絶対に食べるからねぇ……君もだよォ、アーケディア!」
「はいはい……いいから、消えて」
アーケディアが冷たい声でそう言うと同時に、グラーを中心に暴風が吹き荒れた。あまりの風圧に目が明けていられなくなり馬車の陰に隠れる。
暴風が止み、恐る恐る馬車から外の様子を覗き見てみると、そこにグラーの姿はなく、グラーがいた近くの木々が吹き飛ばされていた。
あの太い木を簡単に吹き飛ばすほどの暴風。そんなものを人が受けたらどうなるのか……たまに外国で発生したサイクロン被害のニュースを見るけど、あんな感じになるのだろうか。
「ヨル、約束は守ってよ……?」
「も、もちろんだ……とりあえず、欲しい物は……ありますか?」
「座席が邪魔……あとベッド」
「あぁはい、畏まりました……」
元々そんな気はなかったが、あの強さを見せつけられたら逆らう気など更に消え失せた。
とりあえず言う事を聞いて、引き篭もらせておけば周りに危害は加えないだろう。不幸中の幸いは、目を付けられたのが怠惰で良かったという事か。
しかし座席が邪魔だと言われてしまうと、もう個室車両を宛がうしかない。確か特殊車両の中に個室車両があったので、それを取得しよう。
「眠る……世界と切り離して」
「あ、はい」
目を擦りながら馬車へと戻ってきたアーケディアは、無造作に馬車に転がると体を丸めて寝息を搔き始めてしまった。
寝顔だけ見ればどこにでもいそうな可愛らしい少女なのだが、これは世界に厄を齎す災いだ。
とりあえず馬車を降りた俺とソフロンは、お互いの目を見つめながら大きな溜息を吐いた。ソフロンの手枷は、グラーの消失と同時に消え失せている。
「いや、凄かったね……生きていられるのが奇跡だよ」
「俺、厄災に合うのは三度目です……」
「す、凄いね……世界警察のエクスキューションもビックリだ。三度も出会って生き残っている、それも凄いけど」
「俺、この先どうなるんでしょうか?」
馬車の中で眠るアーケディアの顔を見ながら、ソフロンにそう尋ねた。
初めは戦力を整えたら、アーケディアを排除すればいいと考えていた。しかし半分不死身のような厄災を追い出したところで、いずれ復活するんだろ?
だとしたら俺は一生、このダラけた厄災と共に人生を歩まなければならないだろうか。
「上手く共存するか、完全に排除するか。幸いアーケディアが望んでいたのは馬車の中で自堕落な生活を送る事……それなら、共存は可能なはず」
「共存ですか……いつ爆発するか分からない爆弾を抱えろと? それより、完全に排除って出来るんですか?」
「基本的に不可能だとされている。でも大昔に存在したとされている憤怒の厄災イーラは、もう存在していないんじゃないかと言われているんだ」
「なんか、随分と曖昧ですね」
その昔、憤怒の厄災イーラを討伐すると、姿を現さなくなったという。
なにか特別な討伐方法があるのかと調査されたが、それは分からなかった。しかしもう長いこと姿を現していないので、完全に存在が消滅したのではないかと考えられている。
他の厄災が定期的に姿を見せているのに、憤怒だけは現れない。ただそれだけの事実だが、とりあえず長いこと姿を現さなくなる事はあるようだ。
「それじゃあ、その方法を模索しつつ……共存ですか」
「そう……だね。まぁ考えようによっては安全かも! 馬車に厄災を乗せているんだ、なにも怖くないだろ!? 君に死なれたら困るって、アーケディアも言っていたし」
「他人事だからって……こいつは寝床を守ってるだけですよ。気が変わって、寝床を変えようとするかもしれない」
「そ、そうならないように、努力するしか……ないね?」
完全に他人事なソフロン。アンタだって酒狙いのグラーに狙われているんだぞ。
酒を造り続ける限り生かされるソフロン。そう考えると、俺と同じ境遇となってしまったのかもしれない。
その後俺たちは、一先ずグラーに燃やされた小屋まで戻ってみる事にした。酒造りのメインは地下室なので、おそらく大丈夫ではないかという事だった。
俺はインベントリに馬車を収納する。俺のインベントリに、成長馬車と共に怠惰の厄災アーケディアが収納された。
このまま仕舞っておけば安全なのだろうか? でもそれだと生活が出来なくなるし、アーケディアが中で暴れてインベントリが破壊されるなんて事がないとも限らない。
「はぁ……この歳でニートを養う事になるとは」
もういい、仕方ない。ゲームの一部だと考えよう。ある意味、育成ゲームみたいなものだろう。
長期育成クエスト、アーケディアの機嫌を損ねないようにお世話をし共存しよう。
寝床の環境を整えて、アーケディアの我が儘に全て応えてやるだけでいい。
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