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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第95話 夏の一日

『あ、そりゃオレじゃねえな』


 彩斗の生家にて、カイトの返答が響いた。それに鏡夜ががっくしと肩を落とした。お盆に入ると同時に、鏡夜が適当に理由を付けてやってきたのである。


「やっぱかー・・・そんなこっちゃないか、と思っとったんやわ」

『当たり前だろ。『富士桜の姫(ふじざくらのひめ)』はオレの配下にはない。動かせる人じゃねぇよ』

「はぁ・・・ってことはやっぱ、あの親書は千方以外の話、か・・・」

『だろうさ。とは言え、気にはなるな・・・』


 『富士桜の姫(ふじざくらのひめ)』。二人はそう言う異名を持つ人物について話し合う。姫というぐらいなのだから、女性なのだろう。


「『富士桜の姫(ふじざくらのひめ)』って?」

「貴方達のご先祖様だよ。キレイな桜色の髪のお姫様。富士山で祀られている龍神様、って言う所」

「龍神様・・・」


 そんなのが居るのか、とモルガンの補足に浬が驚く。それが自分のご先祖様だ、という事にはもっと驚いていた。ちなみに、海瑠は彩音と一緒にお出かけ中だったので、ここにはいない。


「地脈の守護を任されとるどえらい御方や」

「知ってるんですか?」

「まあ、知らん方が可怪しい名やろなぁ・・・富士山の噴火を単身で抑えてくれてはるんが、あの御方や。富士山の噴火、ってのは実は物理的以外にも霊的なモンが絡んどってな? 地脈から魔力も吹き出るって地球でも富士山ぐらいや。で、神武天皇の頼み聞いて姫さんが抑えてくれとる、いうわけや」

「ふ、富士山を・・・」


 鏡夜の説明に浬が頬を引きつらせる。富士山といえば、あの富士山だ。その噴火ともなると、とてつもない破壊力だろう事は明白だった。それを単身で抑えているのだから、力の方は明白だった。

 ちなみに、神武天皇とは紀元前7世紀中頃の人物で、天皇家の開祖とされている神話の人物だった。実在は確認されていないのだが、この様子では実在していたのだろう。


『まーた厄介事かねぇ・・・』

「やろうなぁ・・・はぁ・・・今度は何事やろ」

『親書、何か言われてねぇのか?』

「教えてくれるわけないやろ。どこ行ってこれ守れ、ぐらいは言うやろうけどな。相変わらず小遣いへらされたまんまやし。陰陽師の身やとバイトなんぞやっとる暇も無いしなぁ」

『ざまぁ』

「うっさい」

『いって!』


 鏡夜のデコピン一撃で、カイトが大きく吹き飛んでいった。ここら、減額の理由にはカイトが大きく絡んでいるのであった。まあ、減額の理由にも彼が絡んでいるが、同時にその救援にも彼が絡んでいた。


『いてて・・・お前、金貸さねぇぞ・・・』

「っと。お怪我、ありませんか?」

『うぜぇ・・・まあ、そりゃ良いか。で? わざわざそんなメールでも聞ける事を聞かねぇだろ?』


 とりあえずのじゃれ合いを終えたカイトは、鏡夜に問いかける。こんなメールでも聞ける様な事をわざわざここにまで来てやる必要が無い。なんらかの理由があるはずだった。


「やっぱ話早いわ、お前・・・もう少ししたら海瑠くん帰って来る頃か」

『だろうな。それがどうした?』

「ちょっと二人に用事あったんや」

「私?」


 水を向けられた浬が首を傾げる。と、そうしてしばらく雑談でもしながら時間を潰していると、綾音と一緒に買い物に出かけていた海瑠が帰って来た。が、どこか疲れている様子だった。まあ、それもそのはずで荷物持ちに付き合わされた、というだけだからだ。


「お、重かった・・・うぅ・・体力欲しい・・・あれ?」

「おう。久しぶりやな」

「鏡夜さん?」


 部屋にて待っていた鏡夜の姿を見付けて、海瑠が首を傾げる。彼は兄と幼馴染で、その兄が居ない以上、来る理由が思い付かなかったのだ。


「おう。ちょっと海瑠くんに話や」

「僕ですか?」

「おう・・・目、どうや?」

「あー・・・」


 鏡夜が陰陽師である事は、海瑠も聞いていた。なので自分が魔眼持ちである事を把握していても不思議は無いだろう、と考えたのである。


「まあ、なんとか折り合い付けてやってます」

「魔眼が何かわかっとらんのか?」

「いえ、全然・・・」


 鏡夜の質問に海瑠は無念そうに首を振る。それが分かれば、とアテネも言っていたのであるが、わからないと言うか目覚めの気配さえなかった。


「じゃあ、お前さんは?」

『おいおい・・・お前ら掴んでない情報をオレが知ってるかよ』

「・・・嘘やな」

『あ?』

「お前の癖や。声に笑いが混ざっとる。それも苦笑とかの類やなく、はぐらかす時の笑いの声や」


 鏡夜の指摘に、カイトがため息を吐いた。三つ子の魂百まで。彼とは小学校の低学年どころか幼稚園から一緒だった。その頃から一緒だった所為で、はぐらかしたりする時の声の調子を悟られたのである。


『ちっ・・・知ってるよ。一回だけ食らったからな』

「え?」


 カイトの言葉に、海瑠が驚きを露わにする。今まで自分が魔眼を完全に開放した事なぞ、記憶になかったのだ。


『・・・あの雨の日。覚えてるか? お前が気を失ってオレに背負われた時の事だ』

「うっ・・・うん・・・」


 海瑠が数年前の事を思い出して、顔を真っ赤に染める。兄と自分だけの秘密で、今でも思い出せば恥ずかしさから顔が赤くなった。


『あの時・・・お前、なんで気絶した?』

「え? そりゃ、足ぬかるんでて転けて・・・っ」

「海瑠?」


 海瑠は問われてあの時の詳細を思い出そうとして、頭がずきり、と痛む。それはまるで過負荷が掛かって熱を帯びたかの様だった。それに、浬が慌てて駆け寄る。


「どうしたの?」

「っ・・・なんだろ・・・何か・・・ぐっ・・・」


 何かを、忘れている。それを今、海瑠は思い出した。それに、カイトが明言した。


『・・・あの時。お前、頭打ったんじゃねぇよ。魔眼を完全に開放したんだ。そのバックロードで、気絶したんだ。あの山の少し大きな開けた場所だって、お前が作った物だ。が、そのせいで頭が耐えきれなくなってな。気絶、ってわけだ』

「っ・・・そうだ、あの時何か・・・」


 はっきりとは思い出せない。だが、たしかに自分は何かをしたのだ。そして、その結果は思い出せなかった。そして思い出すな、と心の声が告げていた。


『それ以上はやめとけ。要らん事に手を突っ込む事になる・・・まあ、オレの本体が帰って来た頃には、きちんと教えてやる。この使い魔だとどうしようもない。もし万が一暴発させたら、止められない』

「っ・・・そういうことかいな」


 カイトの言葉を聞いて、鏡夜が言外の意図を把握する。彼としてはちょっとでも関わらせて居るのだから信じてやれ、と言うつもりでの指摘だったのだが、少々目測が誤っていたようだ。顔には苦々しさが浮かんでいた。


「・・・今のお前やと抑えられん。そういう事やな?」

『オフコース。だからもうちょっと周り見ろ、って言われんだよ、お前』

「すまん」


 カイトからの苦言に、鏡夜が謝罪する。ここら迂闊だった、と言えるだろう。短絡的だった、とも言えるかもしれない。


『で? まさかそんな苦言言いに来たわけじゃないだろ?』

「あ、っと・・・おう。ちょい待ち・・・」


 鏡夜は持ってきたカバンの中から、ガサゴソと何かを探し始める。そうして彼が取り出したのは、精密な絵柄が描かれた呪符の束だ。それも3つ分である。

 これらは陰陽師達が天道家に供出した様な低レベルの呪符では無く、彼が密かに作り溜めした結構高度な呪符だった。少なくとも、今の彩斗達では到底作れる物ではなかった。


「これやこれ。この間は京都に居ながら手出し出来ずすまんかったからなぁ・・・もし万が一、って場合に備えて、呪符持って来たった」

「え? 良いんですか・・・?」

「おうおう。あ、親父さんにゃ黙っといてや。見られたらバレんで」

「はい」


 浬は鏡夜から呪符の束を受け取って、それを大切にしまい込む。今の彼女らにとっては、十分に切り札足り得た。呪符は以前鬼丸が放った様な人の形をしていた。


「これは所謂、簡単な式神を作り出すモンや。どこぞのバケモン共にゃ意味無いが、それでも並大抵の奴やと足止めぐらいにゃ出来る。まあ、使い捨てやないけど、壊されたら終わりや。そこんところは、気を付けてくれや。あ、魔力食うのも気をつけや」


 どこぞのバケモン共こと戯れる小動物ズを見ながら、鏡夜が渡した呪符の束についてを告げる。どうやら、真実鬼丸が放った式神と言われる呪符と同じ類の物らしい。


「数は100枚の束が3つ。300体分やな」

「こんなに・・・これ、本当に貰って良いんですか?」

「おう。まあ、カイトにゃ世話なっとるし、幾つかでかい借りあるからな。一つぐらい返しとくってだけや・・・ってことで、今後もよろしゅう」

『ちっ・・・バレると厄介なんだから、あんま頼んなよ』


 最後に寄せられた視線に、カイトがため息を吐く。金の要求だ。小遣いが減らされた彼はカイトからの融資でなんとか交遊費等を稼いでいるのであった。

 彼のしでかした事は確かに陰陽師としては正しい事ではなかった。だが、それでも。人の道からは外れていなかった。だからこそ、カイトもなんだかんだと援助をしているのであった。


「まあ、そういうことやから、頑張れよ」

「はい、有難う御座いました」


 適当に雑談を行って帰っていった鏡夜を見送り、浬と海瑠は改めて渡された呪符の束を観察する事にする。そうしてまず思うのは、使い方だ。


「えっと・・・これ、どうやって使えばいいの?」

『束を纏めてる帯封あるだろ?』

「うん・・・この何か奇妙な石が付いている奴だよね?」


 浬は紙の束を観察しながら答える。式神達を纏めている帯封には小さな石が取り付けられており、普通には束が外れない様になっていた。ちなみに、帯封は革製でかなりの力を加えても破れそうになかった。そうして、ヴィヴィアンが先を告げた。


「そこに魔力通せば大丈夫だよ」

『人の解説取るな』

「毛繕い、終わったからね」

『お前らは・・・』


 ガサゴソと人の身体で何をやっているのだ、と思っていたらしいが、どうやら妖精二人は適当に毛繕いをしていたらしい。と、そんな話をしている一方で、浬が魔石に魔力を通そうとしていた事に気付いた。


「あ、でもここではやらないでね。いきなりそんなのが100体も出ると大事件だよ」

「あ、それもそうか。じゃ、これはいざという時まで、仕舞っとこ」

「お姉ちゃん、これ、カード入れに入るんじゃないの?」

「あ・・・ホントだ。ラッキー」


 浬は海瑠の指摘で自分の武器を入れているカード入れのサブポケットに式神の束100枚が入る事に気付いて、ひと束それに入れておく。貰った物だ。きちんと使える様にしておかなければ宝の持ち腐れだ。


「良し。これで何時でも使える」

「使う時が来ない方が良いんじゃないかなぁ・・・」

「それはそれ。これはこれ」


 海瑠の至極もっともな一言に、浬がため息を吐いた。確かにそれはそれ、これはこれだ。そうして、鏡夜の来訪の後も何事も無く、夏のある日は終わる事になるのだった。




 一方、何も起きなかったのは浬達だけだ。彩斗の側では、案の定の出来事が起きていた。


『ああ、天音か。休暇中すまないな』

「三柴さん。どうしたんですか? そっちも休暇中でしょう?」

『ああ。まあ、そうだったんだが・・・社長から連絡網で回ってきてな。各部長級と課長級から連絡を回す様に、と指示が出た。で、お前らの所は直に当たってるからな。俺が直々に、というわけだ』

「あー・・・例のあれ、ですか」

『ああ。関西の奴らは戻す事にした・・・お前らだがな』


 話の内容は、千方の復活に関する事だ。千方の拠点は判明していないが、とりあえず近畿地方であろう事は確実だ。であればこそ、そこに配置されている彩斗達は関東に戻そう、という事だったのだ。狙われてはひとたまりもないし、護衛の予定だった鏡夜達も戦いに備える事になってしまったのだ。


『お盆の間は、そっちに居ろ。その間はそちらの方が安全らしい』

「ええ、聞いとります。じゃあ、それを全員に回して、お盆明け早々に本社に戻ります。色々情報溜まってますし・・・」

『ああ。悪いな、ドタバタして』

「いや、これは流石に事故ですから」


 三柴の労いに、彩斗が苦笑して首を振る。これは流石に誰だって予想していなかったことだ。予定が大幅に変更されても致し方がない事だった。と、そうして丁度連絡が取れた事で、気になっていた事を一つ問いかける事にした。


「ああ、そういや・・・煌士くん、大丈夫なんですか?」

『ああ、御曹司か。今は最後の精密検査の真っ最中だが・・・とりあえず、警護に紫陽の奴らを配置してもらう方向で調整中で、それが終わり次第退院だそうだ。そう言えば、アメリカ政府からも謝罪が来たな』


 煌士と彩斗は知らない仲ではないのだ。なのでやはり気になったらしい。とは言え、無事に退院できそうで安堵の表情を浮かべた。


「そか・・・無事やったんか・・・っと、すんません。三柴さん、じゃあ、そっちもお気をつけて」

『俺の所はお前の所程危険にゃならんよ』

「あはは。それでも、万が一、つう奴がありますからね」

『あはは。確かに。気を付けておこう』


 二人は笑い合い、通話を終える。こうして、彩斗も少し早めにはなったが、大阪出張を終える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

 これで、大阪編は終わりですね。

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