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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第94話 幕間 ――藤原千方対策会議――

 千方が復活の儀式に入って、更に数日。お盆も本番に入る直前の頃だ。京都には日本各地に散っていた陰陽師達の中でも腕利きと言われる者達が勢揃いしていた。そこの中に鏡夜と彩斗、桐ケ瀬も居た。


「・・・針の筵やで、おっちゃんら」

「言われんでもわかっとるわ・・・」


 鏡夜の小声での言葉に、周囲の睨み付ける様な視線を受けた彩斗が非常にやりにくそうな顔で答える。これから始まるのが何かは、目に見えていた。誰がどう考えても、糾弾会だ。それを彩斗と桐ケ瀬は二人で対処しなければならなかった。

 そして、しばらく二人が針の筵に座った後、皇家の現当主にして現陰陽師において最優と言われる皇 皇志(すめらぎ おうじ)が入ってきた。年の頃は、40代後半。顔立ちは悪くはないのだが、何より額に少し大きな傷があるのが特徴的な男だった。前情報によると、数年前の戦いで道士達の手勢と戦った時に出来た傷らしい。

 皇家の当主ということは、日本の陰陽師全員を取り仕切る男だった。日本の裏の総トップ――あくまで『人間』に限った話だが――とも言えた。通常は家人に議長を任せて会議には出てこない――各種の儀式があるため――男なのだが、今回の事の大きさがあり直々に抗議を、という考えなのだろう。


「・・・何か申し開きがあれば、聞こう」

「誠に、申し訳ありません。『秘史神(ひしがみ)』総裁の覇王より、直筆の親書をお持ちいたしました。こちらを」

「・・・おい」


 皇志は側近に命じて、親書を持ってこさせる。今回、彩斗が持ってきた親書は2通だ。一通は覇王の直筆の謝罪文で、もう一通の詳細は聞かされていない。

 さる重要人物からの親書だ、と覇王から直々に手渡された物だった。どちらも、皇志に直に手渡す様に命ぜられていた。そうして、しばらくの間皇志は覇王からの親書を読み進める。


「・・・ふむ。確かに、貴殿らの子を思う心は理解した。が、それとこれとは話が違う。中には<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>が封印を施した物もあった。幸い彼の策のお陰で死者こそ出なかったが・・・それでも、他の結界の中には解かれて暴れた者も多い。死者も出ている」

「わかっています。そちら、天道財閥より裏から手を回しています」


 これは浬達が月影山の鬼に出会う前に起きた戦いの事だ。そこでの一件での死者は陰陽師達にこそ出なかったが、そこで暴れた妖怪の仕業によって、民間人に数人の死者が出ていた。

 それは当然天道財閥も知る所で、日本政府の名を借りて病院の手配や見舞金という形で、わずかばかりでも償いをしていたのである。死因については何も教えられないのは申し訳ないが、出来る事はしていた。

 なお一般には、老朽化したガス管の爆発事故や自動車の事故、としていた。だが、皇志はそういうことを言いたかったのではなかった。


「そう言う話ではない。あれらの数体は未だ捕らえられず、日本各地を逃げ回っている。ただでさえ天桜学園の消失で裏を含めて治安が悪化しているのだ。この上でのこの始末・・・如何始末を付けてくれるのだ、と聞いているのだ」

「申し訳ありません・・・」


 彩斗には、謝罪するしか手はなかった。対策はどうなっているのか、と聞いても覇王達には手が無いのだ。彼らではどうあがいても封印から解かれた奴らを捕らえる事は出来ない。

 情けない話だが、陰陽師達に任せるしかなかったのである。しかも彼らだって出来るかわからない。なにせ彼らとて討伐することが難しかったからこそ、封じたのだ。それだって命がけだった。カイトが居なければ、と密かに彼らさえ背筋を凍らせたぐらいなのだ。

 様々な方面で莫大な被害が生まれるのは確定だった。今動いていないのが不思議なぐらいだった。それからもしばらくの間、桐ケ瀬と彩斗は二人で皇志達からの糾弾を聞き続ける。が、それはある時、唐突に終わる事になった。


「こここ・・・すまぬな。席を空けてくれ」

「は・・・?」


 入ってきたのは陰陽師達が唯一敬う妖怪である祖狐・葛の葉だ。それが唐突に大部屋のふすまを開けて、現れたのである。

 ちなみに、今日を狙ったのは偶然だ。カイトの依頼で動いたのだが、カイトも彼女も流石に彩斗の仕事を全ては把握していない。動きが鈍いのを見て動いてもらう事にして動いたのが今日だった、というだけだ。まあ、彩斗達には幸運だっただろう。


「こここ・・・茶の一杯でももらえんか?」

「っ。大急ぎでお持ちしろ」


 葛の葉からの言葉を受けて、あっけに取られていた皇志が大慌てで側近達に指示を送る。相手は、自分達の祖先だ。喩え九尾の狐であろうとも、敬わねばならなかった。と、そうして側近が出て行く前に、葛の葉は更に続けた。


「二人分じゃ・・・いや、四人分じゃ。小奴らにも振る舞ってやらんか。客人に振る舞わぬのは一門の不明よ」

「ぐっ・・・かしこまりました」


 大方叱責していた事は理解しているのだろうが、こうやって神経を逆なでするのが狐の妖怪である葛の葉だ。結局彼女も人間ではない。まともに付き合ってはいられない。が、そこでふと、気付いた。一人分多いのだ。というわけで、皇志が問いかける。


「二人分飲まれるのですか?」

「うむ? 四人、居るじゃろう。お主の目は節穴か?」


 扇子で口元を覆った葛の葉がこここ、と笑う。それにようやく、陰陽師達はもう一人その場に居た事に気付けた。彼女の言葉で気配がにじみ出たのだ。それほどまでに、何も感じなかった。


「せ、晴明様・・・」

「くくく・・・揃いも揃って俺の子孫は節穴か」


 皇志の後ろから、笑い声が響く。そこには平然と晴明――男状態――が立っていた。驚かそうと密かに後ろに回っていたのである。彼も彼でいい性格をしていた。

 そうして、全ての陰陽師達が姿を表した偉大な開祖に対して、深々と平服した。安倍晴明を葛の葉よりも一段上に置くのは至極自然な事だろう。


「まさかお越しになられますとは・・・一声くだされば、お迎えに上がりましたものを」

「いや、構わん。一つの情報を持ってきたというだけだ。なんぞ会議の真っ最中の様子だったが、まずかったか?」

「いえ・・・そこまで重要な事ではございません。お気になさらず・・・」


 皇志は努めてへりくだって、晴明に対して首を振る。これは単なる叱責だし、そもそも何度も抗議に叱責に、と理由を付けて天道財閥、ひいては『秘史神(ひしがみ)』へと抗議の声を送っている。

 なので今更一回短くした所で問題は無い。怒っているぞ、というポーズに過ぎないからだ。組織と組織である以上は必要な表向きのやり取りだった。


「ふむ。そうか。まあ、こちらは重要だったのでな割り込ませて貰った」

「重要、でございますか」

「うむ・・・俺の師は知っているな?」

「は・・・賀茂忠行。存じ上げております」

「その同期に藤原千方という男が居る・・・といえば、流石に貴様らでも情報は聞いているか?」

「まさか、本当だと?」


 皇志が目を見開く。すでに鏡夜を通して皇志の所にも千方の復活に関する情報は届いていた。が、対応は鈍かった。理由は簡単で、死者蘇生なぞまず無理だ、と一笑に付す事だったからだ。

 それ故、それを名乗る愚か者なのだろう、とお盆に集中している京都に起こる怪異への対処を優先させていたのである。あまりに手緩い対応を見かねたカイトが晴明を動かした、というわけである。晴明からの情報ならば陰陽師達は本腰を入れるだろう、と読んだのだ。


「本当だろう。この日の本を覆う気配に奇妙な物を感じる・・・<<泰山府君祭(たいざんふくんさい)>>は知っているな」

「存じ上げております」


 <<泰山府君祭(たいざんふくんさい)>>とは、晴明が使ったとされる陰陽師達の最終奥義の一つだ。効力は死者を蘇らせる事だ。ヴィヴィアンが述べた世界最高の魔術師が成し得る事、というわけである。平安時代どころか現代に至るまで最強にして最高の陰陽師である晴明が出来ても不思議はなかった。

 とは言え、その晴明でさえ現役時代には極める事は出来ず、現役時代は風前の灯火であった命を救う程度だったとされる秘術だった。それを彼を開祖とする陰陽師達が知らないはずがなかった。


「まさか、千方は極めていたと?」

「それは無理だろう・・・あれは極めてわかったが、世界の許可が居る秘術だ。使えるとは思えん。が、何らかの秘術はあると見るが妥当だろう。もともと俺とて忠行様の手習いを受けた。改良は加えたが、独自の法ではない。であれば、同期であった千方殿が知らぬとは思えん。大方左遷されてより、独自に改良したのだろう」

「それを伝えに参られたのですか?」

「前鬼・後鬼、十二神将らを使って地脈を探らせても千方殿の動きが見えぬ。そこを考えればすでに復活の儀には入っただろう。早ければ盆明けには動き始めるだろう。遅くとも月末にはならんはずだ」


 晴明は更に情報を教える事を、皇志に対して言外の答えとする。ここら、彼はあまり大々的に関わろうとは思っていない。と言うより、それを快く思わない。すでに彼は歴史の表から姿を消した人物だからだ。

 今はある場所に居を構えて、平静を保っていた。万が一やいざという場合は別にして、過去の人物が歴史に関わるべきではない、という考えだった。

 勿論、カイトからの要請であれば別だったが。彼の場合は神々が関わったり重要度が高かったり、と動くしかない事が多い為だ。今回も、その一件だった。


「さて・・・では、後は任せる・・・ああ、あの者が今日本から離れている、という事は聞いているな?」

「あの者・・・<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>でございますか?」

「うむ。少し前に中国の奥地まで入り込んだらしいが、今はまた、何処かを移動しているようだ」

「中国・・・?」

「あれにしか向かえまい。が、異世界への手がかりは何も無し、だそうだ。つい先日来た際にそう言っていた。今度は何処か欧州へと向かう、と言っていた。またしばらくは連絡を断つだろう」


 晴明はカイトに頼まれていたので、適当に嘘をでっち上げておく。カイトの本体は異世界だ。その使い魔は日本というよりも浬達からは離れられない。こちらでの事件になるべく巻き込まれない為の対処だった。

 連絡が取れては拙い、という判断は珍しい事ではなかった。魔術的に危険地帯は携帯電話の電波さえ命取りになる可能性がある。連絡を取らないのではなく、取れないのだ。そして他国になると陰陽師達では入れない。伝手が無いからだ。その点、世界中にコネのあるカイトならば、と納得の行く話だった。


「そうですか・・・かしこまりました。天道にはこちらから正式に連絡を入れておきましょう。彼らが探しておいででした」

「うむ、そうしてやれ・・・ではな。茶、馳走になった。母よ、すまんな」

「構わんよ。こういういたずらであれば、妾も好きじゃ」


 晴明が立ち上がったのに合わせて、葛の葉もまた立ち上がる。彼女は晴明のいたずらに付き合っただけだ。来なくても良かった。そうして二人が消えた後、一気に陰陽師達が騒がしくなった。


「今すぐ対策会議が必要だろう」

「皇志殿。いかがされる」

「天道の二人はどうする?」


 矢継ぎ早に皇志に対して相談や指示を求める声が響く。晴明が動いた以上、彼らにとっても千方本人の復活はほぼ確定した事象となった。彼の目的は陰陽師達とて知る所だ。一応は身内である天道財閥の叱責なぞしている場合ではなかった。


「天道の二人よ。此度は申し訳ないが、これまでとさせて頂く。すでにそのような場合では無くなった。すぐにでも我らも行動に入らねばならん」

「はい・・・重ねて、申し訳ありません」

「うむ・・・鏡夜。客人を送って差し上げろ。それが終われば、即座に戻れ」

「かしこまりました」


 皇志の言葉を受けて、鏡夜が彩斗と桐ケ瀬の案内を始める。が、それが少し急ぎ足であったのはやはり、彼も事の重要性が理解出来ていたからだろう。そんな道中で、ふと鏡夜が二人に告げた。


「うーん・・・こりゃ、おっちゃんら盆明けは東京戻る羽目なるやろな」

「うん?」

「千方・・・知らんか。まあ、知らんやろうけど、結構腕利きの陰陽師や」

「そんなんが何しようとしてんねや?」

「まあ、国家転覆、やろうなぁ・・・」

「「はぁ?」」


 出された言葉に、二人が顔を顰める。いくら魔術の世界に関わったからとて、21世紀のこのご時世の日本にまさか国家転覆なぞ企てる者が居るとは現実味がなかったのだ。


「ま、そうなるんはわかるわ。でもまあ、それが事実やろうからなぁ・・・」

「でも、ならなんで盆明けなんや?」

「さっき、見たやろ? あんだけぎょうさんの陰陽師がこっちおるから、盆明けまではこっちが安全や。いくらなんでもさっきの今で放り出すんは俺らの面子にも関わる。で、盆明け以降は、全員各地に戻る。千方の件もあるから、各地で本格的に防備を固める必要もあるからのう」


 鏡夜は自らの見立てを開陳する。これは単なる推測だが、彼は名家と言われる草壁家の嫡男だ。いくら各当主から睨まれていようとも、情報だけは入ってきている。判断は正しいだろう。


「って、ことでや。もし戻るんなら、浬ちゃんと海瑠、忘れず連れて帰りや。特に海瑠。あれ魔眼持ちやから、下手にすると簡単に餌になるで」

「知っとったんか」

「ずっと前からな。これでも名家草壁の嫡男ってのは伊達やないで」


 少し驚いた様子の彩斗に対して、鏡夜が笑いながら告げる。彼はずっと前から陰陽師としての仕事に関わってきていた。カイトが気付くよりも遥かに前から、海瑠が魔眼持ちだと気付いていたのである。そんな話をしながら、二人は皇家の前まで案内された。


「じゃあ、気を付けや。特に帰り道な」

「おう、ありがとうな」

「おうおう、じゃあな、おっちゃんら」


 家の前で、鏡夜と二人は分かれる。そうして皇家の従者の一人が運転する車に揺られて去っていく二人を見て、鏡夜は皇邸の中に戻っていく。そのさなかに思い出したのは、彩斗が手渡し、皇志があの場では開かなかったもう一通の親書だった。


「もう一通の手紙・・・ありゃ、『裏秘史神(うらひしがみ)』の花押やな・・・それも富士山におる龍神姫(りゅうじんひめ)様の花押・・・大御所勢が動いた、いうわけか。こりゃ、大荒れすんぞ・・・」


 彩斗の手渡したもう一通の親書には、桜の模様の花押が押されていた。それはある一族の始祖である龍の花押だった。その一族とは、天道家だ。即ち、綾音やカイトを含めた天道一族全ての開祖にして、本当の『秘史神(ひしがみ)』の長の親書だった。

 彩斗や桐ケ瀬達末端には隠されていたが、実は『秘史神(ひしがみ)』には2つある。今の子孫達の集合体である『表秘史神(おもてひしがみ)』と、日本古来の妖怪、即ち各々の家の開祖達の集合体である『裏秘史神(うらひしがみ)』だ。

 この2つを合わせて、『秘史神(ひしがみ)』と呼ぶのである。が、普通に言う場合は表だけを言う。裏は平穏を保ち、滅多に動かないからだ。

 だが、もし動けば影響力が違う。それこそ彼らは神様達と繋がりとあったり、天道の開祖の様に者によっては神々と同格に祀られている。それが、動いたのであった。


「カイトが動かしたんか、それとも勝手に動いたんか・・・どっちにせよ、只事じゃあなさそやな・・・できれば、カイトであってくれよ・・・」


 鏡夜は嵐の匂いに、背筋を凍らせる。そうして、彼は友人に事の次第を聞く為近々カイトの下を訪れる事にして、自分も陰陽師の仕事に取り掛かる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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