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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第92話 幕間 ――復活の儀――

 全ての戦いが終わり、しばらく。風鬼も金鬼も共に戦いの後すぐに気絶したが、3時間程でほぼ同時に目を覚ました。特に金鬼はアメリカから更に何度か転移を繰り返したので、途中からは金忍達に運ばれて帰還した程だ。


「ぐっ・・・」

「起きたな。貴様らの配下は一足先に目覚めたので、先に休息を命じた」

「千方様・・・お見苦しい所をお見せいたしました」


 風鬼はなんとか立ち上がると、そのまま跪いて千方に謝罪する。少しよろけていたが、なんとか大丈夫そうだった。彼らは鬼。人よりも遥かに丈夫だし、治癒力も高かった。力量にもよるが、彼らの場合は何の手当てもされなくても、5日後には元通りに回復しているだろう。


「・・・水鬼は?」

「虜囚となったままだ。隠形鬼の奴はこれ幸いと儂の前から姿を消した。帰ってはこんだろう。影忍達の里も綺麗サッパリ消え去っていた」

「ちっ・・・」


 主からの言葉に、風鬼が舌打ちをする。もともと隠形鬼は誰よりも忠誠心は低かった。より彼女向きの主よりスカウトを受けていた以上、こうなるだろうことは想定済みだった。が、部下に裏切られたというのに、千方は平然としていた。それを見て、金鬼が問いかける。


「にしては、えらく余裕ですな」

「制約はまだ解除されておらん。が、まぁ、気にする事でもない」

「尚更よろしいのですか?」

「解除してもらわねば困る」

「?」


 笑みを浮かべてそう告げた主の意図が理解出来ず、金鬼と風鬼は顔を見合わせて首を傾げる。部下に裏切られるというのだ。追手を差し向けるなり刺客を差し向けたりするのが道理だろう。そんな疑問を示す二人に、千方が笑って請け負った。


「まあ、儂に任せておけ。水鬼が囚えられたのは少々想定外であるが・・・水忍達は戻ってきている。主もおらん状態では勝手な行動をする事も出来まい。今まで通り、我らの配下として使うまでだ」

「水鬼はよろしいのですか?」

「今の儂らで助けられるとでも?」

「・・・御意」


 すでに敵の中枢に移送されてるだろう事ぐらい、風鬼にも金鬼にも理解出来た。この時点でもし奪還を目指すのであれば、それは隠形鬼の仕事になる。彼女しか出来ない。

 が、その隠形鬼がこれ幸いと離脱したのだ。救おうにも手立てがなかった。そしてその予想外の事態になった理由は、考えるまでもなかった。


「想定外だったのはアルジュナか。インドに名立たる大英雄がまさか動くとはな。金鬼。よくぞ事をなした」

「は、ありがたきお言葉。我が身を削りアルジュナを食い止めた甲斐があるというもの」

「アルジュナ・・・アメリカにはかの大英雄が居たのか・・・」

「まあ、インドラの差し金だろう。アルジュナはインドラの子だ。そしてインドラが天神市にいる。繋がりはあろう。が、アメリカにまで向かわせたとは予想外だった。アメリカにランスロットはまだわかったのだがな」


 千方と金鬼の言葉に、風鬼はアメリカでの出来事を大凡推測する。今回、カイト達はアメリカまでは来ないだろう、と言いつつも、来る可能性は想定していた。なにせ煌士が一人になるのだ。狙わない道理は無い。そして相手は忍者。予想の裏を掻いてくる相手だ。そして案の定、予想の裏を掻いてきた。

 とは言え、これに対処される可能性は千方達とて考えていた。だからこそ、隠形鬼を差し向けて護衛の正体を探ったのだ。そして、相性が良い金鬼を送り込んだわけであるが、まさかその後直ぐに護衛が交代するとは思っていなかった。


「とは言え・・・とりあえず、必要な分は手に入れた」

「では・・・?」

「うむ。しばらく儂は動けん。隠形鬼が動くとは思えんが・・・護衛は頼む」

「「御意」」


 千方は金鬼が入手した煌士の血数リットルが入った瓶を二人に見せる。当然だが、煌士の血を抜いていたのは彼らだ。理由は勿論、千方の完全なる復活の儀式の為だ。

 彼の血が数リットルと言うのは最低条件なので儀式の効果は最低限しか上げられないが、逆に言えば最低限でも条件を突破出来るのだ。つまり最低条件をクリアできれば、復活出来る。生贄は儀式の効率を上げる為の謂わばオプション、というに過ぎなかった。


「それで、お目覚めは何時ほどで?」

「ふむ・・・」


 風鬼からの問いかけに、千方は改めて儀式を思い出す。これは彼独自の儀式で、やり方も必要な物も全て、彼しか知らない。とは言え、彼とてこれが始めてだ。正確な所は、わからなかった様子だ。


「明日の夕暮れより儀式を始めて一週間・・・いや、二週間後の夜明け。それが目覚めになるだろう。遅くとも盆明けの後一週間で目覚める」

「かしこまりました」


 千方の見込みに、風鬼が頷く。その間は儀式の邪魔をさせない様に寝ずの番が必要になるだろうから、今から急いで予定を立てる必要があった。というわけで、問いかける事は幾つもあった。


「隠形鬼と影忍については如何致しましょう」

「制約が解除された後の奴に用は無い。儂が眠る間に制約の解除があった場合に備えて、専用の式神を用意しておく。もし儂の寝首を掻こうものなら、殺して構わん。水忍達を効果的に配置しておけ。あれの水は影の効力を緩められる」

「御意・・・それで、天道の子らと蒼き王らについてはどうされますか?」

「天道・・・いや、陰陽師共と『表秘史神(おもてひしがみ)』に儂らの居場所が掴めるとは思えん。放置してかまわん・・・いや、いっそ儂の目覚めと新たなる明日への狼煙として、あそこから叩き潰すのも良いだろう。蒼き王へのメッセージにもなる。日本内部の内輪もめである限りは、神々も英雄も関わりはせん。『表秘史神(おもてひしがみ)』の詳細については探っておけ」

「御意」


 とりあえず復活した後の事については、千方はまだ考えていなかった。取らぬ狸の皮算用になるからだ。そしてそちらに注力して目先の事――復活の儀式――が疎かになっては元の木阿弥だ。

 なので復活が成ってから、その後はどうするか決めるつもりだった。最終目標は今で言う所の天皇家を打倒して国家転覆を行い、己の天下とすることだ。そして、もはやその第一歩である復活は叶ったと考えて問題がない。次の段階を考えるべき時だったのである。


「うむ・・・では、後事を頼む。儂は儀式に備えて、身体を清める・・・水鬼が居なくなったのでな。少し手間が掛かる」

「わかりました。その間にこちらは護衛態勢を整えさせて頂きます」


 千方が用意に入るのを受けて、金鬼と風鬼もまた、彼の儀式の準備に入る。そうして、彼らはこれから数週間、まるでこれが嵐の前の静けさとばかりに、完全に姿を隠す事になるのだった。




 一方、ちょうどその頃。カイト達は、というと今回の一件の情報を総括していた。と言っても、近くの喫茶店に入ってスマホで、だ。まあ、実際に使っているのは『キズナ』の例の秘密サーバーだ。秘匿性は十分だった。


「なるほど。鳴海ちゃんはなんとか、ですか・・・」

『ええ。私が向かって正解でした。それと捕らえた鬼については、玉藻殿に送っています。彼女なら、なんとかしてくれるでしょうからね』

「当分は地下室で軟禁が妥当か・・・そちらはおまかせします」

『アフターケアは、おまかせを。明日も隠れて会うつもりです』


 カイトはランスロットとのやり取りを行いながら、なんとか精神的にも持ち直していた鳴海について安堵の表情を浮かべる。そんな彼はフェルからの魔力供給を受けた事で、浬達を安心させる目的もあって人の状態になっていた。

 ちなみに、大抵の相手に対してタメ口なカイト――勿論、相手が年上が多いので許可を得ての事だが――がランスロットに対して敬語なのには理由がある。彼が一度目の転移前からの教師だった為、敬語で話さないと違和感があるらしい。逆にランスロットの主であるアーサー王は親友なので、タメ口だった。


「口説かないでくださいよ。先生ただでさえ間男のそしり受けまくってるんですから」

『あはは。上司の妻にこの上教え子を口説いたとなると、手に負えませんね。気を付けます』


 ランスロットとカイトは二人、笑い合う。ランスロットといえば、有名なのは武芸や英雄譚よりも、何よりもアーサー王の后であるギネヴィアとの不倫だ。

 皮肉な話だが、騎士として優秀な彼は同時に、不義の騎士としても有名だった。それを揶揄したのである。揶揄出来るぐらいに親しい仲である証だった。そうして、カイトは次にアルジュナに問いかけた。


「で・・・アルジュナ。助かった。早速で悪いが、煌士の容態は?」

『ええ。なんとか無事です。私が付いていながら申し訳ない』

「いや、大英雄アルジュナだからこそ、守り抜けたんだろう。これがジャック達だけだったら、と思うとゾッとする」

『そう言っていただければ、幸いです。では、私はカルナに仕事を任せていますので、戻る事にします』

「あいさ。悪いな。カルナにもよろしく」


 カイトの笑いながらの指摘に、アルジュナが感謝の意を示す。これは慰めでもなんでもなければ、単なる事実を指摘しただけだ。

 アメリカのエースであるジャックでさえ、ボロボロの状態の金鬼に一撃を軽々と防がれたのだ。アルジュナなればこそ有効打を与えられていたのであって、ジャック達『スターズ』であれば、今頃煌士は血どころかその身体を手に入れられていただろう。


「ふぅ・・・おっさん。そっちは? 起きたか?」

『おう。こっちはなんとか、か。今ようやく起きた所だ』


 カイトの問いかけに対して、御門が侑子が目覚めた事を示す。肉体的、精神的、魔力的に疲れた事と緊張がほぐれた事が総合的に組み合わさって、今まで眠り続けていたのである。


「様子は?」

『寝起きってぐらいだ。まあ、なんとかなってるだろう。今は玉藻が面倒を見ている』

「そうか・・・あいつ何時も思うけど、結構善狐になってるよなー」

「誰がさせたんだか・・・」


 カイトのボヤキに、大きくなっているモルガンがため息混じりにつぶやく。玉藻が善狐になったのには、勿論理由がある。その理由は語るまでもなく、カイトなのであった。


「あの・・・モルガンちゃんにヴィヴィアンちゃん?」

「何ー?」

「何かな」


 何処かやる気なさげに答えたモルガンと、ニコニコと微笑みながら答えたヴィヴィアン。二人共妖精だというのに、今は背中に半透明の羽根はなかった。


「羽根、何処いったの?」

「消した。因子を不活性化させればどうにでもなるからねー」


 くるくると紅茶をかき混ぜながらモルガンが答える。ちなみに、浬も海瑠も二人がその実ものすごい年上だという事に気付いていない。普通の妖精の同い年ぐらいの女の子としてしか見ていなかった。なのでちゃん付けなのである。


「で、お兄ちゃん。他の皆はどうだったの?」

「オールオッケー。無問題。全員無事だ。唯一煌士が被害受けたぐらい、か。今は病院で大人しくしている様に見えて、感動に打ち震えているそうだ。ま、帰国は早めるだろうな」

「ちっ・・・そのままくたばっても良かったのに・・・」


 ハイテンションの煌士が無事だった事に、浬が舌打ちする。まあ、これは無事だったからこそ出来る事だし、そもそもこの問いかけはやはり気にしていたからこその問いかけだ。なのでカイトも笑ってフォローしてやる事にした。


「まあまあ、そう言ってやんな。あいつも結構頑張ったみたいだからな」

「ふーん・・・」

「っと、ちょっと悪いな」


 フォローに対して生返事を返した浬に更にフォローしようか、と考えたカイトであるが、そこに着信があった。それは何時も彼が使うスマホではなく、日本政府やジャック達に教えている所謂、ホットラインだった。電話相手は理解していて、この相手からの電話を待つ事が、喫茶店に入ったもう一つの理由だった。


『ブルーか』

「ああ、覇王殿。事情は理解している」


 電話の相手は、煌士の父親である覇王だ。彼が電話を掛けてきたのである。


『承知済み、か。話が早くて助かる・・・直ぐに帰国させたいんだが、病院周辺の護衛を頼めるか?』

「治療薬含めて、融通しよう」

『それで、一つ聞いておきたいんだが・・・』

「それは無理だ。今奴は表に姿を表せない。特に今は、だ。貴様らで教会からあいつを守れるのか?」

『っ・・・』


 覇王が問いたい事を先読みしたカイトの返答に、覇王が言い淀む。現在、日本は大揉めだ。入り込もうとすれば、魔女を目の敵にしている教会の戦士達が入り込むのは容易い。それから覇王達が魔女(ティナ)を守り切れるのか、というと、一言、無理としか言えなかった。

 魔女(ティナ)とカイトが夫婦に近い関係である事は、裏世界ならば誰もが理解している。自分達の為に妻を危険に晒せ、とは如何に覇王とていえなかった。そして言った瞬間、全ての関係が破綻するだろう。


『わかった。忘れてくれ・・・煌士の件。恩に着る。父親としても、組織の長としても』

「いや、構わない。奴は居場所を転々とさせている。すまないが、明かせない。その代わりと言ってはなんだが、治療薬は良いのを見繕う。学校には問題を出さない様にしておこう」

『重ねて、恩に着る。謝礼は何時も通りの口座に振り込んでおく』

「ああ、そうしてくれ」


 最後に治療や護衛に纏わる話をして、二人は電話を終える。謝礼というが実情は動いてもらうのに必要な必要経費だ。当たり前だが何事にも金が要る。今回は覇王からの依頼――ひいてはその裏の日本政府――なので、天道財閥がその経費を振り込む、というわけである。

 そうして覇王との会話を終えたカイトは、今度は先程御門達と電話をしていたスマホを操って、別の所に連絡を入れた。


「オレだ。天道家の御曹司が入院する病院に警護を配置してくれ。正式に依頼が来た」

『うむ。手はずは整っておる』


 電話の先は蘇芳翁だ。すでに彼には連絡を入れていた為、二人の会話は手短に終了した。


「ふぅ・・・」

「じゃあ、とりあえずこれからは私達が二人の直援に付くね」

「頼む」

「え?」


 電話が終わると同時にヴィヴィアンが告げた言葉の内容に、浬も海瑠も驚きを露わにする。二人は確かに強い様子だったが、やはり見た目は少女だ。強いようには思えなかったのである。


「むちゃんこ強いぞ、こいつら。オレの相棒だからな」

「あい・・・ぼう?」

「そうでーす。イエイ」


 カイトからの紹介を受けて、モルガンがVサインで応ずる。こんなナリでこんな性格だが、腕だけは確かだ。世界最強と謳われるカイトと共に居れるのだから、当然だろう。


「そっちのモルガンが遠距離担当。そっちのヴィヴィが近接担当。剣士としての技量は空也を上回ってるぞ」

「あはは、照れるな」

「うそぉ・・・」


 のほほん、とニコニコ笑顔を浮かべるヴィヴィアンを見て、浬が驚く。人は見かけによらないのかもしれない、と思うことにしたらしい。


「ま、詳しい話は帰ってから聞けや。勝手知ったる人の家、とばかりにあっちも知ってるからな」

「お邪魔してるもんね」

「キャリーバッグ狭いからやなんだよねー」

「入らない奴が言うな」


 相も変わらず姦しい三人は話しながら立ち上がる。何時までも喫茶店でぶらついていては帰ったら真っ暗になってしまう。まだ北野天満宮の近くなので、お参りさせて帰ろう、という事だった。そうして、三人に続いてフェルと浬、海瑠も立ち上がって、お参りをして、今日は家に帰るのだった。

お読み頂きありがとうございました。

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