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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第90話 影達の意地

 本職である神官達でさえミスする根本的な誤解により、カイトは囚えられてしまった。が、そんなカイトの事はつゆ知らず、安全圏に入れた、と浬も海瑠も完全に気を抜いていた。


「はぁ・・・なんだろ、神社ってここまで安心するんだ・・・」

「ね・・・」


 浬も海瑠も今日はお賽銭を多めに入れよう、と内心で思っていた。と、そうして神社の境内で待つのは、兄だ。ここで合流する予定だった。というわけで、浬が声を上げる。


「おにいちゃーん。出ておいでー」

『オレは犬か猫か』


 囚えられているはずのカイトの声が、二人の脳裏に響く。それは二人からしても疑い様のない兄の声だった。そして、そんな偽物の兄の声は、更に続けた。


『お前らは先行ってろ。攻撃始まった。できれば更に奥行ってろ』

「え?」

「大丈夫なの?」


 海瑠が魔眼を僅かに開放して、周囲を警戒する。神社に入れば安全だ、と思っていたのだ。この情報は予想外だった。そして魔眼で周囲を見てみれば、何か戦っている様な雰囲気があった。

 そして現に、神社の周囲を完全に覆い尽くす様に念話を遮断する結界が展開されていて、戦いが起きていた。とは言え、兄の声は何時も通りを装っていた。


『おいおい・・・オレを誰だと思ってるんだよ。まあ、もうちょっとしたら、更に援軍も来る。そもそも隠密に特化した奴が相手だ。戦いは他の奴より一段劣る。お参りしてる内に終わってるよ』

「なんだ・・・でも、気をつけてね」

『おう』


 浬からの激励に、偽物のカイトの声が応ずる。そうして、何も知らぬままに、浬と海瑠は更に奥へと参拝兼避難をする事にするのだった。




 一方、その頃。神社の周囲では、カイトが呼び寄せていた護衛達と、影忍達が刃を交えていた。


「っ! なんだ、こいつら!」


 カイトが呼び寄せた護衛は、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の各家の精鋭で構成されていた。だが、その彼らが翻弄されていた。戦闘の実力ならば一段も二段も上のはずの彼らが、だ。


「効果が無いだと!?」


 西洋風のレイピアで突き刺して、護衛達が困惑する。影忍達は今回、全力で事に臨んでいた。なので負ける事は承知でも、始めから影忍にとって奥義に類する身体の影化を行っていたのだ。この力は身体を影と同化させて物理攻撃を完全に無効化してみせるもので、忍者らしいと言えばらしいと言えた。


「っ! カイト殿は!?」


 護衛の一人が、何時もならあるはずのカイトからの援護が無い事に気付く。そこに、隠形鬼が現れた。その手には、一つの影の玉があった。大きさはちょうど、カイトの使い魔程だった。それを、隠形鬼が指揮官であるエリザの側近のメイドへと投げて渡す。


「・・・彼女らが来たら、渡せ。貴様らの主の影だ」

「! 何をした!?」

「封じた」

「!? なんのつもりだ!」

「・・・」


 メイドの問いかけを受けて、隠形鬼は何時もは口を覆っていたマスクを、下にずらす。何のつもりだ、と思う護衛達だが、それに対して、隠形鬼は口パクで何かを告げる。それが尚更、護衛達を混乱に陥れた。


「あ、待て!」

「行かせん」


 口パクが終わると同時に、唖然となる護衛達を置いて影に消えた隠形鬼を追おうとした護衛の一人の前に、影忍の一人が立ち塞がる。が、今度の護衛達からの攻撃は、鈍かった。


「・・・? なんのつもりだ・・・」


 最後に隠形鬼が口パクで告げていたのは、本気ではない、という事だった。だが、相手は忍者だ。信じれば良いのかどうかは、判断しかねる。それが喩え、隠形鬼の眼に真剣で何処か縋る様な光があったとしても、だ。特に主の指示を仰げないのが痛い。彼ならば、こういう場合に即座に決断を下せる。

 そうして、この後は死力を尽くす影忍達とどうすべきか判断出来ない護衛達は、援護が来るまで一進一退の攻防戦を演じることになるのだった。




 一方、何処かへ消えたはずの隠形鬼だが、彼女は神社の奥へと来ていた。そして、彼女は千方から教えてもらった結界を展開する。それは周囲を隔絶する類の結界だった。


「え・・・?」

「何?」


 いきなり消えた人影に、浬と海瑠が周囲を見回す。安全な筈の場所と言うことで完全に油断しており、捕らえるのは容易だった。そんな二人の前に、隠形鬼は影から出て姿を現す。


「貴方は・・・隠形鬼?」

「ん」


 浬の問いかけに対して、顔を露わにした隠形鬼は何処か嬉しそうに頷く。覚えてくれていて嬉しかったらしい。そんな隠形鬼に、浬は矢継ぎ早に質問する。


「どうしてここに? お兄ちゃんは? 安全じゃなかったの?」

「オレが、ここに招いた。貴様らは騙された、というわけだ。オレの配下の忍達が足止めしている護衛から引き離す為にな」

「「え?」」


 隠形鬼の口から出た兄の声に、二人が目を見開く。十数年一緒に暮らした弟妹達からしても、兄と区別が出来ない声と口調だった。


「ちょっと待って! ここで暴れたら神様来るよ! いいの!?」

「ここのに祀られているのは単なる普通の人間だぞ? 神様は関係しない」


 相変わらず兄の声帯模写を行う隠形鬼が、彼女らが見落としている点を指摘する。菅原道真の生まれは、伝わっている限りは西暦845年。平安時代だ。

 すでに日本史は半ば日本人の手に委ねられた後だった。滋賀県の羽衣伝説に天女が産んだ、とあるが、それでも決して神々の血を受け継いでいるわけではなかった。

 同時代で神々の血や力を受け継いでいるのは、同時代最強の武士と謳われる源頼光を祖とした摂津源氏に属する坂田金時――所謂金太郎――となる。なお、その頭首である頼光は神の血を受け継いでいるわけではないが、とある事情から自らも神域の力を使いこなしていた。


「え? だって学問の神様って・・・」

「勝手に人間共が言っているだけに過ぎん話だ。人が神になる事は確かにあるが、あの程度の力量の男では神にはなれん・・・私よりも強いけど」


 隠形鬼は浬の疑問に答える最後、素でそれでも自分よりも強い事を吐露する。が、とりあえずここの菅原道真は神様ではない。安全地帯では無いのだ。


「んん・・・とりあえず・・・奴は神様ではない。単なる学者が神になれても困る。まあ、多少腕に覚えはあったらしいし、天女の血を引いていたからか魂だけになり生き延びたがな。それ故、神と誤解されやすい・・・まあ、領域内で暴れられれば、神と同じく来るだろうがな」

「・・・じゃあ、このまま粘ったら来てくれるんじゃ・・・」

「馬鹿か。奴は太宰府、つまりは福岡が本拠地。そして神々の様な便利な移動術を持ち合わせん男だ。ここでの戦闘を知ったとて、来るとしても後3時間ぐらいは掛かるだろうよ」


 どうやら隠形鬼はカイトの声での返答を気に入ったらしい。無表情で出てくる兄の声に浬と海瑠からすれば違和感がありありだったが、無表情と言うか何処かぽやん、としているのは隠形鬼の何時もの表情だ。それに、声で騙せる以上、表情まで再現する必要は無い。

 とは言え、それもここまで、だったようだ。今まで顔を露わにする為に下ろしていたマスクを上げて、声帯模写を止める。


「・・・行く。死にたくなければ、抗え」

「! 海瑠!」

「うん!」


 隠形鬼の取り出した小太刀を見て、浬が海瑠に合図を送る。どうやら一戦交えないとダメだ、と理解したのだ。幸い、浬は出掛けるに際してカードを何時も持っていたし、もし万が一に備えて海瑠は煌士と同じ様にアクセサリー型の魔道具――彼の場合はスマホアクセサリー――の中に魔銃を収納させて持ち運んでいた。


「海瑠、弾幕お願い。外に逃げよ。誰かが戦ってるのは事実っぽいし」


 少なくとも、援軍は外に居る。ならばそちらに逃げよう、と浬は考えていた。当たり前だが、二人は戦うつもりなぞ端からなかった。

 いい加減に訓練しているように見えて、茨木童子や月影山の鬼の事を忘れず、逃げる事の重要性を把握していればこそだった。そうして方針を決めると、即座に海瑠と目で合図を交わして浬が行動に移った。


「カード!」


 浬が取り出したカードは、『光』が二枚に『銃』が一枚だ。清明の時と同じく、閃光弾を使うつもりだった。目眩ましをして逃げるつもりだったのである。だが、隠形鬼はこの程度が通用する相手ではなかった。


「え?」

「愚か」


 閃光弾を悠々とスルーして一瞬で自分に肉薄した隠形鬼に、浬が目を見開く。閃光弾に対して何かした様に見えなかったが、無効化されてしまっていた。

 ちなみに、隠形鬼は浬がカードを出した時点で影に潜って回避したのである。同時に影を伝って浬の目の前まで移動した、というわけだ。


「きゃあ!」

「お姉ちゃん!」


 咄嗟に身を翻した浬は、衣服を切り裂かれながらも辛くも隠形鬼の振るう剣閃から逃れる。


「え・・・あ・・・」


 ここで、浬は理解した。これは刃引きも何もされていない本当に簡単に殺せる刃なのだ、と。そして僅かに恐怖が身体を支配するが、やはりあの兄の妹という所だろう。即座に顔を振って、奮起した。


「っ!」


 幸いだったのは、命を狙われるのが二度目だった、という事だろう。しかも前の時は存分に恐怖を味合わせる様にしていた月影山の鬼だった事が、更に幸運だった。

 心の何処かがこれは殺し合いなのだ、と理解していた為、なんとかかつての様に腰を抜かす事はなかったのだ。だから、彼女は顔を振って恐怖を振り払うと、再度立ち上がる。と、それとほぼ同時に、海瑠が魔銃の引き金を引いた。


「っ」


 放たれた弾幕に、隠形鬼が影に潜行してその場を離れる。いくら彼女でも魔弾の弾幕に直撃なぞしたくはなかった。


「今の内に!」


 とりあえず逃げる事。浬は引き裂かれた衣服を気にしない事にして、海瑠の手を引いて走り出す。が、そうは問屋がおろさないのが、現実だった。


「甘い」


 二人の進路上に、影から再び隠形鬼が姿を現す。彼女の移動速度は二人を大幅に上回る。進路上に先回りする事なぞ容易いことだった。


「きゃあ!」


 いきなり現れた隠形鬼に、二人は思わず腰を抜かして尻餅をつく。が、これが幸いした。隠形鬼の振るう小太刀から、辛くも逃れられていた。


「幸運」


 凶刃から再度逃れられた二人に、隠形鬼がつぶやく。とは言え、隠形鬼からすれば、二人を殺す事も捕らえる事も容易だった。


「とりあえず、逃げられない様にする」

「うわっ・・・あっぐ・・・はなれ・・・ろ!」

「あっぷ・・・」


 隠形鬼は二人の動きを牽制すると、影を操って姉弟の身体を首も動かせない程の力で拘束する。とりあえず動かれるのだけは有り難くない。そして、そのまま隠形鬼は自らが切り裂いた浬の衣服の隙間に手を入れた。


「へ? きゃあああ!」

「これでも、外に出れる?・・・あ、意外とおっきい・・・」

「どうしたの!?」


 びり、という布が破ける音と共に浬のブラが引き裂かれて、更に衣服も大きく破られる。裸にまではならないまでも、かなり恥ずかしい見た目だった。

 おまけに手足を拘束されているお陰で、隠す事もままならない。幸いなのは、海瑠が首を動かせないお陰で見られなかった事と、最近大きくなっている乳房は隠形鬼が闇で隠してくれた事だろう。

 まあ、どちらにせよ少なくとも、特殊な性癖でも無い限りは外は出歩けない格好だった。そうして浬の動きを完全に動きを封殺した隠形鬼だが、意外と大きかったらしいブラの破片に落としていた視線を上げて、一瞬遠くを見る。


「・・・?」


 一瞬の奇妙な動きに、浬も海瑠も首を傾げる。まるで何かを待っている様な様子だった。


「もうちょっと」


 ぽつり、と隠形鬼が浬達に聞こえない程度に小さな声でつぶやく。それは案の定、誰かを待っているが故の言葉だった。そして、隠形鬼はその何かを待つ為の時間稼ぎを開始した。


「貴方達はこれから、どうなるかわかる?」

「生贄・・・ってのにするんでしょう?」

「千方様はそう考えてる」

「なんで私達じゃないといけないの!?」


 告げられた答えに、浬が声を荒げる。当たり前といえば、当たり前の問いかけだろう。兄がバレていないとするのなら、狙われる道理なんぞ何も無いはずだ。そんな当然の問いかけに、隠形鬼が答えてくれた。


「あなた達が主眼じゃない。もともと、あの天道の子が狙いだった。ただ単にそれを調査している間に、月影山の鬼が狙ったと言う貴方達が一緒に浮かんだだけ。千方様は今でも、貴方があの蒼き王の家族だと知らない。あの鬼が狙ったなら割と良質だろうから、ついでなので一緒に手に入れてしまおう、という程度」

「え・・・?」


 あっけらかんと答えてくれた実情に、浬も海瑠も唖然となる。それは嘘を吐いている様子は無く、二人には先の意味深な視線と合わせて、真実に思えた。


「貴方達は囚えられれば、という程度。それに、もう千方様の最低条件はクリアされている・・・実は逃しても良い」

「じゃあ、逃してよ」

「ダメ」


 逃しても良い、と言いながら隠形鬼は逃がすつもりは無いらしい。降って湧いた希望にすがりついた浬だが、やはり彼女は敵なのだ、と理解するには十分だった。

 とはいえ、逃がすつもりは無いだけで、逃げてもらうつもりではあった。だからこそ、その次の瞬間、彼女は浬達を拘束したまま、その場を飛び退いた。


「笑顔・・・?」


 二人はその瞬間、激しい光を放つ光条に紛れて密かに隠形鬼が笑顔を浮かべたのを見る。だが、それは光条が消えた時には、見間違いとばかりに消えていた。


「ありゃ。外れた」


 舞い降りたのは、小さな可愛らしい妖精の少女だ。髪はラベンダー色がうっすらと乗った銀色。体型は妖精なのでイマイチ判別は出来ないが、顔立ちは抜群に可愛らしかった。そして飛び退いた隠形鬼に対して、別の妖精が追撃を掛けた。


「はっ!」


 降り注いだのは、水の塊だ。それが一直線に隠形鬼を目掛けて投じられる。放ったのは、水色の髪の妖精だ。こちらも顔立ちは抜群に可愛らしかった。


「妖精・・・さん・・・?」

「ダメじゃないかな? 女の子を縛って、って」

「いや、それ以上に服剥がれてる事に怒りなさいよ」


 水色の髪の妖精の言葉に、銀色の髪の妖精がツッコミを入れる。そうして、次の瞬間、妖精の少女二人が大きくなって、浬と海瑠の拘束を意図も簡単に解いた。

 大きくなった二人共大きさは浬よりも10センチ程小さく、海瑠よりも僅かに小さい程度だった。体格は同じ程度で、中学生前後だろう。まあ、顔立ちの愛らしさもあって、十分に満足出来る容姿だった。


「はい、どうぞ。いくら夏だからって、そのままじゃお腹冷えるよ」


 拘束を解いてもらった浬に対して、銀色の髪の妖精が笑顔で何処からともなく取り出した上着を手渡す。今の浬は拘束が解かれたお陰で、上半身は完全に裸に近かった。同じ女の子として、見過ごせなかったらしい。そうして、浬達は辛くも隠形鬼の魔の手から逃れる事に成功するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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