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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第88話 一方、その頃 ――日本では2――

 鳴海が襲撃に遭っていた頃。今回の襲撃が同時多発であるのであれば、当然、唯一天神市に残っていた侑子にも襲撃が仕掛けられていた。が、こちらは鳴海の様に泣き喚くでは無く、焦りや恐怖は見えたが、精神的にはまだ平静を保てていた。


「走れ! あと少しで学校だ! インドラ様と玉藻殿には連絡を入れた! 学校で合流出来る!」

「呼吸乱れるし、舌噛むから話しかけないでよ!」


 清明の式神達の言葉に従って、侑子が走る。こちらは散歩等では無く、偶然部活で使う用品が切れてしまい式神達に問いかけて出歩いて良い事の確認を取って、出歩いていた所だった。

 勿論、服装は動きやすいパンツルック――そもそも彼女がスカートを履く事は稀だが――で、人通りの多い所を選んで移動していた。

 本来ならば家の近くのスポーツ用品店で購入したかったのだが、不運な事に棚卸しの為に休みで少し遠くまで出ていた所だった。そこで人払いの結界に囚われてしまった、というわけである。


「それだけ喋れれば問題無いな!」


 式神達はたんっ、と軽く地面を蹴って侑子に並走すると、その補佐に入る。こちらの敵は風鬼。一番やる気のある集団だった。それ故に襲撃も本気で、剣閃が翻る回数も遥かに多かった。とは言え、幸いなのは侑子の運動神経が高い事だ。一番余裕があったのは、ここかもしれない。


「掴まれ! 放り投げてやる!」


 人払いの結界はどうやら少々特殊な物で、侑子を中心として展開されているらしい。効果範囲こそ狭いが、同時に中の異変にも気付かれない様な結界になっていた。

 かなり高度な物で、都市部では有用な結界だ。さすがは藤原千方、という所だろう。なので現状、侑子の側では何が起きても誰も気にしない。とは言え、それなら逆に式神達は全力で援護出来る、ということだ。それをこちらも利用させてもらう事にしていた。


「ちびるなよ! 小便の始末なぞしてやらんからな!」

「もうちょっと女の子だから気を遣ってよ!」


 式神の一人の手を握った侑子が、苛立ちに近い文句を言う。式神といっても全員性格が一致しているわけでも、容姿や性別が一緒なわけでもない。どうやらこれは少々下品な式神だったらしい。


「そぉれ!」

「ひゃあ!」

「ちっ! ビルの屋上だ! 追え!」


 式神の一人によってビルの屋上に投げ上げられた侑子を見て、式神の一体により足止めを食らっていた風鬼が指示を下す。従えている忍者達は勿論、風忍だ。彼らは速度重視だった為、追撃は空中で行われる事になった。


「させん!」

「っ! さすがは憎き忠行の弟子! 見事な式神だ!」


 追撃と言うか孤立した侑子を確保しようとした風忍達の追撃は当然だが、式神達も想定していた。なので投げ上げると同時に、別の式神が豪風を起こして侑子を更に加速させ、迫り来る風忍達を吹き飛ばす。当たり前だが、無策に侑子を放り投げるはずがない。


「っとと」


 豪風で加速された侑子は式神達と別れて、一人ビルの屋上に着地する。高さはおおよそ50メートル。周囲の中では高い方のビルだ。飛び降りれる高さでは無い。そもそも飛び降りたくもない。

 とは言え、立ち止まってもいられない。豪風で少し方角を見失った為、侑子は一瞬周囲を見回して、自らの通う第8中学校を探す。


「天桜学園の空き地があれだから・・・あれ!」


 侑子は即座に学校を見つけると、即座にそちらに向けて走り出す。彼女は今、パルクールに似た動きをやらされていた。交通量の多い道路や障害物は式神達に頼んで今の様に乗り越えて、ほぼ一直線に学校を目指して駆け抜けていたのである。

 ということは、だ。侑子は当然、フェンスを乗り越えて100メートル級のビルの屋上からなんらためらうことなく、ジャンプで飛び降りた。そちらには別の式神がすでに待機してくれていて、直ぐに走り出せる様になっていた。何度めかになると流石に慣れて躊躇いは無くなったのだ。

 肝が座っている。それら一連の流れを見ながら、式神達はそう侑子を賞賛する。振るわれる剣閃等に恐怖を感じているが、それでもここまで出来るのだ。

 すでに何回目かであるにせよ、齢10数歳の少女が簡単に出来る事ではない。運動神経の高さはもともと部活で証明されていたが、精神的にもかなり強いと賞賛出来た。


「ひゃあああ!」

「よっと! 走れ! 後ろは振り返るなよ!」


 可愛らしい悲鳴を上げて落下した侑子を見事キャッチした式神は、彼女を地面に下ろすと同時に侑子とは逆側に走り出す。後ろからは風鬼率いる風忍達が追いかけてきている。いくら一直線に動けようとも、こんな物で振り切れる相手ではない。足止めをしなければ即座に捕まるだろう。

 式神達はこの繰り返しだった。とは言え、やはり実力差は歴然で、彼らもかなりボロボロだった。限界が近い。侑子にもそれはわかっていた。そして限界が近いのは、彼らだけではなかった。


「っ!」


 ずざざ、というような音と共に、侑子が足をもつれさせる。いくら運動部の彼女であっても、全力疾走で走っていたのだ。スタミナの限界が訪れたのである。何もない所だったので、本当に限界だったようだ。だが、彼女がコケても周囲の誰も、彼女を気にする事無く避ける様にして歩いていた。


「っ! 小娘!」


 倒れた侑子を見て、式神達が焦りを浮かべる。彼らにスタミナの限界は無い。主からの供給が途絶えた瞬間が、スタミナ切れだ。それ故、いささか侑子の体力の限界を読み違えたようだ。止まれなかった所為で若干だが距離が離れてしまった。

 彼女の身体能力の高さと胆力の強さからいささかスタミナを過大評価しすぎていた、という所だろう。そして、その瞬間を見過ごす風鬼ではなかった。


「今だ! 確保しろ!」

「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・全力ダッシュ数キロって、キツいね、これ・・・口の中粘ついてる・・・」


 風鬼の号令が下るのと、侑子が起き上がり肩で息をするのはほぼ同時だった。汗だくの侑子の顔には諦めでは無く悔しさから来る苦い笑いが浮かんでいた。十分頑張ったと賞賛出来るレベルだが、それでも到着はできなかった。いわば、負けだった。

 だが、これはいわば、試合に負けて勝負に勝った、という所だった。若干の過呼吸で動けなくなった侑子に迫る風忍達だが、その次の瞬間、鎧姿の武者達のタックルによって吹き飛ばされた。


「間に合ったか・・・」

「こここ。どうにもここだけでようなった、言う話よ。学校に守るべき者もおらんなら、妾も出てこよう」


 式神達が安堵の表情を浮かべる。敵であった彼女であるが、味方になるとこれほど頼もしい事はなかった。そして、同時に周囲を結界が覆い尽くした。戦闘に備えて、周囲の一般人や建物に被害が及ばない様にしたのである。


「ようやった。お主が諦めなんだこそ、妾もインドラも間に合った」


 玉藻が侑子に労いの言葉を掛けると同時に、曇り空に稲光が差し込み、雷鳴と共に雷が降り注ぐ。


「きゃあ!」

「おまたせ成瀬くん。インドラの降臨だ。悪いな、ちょいと野暮用終わらせたら遅れちまった」


 雷と共に降臨したのは、雷神にして軍神インドラだ。御門の時には浮かんでいた気怠げな雰囲気は一掃されて、まさに神々の王たる天帝に相応しいだけの風格が備わっていた。


「よう。わざわざウチの保護地域で暴れてくれた様子じゃねぇの。天帝の保護地域で暴れるってこたぁ俺に喧嘩売ってると同義だ。つよかない俺だが、それでも貴様らぐらい消し炭にするのに力はそうは必要ねぇ」


 雷を纏い、覇気を迸らせながら御門が告げる。今はもはや侑子は玉藻の操る式神達によって守られて、手出しは出来ない。玉藻は守りに集中する為に手出しするつもりは無い様子だが、御門は違う。そうして、後退りする風忍達に対して、御門は軽い調子で告げた。


「まあ、折角来たってのにもてなしも無し、ってのは天帝の名折れだ。流石に教え子の前で殺しもご法度だしな。運が良いな、お前ら」


 御門もランスロットと同じく、教え子の前で殺人を犯す事は憚られた様だ。生きて帰れる事を予め明言しておく。とは言え、それは無事に帰す、という事ではなかった。彼は自らが保有する異空間の中に手を突っ込むと、何かを探し始める。


「えっと、確かこのへんに・・・あった」


 風格だけで風忍達の撤退を止めた御門が取り出したのは、何の変哲もない単なるコインだ。材質はおそらく鉄かなにかだろう。そこら辺にある普遍的なコインだ。が、不思議な事に、御門の周囲にそれらは浮かんでいた。


「俺は雷神。雷の神様だ。そして雷を操れる、ってこたぁ磁気や電磁場も操れんだよ・・・いや、最近になって俺も知ったんだがな」


 御門は教師として仕事をしているからか、何処か教える様な口調でコインが浮かんでいる原理を語る。どうやらコインに磁気を帯びさせて、それで浮かせているのだろう。

 ちなみに、彼がこれを最近知った、というのには理由がある。その理由は簡単で、科学技術の進歩によるローレンツ力やアンペールの法則等の電磁気学の発達により、自らの力に新たな法則性を見出したからだ。

 彼は雷の神様だから、とその雷について何でもかんでも知っているわけではない。その力が備わっている事を知らなければ、使えないのだ。


「さて・・・ということで、だ。最近になってこうやって電磁場で物体を操る方法を知ったわけなんだが・・・まあ、前職ってか休業中だが教師と兼業で結構でかい軍事企業の総帥なんぞやっててな。時々兵器の開発状況なんての見てると、レールガンなんてものがあったわけだ」


 御門の説明は続いていくが、語られた言葉と御門の笑みに風鬼がこの説明の意図を理解して、目を見開く。やろうとしているのは、軍事兵器の、それも最新鋭の兵器の再現だった。

 レールガンとは電磁誘導により物体を投射して攻撃する装置の事だ。EMLや電磁投射砲等とも言われている。言うまでもない事だが、これには電気、即ち雷の力がかなり関わっている。つまりは、御門にとってレールガンをコインで再現する事なぞ容易い事だった。


「ブルーや前天使長、そこらの実力の奴にゃ笑って切り裂かれる程度の攻撃だが・・・まあ、持ってけや」


 ごぅ、と御門から発せられる圧力が増大すると同時に、無数のコインが超音速で放たれる。雷神たる彼にとって雷を操る事が容易い事であれば、それを応用した電磁力や電磁場の操作なぞちょっと練習すれば簡単に出来る事だった。そうして、超音速のコインの雨が風鬼と風忍達に降り注ぐ。


「こここ。白銀の雨か。これはなんとも雅よな」

「きゃあ!」


 轟音を轟かせながら地面を打ち砕く無数のコインの雨に玉藻は扇子を扇ぎながら満足げに笑い、侑子は轟音に耳を塞ぐ。そうして、コインの雨が止んだ時には、粉々に砕け散った地面と風忍達の倒れ伏した姿があった。


「ほう、一匹避けやがったか」

「ちぃや!」


 裂帛の気合とともに、辛くもレールガンの雨から逃れていた風鬼が御門に対して刀を振るう。すでに敗北は決定した。だが、いくら神様相手とは言えここまで無様に負けては、主に申し訳が立たない。せめて一太刀だけでも、という意地だった。が、ぱぁん、という音と共に御門は次の瞬間には風鬼の後ろに回り込んでいた。


「ふっ!」

「っ!」


 風鬼の後ろに回り込んだ御門が紫電を纏って殴り掛かると、風鬼の身体が風を纏ってその場から消える。先程もこれを使って、コインの雨から離脱していたのである。

 とは言え、それで御門の射程範囲から逃れられるか、というとそうではない。御門は空中で身を翻してビルを隔てて100メートル程離れていた風鬼の方を向くと、そちらに手を向けた。


「甘いな」


 どんっ、という音と共に、御門の右手から雷の束が放射される。それは進路上のビルをなぎ払い、更には風鬼のすぐ側を掠めて、更に1キロ程ビルを貫通していった。結界内部故に出来た事だった。先程のコインの雨もそうだが、外でやればここら一帯が焦土になりかねなかった。


「ちっ。外したか」


 風鬼の速度を若干読み違えて外れた雷の束に、御門が舌打ちをする。とは言え、掠めただけでも、風鬼には大ダメージだったようだ。完全に地面に膝をついていた。


「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 どうするか。風鬼は自らを捕らえようとゆっくりと近づいてくる御門を見ながら、方針を考える。御門がゆっくりなのはランスロットとは違い、忍び相手に性急な行動をすると罠に嵌められる可能性があるからだ。警戒していたのである。

 風鬼としてはとりあえず、捕まるわけにはいかなかった。なので万事休す、と判断するのに、時間は必要なかった。そうして、彼が懐の小太刀に手を伸ばそうとした所で、千方から連絡が入った。


『風鬼。引け』

「っ」

『水鬼が虜囚となった。まだコントロール下にあるが、隠形鬼が妙な行動を見せている。金鬼の方が最低限の目標を達成した。これ以上の戦力の消耗は避けろ。隠形鬼に<<冥道(めいどう)>>を作らせる。風忍の回収は奴に預けて、貴様はそれで逃げろ』

「申し訳ありません」


 主からの指示に、風鬼は無念さを滲ませながら、その瞬間に備える。そうしてその瞬間は、次の瞬間訪れた。彼の真下に闇の穴が生まれたのだ。


「っ!」


 闇の穴を見て、御門が目を見開く。とは言え一瞬逡巡したが、追わない事にしたらしい。


「逃げた、か」

「こここ。こちらで伸びとった忍者共も同じ芸当で逃げられたわ。横たわっておったから、尚更さっさと回収されてしもうた」

「ちっ・・・やはり隠形鬼は厄介だな。カイトが欲しがるわけだ」

「別の意味では、お主も欲しがっていよう」

「否定はしない」


 玉藻の揶揄に御門が笑う。そして二人は未だ地面にへたり込んでいる侑子の所に歩いて行く。


「お見事だった、成瀬くん。これで安全だ」

「あの・・・奴らは?」

「逃げた。まあ、当分は襲ってこないだろう。流石にこれ以上の余力は割けんだろうからな」


 どうやら精神的には大丈夫らしい。とりあえず、御門はそれに安心する。とは言え、完全に大丈夫か、と言われると、そうではない様子だった。


「あれ・・・」


 泣く事こそなかったが、どうやら侑子は立てなくなっていたらしい。緊張の糸が切れた事で、腰が抜けたようだ。それを見て、泣かれる前に、と玉藻が侑子を抱き留めて、優しく慰撫した。


「ようやった、お主は。間違いなく、今の生はお主が拾った物よ。逃げる事は恥ではない。生きる為には、逃げねばならん。逃げて生き延び、それで良い。お主は今、生きとる。逃げる事を、死ぬことへと恐怖を感じる事を恥じるな。それを恥というのは戦場を知らぬ愚者の言葉よ。どんな強者でも・・・それこそカイトでさえ戦いには恐怖を抱く。今は妾に身を預けよ。泣きたければ泣け。この場の者はそれを誰も咎めぬし、馬鹿にもせん。誰もが通る道よ」


 穏やかで優しい声に、侑子はゆっくりとだが緊張の糸がほぐれて行く事を心の何処かで理解する。そして緊張の糸がほぐれたからか、恐怖よりも走り抜いた事による疲れが来た。泣く事はしなかったが、代わりに気付けば、寝息を立てていた。


「・・・ぷっ・・・どうやら、肝の座ったお嬢ちゃんの様だ。惜しいな。数年すりゃ、俺好みになるかもな」

「やれやれ・・・聞かれれば好感度だだ下がりじゃぞ」


 御門の言葉に、侑子を抱きしめたままの玉藻が呆れ返る。御門は何も容姿の美醜だけで女を口説いているわけではない。というよりも、妻には美の醜悪よりも魂の美しさの方を求めていた。偶然、綺麗なだけだ。


「さて・・・カイトの方はどうなっていることやら」

「ランスの奴は来ておるから、もう着いておる頃、じゃと思うが・・・東京大阪での時間差は50分程度。入国管理局はスルーするじゃろうから・・・ギリギリ、かのう」


 遠く西の空を眺めながら、二人はカイト達の安否を心配する。戦いが始まった事で、一時的に全体的な連絡は途絶えていた。


「アメリカは引き分け。埼玉は勝利。こちらも勝利・・・後は大阪だけか」

「ま、間に合わぬとは思わぬし、いざとなれば何を差し置いても駆けつけよう。問題は無いじゃろ」

「ああ・・・とは言え、ちょーっと気になるんだよな・・・」


 玉藻の言葉に同意しながら、インドラは少しの考慮を行う。アメリカでの引き分けが伝わっているにしても、妙に撤退に思い切りが良かったと思ったのだ。とは言え、まだ確証が持てるわけではない。なので彼らは鳴海を休ませる為にも、学校へと戻る事にしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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