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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第87話 一方、その頃 ――日本では1――

 アルジュナが戦闘を開始するよりも、少し前。カイトへの対処と浬達への攻撃が始まる少し前だ。その時には、隠形鬼、金鬼以外の風鬼と水鬼もまた、各々のターゲットに対して攻撃を仕掛ける事になっていた。

 今回、彼らはお盆で全員がバラバラになる所を狙って、同時に攻撃を仕掛ける事にしたのだ。家族に怪しまれない為にも、各々には何時も通りの生活をして貰う必要がある。それ故、カイト達はバラけるのを了承するしかないのだ。

 そしてカイトを筆頭にアルジュナやアロン、インドラ、玉藻にフェルと世界を見回しても上位グループに属する奴らに集まられては勝ち目なぞない。バラけた所を狙うのは、戦術の基本だった。


「何よ、これ・・・」


 母方の実家に帰って気ままに夏休みを楽しんでいた所に起きた異変に、鳴海が泣きそうな顔で膝を屈する。が、幸か不幸か、敵は水忍。イマイチやる気の無い水鬼が長である所だった。そのおかげか、攻撃は少し手緩かった。

 今までずっと襲撃が起きず、これは夏の間は無いのでは無いか、と油断して一人裏の山に散歩に出掛けた所での襲撃だった。

 だが、彼女は幸いな事に、守られていた。誰にか、というと、清明の式神達に、だ。こうなるだろうことは想定済みで、侑子の所と一緒に十二神将の数体を残していたのである。


「ひっ!」

「ぴーぴー喚くな小娘!」

「怖いなら気絶しておけ!」


 迸った剣閃に悲鳴を上げる鳴海に向けて、式神達が口々に苛立ちを浮かべる。如何に彼らでも水忍達20人を捌き切るのは難しいらしかった。余裕が無い様子だった。所詮清明の式神だ。それも数ある内の一体に過ぎない。そこまでの実力を期待するのも酷だろう。


「うっぐ・・・」


 鳴海は恐怖から足がすくみ、涙を流す。すでに逃げられる状態ではなかった。失禁していないのが不思議な程だった。だが、これが裏に関わった者の定めだ。生きていくには、乗り越えなければならなかった。

 すでに清明が述べたが、あの『月影山の鬼』の呪いは清明でも簡単には解けない程だ。実は解呪可能かも、とインドラ達ははぐらかして安心させたが、実のところ、アテネは勿論、インドラ達でもいささか厳しいレベルだった。彼らの権能ではその領域に届かないのだ。

 悲観されない為に吐いた嘘だった。生きる為には、自分達でなんとかしてもらわねばならなかった。インドラ達は訓練だけを施している様に見せて、その方法を大急ぎで探している所だった。実はかなり、切羽詰まった状況だった。


「っ! 小娘!」


 泣いていた鳴海に向けて、式神達の怒声が飛ぶ。彼らが何より苦慮していたのは、鳴海の心が挫かれていた事だ。そのせいで足を止めて戦うしかなかったのである。そして、その防衛線は当然だが、長くは保たなかった。たった今、抜かれたのである。


「あ・・・」


 死んだ。心の奥底で、鳴海はそれを把握する。一直線に振るわれる剣戟は自らの脳天目掛けて振り下ろされており、命を刈り取るには十分だった。が、それがあと少し、という所まで迫った所で、別の刃が、それを食い止めた。


「え・・・?」

「・・・」


 立ち塞がったのは、騎士鎧を身に纏った金髪青眼の美丈夫だ。それも背中からでもわかる程に、激怒していた。


「<<湖の騎士(みずうみのきし)>>!? アメリカに居たのではなかったのか!?」


 立ち塞がった美丈夫に対して、水忍達が驚きを露わにする。


「帰って来たんですよ・・・教え子が危機にある、と聞いて・・・私の教え子に手を出しましたね・・・後悔、していただきますよ」


 服装こそ不思議だったが、背中からでも鳴海には声で目の前の人物が誰かわかった。それは自らの本来の担任だった。


「アロン・・・先生?」

「ええ。すいません、遅れました。成田から走ったんですが、木場さんのご実家を知らなかった事を思い出して、少し関東中を探してしまいました。千葉県を出て群馬と栃木、茨木、と関東って意外と広かったですよ」


 鳴海の言葉を受けて、アロンが振り向いて安心させる様に少し冗談めかした微笑みを浮かべる。そこにはわずかばかりの申し訳無さが滲んでいた。恐怖を感じさせてしまった事に、謝罪していたのである。


「でも、どうして・・・?」

「ああ、えっと、それは・・・まあ、私も偽名を名乗っていたわけでして・・・ランスロット。聞いたことありませんか?」

「・・・えっと、ごめんなさい・・・」


 何処かで聞いたことのある名前だな、とは思ったらしいが、鳴海は咄嗟には思い出せなかった様子だ。随分平静を取り戻した様子で、涙を拭いながら恥ずかしげに首を振った。


「あはは。構いませんよ。有名なのはヨーロッパでしょうからね。では、ちょっと失礼しまして・・・」

「きゃっ」


 アロンことランスロットは一つ笑うと、お姫様抱っこの要領で腰を抜かしていた鳴海を抱え上げる。そうして、何処から出て来たのかお上品な一つの椅子を用意して、そこに彼女を座らせた。目の前にはテーブルがあり、紅茶が入れられていた。場違いなことこの上ない。


「そこで、お茶でも飲んで休んでいてください。大丈夫です。先生これでも、実は意外と強い事で有名なんです」

「あ、はい」


 鳴海に対して何処かうやうやしく傅いて右手の甲に口づけしたランスロットの笑顔には、一切の気負いが無い。絶対的な強者。それが見ただけでも分かった。そうして、再びランスロットは鳴海に背を向ける。が、振り向いたその顔は恐ろしい程に、冷たかった。

 水鬼も水忍達も、さらに言えば式神達も動かなかったのではない。動けなかったのだ。鳴海には意地でも感じさせなかった様子だが、それほどまでに、ランスロットの怒気は凄まじかった。絶対に逃がさない。地の果てまでも追いかける。それが彼の身体からにじみ出ていたのだ。逃げるどころか動けるはずもなかった。


「・・・久しぶりです、ここまでの怒りを抱いたのは・・・ガウェイン卿が倒れられた、と聞いた時に自分に抱いた怒りにも・・・いえ、アーサーが死んだ、と聞いた時の絶望と同じぐらい、でしょうか」


 怖い。心を隠すはずの忍者達が、臆面もなく恐怖を抱く。そしてそれは水鬼も一緒だった。そして戦場で敵を前に恐怖を抱いた時点で、負けだった。


「撤退です」

「は・・・?」

「撤退しなさい! あれには勝てない! 今すぐ撤退します! 弾幕を張りなさい!」


 水鬼は水忍達に号令を掛けると同時に、隠形鬼に連絡を入れる。激怒しているランスロットを相手にまともにやった所で逃げられるはずがなかった。アーサー王の下で最優の騎士とさえ名高い名を馳せたランスロットとは、それほどの相手なのである。ならば、逃げる為には隠形鬼に力を借りるしかなかったのである。


『隠形鬼! ランスロットはアメリカに居るのではなかったのですか!?』

『え・・・? アメリカのはず』


 どうやら、隠形鬼もランスロットが日本に来ている事は想定外だったらしい。声には本当に驚きが滲んでいた。ちなみに、隠形鬼にとってランスロットがアメリカに居る事は隠す必要も無い事だったので、きちんと写真も撮影して千方に報告していた。

 そこからも、彼女でさえアルジュナが引き継いだとは思っていなかった事は明らかだ。そしてそれは、困惑する隠形鬼の様子から水鬼にも理解出来た。


『っ! 事故ですか! 彼を怒らせた! 撤退に力を貸してください! 逃げ切れる相手ではない!』

『わかった・・・穴を作る。少しだけ時間を稼いで』


 隠形鬼からの言葉に、水鬼と水忍達は全力で鬼の如きランスロットに向けて全力で水の矢を放ち続ける。が、ランスロットはそれに対して何らアクションは起こさず、ただ一歩づつしっかりと歩くだけだ。それでも、水の矢はある一定の距離まで近づくと、全て弾け飛んでいた。


「っ! 逃げますよ!」


 背後に出来た闇の穴を見て、水鬼は矢も盾もたまらず配下の忍者達に撤退の指示を送る。これは一度限りだが長距離を移動させるいわばワームホールの様な物だった。作るのに時間が必要で一度しか使えないが、そのかわり、奇襲や撤退戦には有効だった。


「逃がさない、ということがわかりませんか?」


 勝てぬと見ると即座に撤退、とは戦士として思い切りが良い、と賞賛するランスロットであるが、教師としての彼が、その撤退を阻ませる。

 教え子に手を出されたのだ。誇り高い彼だからこそ、その怒りは激しかった。だからこそ、撤退を始めた水忍達へとランスロットが一瞬で肉薄する。古武術でいう所の<<縮地(しゅくち)>>という武芸だった。高位の武芸者ならば、誰もが普通に出来る事だった。


「っ! やらせない!」


 自らの配下へと一直線に刃を振り下ろさんとしたランスロットに対して、金鬼と同じく殿を務める水鬼が水を操って、彼の身体を完全に水で覆い尽くす。それは完全にランスロットの身体にまとわり付いて、一切の行動を奪うはずの水の牢獄だ。そのはずだった。だが動きを奪えたのは、たったの一瞬だった。


「え・・・?」


 ランスロットはその一瞬を使って水忍が逃げたのを見て、水鬼の方を向く。そして、まるで水を踏みしめる様に、一歩を踏み出して、平然と水の牢獄から抜け出すと、絶望を与える様に、水の牢屋を<<無謬の剣(アロンダイト)>>で意図も簡単に切り裂いた。


「残念でしたね。私はアーサーから<<湖の騎士(みずうみのきし)>>と讃えられた騎士。<<湖の乙女(みずうみのおとめ)>>であるヴィヴィアン殿らに育てられました。水は友人の様な物です・・・ケイ卿ほど泳ぎは上手くはありませんけどね。が、貴方では、どうあがいても私には勝てない」


 次の一瞬にはランスロットは呆然となる水鬼を見下ろして、<<無謬の剣(アロンダイト)>>を突き付けていた。水鬼はいつの間にか、地面に突っ伏していた。何が起きたのかは、水鬼にも遠くの鳴海にも勿論、わからなかった。


「っ!」


 隠形鬼が影の中に溶ける力があった様に、水鬼にも一時期的にだが水になる、という奥義が備わっていた。が、それはランスロットには、意味がなかった。水に変わった水鬼を見て、ランスロットは平然と左手を突き出して、普通は掴めぬはずの水鬼の喉を掴んで、身体を左手一本で持ち上げた。


「逃がさない、と言ったでしょう。貴方の心意気に応じて、配下は見逃しましたが・・・貴方だけは、ここから逃がさない」

「ぐっ・・・かはっ・・・ぐぅ・・・」


 喉を締められて、実体を強引に取り戻させられた水鬼が痙攣して口から泡を噴く。だが、それでもランスロットは手を緩める事はない。そうして、ついに水鬼が白目を剥いて失禁し、完全に意識が失われる。それを見て、また別の意味で顔を青ざめさせた鳴海が問いかける。


「殺したん・・・ですか?」

「いえ。流石に木場さんの前で殺しはしません。意識を奪っただけです」


 先程までの怒りは何処へやら、柔和に微笑んでランスロットが首を振る。彼は教師である事を誇りとしている。なので情緒教育に悪い、と鳴海の前では殺さなかったのだ。単に意識を奪っただけである。

 よく見れば、水鬼の胸は動いていた。それに、顔を青ざめていた鳴海が安堵のため息を漏らした。流石に目の前で人殺しは見たくなかった。


「ふぅ・・・あれ・・・?」


 安堵して、気付けば涙が流れていた。そして一度溢れた涙は、とどまる事を知らなかった。それに、ランスロットは水鬼を地面に横たえて、鳴海へと歩いていく。


「あれ・・・あれ・・・?」

「・・・遅くなりましたね。もう、大丈夫です」

「ひっぐ・・・うわーん!」


 優しく抱き留めてくれたランスロットにしがみついて、鳴海がたまらず大泣きする。怖かった。素直に、それしかなかった。これが、本当の実戦。それを、思い知った。

 彼女は精神的には一番弱い。こうなるのも無理はなかった。そうしてランスロットは鳴海の頭を優しく撫でる間に、式神達に視線を送る。


「回収を」

「はい・・・よろしいのですか?」

「カイトくんが欲しがっていたでしょう? ここで殺しても問題でしょうし、後で聞かれても嘘を吐く事になる。教師として、それはどうかと思いますからね」

「御意」


 一度怒りを発散させてしまえば、ランスロットとて落ち着く。何より教え子の前だ。激怒を滲ませたくはなかった。怒れば怖いが、同時に怒っていなければ無闇に敵の命を奪う事はなかった。

 それに囚えてしまえば、式神達でも対処出来る。というわけで、情報を得る為も含めて、清明の式神達に水鬼を回収して捕虜とする様に命ずる。


「では、私は姿を隠しますが・・・天神市に帰るまでは、先生が側にいる。そう思っておいてください。幸い、皆さんを除いて帰ってきている事は誰も知りませんからね」

「あ・・・はい」


 それから、しばらく。泣き止んだ所でランスロットは鳴海に笑顔で言い含める。当たり前だがランスロットが鳴海の実家に立ち入れるはずがない。近くのホテルにて、今回の様な場合に備えて待機してくれる事になったようだ。


「・・・あの、それで、どうやってこっちへ?」

「ああ、それですか。さっきも言ったでしょう? ちょっと、成田から走っただけです」

「は、走った・・・?」

「北関東かと思ったんですが、埼玉だったんですね。結構長閑な所、と言っていたので・・・」

「覚えてくれてたんですか?」

「これでも、教師ですから・・・さぁ、あまり一人で居ても怪しまれるでしょう。元気な姿を見せて差し上げてください。側から隠れて見ていますので、安心して大丈夫です」


 落ち着いた鳴海に対して、ランスロットが告げる。何時までもここに居ても、家族が怪しむだろう。彼女は単なる散策で来たという事だった。散策が数時間に及べば、疑われるだろう。そうして、鳴海がそれに安心して頷いて、ふと、気付いた。


「あ・・・あの、先生。他の浬達は?」

「ああ、あっちも大丈夫。私達が付いていますから」


 安心させる様に、鳴海にランスロットが告げる。そして現に全員襲撃にあったが、無事だった。その笑顔には嘘は無く、鳴海は疲れた事等もあって家に帰る事にして、ランスロットはそれを密かに警護する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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