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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第85話 閑話 ――スターズ――

 あけましておめでとうございます。本年度も一年よろしくお願いします。

 少しだけ、時は遡る。煌士達が地下駐車場にたどり着くより少し前。ワシントンのホワイトハウスに、ダニエルとアクセルの妹であるエレンは数人の同僚――ハイスクールの同級生ではない――と共に居た。

 彼女は長いブロンドの髪を持つ、少し勝ち気な様子の美少女だった。プロポーションはやはり日本人よりも優れていて、この年頃ですでに出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいた。年の頃は、高校生という所だ。浬よりは年上に見える。まあ、日本人は若く見られる。同い年の可能性も無くはなかった。

 そんな彼女だが今は実家が彼女の為に、と仕立ててくれたスーツに身に纏い、このアメリカで最も偉大な男と面会していた。


「大統領。ご無沙汰しています」

「やあ、ネルちゃん。久しぶりだね。相変わらず可愛らしい・・・いや、そろそろ綺麗だ、と言うべきかな?」


 エレンが面会していたのは、アメリカ合衆国大統領。名はジャクソン・アンダーソン。年齢は50代という所だろう。今も浮かべる柔和な笑顔が特徴的だが、何処か狐や狼と言った狩人の印象を受ける男だった。

 そんな彼だが、今で2期目の最後の年で、今年で大統領は引退だった。今は表向き主に引き継ぎの資料を作っている事になっていた。


「ジャック・マクレーン少佐。君も収録後だというのに、わざわざ済まなかったね。ドリー嬢・・・いや、マクレーン夫人もこんな時間にありがとう」


 エレンとの挨拶を終えたジャクソンだが、続いて入ってきた一組のカップルに挨拶を送る。男の方の名は、ジャクソンの述べた通りにジャック・マクレーン。階級を付けていた様に、軍人だ。年の頃は30代中頃。顔立ちは美丈夫で、何処か鷲や鷹等の猛禽類を思わせる鋭い目が特徴的だった。まあ、今は軍用のサングラスを掛けている為、外からは見えなかったが。服装は何時もは軍服なのだが、今はスーツ姿だった。

 横のマクレーン夫人と言われたドロシー・マクレーンが見繕ったスーツだった。彼女も年の頃は同じぐらいだ。幼馴染らしい。彼女は優しげで包容力のある美女だった。


「すまないね。こちらも仕事を片付け、としていたら今に長引いてしまった」

「いえ、構いません」


 ジャックが大統領からの握手に応じながら、首を振る。彼こそが、次の大統領候補にして、真実、次の大統領だった。ここらは詳しくは割愛するが、アメリカも綺麗事だけで回っているわけではない、ということだ。とは言え大統領と次の大統領が裏で何かを画策する為に、こんな場所に呼んだわけではない。


「スターズの引き継ぎはどうかね?」

「引き継ぎも何も、この後スターズは俺の直轄部隊になる。上司の大佐がそのまま部下になるだけだ。それにしたって、俺が前線に立つ時には大佐の指示に従うしな」


 挨拶が終わると、ジャックは何時も通りタメ口に戻る。これはジャクソンの望みだった。基本的な考えを同じくする者として、年の離れた友人として付き合おう。そういう約束だった。

 ちなみに、ジャックはスターズのエースにして、創設時のメンバーの一人だ。カイトの戦友の一人にして同盟者の一人であり、道士達最大の敵の一人でもあった。同時に、カイト最大のライバルとも言えた。勿論、武力と言う意味では見る影もない。政治家や軍略家として、である。

 これが次の大統領になるという意味は、考えるまでもないだろう。道士達とは国を賭けて戦う。そういうことだ。とは言え、それだけで大統領になれるはずがない。


「今日の生放送、見させて貰ったよ。見事な演説だった」

「演説じゃなくて、討論会だがな」

「君の独壇場だっただろうに。各チャンネルの煩型のコメンテーター達の顔を見せてやりたかったよ。思わず幾つものチャンネルを確認してしまったよ」


 ジャクソンは笑いながら、少し疲れを見せるジャックを賞賛する。これはおべっかでもお世辞でもなかった。彼にはカイトと同じく、優れた政治家としての視点も備わっていた。優れた軍人であり、そして優れた政治家でもある。それが、ジャックという男だった。


「まあ、これで単独指名は確定だろうね」

「はぁ・・・あんたに関わってから、予定が狂いっぱなしだ。俺の人生設計では、大統領は軍の退役後になる予定だったんだがな」

「私? 心外な。ブルーくんだろう」


 ジャクソンは心底心外な、という顔をして、ジャックに告げる。それに、ジャックが大笑いした。どうやらいささか疲れている上にまだ演説の興奮が冷めやらぬらしく、少しハイになっていたようだ。


「ははは! 違いねぇ! 奴のおかげで、俺はあんたのお眼鏡に適ったわけだからな!」

「そういうことだよ」


 ブルー、即ちカイトさえ居なければ。それは純然たる事実だった。彼という英雄に対処する為に、ジャクソンという今までの所最高と評価される大統領が選んだ次の大統領が、ジャックだった。

 中国の相対的な興隆により洛陽を迎えつつあるアメリカに再び光をもたらす為の、アメリカの為の英雄。来るべき世界大戦という荒波を乗り越える為の偉大な船長。ジャクソンはジャックをこう評価していた。そしてそれに相応しいだけの胆力と知性を持ち合わせていた。


「ああ、遅くなったね。君達も、護衛ご苦労様」

「はい」


 ジャクソンの労いに、放置されたままのエレン達が敬礼で答える。ダニエルははぐらかしていたが、エレンの仕事とはスターズへの所属だった。階級は少尉だ。語れないのも無理はなかった。

 とは言え、彼女は軍属ではなく、技術協力プロジェクトの一環での民間からの出向者という役割だ。彼女もまた創設時のメンバーにして、どういうわけかカイトと奇妙な縁を結んでいた少女だった。

 そんな彼女らの今回の任務内容は、上官であり同僚であるジャックの護衛、というわけだ。エースの護衛とは不思議な話だが、ジャックはカイトの様に単騎で何もかもを破壊出来るわけではない。チームでの行動が基本だった。


「大統領! 少佐! 緊急です!」


 そんな事で今日の演説についての論評を行っていた一同の下に、大慌てでホワイトハウスの職員が駆け込んでくる。丁度この少し前に、煌士達が宿泊するホテルで爆発があったのだ。その報告であった。

 とは言え、普通のテロにスターズが動く事はない。警察や普通の軍の仕事だ。なので始めは様子見だったのだが、CIAからの報告で、風向きが変わった。


「・・・道士達が動いた、ということか。まったく、あそこは本当に・・・」


 ジャクソンが苛立ちを露わにする。何度となく、彼らには苦汁を舐めさせられていた。そもそも今中国と揉めているのだって、元を正せば彼らの所為だ。

 道士達は清朝の時代から生きており、性格はその頃から殆ど変わっていないらしい。一言で言えば中華思想か、もしくは華夷思想だ。アメリカと覇を争うのは必然だった。日本はきっかけに過ぎなかった。

 ちなみに、第2次世界大戦の発端の一つでもあったそうだ。盧溝橋事件も、実際には彼らが仕組んだ物らしい。とことん日本を毛嫌いしている様に見えるが、実際に今の様になったのは日清戦争の折りで、第2次世界大戦はその余波、という所だ。

 負けた事を今でも恨んでいるらしい。まあ、日中戦争時代には陰陽師達には実戦経験値の差で三度手酷くやられて現体制になるほどで、まさに恨み骨髄に入る、不倶戴天と表すしか無い状態だった。日本との和平だけは有り得ない。それが、カイト達と道士達が唯一共通して持つ認識だった。


「行くのかね?」

「まだ、少佐だ」


 刀を手に立ち上がったジャックは、妻と同僚達を率いてその場を後にする。彼はエースだ。敵がわざわざ自分の地元に来ているのに、見逃す事は有り得なかった。それを見送って、ジャクソンは受話器を取る。

 公には過激派のテロにすることで、偶然テレビの収録で近くに来ていたジャックが軍人としての責務から混乱する現場を収集して陣頭指揮を取った、というのはなんともヒーローチックで大衆好みのストーリーだった。使わない手は無い。


「・・・ああ、私だ。今から言うストーリーで公表する手はずを整えてくれたまえ。ああ、それとブルーくんとフェイくんに連絡を。ワシントンにまで入り込まれたのは有り難くない」

『了解しました』


 ジャクソンの指示を受けて、ホワイトハウスは更に忙しく動き始める。その一方、ジャック達はホワイトハウスに存在する秘密の地下駐車場に停車させたスターズ専用のトレーラーに乗り込んでいた。


「準備は?」

「整っています、少佐」

「サンディエゴの大佐に繋いでくれ」

「了解」


 この部隊において、トップはジャックではない。ジャックは副官の一人だ。部隊のトップはジョナサン・ハモンドという軍時代のジャクソンの部下だった。年齢は50前後で、愛称はジョンだ。

 彼の軍人としての優秀さは、政治家として歴代最高と言われるジャクソンが軍人の道を諦める程、といえばわかりやすいだろう。一度ある理由で退役していたのを、わざわざジャクソンが直々に説得に出向いて呼び戻した程の人材だった。


『なんだ? 大統領がまた何か無茶振りでもしたか?』

「いや、近くのホテルに道士達の襲撃だ。どうやら重力場技術の研究者達が狙われたらしい」

『ちっ・・・出動要請が下ったか』

「いや、こちらから持ちかけた。人の庭で暴れられるのは良い気がしない。面子にも関わる」

『わかった。現場の指揮権は貴様が持て。サポートはこちらでやろう』


 ジャックは軍の開発した特殊素材のインナーに着替えながら、ヘッドセットを通してジョンとの急場のブリーフィングを行う。インナーは彼らが開発した魔術師用の軍用アーマーを着用する為の物だ。そのままでは身体中が傷だらけになるし、急加速によるGでキツい為、これに着替える必要があったのだ。

 ちなみに、トレーラーは一人一台だ。このトレーラー一台一台が、彼らの使う特殊な軍用アーマーのサポートの為の移動基地の様な物だった。

 そうして、インナーを着るとヘッドセットはそのままに外に出て、軍用アーマーが格納されているエリアへと歩いていく。


「今回の武装は?」

『小型アーマーを使用してください。ホテルで要救助者が確認されている為、内部での戦闘が考えられます』


 部隊のオペレーター達の説明を聞きながら、ジャックは2つある格納庫の内、小さい方を開く。この軍用アーマーは各個人用に調整されており、これはジャックしか開けなかった。


「要救助者?」

『特にミラー家の子息と天道家の子息は絶対確保を大統領から命ぜられています』

『兄さんが居るの!? 誰!?』


 オペレーターからの言葉に、エレンが声を荒げる。身内が巻き込まれたと言うのだ。年齢としては単なる少女でしかない彼女が心配にならないはずがなかった。それを、ジャックが宥める。


「落ち着け、ネル。ダニーか? アクセルか?」

『両者共と伺っています。現在三人は護衛と共に地下駐車場へ向けて移動中。こちらも地下駐車場で合流して、先に三人を回収してください。その後、他の研究者達を』

「研究データは?」

『コージ・テンドウの手によって、彼の持つ最重要の物は破棄されました。残るは彼の身のみです。彼は重力場技術の第一人者にして、名家テンドウの御曹司。彼の拉致、もしくは死亡はアメリカの面子に関わります。最重要ターゲットです』

「了解した」


 ジャックは軍用アーマーを着込みながら、オペレーターの言葉に作戦概要を考える。軍用アーマーは、アメリカの魔術師が使う為の物だ。性能は一般の軍人が使うよりも遥かに高かった。というよりも、魔術師が使う事が前提で、一般の軍人には使えない。身体が耐えきれないからだ。

 そうして、ジャックは最後のヘルメットを装着する。これは超高空であれ毒ガスの中であれ活動出来る様にされている為、完全密閉型だ。それ故に聞こえるプシュー、という空気の抜ける音を聞きながら、オペレーターに指示を下す。


「ヘルメットを装着した。マップを出してくれ」

『了解・・・背部ジェットユニットの使用許可が出ました。直通で向かってください』

「了解した」


 ヘルメットの内側に展開された周囲の映像と地図を見ながら、ジャックは出発の用意を整えて、視線を彼専属の秘書兼オペレーター、即ち妻のドロシーへと送る。


『気を付けて・・・帰ったら熱いコーヒーを用意しておくわ。今日は徹夜ね』

「ああ・・・あー・・・ありがとう」

『どういたしまして』


 妻の激励と共に少し照れているジャックがトレーラーから出ると同時に、他のトレーラーからも同じような見た目の同僚達が出て来る。男女の区別はヘルメットに表示されるデータで行っている。彼らの武器は手持ち式のレールガンと、超振動ブレードだ。が、ジャックだけは、レールガンと日本刀だった。

 が、これは単なる日本刀ではない。これは銘を蛍丸と言う。第2次世界大戦後に米軍が鹵獲して合衆国のとある倉庫に眠っていたのを、スターズ発足の折りにジャックが手に入れたのである。所謂、霊刀や妖刀という刀だった。魔力を併用すれば、超振動ブレードよりも遥かに高い切断力を有していた。


「全員、行けるな?」

『イエッサー』

「ネル。家族が危険だから、と一人で先走るなよ。今回はブルーは居ないぞ」

『わかってますっ!』


 何時も何時も王子様ばりに救う男の事を出されて、エレンが顔を真っ赤にして怒鳴る。彼女が戦闘に出ると大抵の場合カイトも居て、危機に陥った所を颯爽と助けていくのである。

 で、その結果付いたエレンの渾名がお姫様で、カイトは王子様と揶揄されているのであった。なお、これがとある少女の悋気を尚更買っているのであるが、それは今は横に置いておく。


「では総員、出発!」

『『『サーイエッサー! 我ら流星の如く戦場を切り裂かん!』』』


 ジャックの号令を受けて、一同が一度武器を鳴らす。なお、返礼の後の文句はカイトやその知り合いの英雄達が出陣の折りに檄として発しているのを見て、スターズの創設メンバーがもしかしてこれは必要なのでは、と勘違いして出来た部隊の文句だった。魔術に対する知識の無さが引き起こしたある種の悲劇だった。そうして、スターズが出発する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回投稿は来週土曜日21時です。

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