第84話 一方、その頃 ――アメリカ編2――
本年度一年お付き合い頂き、ありがとうございました。2016年最後の投稿になりますが、来年共々、よろしくお願い致します。
*連絡*
流石に大晦日~元日なので元日明け昼頃までは感想の返信は出来るかわかりません。ご了承ください。
でもしっかり明日も投稿します。
急な異変を受けて急いで避難する事になった煌士と、その友人であるミラー兄弟。彼らはホテルの上層階に滞在していたのだが、予め決めていた手はず通りに、ホテルの各所に散ったシークレットサービス達と連絡を取り合いながら避難を開始する。
『こちら護衛部隊。司令部の応答を求む』
『こちら司令部。A1からA3までの異常は無し。が、外はひどい事になっている。避難は表玄関からでは無く、地下の駐車場から避難する事を提案する。対象を確実に避難させろ。大統領命令だ』
『了解。何があった?』
『不明だ。だが、明らかに人為的な爆発だ。テロかもしれん』
煌士の身は常に狙われている。それこそテロリストから果ては某国の正規軍からも狙われている。テロや拉致事件を起こされる事は始めから想定済みだ。だからこそ、護衛達も今回の護衛を取り仕切るアメリカ政府の要人警護の部署もなんの迷いもなく動いていく。
『大方ミラー家の護衛の中に内通者が入っていたか』
『だろう。監視カメラにも一人怪しい動きをしている者が居た。すでに周辺に待機していたCIAが動いて確保に向かっている。が、それを囮にして他にも内通者が居る可能性がある。気を付けろ』
『国防総省が、か・・・本気だな』
司令部と護衛達は情報のやり取りをしながらも、煌士の護衛の完遂に動いていく。煌士もそうだが、ミラー兄弟の身の安全も確保の対象だ。こちらは大金持ちの子息だ。殺されては政治家に多大な影響力を持つ親が煩い。と、そうして3分程で、内通者の確保に成功した、と連絡が入った。
『こちら司令部。内通者の確保に成功』
『拉致目的と殺害目的。どちらかわかったか?』
『いや・・・それがどうにもおかしな事になっている。捕らえた瞬間、一気に脱力したそうだ。今は意識不明だ』
『何・・・? まさか・・・』
『ああ。『道士達』の差し金の可能性がある。万が一に備えて、ホワイトハウスに援軍を要請した』
護衛達が本格的に、警戒を始める。すでに手は懐に仕舞われた拳銃に伸びて、セーフティを解除していた。単なるテロならば問題は少ないが推測が事実ならば、話は違った。
『道士達』とは、現在のアメリカが主導する同盟が主敵としている敵の大幹部達の事だ。彼らは魔術を使う組織で、今やカイトや陰陽師達、アメリカの特殊部隊、イギリスの魔術組織を不倶戴天の敵としていた。
彼らにとってみれば、今の警備体制なぞ無いも等しい。たった数人で、警備網を抜いてくる。それに対する為に、司令部はそれ専用の部隊の援軍を要請したのである。
『援軍の到着時間は?』
『15分ほど待て、とのことだ。幸い、マクレーン少佐以下数名がホワイトハウスに来ていた。理由は語るまでも無いだろう。少佐直々に陣頭指揮を執られる。装備は軽装備だが、本隊が来るまでの時間稼ぎは出来る、とのことだ』
『大丈夫なのか?』
『逆に迅速に陣頭指揮を取った事を得点とするつもり、なのだろう。それは良い。警戒を怠るな』
『了解』
護衛達の口調には、焦りが見えた。それ故に無駄口を叩いたのだろう。同様に、司令部にも焦りが見えていた。一番警戒していた敵が、ここに来ているかもしれないのだ。今やホワイトハウスを含めて、ワシントン全域が密かに警戒レベルが最高にまで高まっていた。
「ふむ・・・」
「煌士様。万が一の場合、例のアレを展開するおつもりですか?」
「・・・いや、そのつもりはない」
大人たちの警戒っぷりを見て、煌士はこれが只事ではない事を悟っていた。が、だからこそ、彼は安易に切り札である魔導書を使う事を否定する。
「狙いは我輩か、ダニエルとアクセル。もしくは、このホテルに滞在する研究者達だろう」
どれが正解かはわからない。このホテルには今は煌士以外にも学会に参加した各国の研究者が滞在しており、その誰もが各国にとって最重要人物なのだ。おまけに、研究資料もある。狙いが多すぎた。
「・・・仕方がない。奪われるぐらいならば、破壊する」
『!? 何をするつもりだ!?』
意を決した煌士を見て、アクセルが問いかける。彼の顔にも流石に焦りが見えたが、パニックには陥っていなかった。彼の実家は半ば公然の秘密として軍事企業とも繋がりがあった。それ故、買った恨みは天道財閥よりも遥かに大きい。命を狙われた事は煌士よりも遥かに多かった。
『研究資料が狙いの可能性がある。惜しいが、パソコンはここで破壊しておく。持って逃げる余裕もなさそうだ』
『良いのか?』
『構わん。どこぞのテロリストに奪われるより遥かにマシだし、バックアップはある・・・申し訳ない。少しだけ時間をください。これを破壊していく』
『了解。司令部。コウジ・テンドウの依頼により、一時停止する。パソコンを破壊する、とのことだ』
『了解。どれぐらい必要だ?』
『30秒。それだけください』
『了解。その間にこちらは安全な経路を洗い出す』
煌士は護衛達の返答を聞くと、腕時計に仕掛けた仕掛けを特定の手順で動かしていく。こうすることで、遠隔操作でパソコンを破壊出来たのだ。そうして、ものの30秒でパソコンは完全に破壊されて、単なる鉄くずに変わる。
『申し訳ない。銃を』
『わかった・・・少しどいていろ』
『詩乃。続けてナイフで完璧にハードディスクを』
『かしこまりました』
完全に破壊したとは思うが、万が一がある。なので煌士は護衛の一人にそう言うと、拳銃で完全に破壊してもらう様に頼む。
そうして、煌士の目の前でパソコンは銃弾3発で撃ち抜かれて、更に詩乃がハードディスクのあった場所にナイフを突き立てる。これで、データのサルベージは不可能だろう。
『有難うございます。さあ、先を』
『了解した』
護衛達は煌士の礼を聞いて、再び移動を開始する。護衛達としても煌士の在り方は非常に有り難かった。パニックにならず、成すべきこと、今の状況で必要と思われる事を確実になしてくれる。
足止めさえも、必要と頷ける。護衛の邪魔にならないどころか、これこそが真に協力的な護衛対象の在り方の手本と言えた。と、一同がホテルを半ばまで降りた所で、再び司令部から連絡が入ってきた。
『こちら司令部。スターズの準備が整った。これより行動を開始すると連絡が来た』
『了解。このままここで待機すべきか?』
『いや、そのまま脱出してくれ。万が一の場合には戦闘でホテルが壊れる可能性がある。それに巻き込まれる事だけは避けたい。なお、今回の一件は中東過激派の爆破テロとして処理する事になった。外でマスコミに出会ったとしても、口裏はそれで合わせてくれ』
『了解した』
スターズ。これが、アメリカの誇る特殊部隊の名前だった。正式名称は『チーム・流星』なのだが、長いので略して『スターズ』と呼んでいたのである。他にも実験部隊だった頃の名残りで『ウルブズ』を使う事もある。
『・・・一階に到着した。なおも敵影は見えず。本当に襲撃なのか? ガス爆発とかでは無いのか?』
『不明だ。今のところ監視カメラには何の影も写っていない・・・が、そもそも魔術師達に科学技術は無効化される。特に道士達の手勢であれば、監視カメラには何も映らないはずだ。警戒を怠るな』
『了解・・・これより、地下駐車場に入る』
一番危険なのは、地下駐車場だ。ここは監視カメラがあるが、同時に外からは完全に死角になっている。何があっても可怪しくはなかった。
『御曹司。ミラー家のご子息。ご注意を。先に突入します』
『はい。そちらもご武運を』
『感謝します・・・』
護衛の中でも先頭を走っていた男が、煌士の言葉に意を決して扉を開く。が、そうして開いて、思わず、足を止めてしまった。
『これは・・・何が・・・』
まるでここだけ爆撃があったかのように、地下駐車場はボロボロだった。そして今も立て続けに爆音が響いていた。爆音や振動の内、後から起きたのは全てここが発生源だったのだろう。
『誰かが・・・戦っている?』
『っ! 危ない!』
呆然となった護衛の一人を、煌士が突き飛ばす。そしてその次の瞬間、彼の立っていた場所に剣閃が奔って、更に小規模な爆発が起きた。
『なんだ!?』
『なんだ!?・・・階段が!』
見えたのは、一瞬の剣閃だけだ。何が起きたのか全く誰にもわからなかった。だと言うのに、逃げ道は完全に塞がれた。階段が崩されたのだ。
『これは・・・司令部。敵は魔術師と確定』
『!? ダニー! 知ってたのか!?』
『まあね・・・でも、今はそんな場合じゃない。だろう?』
驚いた煌士の問いかけに、ダニエルが首を振る。煌士は今この時まで、ダニエルが魔術を知っていた事を知らない様子だった。逆にダニエルは煌士が魔術を知っていた事を把握していた。まあ、あれだけ大規模に事を起こしたのだ。知らない方が可怪しいだろう。
『む・・・確かに。そうだな。取り乱した』
『それに、僕に戦う力は無い。アテにはならない』
『そうか・・・詩乃』
『かしこまりました』
煌士の視線を受けて、詩乃がナイフを取り出す。この場で戦えると言えるのは、詩乃だけだ。万が一の場合には、彼女も戦線に出てもらう事になるだろう。
『煌士。この場の指揮は君に任せる。こういった事だと、君の方が場数がありそうだ。司令部。それで構わないか?』
『・・・了解。許可を下ろす。コージ。悪いが頼む。ゼウスの試練を切り抜けたという君の采配を振るってくれ』
『あれは・・・幸運に恵まれただけです。自分の力では・・・』
『それでも、今全員が生き残るにはそれしかない』
『・・・わかりました・・・走れ! 一気に走って切り抜けるしかない!』
どうやら自分は思う以上に世界的に知られてしまっているらしい。煌士は内心で忸怩たる思いをしながらも、指揮を開始する。
この様子だと、今後は自分狙いの敵も考えねばならなくなりそうだったのだ。本当に、浬達には迷惑を掛ける。煌士はそういう思いでいっぱいだった。
『剣閃は何処から来るかわからない! 走って逃げるしかない! 敵は無視で! 適当に周囲に銃撃をしてくれれば十分です! 牽制にはなる! フレンドリーファイアにだけは気を付けて! 詩乃! 今のお前ならば剣閃を追えるはずだ! なんとか万が一の被弾を防いでくれ!』
煌士の指揮を受けて、一同が一斉に走り始める。とは言え、それは確かに正しくて、そして、この場では悪手だった。何時も正しい判断が正しい結論を導いてくれるとは限らないのだ。時には悪手が正解である事もある。
『なっ・・・』
地下駐車場を半分ほど駆け抜けた所で、煌士達が思わず足を止めた。いきなり敵が姿を現して目の前に立ち塞がったのだ。顔立ちは完全に隠れていて一切不明。武器にしたって何処の国にでもある様な見た目だ。何処の国の襲撃者かは、一見しただけではわからなかった。
とは言え、ここまで来た時点で姿を露わにしたその意図が掴めず、かといって安易に突っ込むわけにもいかず、足を止めてしまったのである。
『誰だ!』
『・・・』
襲撃者達は何も答えない。が、走っていて一つだけわかった事がある。誰かが、ここで煌士達を守る為に戦っているという事だ。走っている間に何度か援護射撃が仕掛けられていた。そして、もう一つわかっている事がある。それは彼らが敵だということだ。
『構わん! 撃て!』
足止めは食らったが、容赦をする必要は無い。幸いにして、今彼らが警護しているのは人が目の前で死んだ所でパニックにはならない子達だ。遠慮なく撃てた。が、遠慮なく撃った所で、無駄である事を悟るには大して時間は必要がなかった。
『・・・全部、弾いているのか・・・』
カチカチカチ、と弾切れになった拳銃を下に下ろす。全て、敵の剣によって切り裂かれていた。そうして、司令官と思しき男が口を開いた。まあ、小声である上に爆音のおかげで煌士達には全く聞こえなかったが。そうして、敵達が何かを小声で話し合う。言語は全て英語だった。
『狙いは小僧だ。最優先にしろ』
『小僧が多いが?』
『異人の小僧も連れて行け。見たところ悪い様子ではない。隠形鬼殿が裏切る可能性は高い。向こうの失敗も勘案しなければならないはずだ。代役としては十分だろう』
『御意』
これはもうダメだろう。煌士はそう悟り、切り札を切る事にする。これを切れば確実に厄介な事になるが、それでも友の命と自分の命を守る為には切るしかなかった。フェルからは万が一の場合には後の事は任せろ、と言われていた。それに甘えるしか、今の彼には打てる手がなかった。
『舐めてもらっては困る』
煌士の決意だが、幸いにして、そうはならなかった。魔術で魔導書を隠しているブローチに彼が手を当てると同時に一つ轟音が鳴り響いて、次の瞬間、地下駐車場の端で煙が上がる。そして、その煙を切り裂いて、一条の矢がまさに飛びかかろうとした忍者達の前を横切っていった。
『彼が・・・戦っていたのか?』
煙が晴れて、戦っていた人物の姿が露わになる。それは、左手には弓を構え右手にはさぞ名のあるだろう宝剣を手にした褐色の美丈夫だった。
『ちっ・・・流石に無理か。戻れ』
煙が晴れた事によって、同時に褐色の美丈夫が戦っていた敵の姿も明らかになる。それは3メートル程の巨大な鬼だった。身体はまるで金属で出来ているかの様に、黒光りしていた。それで詩乃と煌士は口にする事こそなかったが、敵の正体を悟った。
『鬼?』
見えた姿に、煌士と詩乃を除いた全員が訝しむ。今までは道士達の手勢だと思っていたのだが、現れたのは鬼だ。鬼といえば日本の異族――と思うだけで、普通に中国やらにも存在する――だ。関連性が見えなかったのである。と、そうして訝しむ一同の前に、褐色の美丈夫が歩いてきた。
『無事ですか?』
『あ、はい。有難うございます』
彼が何者でなんの理由があって味方してくれるかは理解できなかったが、とりあえず彼は味方らしい。なのでまだ比較的理性が保てていた煌士が代表して礼を言う。
『構いません・・・引け。これ以上戦っても意味は無い』
「・・・っ」
褐色の美丈夫の問いかけに対して、鬼は一瞬逡巡するも、戦闘継続を行動で現した。そしてそれはどうやら褐色の美丈夫には少し意外だったらしい。
『まだ引かんか!』
『あいにく、我らも主命がある! 如何にインドに名立たる英雄とは言え、矢は効かんと思え!』
交わされた言葉は、インドの共用語であるヒンディー語だった。苛立ちから褐色の美丈夫の母語が出たらしい。それを、金鬼も話せたのだ。
まあ、彼とて忍の長だ。忍者とは本来、敵地での破壊工作やスパイ活動がメインなのだ。言語は必須スキルだった。英語を筆頭に広東語から今のヒンディー語、ドイツ語やフランス語も話せた。
『厄介な! っ! 行かせん!』
金鬼の身体は、非常に堅牢だった。この地下駐車場と言うかホテルそのものを破壊して良いのなら褐色の美丈夫でも楽々貫けるのだが、それが出来ぬ今、貫くのは楽な仕事ではなかった。
が、そうして苛立ちを浮かべたのが、命取りだった。肉薄してきた金鬼の応対に気を取られて、彼の配下である金忍を見過ごしてしまったのである。
『っ! やはり来たか!』
金忍達は当たり前だが、煌士程度で抗える相手ではない。戦闘能力であれば浬達の中で最も強い空也でも無理だ。とは言え、それは一瞬足りとも逃げ道が無い、というわけではない。
煌士はそれ故、今までずっと逃げ道を探っていた。なので戦いが始まると同時に、メモを千切ってそこに魔法陣を描いていた。万が一の逃げる為の切り札とするためだった。
「!?」
煌めいた魔法陣に、金忍達が思わず目を見開く。そして今度はそれが、彼らにとって命取りだった。煌士が描いていたのは、光を生み出す魔法陣だ。つまり、擬似的な<<閃光符>>だった。目を見開いた事で、直に見てしまったのである。
「っ!」
『今です! 一気に走って逃げましょう!』
メモに書き記したのは、光を指向性にするためだった。なので煌士は目眩ましと同時に、一同に声を掛ける。このままやっても褐色の美丈夫の邪魔なだけだ。ならば、逃げるしかなかった。
とは言え、煌士は一つだけ、見落としていた。目が見えないからといっても、金忍達は煌士の居場所が悟れなくなったわけではなかったのだ。
「我らを舐めるな!」
「ぐぁあああ!」
走った痛みに、煌士が声を上げて思わず膝を屈する。彼の身体には、二筋の傷跡が出来ていた。右腕と右足。幸い両断はされていなかったし大動脈等は斬られていなかったが、かなり深く切り裂かれていた。
「御曹司!」
「煌士様!」
一瞬の油断を突かれて出来た傷に、護衛達と詩乃が声を上げる。それに答えられるだけの余裕は、残念ながら今の煌士にはなかった。
「つぅ・・・」
痛みで手放しそうになる意識を、煌士はなんとか歯を食いしばって繋ぎ止める。が、食い止められたのは、意識だけだ。身体の動きは取り戻せなかった。痛みで動かせなかったのだ。そしてその次の瞬間、煌士はその体を金忍の一人によって即座に確保された。
「視界を奪っただけで逃げられる、と油断したな」
『動くな! 動けばこいつの命は無いぞ!』
煌士に日本語で告げると同時に、別の金忍が英語で一同に制止を命ずる。それに、一同は動きを止めざるを得なかった。それは褐色の美丈夫も一緒だった。そうして、急速に煌士の意識が失われていく。血が抜けていく感覚だった。
そして煌士の意識が失われていくと同時に、一瞬の停滞が生まれて褐色の美丈夫が苦々しい顔で弓を下ろそうとした。が、次の瞬間、彼らの目指していた出口から轟音が響き渡るのだった。
お読み頂きありがとうございました。
2017年1月2日 追記
・誤字修正
『彼ら』が『彼r』となっていた所を修正。




