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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第83話 一方、その頃

 ここから少しだけ、浬達のお話から外れます。なぜ、隠形鬼がここだったのか、とかを語っていきます。

 日本から遠く離れて、空也の居るハワイよりも更に遠く。日本の裏側に近いアメリカはワシントンDCの近くのホテルに、煌士と詩乃は滞在していた。が、覇王は居ないし、母親も日本に残っていた。天道家から来ているのは二人と補佐の研究者達だけだ。

 とは言え、勿論彼らだけでは無く、日本政府がよりすぐった護衛にアメリカ政府が直々に送ったシークレットサービスも一緒だ。煌士の重要度は下手をすると、両国にとってお互いの国の首脳をも上回る。護衛に手抜かりはなかった。が、流石に部屋には煌士だけだった。詩乃は隣室だ。


「天道くんはこんな風にアメリカでは過越していたんですね」


 そんな煌士を、一人の金髪青眼の青年が少し離れたビルの上から観察していた。彼はカイトが言っていた浬もよく知る人物、だった。

 まあ、それもそのはず。彼こそが、浬達の本来の担任のアロンなる人物だった。が、実態はカイトが知るとおり、こうして魔術を使いこなす戦士としての裏の顔があった。ここらの出会いは偶然だった。


「・・・ふっ」


 剣閃が翻る。千方の式神が活性化する度に全て切り捨てていたのは、彼だった。アロンにとって、煌士は担任では無いが教え子の一人だ。それを狙っているというのだから、容赦もなかった。起動と同時に一瞬で切って捨てていたのである。


「そろそろ諦めて欲しいものですね。私が教え子に傷一つ付けさせるはずがない。ご婦人方も待たせているので、いい加減やめないと・・・わかりますね」


 アロンは影に向けて、言外に実力行使も辞さない、と告げる。影は勿論、隠形鬼だ。アメリカまでやってきて原因究明をしている所、早々にアロンを見付けたのであった。


「・・・隠形鬼の名において命ずる。式神は一切の行動を停止せよ」


 忠告を受けて、隠形鬼は与えられた権限で千方の式神を全停止させる。一応、停止させた物については後で回収するつもりだった。アロンの正体は非常に有名な人物だった。少なくとも、まともに戦っては隠形鬼に勝ち目はない。

 こういった場合に安易に敵を刺激しない様に、千方は隠形鬼にはスタンドアロンの式神の停止権限を与えていたのである。


「今は引かせて」

「貴方が誰かは推測し得ますが・・・良いでしょう。好きになさい」


 隠形鬼からの提言を受けて、アロンは彼女を見逃す事にする。今の隠形鬼の一言には、言外の意図が潜んでいた。そこから、ここは見過ごすのが得策、と判断したのである。

 いや、そもそも隠形鬼が完璧に隠れたのであれば、如何にアロンであっても手に余る。戦闘になれば負けないが、隠れられただけならば、姿を発見する事は難しい。そして式神の停止そのものは、姿を見せなくても出来る事だった。その彼女が姿を現していた時点で、なんらかの意図がある事は明白だった。


「今は、ですか・・・心苦しい所ですが・・・」


 今は。それは即ち、また次がある、という事だ。それも今よりもずっと上の段階での襲撃が、だ。が、心苦しいと言った様に、アロンはこの後直ぐに日本に移動しなければならない。

 日本でも騒動が起きかけている、と情報が来たからだ。敵は当然、今の千方らだ。とは言え、煌士をこのままにするわけではない。きちんと、交代も用意して貰っていた。


「後をお願いします。私はこれから、日本に戻ります」

「承った。貴殿は貴殿の義務を果たすと良い。この場は、俺が守り抜く」


 アロンの言葉を受けて、彼の背後に一人の美丈夫が現れる。彼は褐色の肌を持つ美丈夫だった。風格としては、並外れているアロンをも遥かに上回る風格を有していた。一目見ただけで、並外れた英傑だという事がわかる風貌だった。


「アメリカ政府には?」

「御身なら、バレても問題無いでしょう?」

「では、好きにさせて貰おう。一応、生かして捕らえた方が良いか?」

「貴方が本気で戦えばワシントンなぞ一瞬で焦土となるでしょう」

「それもそうか」


 褐色の美丈夫はアロンの賞賛とも呆れともつかぬ言葉に、笑って頷く。そうして、アロンは再度、日本へと急ぐ事にするのだった。




 そんな事を知ることも無い煌士は、今日も今日とて国際学会を終えるとホテルにて論文を読んでいた。ここ当分は毎日この繰り返しだ。アメリカは流石に安全だろう、とかなり安心しきっている様子だった。

 訓練をしたい所だが、ここは監視されていると考えるのが妥当だ。無理そうなのでしなかった。と言っても、万が一に備えてフェルに頼んで密かに魔導書は持ち込んでいた。


「ふむ・・・」


 煌士は一人、部屋で今回の国際学会での資料を閲覧する。いくら天才と言われる彼とて、国際学会で発表出来る程の他人の意見は傾聴に値した。しかも普段は重力場技術の第一人者として正体を隠されている自分が来る程の学会の発表者だ。尚更だった。

 ちなみに、資料は全部英語だ。理系大学院クラスの英語力を必要としているが、そんな物こちらで飛び級で大学院を卒業している煌士にとっては朝飯前だった。


「なるほど。この実験ではこういう結果がもたらされたのか・・・ふむ・・・これなら、エネルギー効率は10%程上昇しそうだな・・・」


 重力場技術における別の実験結果を見て、煌士はこれは記憶しておくに値する、と判断する。イギリスの研究チームの実験結果だったのだが、こちらは煌士とは別の方法で重力場技術の実用化を目指していた。

 ちなみに、今回の学会だが、招かれたのは主催国であるアメリカの研究チームと、第一人者である煌士率いる日本の研究チーム、イギリスの研究チームだけだ。と言ってもこの三ヶ国は先進国の中でも有数の位置に居る。軍事機密にも類するこの最先端の技術を語り合うには十分だった。

 というよりも実は、この三ヶ国にしか、重力場技術の全容は明かされていない。他国は招かれなかったのではなく、参加要項を満たしていなかったのだ。


『御曹司。アメリカの大学の論文に面白い研究結果を見付けました』

「どれですか?」

『発表番号で言う所の5番。MITの論文です。重力場センサーによる未知の重力の検知について、と』

「ほう・・・」


 研究チームからの言葉に、煌士が少し興味を滲ませる。これは眉唾ものだったのだが、どうやら何度か試行する内に明らかに人為的な何らかの要因による重力の歪みが観測されたらしい。とは言え、これはきちんと読み取れる者から言えば、一つの答えを表していた。


「MITに協力した軍の論文ですか」

『ええ。協力した軍基地は、サンディエゴ基地。例の部隊の所属です』


 煌士や研究チームの研究者は立場から、少しだけアメリカの裏事情についても語ってもらっていた。そこで聞いた話の中に、アメリカの所謂魔術師兵団についてもあったのだ。

 その魔術師兵団が所属しているのが、このサンディエゴ基地だった。そしてここが、カイト達が言っていた件の特殊部隊でもあった。


「魔術による隠蔽。それを重力場センサーならば見破れる事を示唆した、というわけですね」

『そうだと思います』

「興味深いですね。結局、魔術とて存在そのものを隠蔽出来ているわけではない。いくら姿を隠しても、存在そのものを無くしているわけでは無いわけですか」


 研究者達と共に、重力場技術の別方向での応用に煌士達が唸る。魔術を使える事が前提の彼らにとって、魔術を科学で見破る必要が感じた事はなかった。

 だが、アメリカは別らしい。歴史的な経緯から魔術師は他国に比べれば皆無に等しかった。科学技術でなんとか対抗してみせなければならなかったのである。それ故の発展だった。

 と、そんな会話をしている内に、煌士に来客が来たらしい。彼は研究者であると同時に、名家天道の御曹司でもある。誰かが訪ねてくる事は無くはなかった。おまけに彼は昔数年間アメリカで生活していた。知り合いが来ても不思議は無くて、そして来たのはその知り合いだった。


『御曹司。ダニエル・ミラー様、アクセル・ミラー様がお越しです』

「ダニーとアクセルが? 通してください。彼らとは友人です・・・詩乃。客人だ。お茶を用意してくれ」

『かしこまりました』


 煌士の指示を受けて、詩乃が部屋へやってきてお茶の用意を始める。彼は天道財閥と規模のほとんど変わらないアメリカの航空宇宙産業におけるとある大企業の創設者にして大株主であるミラー家の第二子と第三子だった。

 かつて煌士がアメリカで滞在してた頃に世話になっていた家の子でもあった。まあ、実態は軟禁状態にしていた家、とも言える。とは言え、二人との仲が疑わしいわけではなく、きちんと友人関係だった。


『やあ、ダニー、アクセル。久しぶりだ』

『やあ、コウジ。久しぶり』

『ああ、元気だったか?』


 入ってきたのは、二人共金髪碧眼の青年と少年だ。兄弟なので顔立ちは似ていた。とは言え、二人とも煌士よりも年上で、兄のダニエルはだいたい大学生程度、弟のアクセルは煌士よりも上で高校生から大学生程度だった。なお、二人の下にはもう一人妹が居るが、こちらも煌士よりも少し年上だった。そうして、挨拶をそこそこに煌士が要件を問いかける。


『で、どうしたんだい? わざわざワシントンまで』

『ああ、学会でワシントンに来る、と聞いたからね。ちょっと寄らせてもらった、というわけさ』

『メールしただろ? 俺がワシントンの大学に行こうか悩んでるって。兄貴の大学は休みの真っ最中。で、ワシントンはそれなりに詳しいからな。兄貴に案内してもらう事にしたんだが、親父がコージが近くにいる事を教えてくれた、ってわけ』


 ダニエルに続いて、アクセルが事情を語る。兄弟だからと性格が同じなわけがない。ダニエルが何処か丁寧な口調だったのに対して、アクセルは少し強気な口調だった。


『ああ、そういうことか。それは嬉しいよ。ここは彼女を除いて大人ばっかりでね。君達が来てくれて安心した』

『あはは・・・あれ? 彼女?』

『お茶をお持ち致しました』


 お茶を持ってきた詩乃に、ダニエルが首をかしげる。実は詩乃は煌士がアメリカから帰国した後に雇われた護衛だった為、ダニエルは知らなかったのだ。なお、アクセルは日本に来た事があった為、知っていた。そうして、そんな詩乃を交えつつ、三人は束の間の談笑を行う。


『なるほど。そっちも大変そうだね。中学校なんてすっぽかせばいいのに』

『あはは。これでも行ってみると面白いものだよ。大学は大人ばっかりだからね。僕にはわからない視点から物事を見てくれる』


 煌士が笑いながら、ダニエルの言葉に得るものはある、と断言する。そして事実、あの中学校での生活は彼にとってかけがえのない物であった。何より、羽根を伸ばせる。貴重な意味があった。


『そう言えば、今回はどれぐらい滞在するんだ?』

『ああ、今回はもうすぐ日本に戻る事になっているよ。有り難い話で、僕の身は国の宝だからね』

『あはは』


 煌士の言葉に、ダニエルもアクセルも笑う。これは煌士なりの皮肉だった。そして二人もそれを理解していたからこそ、笑ったのである。


『あはは・・・そう言えば、ジョエルさんとエレンは?』

『ああ、ジョエルは父さんの仕事の手伝い、ネルは何してる事やら』

『わからないのか?』

『どうにも国家プロジェクトの手伝いをしてるらしくてな』

『アクセル。口外厳禁だったはずだぞ』


 アクセルの不必要な一言に、ダニエルが咎める様に首を振る。まだこの程度なので良いが、それでも万が一を考えれば、あまり許容出来るわけではなかった。


『じゃあ、ちょっとは教えてくれよ。俺にだってそれだけじゃん』

『だから、ダメだ、って言ってるだろ』


 どうやら自分と同じく何らかの国家的な重要事業に関わっているらしい。が、アクセルは教えてもらえていない様だ。不満から口が滑ったのだろう。煌士は話の流れから、それを察する。ちなみに、ジョエルとは二人の兄で、エレンことネルとは彼らの妹の事だ。

 兄のジョエルは冷静沈着な男で、妹のネルは何処かアクセルに似てかなり勝ち気な少女だった。昔からアクセルと仲が良かった事から、そこの影響だろう、とダニエルも煌士も考えていた。


『あはは。何時も通りで安心したよ』

『『あ・・・』』

『悪い悪い。お前ほったらかしで兄弟喧嘩ってのもなんだよな』


 煌士の笑みに二人は少し赤面して、アクセルが更に謝罪する。こういった即座の判断の良さは、アクセルの良さだった。そうして、今度は煌士の方に話題が飛んだ。


『そう言えば、そっちのソラとかは何やってるんだ?』

『あ、おい馬鹿』

『あー・・・』


 問いかけられた問いに、ダニエルが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて、煌士は気まずい顔になる。ソラとは煌士の慕っていた年上の少年で、アクセルとはさほど年齢の変わらない少年だった。

 それ故仲良くしていたのであるが、どうやら彼はソラが天桜学園消失に巻き込まれている事を知らなかった様子だ。まあ、そこまで詳しく知っている様な仲では無いのだ。そしてその顔で、アクセルも事情を悟った。


『あ・・・そうか、重ねて悪い』

『いや、良いさ。生きている事には、確証を得ているからな』

『『え?』』

『あ』


 今度は、煌士がしくじった番だった。どうにもこうにもお互いに年相応の部分が出てしまっていたらしい。いささか不注意がある様子だった。

 そんな煌士に、詩乃がやれやれ、と首を振っていた。後で覇王に報告して、お説教だろう。逆にアクセルもダニエルから彼らの父に報告が行って、お説教だ。


『あー・・・まあ、生きている事だけはわかっている、らしい。父がそう言っていた。安心させる方便かもしれないけどな』

『そうか。まあ、それが本当なら、良かったじゃないか』


 明らかにはぐらかした様子だが、ここでそれを突っ込めば今度はネルの事に話が及ぶ。それぐらいの頭は煌士に備わっている。ということで、この場ではお互いにネルの事と今の発言を聞かなかった事にする事として、今の話題は忘れる事にする。


『はぁ・・・お互いにまだまだ、だな』

『そうだな』


 アクセルと煌士はお互いにしでかした失敗に、苦笑気味にうなずき合う。もうしてしまったものは仕方がない。諦めて説教を食らうしかなかった。と、そうして少し話し合うと、ふと煌士は気になった事があった。


『そう言えば二人は今日は何処に泊まるつもりなんだ?』

『ここ』

『へ?』

『たまには昔みたいでいいだろ、って事で親父にも覇王さんにも許可取った』

『もし解析の仕事とかプレゼンの資料の作成とかがあるなら、手伝うよ。大学じゃそれなりにどっちも行ってるからね。そっちも許可を貰ったよ。苦労してるだろうから、ちょっとは休ませてやってくれって』


 どうやらダニエルは弟分に対するねぎらいから、実験結果の解析等に力を貸してくれるつもりなのだろう。試しに詩乃を窺い見ると、どうやらヘッドセットからはその許可に関する連絡を受けたらしく頷いていた。


『そうか。じゃあ、頼むよ』

『ああ』

『じゃあ、俺は先にシャワー貰うか』


 そういうことなら、とダニエルに解析の協力を依頼して、それを受けたアクセルは手を出せない事を知っている為、邪魔にならない様に先にシャワーを浴びる事にする。そうして、真夜中にまで解析を行った所で、三人は作業を切り上げる事にする。


『ふぅ・・・ありがとう。予定よりもずっと進んだよ』

『いや、かなり難しくて、こっちも勉強になった。こっちでも重力場の研究をしているけど、流石に煌士には敵わないな』

『あはは・・・アクセル。プリントアウトした紙はそこら辺においておいてくれ』

『おう』


 作業を終えてバックアップを取ると、煌士はパソコンの電源を落とす。これで、本日の作業は全部終了、のはずだった。その次の瞬間、僅かにだが地面が揺れて轟音が鳴り響いた。


『なんだ!?』

『地震か!?』


 三人は何事か、と周囲を窺い見る。と、それと同時に、煌士の護衛達とダニエル達の護衛がなだれ込んできた。何が起きているかわからない為、三人の身の安全を最優先としたのだ。


『坊っちゃん。大丈夫ですか?』

『御曹司。無事の様ですね』

『何事ですか?』

『不明です。が、即座に避難を』


 何が起きているのかは、護衛達にもわからないらしい。とは言え、わからないからといって避難しないわけにはいかない。そうして、三人は護衛達に連れられて、ホテルを密かに出る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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