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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第82話 忍者襲来

 浬達が大阪へと来て、数日。始めの内は警戒していた浬達であるが、それも数日もすれば何もおきない事に油断を見せる様になっていた。


「ふぁー・・・今日、行ってこよ」


 浬は夏休みの宿題を本気で終わらせつつあった。新曲だ。やる気はここ数日間薄れるどころか高まる一方で、本当にあの日の内に1教科――社会――の宿題を終わらせていた。

 で、今は国語の宿題である読書感想文を終わらせるべく、近所の図書館で借りた小説を読んでいた。流石にずっと家の中では気が滅入る、と実は兄に許可を貰って海瑠と共に図書館で宿題をしていたのである。

 周囲には他にも同じ様に図書館で読書や宿題をしている者がちらほらと見受けられて、隠蔽になるだろう、と考えたのである。おまけに出入り口は一つしかない。窓を破壊するつもりでも無ければ、意外と守りやすかったのである。


「え、何?」

「北野天満宮とお稲荷さん・・・じゃなかった。伏見稲荷。先そっちかな。今の内行っとかないと、襲われたら何時行けるかわかんないし」


 海瑠に対して、浬が告げる。今日までの数日間は襲われるかも、と警戒していたのだが、今まで何もなかったし、何より神社は安全だ、とカイトからも明言されていた。気晴らしにも丁度良いだろう。そんな会話を、密かに潜り込んでいた隠形鬼は聞いていた。


「・・・このタイミング」


 今まで待った甲斐がある。隠形鬼は本棚に隠れながら笑みを浮かべる。浬の情報を得ていた千方達にとって、浬が北野天満宮へ行くだろう事は簡単に想像出来たのである。このタイミングこそを、狙っていた。


「連絡」


 とぷん、と隠形鬼は入ってきたと同じく出入りする人の影に消える。流石に影に浬達を入れればカイトにバレるのだが、彼女一人であれば、バレる事も無く移動出来た。なので隠形鬼は影に紛れたまま、しばらく遠くへと移動する。

 そうして影から出た彼女を出迎えたのは、彼女の手勢である所謂忍者達、だった。影忍。それが、彼らの名だ。当たり前だが千方達は5人だけで動いているわけではない。そんなもので国家転覆なぞ馬鹿のすることだ。なお、他に水忍、風忍、金忍という3つの忍者達が、千方の配下だった。各々の数は平均して20人。

 総勢としては100人にも満たない寡兵が、今の千方の兵力だった。が、これで十分に大々的にさえならなければ、国家転覆は出来た。


「千方様に連絡」

「御意」

「・・・よろしいのですか? このまま従っても」

「監視」

「・・・了解」


 水忍と言われる水鬼の手勢の監視を目敏く見付けた隠形鬼の言葉に、影忍達は音もなく消えていく。彼らも隠形鬼と同じく、千方に従っているのを良しとしていない。

 独立独歩が強いのは、何も水鬼だけではないのだ。隠形鬼もまた、独立独歩の精神が強かった。それを重んじてくれるカイトの方に靡きたいというのは、至極普通な考えであった。


「我らは影。影と共に蠢き、影と共に消える・・・その妙技。披露すべき時ぞ」

「御意」


 影忍達の応答を見て、隠形鬼も行動を開始する。これからが、本格的な戦いの開始だ。が、その直前、隠形鬼は忍者らしい強かさを見せた。


「それに、これは売り込み・・・彼に我々の実力を見せれば、売り込みやすい」


 無表情に、隠形鬼は影を通して自らの考えを部下達に告げる。確かに今の彼女は、千方に従っている。だが、従っているのは表向きだけだった。なぜ死んだ後の人物に今更縛られなければならないのか。それが隠形鬼の考えで、水鬼の内心の考えでもあった。同時に二人の配下の忍者達の考えでもある。

 そしてそこにこそ、制約の穴は存在していた。千方は確かに死んでいる。制約は今の千方が受け継いだが、本来それは出来ない事だ。普通、今回の様な制約はどちらかの死を以って制約は解除される。ならばカイトにそれに気付いて貰えれば、本来は無効であるはずの制約を解除出来るのだ。

 後はその代わりに自らが今結んでいる制約を彼と交えれば、後ろ盾として身の安全も保証される。これはそのための売り込みだった。彼女は忍者。強かだった。


「配置」

『完了です』


 呑気に見えて注意深く周囲を警戒しているカイトの周囲に、影に潜った影忍達が潜んでその時を待つ。彼らは、隠形鬼が特別に鍛えた忍者達だ。

 影に潜る事こそ隠形鬼の補佐が無ければ出来ないが、その分、影に潜る事が出来ればカイトの使い魔をも騙せるだけの腕前があった。とは言え、カイトの使い魔とて、並の使い魔ではなかった。


『・・・居るな。ルイス、急いでくれ。こちらに攻撃がありそうだ』


 カイトは自らの周囲に忍者達が潜んでいる事を見て、フェルに連絡を送る。気付けたのは皮肉にも、千方が送った隠形鬼への掣肘の為の監視があったからだ。それが、本来ならば完璧に近いはずの隠形鬼の隠形に影を落としていた。

 フェルは現在、空港にまである人物達を迎えに行っていた。それは少し前にカイトが言った通り、浬達の援護を担う存在だった。だがそれ故、フェルからの援護が貰える状況ではなかった。


『わかった。気を付けろよ。隠形鬼の隠形だけは、私も貴様も手に負えん。あれは鬼に生まれた変異体に近い。生まれつき闇の力を過剰に手に入れている。闇の中は奴の領域だ。それに今の貴様というか、貴様は使い魔。あれらの手助けは貰えん。奴らに攻撃力こそ皆無だが、注意しろ』

「お兄ちゃん」


 フェルからの連絡と同時に、浬と海瑠が荷物を纏めて図書館から出てくる。なるべく、二人一緒に行動する様にカイトからの指示があったので、それに従って二人で北野天満宮まで移動するつもりだったのだ。

 それに、カイトは一瞬真剣な目付きを取る。今こそが、襲撃の狙い目だった。が、恐れた襲撃は、起きなかった。


『ああ、なんだ?』

「お参り行って来る。伏見稲荷と北野天満宮。確か、伏見稲荷は伏見稲荷駅から行けたんだよね」

『ああ・・・一応、言っとく。そこらにちょっと厄介な敵潜んでる。神社まで護衛するが、気を付けろよ』

「え?」


 敵、という言葉に二人が周囲を見回す。が、何も居ない。


「海瑠。目は?」

「・・・っ。何か影みたいなのがあるぐらい、かな・・・」


 海瑠の目は、隠形鬼の隠形をも見通せるらしい。これは流石にカイトも想定外だったが、これは悲しくも、嬉しい誤算だった。敵さえ見えていれば、逃げられる可能性もあった。油断も無い。


「とりあえず、神社まで行けば、安全なんだよね」

『伏見稲荷は第一位に位置する宇迦之御魂神の総本宮だ。下手な神社よりも遥かに安全だ・・・後、できるだけ人混みの中を通っていけ。奴らも人混みの中では戦えない』

「うん」


 人混みこそが、今の浬達の最大の武器だった。それはカイトが何度も言い聞かせていた。人払いや結界等で浬達をカイトから隔離出来ない以上、下手をすれば彩斗の生家に帰るよりもそちらの方が安全だった。


「じゃ、行こ」

「うん」


 浬と海瑠は万が一に備えて、少し恥ずかしいが手を繋ぐ。こうすれば、万が一には浬の運動神経で海瑠を引っ張れるし、海瑠は目の力を使っても浬の補佐が貰える。これもまた、カイト達からの指南の賜物だった。


『さて・・・何時仕掛ける・・・?』


 潜む影に目を遣りながら、カイトが睨み合いを続ける。が、浬達が移動してなお、隠形鬼達は影の中に潜んで行動を起こさない。持久戦。それに、カイトは内心で忸怩たる思いだった。とは言え、それこそが、隠形鬼の狙いだ。


『隠形鬼様。何時攻撃を?』

「まだ。今は使い魔に消耗戦を仕掛ける」


 影忍達の影を通しての問いかけに、隠形鬼が制止を命ずる。カイトは、カイトであってカイトでは無い。フェルの言う通り、彼の使い魔だ。そこにこそ、弱点が存在していた。普通の使い魔は主からの魔力で動くのに対して、これは魔力を自給自足出来るという超高性能な使い魔だが、それ故、瞬発力がなかった。

 自分自身が消えない為にも、一定程度しか力を使えないのだ。つまり、ある一定以上消耗させられれば行動不能に陥るのだ。だが、守る為には力を使わなければならない。

 一応援護も貯蓄もあるが、ここ当分は浬達の護衛に何時も以上に早いペースで消耗させられていた。特に貯蓄の方はかなり限界に近かった。

 数日前に彩斗の前に居たのは、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』にて総指揮を取っていたフェルに魔力を融通してもらう為だった。というわけで、あの銀色の仮面の少女はフェルだ。彩斗が来ている事を知って、顔を隠したのである。


「ここ当分、あの使い魔はかなりのペースで消耗している。今持久戦を強いれば、遠からず自滅する。楽園からの増援はお前達がやれ。千年姫と人魚姫は欧州。他とて即座に動ける状況にない事は調査済み。白銀の堕天使が来る前に、使い魔の封印を行う」

『御意』


 白銀の堕天使、とはフェルの事だ。彼女は元の立場の関係で名前を明かせなかった。それ故、こう渾名される事があったのだ。そして隠形鬼の言葉に、影忍達は影に潜みながら、ゆっくりと浬達の尾行を始める。

 それに対して、カイトは一切何のアクションも起こせない。影の中は彼女の領域。フェルの拘束でさえすり抜けられたのだ。今のカイトに攻撃出来る手立てはなかった。所詮、彼は本体の残像。実力は遠く及ばなかった。


『ちっ・・・早くしてくれよ、二人共・・・』


 大急ぎでこちらに向かってくれているというもう一つの援軍に、カイトは少し縋るように西の空を睨みつける。このままでは、最悪の事態に陥りかねなかった。


「使い魔程度ならば、御しきれる。それを彼に示せば、こちらの有用性を示せる」


 焦りを見せるカイトに対して、隠形鬼は手を抜く事をしない。カイトにとって浬と海瑠が弟妹である事は、実は隠形鬼は掴んでいた。浬達が使い魔の事を兄と呼んでいる事を、一人監視している時に気付いたのだ。そしてその御蔭で、生贄には一番の主眼である煌士よりも最適であるだろう事も理解した。

 だが、千方には意図的に報告していない。気付いても居ないだろう。寝返る為にも、彼女自身の切り札にしたかったのだ。


「私達の有用性を示す為にも、あの使い魔は完封させてもらう・・・他の動きは?」

『はっ・・・最後の連絡ですと、風鬼殿、金鬼殿、水鬼殿共にすでに動いた、と』

「天道の子には?」

『金鬼殿が向かいました』

「水鬼と風鬼は予定通り?」

『はい』


 全てが目論見通りに動いている。隠形鬼はそれを理解する。伝えなかったのは、浬達に関する事だけだ。他はほぼ全て、正直に報告していた。

 なので千方にとっての優先度は、一番が祖先帰りの子供にして名家天道の子・煌士で、二番が魔眼持ちでなおかつ名家天道の分家筋である海瑠だ。煌士ならば同じく分家でより天道に近い詩乃も手に入るし、海瑠ならばおまけで姉の浬が手に入る可能性がある。悪い優先順位ではなかった。

 というわけで、アメリカでの実情をきちんと知っていた以上、彼の中で最大の戦闘能力を持つ金鬼を向かわせるのが妥当だった。そして風鬼では浬達を守るカイト達を騙せない為、隠形鬼となるのも必然だった。カイト達が二人の護衛に居る理由は、適当にそれっぽい理由をでっち上げた。


『隠形鬼様。二人が電車に乗ります。それに合わせて、使い魔が車両の上に』

「無茶」


 やると思っていたが案の定やったカイトに、隠形鬼がほくそ笑む。列車の上に乗る以上、怪しまれない為にも、そして高速で移動する列車の上から二人を守る為にも、今以上に魔力の消費をしなくてはならない。だが、守る為なら身を削って死力を尽くすのが、カイトだった。

 そこら、隠形鬼には好感が持てる点だった。千方は部下は部下、と割り切っている。部下の為に死力は尽くさない。実は一線を引いた対応よりも、こういった何処か馴れ合いを隠形鬼は好むのであった。と、そんな馴れ合いに近い行動を起こすカイトに、影忍の一人が呟いた。


『どうせならば、行かせなければ良いものを』

「違う」

『はい?』

「今が、ギリギリの限界。これ以上になると、私達が強襲を仕掛けるのが目に見えている。護衛の援軍も来る。そうなれば安心してお参りなんてさせてあげられない。今ならば、気兼ねなくお参りさせられる。それにこれ以上持久戦を持ちかけられると、今度は使い魔が持たない。本体からの支援が望めない以上、ここが限界」


 カイトの本体が異世界に渡っている事なぞ、浬達の事情を知った隠形鬼は把握済みだった。それ故、援軍が向かっているだろう事も想定済みだったが、同時に、ここが限界地点だとも理解していた。

 護衛が増える程、浬も海瑠も自由に動きにくくなる。遠慮が生まれるからだ。いくら油断だなんだと言われようとも、兄心として、せめて受験の近い妹の為にお参りぐらいは好きにさせてやりたかったのである。


「彼にとっても、今日が大阪でギリギリ自由にさせてあげられる限界」

『・・・了解』


 隠形鬼からの言葉に、影忍が押し黙る。こういった馴れ合いは、隠形鬼と同じく影忍達も好む所だった。まあ、似ているからこそ、隠形鬼の手勢なのだ。他の忍者達も各々の主達に似ていた。

 影忍達にとって、主とするのならこういった気概ある男の方が良いと思っていた。心を刃の下に隠す忍者とて、人の子だ。感情はある。影忍達がカイトに惹かれるのも無理はなかった。

 彼ほど、ある意味公私を混同している者も珍しい。だが、それが良かった。忍者として戦ったとしても、人として戦っている気分になれるからだ。


「影故に、我らは闇の中に大きな感情を隠す。我らの主には、ああいった我らが刃の下に隠す心を代弁してくれる男こそが相応しい」


 隠形鬼もまた、刃の下に心を隠していた。表に出さないだけで、四鬼達の中では誰よりも感情は豊かだ。それ故、隠形鬼は次なる主に自らを認めさせる為、手を抜かない。

 自らは後ろ指を指される裏切り者になるのだ。受け入れてもらう為には、自らが率先して有用性と忠義を示す必要があった。そして忠義の示し方は、考えてある。


「各員、奮起せよ。これより後、我らは闇に紛れて我らの為に行動を起こす。我らは影故に死人(千方)では無く、(カイト)こそを主とする。影は光に寄り添ってこその影。この一戦はその売り込みだ。存分に振るえ」

『御意』


 相も変わらずフラットだが、何処か感情の乗った檄に、影忍達が短くも同じ様な返答を返す。こうして、まさに影に紛れた暗闘が開始されるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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