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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第78話 蠢く闇

 浬達の優勝で幕を下ろした都大会から、数日。今年は彩斗が一足先に大阪に向かった事もあって、浬達も少し早めに大阪に里帰りする事にしていた。ちなみに、では綾音の実家は良いのか、となるのだが、こちらは問題無い。

 というのも、実は綾音の実家は天神市にあり、徒歩は難しいが自転車なら10分もあれば行ける距離だからだ。なのでよく母方の祖父母は顔を出しており、里帰りする必要もなかったのである。とは言え、やはりお盆だ。となると、里帰りの前にしておくことがあった。


「暑いー・・・」

「お墓にお参りなんだから、そんな事言わない」

「わかってるけど、暑いよ、今日は何時もより・・・」


 綾音、浬、海瑠の三人はお盆よりも少し早目に、天音家のお墓にやって来ていた。お盆にお墓参りするのは、子孫の礼儀。そう教え込まれていた。なので時期的には少し早いが、お参りしておこうと思ったのである。ついでに綾音の実家にも顔を出していた。

 今日は雲一つない晴天で、うだるような暑さ、というのが良く分かる一日だった。少々暑すぎた為、浬も海瑠も汗だくでかなりまいっていた。


「何時も思うけどさ・・・ウチのお墓、結構大きいよねー」

「一応、200年近く続く名家、らしいからねー」

「そうなの?」

「らしいねー」


 浬の言葉に、綾音がさもどうでも良さ気に告げる。名家と言っても没落した名家だ。今では実家が少し大きい程度と、お墓が浬が言った様に少し立派なぐらいしか、名残はなかった。

 それ故、天道本家は覇王が彩斗を取り立てても文句は言っていない。本家からすれば取り立てても御しやすい、とでも考えているのだろう。と、そんな話をしながらお参りしていると、ふと、浬が一つの事に思い至った。


「・・・そう言えば」

「何?」

「お化けとか、見れないの?」

「え? ああ、お化け? 見たことは無いよ。居ないんじゃないかなー、って思ってる」


 浬から小声で話しかけられた海瑠は、小声で答える。彼は魔眼持ちだ。普通は見えない物が見える。であれば、おばけも見えているのでは無いか、と思ったのであった。と、そんな所に兄が飛来した。今日も今日とて二人の護衛である。


『お化けは居るぞ? まあ、滅多に居ないがな。お盆に帰って来る、なんて事は無い。輪廻転生の輪の中に還れば、それで終わりだ。ま、こういうのは心の持ちよう。意味が無いわけじゃないけどな』

「じゃあ、僕は見た事無いだけ?」

『さぁ・・・お前の魔眼が何かわからんからな。見鬼という力が無ければ、見えない。見えないだけ、かもな。それに、さっきも言ったろ? お化けは無茶苦茶数が少ないんだ。あの世へ行くのは普通は強制。その強制に抗ってるわけだからな。まあ、こんなお墓に祀ってくれる様な人の中は居ないだろう』


 海瑠の質問に、カイトが投げ遣りに答える。ここら聞かれても答えにくい。なのではぐらかしたわけだ。ちなみに、『見鬼』とは所謂おばけ等普通は目には見えない者達を見る能力の事だ。


「ふーん・・・じゃあ、肝試しとかしても意味無いの?」

『まぁな。幽霊の正体見たり枯れ尾花、と言うだろ? 所詮、気のせいが大半だ。オレの様に気配を読める様になると、おばけが居ないのが一発でわかるから怖くもなんともない』

「「へー」」


 やはり、この時期だ。肝試しをしよう、と言う誘いの声は浬も海瑠も来ていた。が、玉藻の前や軍神インドラ等に関わる兄がこういうのだ。信憑性は抜群だった。


「二人共ー、帰るよー。お母さんに顔見せたら、用意しちゃってねー」

「あ、はーい!」


 お墓を洗う為の水を入れていた水桶を返却していた綾音の言葉に、浬と海瑠が急ぎ足でその場を後にする。そうしてそれを尻目に、カイトが密かに本来の姿を取った。彼の本体は異世界だ。今年どころか当分はお参り出来ないので、心ばかりでも、という事であった。


「・・・なんか、お化け屋敷が怖くなくなっちゃったね」

「僕、元から怖くないけど」

「あー・・・ん? 卑怯! それむっちゃ卑怯じゃない!?」

「そんな事言われても! こっちだって苦労してるんだよ!?」


 実は今までずっとお化けが苦手だった浬に対して、実は密かにお化けよりも異族達の方が怖くて見えないお化けは怖くなかった海瑠が怒鳴り返す。そんな風景を、兄は手を合わせた後に元の鳥の姿に戻って見ていた。


『やれやれ』


 本日は何事もなし。カイトは今の一件に関わる者達への定時報告にそう連絡を流す事にして、やはりこのまま何事もなく、一日は過ぎ行くのだった。




 が、何事も無し、と思っていたのは、カイト達だけだ。まあ、その彼らだって、水面下で事件が進んでいる事は理解していた。現状では敵の姿が見えずカウンターしかアクションを起こせないが故に、何もしていない様に見えるだけだ。


「メモメモ・・・近々二人は近畿へ来る」


 浬達を見ていたのは、何もカイトだけではない。影に紛れて、隠形鬼も見ていた。彼女の特殊能力は、影に紛れる事。幾らカイトでも、彼女に本気で隠れられては使い魔の身では如何ともし難かった。インドラである御門でも現状の立場から若干厳しい。出来て、フェルぐらいだった。

 まあ、そんな彼女の最大の弱点は、戦闘能力は他に比べて皆無である事だ。あくまでも、他に比べて、という範囲だが。


「安倍の初代は新幹線で。襲撃は高速で仕掛けるべき? 応相談」


 隠形鬼は幾つもの情報をメモに書き込んでいく。彼女は所謂メモ魔だった。なのでメモにはありとあらゆる情報が書き込まれていた。中には仲間に対する論評や愚痴、デフォルメされた絵も入っていたのは、ある種ご愛嬌、という所だろう。


「今後の予定確認。今の二人は近畿行き。侑子・鳴海という女の子は天神市に残る。天道家の子はアメリカ行き。場所は東海岸ワシントン。予定は不明。天城家の子はハワイ行き。予定はハワイのホテルで名家の者達との会談。父は同席せず、代わりに従兄弟が同席。彼への襲撃に意味は無し。対象から外す」


 隠形鬼はすでに、各員の名前と予定を入手していた。隠密に掛けて言えば、日本でも有数の腕前。それが、忍者の始祖と言われる『藤原千方の四鬼』の中でも特に諜報に特化した彼女の力量だ。

 こればかりは、異世界に居るカイトの本体でも目を見張るレベルだった。実は彼女とカイトが面識があるのも、その諜報の腕前を知ったカイトが直々にスカウトに動いたからに他ならなかった。それで、彼女の力量は推して知るべしだ。人材豊富なカイトが欲しがる。これ以上の太鼓判はなかった。


「あの使い魔・・・あの男の物? 安易な接触は考えもの。千方様にもそれは報告」


 天高くを飛翔する蒼い小鳥を観察しながら、隠形鬼は判断を下しかねる。あの使い魔が誰の物なのか、によって行動は大きく変わる。

 とは言え、何も出来ないわけではない。今の彼女が気付かれていない様に、あれは使い魔だ。カイト本人では無い。対処可能なのだ。


「・・・こんな所。調査終了」


 とん、と軽くジャンプをすると、まるで川に飛び込む様に隠形鬼は影の中に潜る。これは彼女が独自に編み出した技術で、彼女以外には主である藤原千方さえも出来ない特殊な移動術だった。

 そうして、隠形鬼は影を伝って天神市を後にする。天神市には建物が大量にある。影は何処にでも存在していた。見つかりっこなかった。カイトから大分と離れた所で、彼女は影から出た。


「よっと・・・これでこの街ともおさらば」


 隠形鬼はそう言うと、走るでは無く雑踏に紛れて電車に乗り込む。服装は影の中で何処にでも売っている様なTシャツとジャージに着替えた。元が良いので若干注目は浴びるが、こればかりは如何ともしがたい。こうして、浬達の情報は未だ姿を見せぬ藤原千方へと持ち帰られたのだった。




 それから、数時間後。彩斗の所に電話が掛かって来ていた。相手は綾音だ。明日出る、という事で電話を入れておいたのである。


『だってさ。頑張ってたよ』

「ほんまか」


 綾音からの連絡に、彩斗が非常に嬉しそうに頷いていた。彼とて娘が部活に精を出していた事は知っている。それが都大会の優勝という形で表れれば、嬉しかった。


「って、ことは、次は全国大会か?」

『だってさ。次は8月の終わりで、場所はまたおいおい指示がある、って』

「そっちは行ける・・・とええなぁ・・・」

『お仕事、大変そう?』

「まぁなぁ・・・」


 彩斗がため息を吐く。始まった会談だが、これが予想以上に難航していた。調書を取るだけで終わり、ではない。中には代替わりしていたり、すでに当時を知る者が死去していたりして、初代の家人達が遺した資料を閲覧させて貰える様に交渉したりする必要があったのだ。


「明日もその関係で多分また出掛ける事になる思うわ。まあ多分、晩飯には戻る思うけどな・・・」


 明日の会談相手の名前を見ながら、彩斗がため息を吐いた。明日の会談相手は、今回の会談の中でも特に重要視している一人だった。名前は『龍洞寺』と言う。漢字が入っている事からもわかるかもしれないが、龍族だった。

 彼は楽園創設の後に一族を率いて日本に逃げ延びて里に匿われた者だが、それ故、エリザ達は知らない欧州のその後を知っている。おまけに、彼はその当時から生きている古参だった。何か知っているかも、と考えたのである。


「はぁ・・・龍か・・・難航するやろなー・・・」


 彩斗が小声で、ため息を吐く。龍族の特徴の一つには、認めない者に対しては非常に非協力的である事が上げられる。それ故、数年前にはエリザに対して起きたクーデターに参加した程だった。

 なお、当時の首謀者はすでに責任を取る形に近い形で処刑されたらしい。その後、紆余曲折を経て偶然そのクーデターの折にこの里に居たカイトに傅く事になり、エリザの補佐に付いているのだった。

 が、カイトを認めているからといって、父・彩斗を認めているかは別だ。そして、カイトを認めている事を彩斗が知る事はない。難航は全員が予想していた。


『どうしたの?』

「ん? ああ、なんでもない。まあ、こっちは仕事やけど、事故せん様にな。何時もやったら交代できんねんけど、今回は無理やからな。道中サービス・エリアとかで適度に休憩とってや」

『うん、わかってる。じゃあ、お仕事頑張ってね』

「おう」


 綾音からの激励に、彩斗が少しだけやる気を漲らせる。頑張っているのは、彼だけではない。彩斗組の全員が頑張っているのだ。音を上げては居られない。


「さてと・・・じゃあ、資料の続きやな」


 彩斗は電話を切ると、エリザから与えられた部屋にて幹部の一人から借りた資料の読破を再開することにする。この部屋は、エリザの邸宅の一室だ。ここをこの里での拠点とするように、と言われていた。

 休憩所はあるらしいのだが、宿泊出来る様なホテルは無いらしい。まあ、外から誰が来るのだ、と言われれば、彩斗達も返答に困る。

 部屋にはすでに許可を得て天ヶ瀬兄妹や内海、甘粕も来ていた。流石に資料を桐ケ瀬と彩斗の二人だけで全部読む、なぞ一年あっても終わらない。交渉も含めて、6人総出でやるしかなかった。


「電話、終わりですか?」

「おう、すまんな。ちょい早いけど、仕事に戻るわ」


 休憩に入った所で、彩斗は綾音からの電話に気付いたのだ。それで折り返し電話をしていた、というわけである。どういう原理なのかは知らないが、この里にも携帯電話の基地局があるらしい。ネット回線まで常備されていた。どちらも普通にアンテナは全開だった。

 しかも彩斗がパソコンにインストールした防諜用の装置の更に巨大かつ高性能な物が回線の基地局に併設されているらしく、盗聴対策は完璧だ、との事だった。なのでパソコンも持ち込んでいた。

 必要と思われる情報は全てデータ化して、後で精査するつもりだった。なお、すでに天神市で待機している解析チームが並列して解析を行っていた。


「ふぅ・・・あぁ、もうこんな時間か。そろそろ、今日はお暇しなあかん時間やな」

「あれ・・・」


 綾音の電話から更に数時間資料を読んでいた彩斗だが、ふと顔を上げてすでに夕暮れ時だった事に気付く。夜遅くまでエリザは滞在を認めていない。余程の事情が無い限りは、夕暮れと共に退去を命じていた。

 護衛の陰陽師達も居る為、外に出て仕事をしている者達と揉めない為に帰宅に鉢合わせない様にしていたのである。それでも万が一の場合は、里でもそれなりに顔を知られて信頼を得ている鏡夜が間に入る事になっていた。そうして、今日はもう終わり、と全員切りの良い所で調査を終えて、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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