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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第75話 会談

 岩の台座に乗って大阪の上空を登り続けた彩斗達が到着したのは、奇妙な部屋だった。そこは石造りの奇妙な模様が描かれており、ひと目で何か魔術的な部屋だ、と理解出来た。


「気になりますか?」

「ええ、まあ・・・」


 蘭人の問いかけに、桐ケ瀬が頷く。気にならないといえば、嘘になる。なにせここまで大々的に魔術的な模様が描かれているのだ。命の危険さえあるかもしれない。気にならないはずがない。


「万が一の場合の攻撃用の魔法陣・・・ではありませんよ。単なる制御用の魔法陣です。一部攻撃用も混じっていますがね。所詮、自衛用です。そこまで強いわけではありません。誤作動があっても困りますからね」


 蘭人は一度脅しておいて、笑いながら単なる見せかけにすぎない、と明言する。いわば脅しの為の魔法陣だった。ここまで大規模であれば、誰もがそれ相応の威力を疑う。現に真実単なるブラフと読み取れた鏡夜を除いた陰陽師達はこれを素直に信じず、今もかなり身体を固くしていた。


「さて・・・では、ついてきてください」


 再びあるき始めた蘭人に従って、一同は警戒気味に歩き始める。ここからは、正しく未知の世界と呼んで良い。安易に行動はできなかった。

 が、そうして警戒混じりに移動を始めた彩斗達だったが、エレベーターに乗って地下――どうやら台座が接続されたのは地下の様子だった――から出ると、目を見開いて驚く事になった。


「はー・・・大阪の遥か空の上にこんな街があったのか・・・」


 十数年住んでたのに全然知らなかった、と桐ケ瀬が驚きを露わにする。そこにあったのは、彼の言う通り普通の街並みだ。まあ、歴史的な経緯があるためか、普通の街並みと言っても西洋風の街並みだ。

 例えるならば西洋ゴシック様式の建物が立てならんだ街並みだろう。とは言え、異族達の為かところどころに普通の人間は使わないような大きさの扉や水の中に家が設置されていたのは、ご愛嬌という所だろう。


「こちらです」


 そんな街並みを観察しながら、彩斗達は蘭人の案内に従って歩いて行く。住人達は、総じて人間では無い様子だった。いや、一応言えばこの里の家族となった人間も居るには居て人間は歩いているが、大半が人間では無い様子だった。

 普通にこの里の中では気を抜いているらしく、エルフのような尖った耳や悪魔羽、角の生えた者達がそれなりの数で存在していた。ぱっと見わからないのも、おそらく何らかの異族だろう。

 中にはどうやって持ち込んだのか、道路もあって車も走っていた。聞けばこの里は全長数十キロもあるので、車が無ければやっていられないらしい。持ち込んだ方法は蘭人曰く、秘密、という事だった。大方何処か地面に接触出来る所に先と同じエレベーターがあるのだろう。


「ここがエリザ嬢、エルザ嬢の邸宅になります。お二人が共同で生活していらっしゃいますが、エルザ嬢は現在オルフェ様の所でレコーディングをなさっておいでですので、ここ当分は空けていらっしゃいます」

「オルフェ?」

「ああ、オルフェウス様です。ギリシア神話のオルフェウスはご存知ですか?」

「ああ、竪琴の名人とかなんとか、とは聞いてます」

「その、オルフェウス様です。楽曲の提供等をしてくださっているらしいのですが、そこら辺の詳しい事は私もイマイチ・・・」


 歩き始めて、およそ10分。街の中心にあたるらしい場所に、彩斗達は案内されていた。そこにあったのは、これまたゴシック様式の邸宅だ。大きさはかなり大きく、これまた西洋風の庭を合わせると小学校程の大きさだった。

 外では違和感しかなかったエリザの黒ドレスだが、ここにドレス姿の美女は確かに似合うだろう。そうして、エルザの予定を一応告げた蘭人がドアベルを鳴らす。すると、外と庭を隔てていた門が自動的に開いた。そして出迎えたのは、美麗というのが相応しいメイド達だった。男は居ない様子だ。


「こちらへ」

「では、失礼致します」

「案内、有難う御座いました」


 メイド達が案内を引き継いだのを受けて、蘭人が頭を下げてその場を後にする。頭を下げた時にはコウモリ羽が生えていた。おそらく飛んで帰るのだろう。それを尻目に、彩斗達はメイド達に案内されていく。


「・・・嫡男。全員、吸血姫だ」

「わかっとるって」


 陰陽師の一人の言葉に、鏡夜は頷く。メイド達は全員、吸血姫と言われる種族だった。吸血鬼の上位種にして、女しか居ない種族。男が居ないのはそれ故だった。


「スレイブ、やな・・・」

「どちらだと思う?」

「・・・エリザのスレイブは側近だけやろ。ありゃ、血を吸うのは好んどらん。他は全員、フィオナのスレイブと考えた方がええやろな」


 スレイブ。メイド達を観察しながら、鏡夜は推測を告げる。スレイブとは所謂、使い魔や従者だと考えれば良い。血を吸った際に、その血を吸った者に服従する従者とさせる事が出来る吸血姫が居たのである。

 そして女王であるフィオナもその娘であるエリザも、どちらもその出来る方の吸血姫だった。伊達に女王やその娘、と言われているわけではなかった。


「どう見る?」

「フィオナの側近は知らん。おりゃ、欧州の女王なんぞ会った事が無いし、聞いたこともない・・・が、あっちの側近達だけは、心酔して従っとるな。厄介。そう考えた方がええ。とは言え、だから言うてフィオナのスレイブを無視して良いわけちゃう。あっちの方が確実に強い」


 別の陰陽師の問いかけに、鏡夜は自らの推測を答える。血を吸われて吸血鬼――もしくは吸血姫――になる、というのは半分正解で、同時に半分間違いと言って良い。

 血を吸われて吸血鬼になるというのは意味がわからない、というのが真実に触れた者の言葉だ。吸われて吸血鬼になるのでは無く、流し込まれて吸血鬼になる。それが、真実だ。即ち、血を吸っている様に見えて、真実は牙から『何か』を流し込まれているのである。

 その『何か』とは。これを人は『因子』と呼んでいた。人間を除いた全ての異族には、その種族特有の『因子』がある。これは遺伝子に記載されている様な物では無く、魔術的な因子と考えれば良い。吸血鬼や吸血姫達は血を吸っている様に見えて、人間にその『因子』を流し込んでいたのである。

 異族とは簡単にいえば、人間の身体にその固有の因子がある、というだけに過ぎなかった。人の異種族間でハーフが生まれるのも、このためだ。基礎が同じである為、子をなせるのである。

 所詮、人間も猿や犬、猫と同じく哺乳類だ。不思議はなかった。それが無形の魔術的な『因子』であればなおさらだった。


「強い・・・どの程度と見る?」

「・・・全盛期のエリザに・・・いや、そこまでは行かんやろうけど、確実に今のエリザの足を引っ張らんだけの実力はある。俺でも手に負えんな」


 メイド達の実力を見ながら、鏡夜は思わず冷や汗を垂らす。実は彼女らは密かに顔見知りだ。だが、それでも改めて把握すれば、なぜこんな相手に平然としていられるのか、となるほどであった。そんなメイド達は、当然、全員武装していた。護衛も兼ねていたからだ。


「武器は・・・全て、村正か」

「やな・・・楽園に紫陽から武器の供与があった、つーのは聞いた事もあるやろ。勝ち目は無いな。やるんやったら、逃げの一手。それしかないわ」

「逃げの一手か・・・数人、外に残る。最悪は壁を破壊する」

「その方がええやろ・・・無意味やろうけどな」


 村正。それは日本人ならば誰もが聞いたことのあるだろう妖刀と、それを打つとされる鍛冶師の名だ。彼女らが持っていたのは全て、その村正が鍛えた妖刀の類だった。

 全て、地球全てを見て手に入る武器としては最上級の品だった。これに比べれば一流の装備が与えられている陰陽師達とて見劣りする程だった。


「では、こちらでお待ち下さい」


 数人の陰陽師達を庭に残してゴシック様式の邸宅に案内されて、応接室と思われる部屋に案内される。ちなみに、鏡夜達は別室に案内された。そうして、そこで待つ様に指示を受けた彩斗と桐ケ瀬が、ヘッドセットに連絡を入れた。


「こちら天音。入った」

『甘粕です・・・渚と一緒に聞こえています。どうやらなんとかなったらしいですね』

「おう・・・さて」


 鏡夜は薫の応答を聞いて、とりあえず部屋の内装を見回す。応接室の中には、屋敷の主が触れて欲しい物が飾られている時がある。交渉の間を持たすのに使える事もあるので、内装を見て回るのも意外と重要だった。


「部屋の様式はゴシック。外と同じや。メイドは扉の前に二人。美人」

『主観入ってませんか?』

「入ってない。ものごっつい美人や・・・それはどうでもええ。絵画は・・・あるな。画家や作品名はそっちで調べてくれ・・・まあ、あれば、やけどもな」

『わかりました』


 ヘッドセットには、映像を送る機能も取り付けられていた。これを通して、彩斗は絵画の画家名等を調べて貰う事にする。ちなみに、どうやら異族らしくデータベースにはなかった。


「他は・・・ティーカップは有名な所のやな。これは市販品か・・・気にせん方がええか」

「壁紙。一部は破損した形跡があるな」

「? ほんまか?」

「ああ、一部だけ新しい」

「さすが内装工事を取り扱ってるだけはあるな。お見通しか」

「申し訳ありません。数年前に少々事故がありまして、その時に貼り直しました」

「聞こえてる、つーわけか」


 二人の小声での会話を聞いていたらしいメイドが、二人に謝罪する。聞かれない為に小声で話をしていたというのに、これでは意味がなかった。そしてその情報を受けて、検索結果が出たらしい。


『数年前・・・あ、有りました。エリザ邸がサンダルフォンとサリエルという天使の襲撃に遭った、と噂が。被害者は何らかの理由でエリザ邸に滞在していた<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>。この際、封じられたという誤報が裏社会に駆け巡った、とデータベースに記載されています』

「その名前は俺も聞いた事あるわ・・・」


 サリエルにサンダルフォン。天使の中でも有名な名だ。それに奇襲を仕掛けられて勝てるという化物に、彩斗も桐ケ瀬もため息を吐く。

 ちなみに、誤報では無く真実なのだが、その後すぐに脱獄した為に誤報と判断されていた。と、そんな風に観察をしていると、扉が開いた。そうして入ってきたのは、今日はジーパンと無地のTシャツ姿のエリザだった。


「はじめまして。天道財閥の天音 彩斗と、こっちが」

「桐ケ瀬 大和ともうします」

「今回はわざわざお時間をありがとう御座います」

「ええ。『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の当主エリザよ。座って」

「有難うございます」


 エリザの許可を得て、一度腰を上げていた彩斗と桐ケ瀬は椅子に再び腰掛ける。そうして、彩斗はカバンから覇王の親書を取り出す。これもまた、協力してくれている事に対する感謝状だった。


「こちら、天道社長からの親書です。お納めを」

「受け取ったわ・・・これを」

「はい、プリンセス」


 メイドの一人にエリザは受け取った親書を開封する様に命ずる。そうして、開封された親書をエリザが読む。一応、覇王は『秘史神(ひしがみ)』の長だ。なのでこれは対等の者としての物だった。


「わかった。『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』は『秘史神(ひしがみ)』の申し出を受けましょう」

「有難うございます」

「・・・あれをお持ちして」

「はい、プリンセス。少々、お待ち下さい」


 メイドの一人に再度エリザは何事かを言い付ける。どうやら何かを持ってきてくれる事になっていたのだろう。そうして、それを待つ間に、しばらくの雑談が行われる事になった。そうして、予めの打ち合わせ通りに、彩斗が切り出した。


「あー・・・少し疑問なんですけど・・・」

「ああ、血を吸わないか、という事かしら?」

「ええ、まあ・・・」


 少し怯えた様子を見せながら、エリザに彩斗が問いかける。吸血姫を相手にこれを気にしない者は居ないはずだ、という推測に則ったものだったが、どうやらそれ故に読みやすかったのだろう。


「吸うわ。でも、私は無闇矢鱈に吸おうとは思わないから、安心して」

「じゃあ、誰なら吸うんですか?」

「そうね・・・いい人なら、吸うわ。男でも女でも・・・だからと言っても、所詮嗜好品程度よ。死ぬ様な事は無いし、吸血鬼化なんてしないわ。一度やって無駄だった男の所為でここ当分はイマイチ自信が無いの」


 クスリ、とエリザが笑う。どうやら案の定、この話題は触れておいて損はなかったらしい。幾分気をよくしてくれていた。


「えーっと、でしたら、他の者は?」

「ああ、それは大丈夫よ。この里に吸血姫は私と夜魔家前当主しか居ない。シラルダもあなた達は吸わないわ。蘭人は知っての通りよ。里の者とて、普通の人よ。通り魔の様に見境もなく攻撃なんてするはずがないわ」

『ほっ・・・』


 当たり前と言えば当たり前か。ヘッドセットから響いてきた渚の安堵のため息を聞きながら、彩斗はそう思う。里として、ここは成り立っているのだ。ならば見境なく血を吸っているとは思えなかった。そもそも、エリザの言い方ならば吸血行為は嗜好品に近いらしい。吸わなくても問題は無いのだろう。


「で、もう幾つかあるんですけども・・・」

「何かしら・・・」


 暫くの間、彩斗とエリザ、そして桐ケ瀬は雑談――と言う名の情報交換――を行っていく。それが10分程続いた所で、先程のメイドが戻ってきた。手には二束の書類があった。


「プリンセス。こちらを・・・それと、クイーンから、ご連絡が。後ほど折り返して欲しい、と」

「はぁ・・・ご苦労様。下がって良いわ」

「はい」


 書類を手渡すと共に小声で告げられた情報に、エリザが少しため息を吐く。機嫌は損ねていない様子だが、テンションは下がっている様子だった。

 彼女がプリンセスであるならば、クイーンとは母親の事なのだろう。何らかの理由で、電話をしてきたと考えるのが妥当だろう。


「どうされました?」

「なんでもないわ・・・これが、ウチの里の各当主の時間の空いているリストよ。一度見て頂戴」

「あ、有難うございます」


 目に見えて低下したやる気に彩斗と桐ケ瀬は内心で臍を噛むも、それをお首にも出さず受け取ったリストを閲覧する。そこには10人程の名前と顔写真、各々の種族、そして面会が可能な時間が記されていた。

 そうしてそれを見ていた二人だが、案の定、出来れば欲しかった名前がなかった事に気付くのに時間はそうは掛からなかった。


「あー・・・出来れば<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>とも面会したいんですけど・・・」

「彼は無理よ。彼は私の配下には居ないわ。アポイントも無理。何処に居るかわからないもの」

「何処に居るかもわからない? 確か赤電話以外に常にで連絡を取りたければ貴方か蘇芳さんに、と聞いてたんですけれど・・・」

「蘇芳も無理、と言っていたでしょう?」

「そう、なんですか?」


 『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』に彼らが来ていた様に、関東を主とするグループがもう一つの異族の里である『紫陽の里(しようのさと)』にもアポイントを取っていた。

 その長である『蘇芳 村正』とこのエリザだけが、彼らが追い求める<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>への手がかりなのだ。これは日本政府でも、ここからしか連絡を取る事が出来ない程だった。

 非常用は本当に非常時である時ぐらいしか、相手が応じてくれないのだ。どうやら、こちらの事は全てお見通しらしい、と全員が受け取っていた。


「あら・・・先に行っていたと思ったのだけれども」

「いえ、実はアメリカへ出張中らしく・・・映画の撮影、だそうで・・・」

「ああ、そう言えば言っていたわね・・・私はここから欧州へ行くけど、彼は居を向こうに移すのだっけ・・・」


 そう言えば、と思い出した体でエリザが彩斗の言葉を認める。実は知っていたが、一応そういう体を見せただけだ。


「まあ、良いわ。とりあえず、彼は今忙しいの。知っての通り、彼は神々とのやり取りで世界各地を動いているわ。特に今は忙しい。理由なぞ、言わなくてもわかるでしょう?」

「・・・そうですか。では、もし何かあれば、一言感謝だけは伝えていただけますか?」


 彩斗は言外の言葉をしっかりと把握する。彼女は暗に天桜学園を探している、と言っていたのだ。そうである以上、何か文句を言えるはずもなかった。


「わかったわ。と言っても、次に来るのが何時かはわからないけれども・・・」

「他に何か無いですか? どうやれば連絡を取れるのか、もしくは魔女の方でも良いんですが・・・」

「悪いわね。今は何も。時折、向こうから連絡があるぐらいよ。彼が何処で何をしているのか、というのは不明よ。教えてもくれないわ。一応、アメリカやイギリスから連絡があった時、敵からの攻撃があった時には、何処で情報を聞いてきたのか顔を出すのだけれども」

「はぁ・・・」


 帰って来た答えに、彩斗も桐ケ瀬もため息を吐く。これで、完全に手がかり無しだ。一応、何処かに居るとは思う。何処で聞いてきたのかこの間のゼウスの来日に際しても顔を見せていた。

 だが、一番重要な連絡方法がなかった。相手が何処の組織にも属しない一匹狼であったのが、最悪だった。連絡の取りようがなかったのだ。そうして、再度気合を入れ直した彩斗達は、改めてリストについての質問に入り、この日の会談は終わるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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