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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第71話 三者面談

 藤原千方の四鬼の一人、隠形鬼との出会いから数日。夏休み開始直前の事だ。浬と海瑠は綾音と共に、学校に呼び出しを受けていた。

 と言っても、これは別に何かやらかしたから、というわけではない。ただ単に期末試験の結果が出た、という事だった。そうして浬の三者面談を開始しようとした所で、綾音が首を傾げた。


「・・・あれ? 何処かでお会いしませんでしたか?」

「あはは。いえ、お久しぶりです。ほら、昔伏見稲荷で彩斗さんにお世話になったドラインです」

「ああ! あの時の・・・どうしたんですか?」


 御門の言葉に、綾音が思い当たる節を思い出す。実はこれより数年前。年始の初詣に伏見稲荷大社に行った天音家一家と御門は公として出会っていたのである。ドラインとはインドラのアナグラムだ。安易な偽名だが、幸いな事にバレなかったので良しだろう。


「あの後実は色々とありまして・・・転職して、日本で教師を、と。まあ、息子とその友人を事業に慣れさせて、独り立ちをさせたく思いまして。いっそ遠く日本で別の仕事をすれば、頼る事もないだろう、と。昔から一度日本で暮らしてみたい、と思っていましたので、丁度持っていた免許を腐らせるのもな、と日本で教師をする事にしたんですよ」

「へー・・・」


 そもそも御門が何をしていたのか、と言うのは綾音は知らない。なのでそういうこともあるだろう、と綾音は御門のでっち上げた嘘をスルーする。

 幸いにして、御門の人柄は彩斗から聞かされていて知っている。子供を預けるにしても安心、という事で好感触だった。そうしてとりあえず仕事に入るか、と御門は教師としての仕事に入る。


「と、言うわけで、今回の期末考査と実力テストについては、十分な成績を得られているかと。転入生二人についても積極的に関わっていってクラスに馴染ませてくれているなど、非常に助かっています」

「そうですか」

「で、部活ですが、これは顧問の新垣先生がレギュラーとして頑張ってくれている、と仰っておいでです。内申点も悪くはならないでしょう」


 幸いな事に、浬は品行方正だった。周りに居た兄の友人達が色々な意味で有名だった為、揉め事を起こす様な者達が浬の事を恐れていたのだ。揉め事を起こせる方が可怪しい。

 そして部活をやっていたおかげで、生活態度については文句がない。その部活にしてもレギュラーだ。身内贔屓というわけではなく、文句のつけようは無かった。


「で、そろそろ高校受験の時期なのですが・・・これは前担任のアロン先生から、メールが来ています。学力については問題がなさそうなので、第一志望を目指して大丈夫だろう、と」

「そうですか」


 アロンが2学期から復帰する事は、お知らせのプリントを受け取っていた為に綾音も把握する所だった。というわけで、御門とやり取りを行っていたらしいアロンからのメール、という形で方針を二人に伝える。

 なお、第一志望校については、天嶺を目指すつもりらしい。やはり自転車で通えるメリットは大きかったようだ。それに、天桜学園の系列校である為、成績が良ければ天桜学園の大学への推薦が貰える。部活で一流になるなら別だが、進学を考えるのなら、悪い選択ではなかった。


「はい、ではこんな所です」

「ありがとうございます」

「有難う御座いました」


 とりあえず浬は何か特筆して注意される事も無く、三者面談は終了する。そしてそれが終われば、次は海瑠の三者面談、だった。


「というわけで、体育がね・・・まあ、上二人が出来過ぎだった、とも思うんですが・・・」

「あはは。私もお父さんも運動神経良いはずなんですけどねー」

「うぅ・・・」


 綾音の言葉に、海瑠が落ち込む。実は彼が執拗に前に出て戦う事にこだわっていたのは、ここが影響していた。実はカイトや浬だけでなく、父母二人共運動神経は抜群だったのだ。

 なにげに何もしていないはずの綾音は未だにバク宙を普通にこなすし、父に至っては最近鍛え直している事もあり、往年の運動神経を取り戻していた。更には居候のティナは小柄な容姿ながら、母と同じ様に運動神経は抜群だった。一人運動音痴なのがかなりのコンプレックスになっていたのである。


「まあ得手不得手がありますからね。これは仕方がないでしょう。その代わり、勉強の方はきちんとしていましたからね。この間の期末考査と実力テストについても、問題は無し。座学については文句のつけようがありません。こっちはお兄さんとくらべても遜色は無いでしょう」

「そう・・・ですね。うん、大丈夫かな」


 最上から見せられた成績表を見て、綾音が頷く。そちらは本当に問題はなさそうだった。ちなみに、兄の話題が出された綾音だが、彩斗がカイトの生存を伝えた結果、目に見えて調子を取り戻していた。息子が帰ろうと頑張っているのなら帰って来た後は自分が元気な姿を見せないと、と思ったらしい。


「部活については、新垣先生から何か言われている事はありません。マネージャーとして頑張ってくれている、と」


 その後も、幾つかのやり取りが行われる。が、総じて悪い評価ではなく、概ね好意的な評価だった。とは言え、これも当然だ。唯一品行方正で無かったのは兄だけで、それにしたって教員から哀れまれる類の厄介さだ。普通は何かお小言があるわけではなかった。

 というわけで、さして何か特筆すべき事が行われるわけでもなく、その日の三者面談は終了となった。そうして三者面談が終わった頃にはお昼だったので、三人で何処かに食べに行こう、という事になったようだ。近くのファミレスに寄る事にした。


「そういえば・・・そろそろお父さんとおばあちゃん。大阪に着いた頃かな」

「そろそろじゃないかな。8時に出て5時間だから・・・あ、まだちょっと早いかも?」


 適当に頼んだ物を食べながら、この日の朝に大阪に出発した父と祖母についてを話し合う。別に何か思う所があるわけではない。ただ単に今日の朝出て行った為、話題にしただけだ。


「あ、行きしなお父さんが部活の試合、がんばれ、って」

「あ、うん。頑張る」


 綾音からの言伝に、浬が頷く。幸か不幸か、運動については部活だけではなく魔術関連の物まで入っている。いつも以上に万全の形で仕上がっていた。


「そういえば、海瑠もだったよね? 応援、車で送り迎えした方が良い?」

「あ、ううん。一応学校で纏まって移動する事になってるから、バス借りる事になってるってさ。8月の初日が試合かな」

「これが最後かぁ・・・口車に乗せられて始めたけど、悪くなかったなぁ・・・チア衣装とか未だにわけわかんないけど」


 海瑠の言葉に、浬はしみじみとこれが中学最後の試合である事を思い出す。流石に高校受験が始まるというのに、バスケにかまけている暇は無い。推薦は貰っていたが、それはスポーツ特待生というわけではない。勉強は重要だった。

 ちなみに、チア衣装、というのは部活の顧問の趣味だ。かわいい女の子にこういった際どい衣装を着せるのが趣味らしい。と、そんな回想をしていた浬に対して、綾音が問いかけた。


「そういえば・・・高校の部活はどうするの?」

「うーん・・・一応、そのまま女バスやるつもり。でも、わかんない」


 高校に入れば、また違った部活があるはずなのだ。今女子バスケットボール部に入っているからといって、そのまま高校でも続けるかどうかは微妙だった。女子バスケットボールを極めて選手になるのなら別だが、浬はそうではない。

 レギュラーを取れはしたが才能としては侑子に劣っていたし、どちらにせよ特段優れているわけではなかった。何時かは区切りを付けなければ、と思っていた以上、高校入学と同時に真剣に引退というのは有りは有りだろう。


「ふーん・・・」

「とりあえず、高校に入ってから考える。面白い部活あるかもしれないしね」

「ん、それならそれで良いよ」


 浬の言葉に、綾音が頷く。考えているのなら、それで良かった。そうして色々な事を雑談していると、一人の美少女と美女の二人組が近くの席に座る。それに、綾音が目を見開いた。


「わー・・・綺麗な子・・・親子かな?」

「え?・・・ごふっ!」

「きゃ! どうしたの?」


 そちらを向くなりいきなりむせ返った浬に、大慌てで綾音が烏龍茶を差し出す。変な所に入った、と思ったようだ。そしてそれは間違いではない。綺麗な着物の二人組を見て、思わず気管に入ってしまっていた。


「あ、ありがと・・・」

「久しぶり、二人共」

「こここ・・・」


 現れたのは、本来の姿の晴明と人型を取った葛の葉狐だった。その二人が横に座ったのである。今時滅多に見ない和服美女二人だ。綾音が驚くのも無理は無かった。そうして、浬が警戒感満載に問いかける。


「何? 何の用?」

「あはは。偶然よ? 別に今日も何の意味も無く接触するはずないじゃない」

「こここ。そう何度も何度もいたずらはせんよ。ファミレス、とは家族で来る所なのじゃろう? 来てみたかったのよ。観光のついでに、というわけじゃ。ホテルのバイキングばかりでは飽きるからのう」

「と、言うわけだよ」


 晴明の柔和な笑みに、浬は本当に真実なのだろう、と判断する。そして事実、今回は偶然に一緒になっただけだ。何かを企んでいるわけではない。と言うか綾音を巻き込めばカイトから大目玉を食らう。それも特大の大目玉だ。それは全員がごめんだった。


「で、何なんだけど・・・オススメって教えてもらえる?」

「・・・えっと、ポテトフライとか唐揚げとか・・・?」


 晴明からの問いかけに浬が答える。来てみたは良いが、晴明も葛の葉もファミレスなぞ殆ど来たことがない。来た時にしても、カイトが一緒だったりしている。何を頼むのが良いのか、なぞわからなかった。


「後はメニューで食べたい物食べれば良いと思うよ・・・あ、ドリンクバーは頼んでおくと、後で自由に飲めて良いよ」

「そっか。そう言えばカイトも言ってたもんね・・・えっと、後はこのスイッチを押せば良いんだよね・・・うん、ありがとう」


 とりあえずオススメを教えてもらった晴明と葛の葉は満足げに浬達から視線をずらし、テーブルに備え付けられていたメニューを確認する。そうして会話が終わった後、綾音が問いかけた。


「お友達?」

「えっと・・・まあ、うん・・・」

「何ていうか・・・お兄ちゃんのお友達、らしい」


 浬と海瑠は訝しむ綾音に向けて、事情を大まかに説明する。嘘では無い。そして、ここは天神市でであった為、何か疑問には思われなかった。そうして、その会話が一区切りしたのを受けて、晴明がふと浬に声を掛けた。


「あ、そうだ。これ、借りてたの返すね」

「え?」

「本だよ。面白かったよ。丁度さっきまで読んでたんだけど、読み終わったからね」


 晴明は少し強引に、浬に本を手渡す。それは何処か押し付けるようだった。まあ、本なぞ貸していないのだから、当然だろう。


「あ、うん」


 押し付けられた本に、浬は視線を落とす。それは何処にでもある少女漫画だった。触った感じも表紙も浬も聞いたことのある少女漫画で、何か違和感は無い。が、途中に一枚のメモ紙が挟まっていた。

 ということで、浬は何があるのかを調べる前に、綾音に見咎められる前にカバンに仕舞う。下手に綾音に興味を持たれて中を開かれると厄介だからだ。確実に、何かを仕込んでいる。それぐらいは浬でも想像が出来た。


「あ、来た来た。お肉お肉」

「・・・ねぇ。あのお母さんの何処にこれだけの量の食べ物が入るの?」

「さぁ・・・」


 今度は本当に思わず、と言う形で晴明が浬に問いかける。実は意外と綾音は健啖家だった。詳しい量は綾音の名誉の為に明言はしないことにするが、晴明が聞きたくなるぐらいには、アンバランスだった。それだけの栄養素が何処に消えているのかも謎だ。


「・・・あれの母よ。何処かの異族の血が隔世遺伝しておっても不思議は無い」

「・・・あり得るかな」

「勝手にお母さんを人外扱いしないでよ」


 葛の葉と晴明の会話に、浬が睨みをきかせる。まあ、葛の葉は半ば茶化すようだったが、晴明の側は半ば本気だった。が、無駄だった。所詮これは食べている最中の親子の会話に近い。


「ふむ・・・妖精とかあり得んか?」

「カイト、妖精に好かれるからね。血筋としては有り得るかもね」

「うそっ。妖精とか居るの?」

「え、うん。日本には居ないけどね」


 近かった事で聞こえた単語に、浬が思わず晴明達の方を振り向く。が、よく考えればそれはそうだろう。エルフだドワーフだ吸血鬼だ、と居るのだ。妖精の一人や二人居た所で不思議は無かった。


「それは見てみたいなー。ヒメちゃんとか妖精みたいだったけど、妖精だったりするのかなー」


 やはり浬とて乙女だ。ファンタジックで可愛らしい妖精に会ってみたいと思ったのだろう。何処か憧れに近い様子で想像を膨らませていた。

 なお、ヒメとはカイトの友人かつ、綾音の年の離れた――と言ってもヒメ側の年齢は知らないが――数年来の友人だった。小さな、本当に妖精の様にという形容詞が似合う愛らしい少女だった。


「さてのう・・・っと、晴明。妾は決まったぞ」

「あ、ごめん。もうちょっと待って」


 メニューから顔を上げた葛の葉に先を促されて、晴明が真剣に選び始める。一応先んじてドリンクバーは頼んでおいたが、食べ物は決まっていなかった。そうして、浬が妄想に入り晴明がメニュー選びに入った事で、会話は途切れる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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