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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第70話 藤原千方の四鬼

 色々な事があり、ついに本当の姿を晒したカイトと、その姿を見ても兄は兄だ、と納得した浬。その後幾つかのやり取りがあって、カイトは再び小鳥に戻り、浬達は何時もの隠れ家に戻ってきていた。が、そこで、思わぬ相手に遭遇する。それは一人の美女だった。


「あ? なんでてめぇがここに居るんだ?」


 茨木童子が目の前に平然と座っていた美女に対して顔を顰めながら問いかける。美女は何処か影の薄い様子があったが、それはひとえに、彼女自身がそうさせている様な印象があった。例えるならば、くのいち、という所だろう。


「我が主よりの命・・・月影山の鬼に狙われた童らを調べてこい・・・」

「主? 貴様らの主は死んだだろ?」


 言われた事が理解出来ず、茨木童子が首を傾げる。どうやら美女は誰かに仕えていて、その仕えている筈の人物はすでに死んでいる筈らしい。それに、美女が言葉少なげに答えた。


「相応しい器。千方様の呪符。儀式。復活・・・憂鬱」


 千方。それが、仕えている相手なのだろう。美女はそう言うと、ふっ、と姿が霞んで消える。そうして次に現れたのは、浬の目の前――浬なのは偶然近かったから――だった


「え?」

「・・・観察。危害は加えない。命令されてない」


 美女はいきなり現れた彼女に驚いて警戒する浬に少し安心させる様にそう告げて、首を傾げたりしゃがんだり眼を覗きこんだり、と色々としながら浬を観察する。


「次」

「させると思うか?」


 驚いていたが為に動けなかったフェルが、浬の次と言って近くに居た煌士の観察を行おうとした美女を制止する。


「今のこいつらはインドラと私の保護下にある。勝手はやめてもらおうか」

「・・・却下。千方様の命」


 フェルの言葉を受けた美女だが触れられている部分が影となって、フェルの手を突き抜ける。どうやらこの影は実体を隠してしまうようだ。フェルでさえ瞬時に対処出来ない所を見ると、相当厄介な力らしい。だが、今度はフェルは何処からか取り出した白銀の刃を持つ剣を美女に突きつけて、制止した。


「ほう・・・私の前で勝手をする、と? 次はこの刃で止めるぞ」

「・・・でも少しは情報がないと怒られる」

「怒られろ」


 何処か鬱陶しげな美女に対して、フェルは剣を構えたまま告げる。美女は些か子供っぽい様子だった。


「嫌。千方様、怒ると怖い」

「知るか。それとも、私と戦うか? かつては神々を遥かに超え、今は唯一神と名乗るあの神の右腕にして全ての天使達の長と言われ、かつてまだ地球が神々の御世だった時代に地球最強だった私と・・・数多神々さえも腕一つで下すこの私と。チリ一つ残さんぞ」

「・・・形勢不利・・・とりあえず、姿形はわかった。だからそれで良しとする」


 フェルの脅しに対して、美女は手を引く事を決める。ここで勝てぬ戦を挑むよりも、戦わず引く事を良しとしたのだろう。どうやら、その無感情そうな口調などを差っ引いても、あまり仕事にやる気は無いらしい。嫌々やらされています、という感があった。


「・・・行ったか。やる気は無い、様子だったがな」

『あいつに姿を隠されちゃ、オレにもわからん・・・姿見せてた時点で、相当やる気ナッシングだろうさ』

「それはそうだな・・・千方とやらが蘇った、とは本当のようだな。あれは望まぬ事を自らする女ではない」

「今のは?」

「藤原千方の四鬼、だろう。おそらく隠形鬼か」


 何が何だかさっぱりわからず首を傾げていた侑子の問いかけに、煌士が推測を告げる。そもそも主の名前はフェルも美女も告げていたのだ。知識さえあれば、類推する事は容易だった。


「隠形鬼?」

「平安時代に朝廷に対して謀反を起こした陰陽師に、藤原千方(ふじわらのちかた)という男が居る。その男が使役した4人の鬼の一人だ・・・これらは貴方の配下には居ないのか?」

『残念ながらな。今の隠形鬼とはそれなりにやり取りがあったが・・・他は独立独歩が強くてな。オレも殆ど面識はない』


 煌士の問いかけに対して、カイトが少し苦々しい物を滲ませながら告げる。これは流石に彼でも予想外の展開だったようだ。まあ死者が復活する、なぞという事を想定しろという方が可怪しい。死者蘇生とは不可能な事の中でも有数の無理と言われる事だった。仕方がないだろう。


『藤原千方の復活、ね・・・ルイス、アテネ』

「ああ。インドラにも連絡を行う」

「かしこまりました」

『茨木。お前はどうする?』

「はぁ・・・俺は帰る。当分は夏休みって事で揃わねぇだろうと思って集会も無しだ・・・こっちでも情報は集めておくぜ」


 カイトの求めを受けて、フェルとアテネ、茨木が行動を開始する。些か予想外の状況なので、今から情報集めに奔走しよう、という事だったのである。そうして二人が急ぎ足で消えた後、残った葛の葉と晴明に対してカイトが願い出た。


『助かる・・・葛の葉と晴明も頼めるか?』

「うむ。良かろう」

「十二神将を皆の家に送っておいた。家と通学路は大丈夫だよ」


 どうやら晴明はすでに各々の実家に万が一に備えて式神を送ってくれたようだ。そして安倍晴明程の人物の式神だ。これは俄に不安になりつつあった浬達に、安堵をもたらす効果があった。


「えっと、あの・・・ありがとうございます」

「ううん、いいのよ、別に。これが仕事だしね。それに、千方はちょっと縁があるしね」


 浬のお礼に、晴明が微笑んで首を振る。が、その縁、という言葉にどうやら空也は疑問を得たようだ。首を傾げていた。


「縁?」

「ああ、南北朝で出来た『太平記』には彼の来歴は詳しく記されていないんだけど、藤原千方って私のお師匠様の賀茂忠行(かものただゆき)の同期らしいのよね。もっと正確に言えば、出世争いで負けて左遷されちゃった人、かな。私が弟子入りして少しの頃に忠行様が、彼の反乱を鎮圧する為に軍師役の一人として出た、って。少し悲しげだったから、よく覚えてるよ。忠行様、天才には珍しく凄い優しいから」

「つまり、朝廷への謀反とは・・・」

「左遷させられた恨み、って言う所かな。あんなことしなければ呼び戻せる事もあったかも、って。その後に笑いながら、結構恨みきつそうな人だったから仕方がないか、って忠行様が笑ってたしね。まあ、私や保憲(やすのり)さん前の人だから、私達は知らないよ」


 晴明が少し師への呆れ混じりに歴史書では語られていない藤原千方の一面と謀反の真実を語る。平安時代はまさに彼女の生きた時代だ。知っていても不思議は無かった。

 ちなみに、彼女の言った保憲とは賀茂忠行の息子で、晴明の兄弟子の事だ。晴明が平安朝で天文道――今で言う陰陽師達の占星術など――を引き継いだのに対して、彼は歴道――天文学の事――を引き継いでいた。晴明曰く、狐の血を引いて気儘だった自分とは違い生真面目な方だった、との事である。


「彼が使役していた4人の鬼は金鬼(きんき)水鬼(すいき)風鬼(ふうき)、そして今の隠形鬼(おんぎょうき)の4人。全員が一風変わった特殊な力を秘めているわ。そこらは詳しくは知らないけど、調べれば出ると思うよ」


 晴明はとりあえず、わかっている事を告げる。そうしてそれを受けて、煌士が調べていた事を口にした。


「『草も木もわが大君の国なれば いづくか鬼の棲なるべき』という和歌で紀朝雄(きのともお)なる人物が追い払ったのではないのか? 今でいう忍者とのつながりがある、と言われているはずであるし・・・」

「あはは。和歌で鬼を追っ払う事なんて出来ないよ。『太平記』の創作だね、そこは。でも、忍者とつながりがあるのは確かだよ。彼女らは藤原千方が征伐された後、伊賀・甲賀に居たからね。私も自由になった後、何度か伊賀と甲賀に足を運んで、確認しているよ」


 煌士の言葉を受けて、晴明が笑いながら否定する。和歌を読んだだけで鬼を退けられるのであれば、誰も苦労はしない。考えるまでもない事だったのだろう。と、その疑問を解決した所で、空也が疑問を口にした。


「ですがその鬼がなぜ、彼女らを?」

「あー・・・これは、多分・・・」

『月影山の鬼は美食家で有名でな。それが狙った奴なら、呪力と言うか霊力というか、まあ、魔力に関わらう何かしらに秀でているだろう、という想定だろうな』

「つまり、生け贄にしたい、と?」

「せっかくぼかして言ったのに、率直に言ってあげないでよ」


 煌士が読み取ったカイトの言の言外の言葉に、晴明が苦笑する。怯えさせない様に言葉を選んだというのに、はっきりと明言されては堪ったものではなかった。というわけで、生け贄に狙われている事を悟った浬達が一気に顔を青ざめさせる。


「え?」

『はぁ・・・まあ、運が良いだろ。幸い、晴明が近くにいた。日本の歴史上最強の陰陽師、ってのは即ち世界有数の魔術師と見て良い。神話の中に居る王女メデイアに匹敵する魔術師だ。神話の存在の力を借りられるんだからな』

「あ・・・お願いします!」


 カイトの言葉に、浬達はそういえば安倍晴明が味方なのだ、という事を思い出す。なにせ安倍晴明だ。負ける事の方が想像しにくかった。それに、晴明が微笑んで頷いた。


「あはは・・・うん。本当なら皇っていう陰陽師の大家に対応させたいんだけど、今回は仕方がないわね。で、皆の夏休みの予定は?」


 後少しすれば夏休みだ。各々が別々に動く事になる可能性は高かった。ならば聞いておかねばならない事は、夏休みの予定だった。


「えっと、とりあえず私と浬は夏の大会があって・・・」

「それが8月の初旬まで、だよね。優勝すれば、全国大会で8月一杯に続くけど・・・」


 浬と侑子は幸い、前半は一緒に行動する事になっている。これから中学校生活最後の部活の総まとめなのだ。これは欠かす事は考えていなかったし、一緒に行動する理由にもなる。そのままにさせるつもりでカイト達も動いていた。なお、当然マネージャーである海瑠も一緒の予定だ。


「私もお盆前までは天神市かな。書道教室あるし。で、お盆に一回おばあちゃんの所に行って、お盆の終わりで帰って、かな。いつもの事だし。でも、お婆ちゃんの所、といっても関東だけど・・・」

「私は8月のお盆までは海外ですね。例年通り、ハワイに行く事になっています」

「私も一緒です・・・と言っても場所は違いますが」


 どうやら煌士と空也は海外行きらしい。お上品である様に見えるが、実際には煌士はアメリカはワシントンで学会に出席だ。重力場技術についての講習に招かれていて、それに出席せねばならなかったのである。こちらはアメリカ軍が主導で守る事になっていた。

 空也も名目上はバカンスだが、実際はアメリカに居る有力者達のパーティに出たり、とそれ相応に動く事になっている。純粋にバカンスという事ではなかった。更にこちらはパーティを日本政府と天道財閥が主導している為、守りには陰陽師達、それも先に晴明が言っていた皇家という大家が控えていた。そしてそれを聞いて、晴明は二人については問題が無い、と判断する。


「うーん・・・じゃあ、二人は問題無いね。流石に彼らだってアメリカにまでは出ないはず。海を渡るのは容易じゃない。大陸が変わると地脈の性質なんかも随分と変わってくる。それに、西海岸には特殊な軍基地があるからね」

『問題は、残る組か・・・特にウチが問題だな。実家大阪だし。こっちに残る面子は良いだろう。インドラのおっさんが居るしな』

「大阪なら逆に問題は無いよ。私も大阪出身で大阪住まいだからね」

『そうじゃないって。皇にバレない様に事を片付けられるか、って所だ』

「あー・・・」


 今回の一件は完璧にカイト達のコントロール下に無い。なので何処から浬達の事がバレるかわからないのだ。幸いまだ隠形鬼にとて顔だけがバレて名前も住所もバレていない様子であるが、何時バレるかはわからない。と言うより、長続きはしないだろう。というわけで、カイトは内部協力者に協力を依頼する事を決める。


『・・・しゃーない。鏡夜に協力を頼むか』

「鏡夜さん? どうして鏡夜さんが出てくるの?」


 出された名は、天音家が大阪住まいだった頃の兄の幼なじみの一人の名だ。当然の如く浬も知っていたし、殆ど覚えてはいないが、海瑠も把握していた。


『あいつ、陰陽師なんだよ。日本有数のな。知った時は本当に驚いたけどな』

「うそぉ・・・あ、でも確かに大きな武家屋敷だった様な・・・皆着物だったし・・・」


 思えば少し可怪しい様な、と言う点を思い出して、浬が納得した様な納得出来ない様な、という微妙なつぶやきをつぶやく。


「じゃあ、とりあえず。私も皆が来る頃には大阪に帰るね。こっちは帝釈天様に任せて良さそうだし」

「こここ・・・決まった様じゃな。では、妾らは旅行に繰り出す事にしよう」

「あ、うん」


 手はずが整ったのを見て、葛の葉が晴明に告げる。どうやら旅行そのものはやるらしい。そうしてそれを受けて、カイト達の下、急遽防備の態勢が整えられていく事になるのだった。




 その夜。東京から遠く離れて西日本は近畿地方の某所。そこのとある豪勢な一軒家に、隠形鬼は帰っていた。そんな彼女を出迎えたのは、包容力のあるたおやかな妙齢の美女だった。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「千方様は?」

「今はお休みになられています」


 たおやかな美女の言葉に、隠形鬼は少しほっとため息を吐いた。どう考えても任務は失敗に近い。怒られなくて済んだ、という所だろう。そんな様子を見て、美女が問いかける。


「失敗ですか?」

「違う・・・半分成功。インドラの保護下に居た。少年三人に少女三人。堕天使の邪魔が入ってそれ以上の確認が出来なかっただけ」

「ふむ・・・些か厄介ですか。千方様の術式の安定の為には、生け贄に使いたい所なのですが・・・」


 美女が少し苦味を含みながら、推察を行う。千方が復活した様に語った隠形鬼であるが、実際にはまだ完全には復活していない。今休んでいるのだって、復活が完全ではないからだ。復活が完全ではない為、より万全に近づける為に眠っているのである。

 なお、隠形鬼が浬達の事を把握していなかったのは、彼女らがカイトの配下に居なかったからだ。カイトが異世界に転移させられている事さえ、彼女らは知らない。浬達の事も知らないのも無理はなかった。


「水鬼。今のまま待つのも吉。どういうことか、向こうには晴明と蒼き者の使いがいた」

「ふむ・・・偶然、とは考えにくいですか・・・これ以上は千方様の指示を仰ぐのが正解でしょう」


 色々な要因が絡み合っている。それを見た美女こと水鬼が千方の指示を仰ぐ事を決める。現実としては偶然であったのだが、状況から恣意的に見えても不思議は無かった。そうして、ゆっくりとだがカイトの思惑に無い所でも、戦いの雰囲気が生まれる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 2018年10月7日 追記

・誤字修正

 『晴明』の『晴』が『清』になっていた所を修正。以後、同じ誤字は修正していきます。

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