第65話 カード
各々が武器を手に入れてから、少し。一同は無数の式神に襲われていた。
「ちょ! これ、何時まで続くの!?」
「わかんない!」
浬の叫び声に続いて、海瑠が声を上げる。かなり声を張り上げていたが、それでも微妙に聞こえにくかった。というのも、今彼女らの周囲では爆音が鳴り響いていたからだ。
「天道会長! まだですか!?」
「其は漆黒の闇を切り裂きし気高き雷光・・・よし! 出来た!」
ぶつくさと何かをつぶやきながら与えられた本を読みんでいた煌士が、右手を突き出す。すると、彼の前の空中に直径1メートル程の魔法陣が現れる。
「<<雷撃>>!」
煌士が口決を唱えると、空中に展開された魔法陣が光り輝く。自分の武器を見た時こそ彼も首を傾げるしかなかったのだが、中身を見て、それは一変する。
彼に与えられた本は、所謂魔道書と呼ばれる魔術が羅列された本だったのだ。確かに武器としての性能は皆無であるが、初級の魔術の展開を補佐してくれるぐらいの力はあった。そうして、魔法陣から一条の雷が迸る。
「さっすが我輩! よし! これでとりあえず出口までの避難路が出来たぞ!」
「よっしゃ! じゃあ、全員向こうへ移動! はっ!」
侑子が声を張り上げて、移動を促す。先頭を切って走るのは、近接戦を行う彼女と空也だ。彼女の与えられた手袋もまた、魔術に関連する品だった。手のひらから魔力を固形化させて拳を保護したり、それを放出する事も出来る道具だった。
よく見れば、手の甲の部分には魔石と呼ばれる宝石の様な石が取り付けられていて、実は糸一本一本に至るまで、きちんとした専用の加工が施された結構貴重な物だった。後にお値段を聞いた所、万単位で三桁は軽く超える、と言われて別の意味で侑子が青ざめていたのが印象的だった。
「ふっ!」
「はっ!」
一同は煌士が切り開いた道を空也と侑子に維持してもらいながら、全速力で移動する。幸いな事に、一同が何時も出入りする出入り口はそのままに見えた。
なのでそれが出入り口なのだろう、というあたりを付けたわけである。とは言え、それでも敵の数が多い。なので当然、横に回りこまれたり、前を阻まれたりする事はあった。
「ふっ」
「えーっと・・・こう!」
回りこまれたり横から来た場合に対処するのは、軍用ナイフよりは遥かに薄いが何故か遥かに強固で切れ味の良い小太刀を貰って速度を活かせる詩乃と、少し大きな筆を持った鳴海の役目、だった。特に鳴海の役目が重要だった。
彼女の筆は確かに筆なのだが、それを使って描くのは魔法陣に近い特殊な文字だった。彼女の持つ筆は空間に魔力を使って文字を描く為の魔道具で、取扱説明書には書き記すべき魔術式が記載されていた。
書道の速記が得意だ、という彼女に合わせて、それを活かせる武器にしたのである。まあ、そう言っても流石にこの分野では練度不足で威力の程はまだまだだったのだが。
そして当然だが、後ろからも敵は来る。敵を全滅させたわけではないのだから、当然だ。そう言う場合には、なんと海瑠が対処していた。とは言え、後ろを向いて引き金を引くだけ、だったが。
「海瑠! 後ろ!」
「うわぁ!」
走りながら後ろを向いてシッチャカメッチャカに銃の様な何かの引き金を引いた海瑠の銃から、魔力で出来た弾丸が発射される。弾丸のサイズは普通の9mm弾と大差はない。威力はこちらが上だろう。それを受けて、紙で出来た式神達が複数体、一気に消し飛んだ。
これはある一定量の魔力を得てそれを破壊の力として発射する為の物で、所謂、魔銃と呼ばれる物だ。運動神経が壊滅的な海瑠に最適な武器だった。引き金を引くだけなのだから、失敗することが無い。
さて、こうなると疑問になるのが、浬だ。他の面々については、遊撃や殿、先陣を切る、等色々な役割がある。だが、彼女だけには、役割が無い様に見えた。
「これ、どうすればいいのよ!」
走りながら与えられたカードを見て、浬が声を上げる。カードと言ってもトランプの様に数字が書いてあるわけではなく、何処かのカードゲームの様に攻撃力等の数値と萌えキャラの様なキャラクターや勇ましい龍の絵柄が描かれているわけでもない。文字も書かれていない。書かれていたのは、剣や銃等の絵柄だけだ。材質はなんらかの金属らしい。
「なんかわかんないの!?」
「説明書には以下の順に並べろ、としか書いてないのよ!」
横を走る海瑠の言葉に、浬が声を張り上げる。何も出来ない為、今の彼女は海瑠の援護についていた。
「なんで!?」
「途中で文字終わっちゃってるの! 絶対寝落ちしてる!」
浬が泣きそうな顔で断言する。そう、実は彼女のカードの取扱説明書は途中で終わってしまっていたのであった。使いたくても使えないのだ。
そして理由はまさにその通りで、彼女のカードの説明が最後だった為に眠くなったフェルが途中で切り上げてそのままにしてしまったのである。と、それを見ていたフェルが、ようやくそれを思い出したらしい。
「・・・あ」
「・・・寝落ちする人が居ますか・・・」
「ふ、ふん。私とて人の子だ。失敗もある・・・少し出て来る」
アテネに半眼で睨まれたフェルが、少しだけ照れ臭そうにに頬を朱に染めて消える。浬に説明をしに行ったのである。と、そうして浬が一歩足を踏み出したその足元に、別の異空間への穴が出来た。
「え? えぇええええ!?」
ひゅん、と落下した浬の叫び声に、全員が何事か、と後ろを振り返る。が、足を止める前に、フェルが声を響かせた。
『そのまま走れ。少々武器の使い方を教えるだけだ』
「ああ、うん・・・」
寝落ちしていたのか、と声の中に乗っていた少しの恥ずかしさに気付いて、一同がそれで良しと判断する。これは訓練だ。訓練である以上怪我の危険性はあるが、見られている事がわかっていれば、危険性は無い、と判断出来たのであった。
そうして少し速度が落ちた一同が速度を上げ始めた一方、浬は真っ白いだけの空間に落とされていた。目の前には当然、フェルが足を組んで座っていた。
「ちょっと! どこここ!? と言うか、何あれ!?」
「五月蝿い・・・答えてやるから、少し静かにしろ」
キーキーとがなり立てる浬に対して、フェルが少し鬱陶しげに告げる。
「あれはどこぞの雌狐の娘が出した式神だ。どうやら来たらしくてな。挨拶に来ていた」
「じゃあ、どうして私の途中で終わってたの!?」
「・・・寝落ちした。反省している」
「・・・そんな事だろうと思ったけどさ!」
小さくとは言え珍しく頭を下げたフェルに対しては、浬もいまいち糾弾しにくい。ということでその程度に留めておいて、先を促す事にした。
「で、だ・・・貴様のそれだが、その武器はカイトの戦い方を模した物だ。貴様の適性がいまいちわからなかったからな。少々、特殊な戦い方を選んでみた」
「お兄ちゃんの・・・?」
「あれはまあ、戦士としては異色の戦士だ・・・カードをよく見てみろ。何が書いてある?」
「えっと・・・」
どうやらここには敵は居ないらしい。それを把握した浬は、改めてカードを全枚数取り出して、しっかりと観察してみる。
カードは同じ絵柄の物が3枚セットで、それが腰の専用のホルダーに各絵柄毎に収納出来る様になっていた。絵柄の種類は剣・銃・炎・風・土・水・氷・雷・光・闇の10種類、計30枚だ。
大きさはトランプよりも一回り大きい程度だ。タロットカードぐらい、と言うところだろう。厚みもそれぐらいだ。
「少し貸してみろ」
「えっと・・・はい」
フェルからの言葉を受けて、浬がカードセットを彼女に渡す。そうして、フェルは少し考えて、その中から3枚のカードを取り出した。
「炎・銃・炎。これが基礎の一つだ・・・見ておけ」
フェルは浬にそう告げると、右腕を振るって3枚のカードを投げ放つ。そうして投げ放たれたカードは、彼女の1メートル程手前で絵柄を外側に中空に滞空する。
そうして、次の瞬間。カードが光り輝いて、炎の弾丸が射出された。弾丸の大きさは海瑠の物よりも遥かに大きく、50センチ程もあった。砲弾と呼んでも良いだろう。そして大きさに比例して、威力も段違いだった。数十倍はあるだろう。上がった爆発に、浬が思わず身を屈める。
「きゃあ!?」
「属性2枚で銃か剣か。それを選べ。それが基本の使い方だ。4枚は道具のシステム上出来んぞ」
「び、びっくりしたー・・・じゃあ、氷・剣・氷だと、氷の剣が出るわけ?」
「いや、氷の斬撃が出て来る。斬撃の場所は大体2メートル先だ。慣れてくれば、自分で設定も出来るだろう」
少々予想以上の攻撃力だった浬だが、こうなるだろうな、とは思っていたのでさほど驚く事もなく立ち上がって問いかける。そうして受けた問いかけを受けて、フェルは今度は雷と剣のカードを取り出した。
「ふっ!」
「きゃっ!?」
迸った雷の斬撃に、浬が目を見開く。斬撃は横に切り払う物で、長さはだいたい5メートル程だった。かなりの広範囲に渡る攻撃だった。
「かっこいいー・・・ねえ、じゃあ剣で挟んだらどうなるの?」
「良いところに目をつけたな。その場合は、こうなる」
浬の質問を受けたフェルは今度は剣二枚に水を一枚取り出すと、それを再び投げる。すると、何と今度は水の刃を持つ刀が現れた。
「このように、水の刃を持つ武器が現れる。銃であれば、水の弾丸を放つ魔銃だ」
「へー・・・凄いのね」
「まあな」
浬の称賛に、フェルが少しだけ尊大さを滲ませる。と、そうしてふと、浬は一つの疑問に突き当たった。
「ねえ、もし同じ物を三枚使ったらどうなるの?」
「剣や銃の場合は、無属性の実剣や海瑠の持つ魔銃と同じ物が出るが・・・もし属性のカードが3枚の場合は、強力なその属性の攻撃が出来る。まあ、今のお前にはオススメしない。すぐにガス欠に陥るぞ」
「ふーん・・・」
フェルから返してもらったカードを見ながら、浬が頷く。どうやら同じ物を3つ使うのは、今の浬では難しいようだ。
「あ、ねぇ。じゃあ、銃二枚に剣の組み合わせだと?」
「もう返したんだから、自分でやってみろ」
「あ・・・うん」
足を組んだフェルに促されて、浬が剣と銃二枚のカードを取り出す。そうして、少し緊張気味に、カードを投げる。
「えっと・・・カード!」
浬の投げつけた3枚のカードは彼女の目の前で滞空すると、光り輝いて浬の横数メートルに渡って無数の魔力で編まれた半透明の剣を生み出す。
「何これ?」
「後は念じろ」
「何を?」
「飛べ、という風にだ」
「えっと・・・んっ! きゃあ!?」
フェルに指示された通りに、浬はカードに向かって剣に飛んで行け、と命ずる。すると、猛烈な勢いで剣が飛んでいった。一応音速は超えていない様子だったが、それでも物凄い勢いだった。
「慣れれば軌道を操る事も出来る。後は練習しろ。止める場合は、止まれ、と念じろ」
「へー・・・じゃあ、逆だとどうなるんだろ・・・」
フェルの言葉を話半分に聞いて、浬は少し興奮しながら今度は剣二枚に銃を一枚取り出す。フェルが止めない所を見ると、今の浬でも使える程度なのだろう。
「はっ!」
浬が投げはなったカードは、先と同じ様に彼女の目の前で滞空する。そうして今度は、彼女の周囲に無数の銃が生まれる。
「何、これ?」
「撃てと命じてみろ」
「えっと・・・撃てぇぇぇ!」
とりあえず浬はわけがわからない現状に、手を振って撃てと命じてみる。すると、魔銃が一斉に光り輝いて、いきなり直進する無数の斬撃を生み出した。
「きゃあ! と、止まれ!」
さすがの現象に思わず浬が身を屈めて、止まる様に命ずる。それを受けて、一瞬で斬撃の放出が止まる。どちらも切り札と呼んで良いまさに正真正銘の切り札、だった。
「こ、これは・・・うん。無しにしとこう・・・危ないもん・・・」
「そんな物が使わなくて良い敵が来てくれるなら良いな」
「まだ終らないのね・・・」
フェルの言葉に、襲撃が今回一度だけで終わらない事を浬が悟る。そしてそれが正解だ。止まってくれるはずがない。
「さて・・・では、武器の使い方は覚えたな?」
「え、あ、うん・・・あ、ちょっ、きゃぁああああ!」
ちょっと待って、と全てを察した浬が叫ぼうとして、再び彼女の足元に穴が生まれる。そうして、浬は再び、落下していくことになるのだった。
お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。




