第62話 次の戦いへ
投稿ミスしてました。すいません。
試験勉強の開始から、数日。一つの戦いが終わりを告げようとしていた。そしてその戦いの終わりを告げる終わりの鐘の音が、鳴り響く。
「・・・おし。終了! 筆記用具は机に置けよー! 後ろから前に解答用紙回してけー!」
「あぁ! 後ちょっとだけ!」
「愚痴る暇あったら書け!・・・おっし! ぎり間に合った!」
「きゃー!」
処刑人と言うか教師の宣言に続いて、受刑者と言うか生徒達が口々に感想を言い合う。今日は期末試験の最終日。そして今はその最後となる科目のテストが終了した瞬間だった。そうして、それは当然、浬と鳴海の二人も同じだった。彼女らは密かに、くぐもった笑い声をあげていた。
「う、ふふふふ・・・」
「ふふふふ・・・」
「「いぇーい!」」
二人はハイタッチで応じ合う。実は二人共、今のテストは大いに自信があった。先ほど受けたテストは所謂歴史の試験だった。
流石に御門もテスト問題を教えてくれる事はなかったものの、実際にその当時を生きていた者達が山程知り合いなのだ。つまり、当時の出来事を事細かく教えてくれたのである。
年号こそ暗記したが、どういうことが起きたのか、何処で起きたのか、というのは物語として語ってくれていた。記号として覚えるよりも遥かに記憶しやすかったらしい。おまけに時間の狂った空間だ。時間はたっぷりあった。
「わーい! 赤回避ー!」
「夏休みはこれで自由ー!」
二人はハイタッチを繰り返しながら、夏休みが学業から解放された事を喜び合う。天神市の中学校では赤点が3つつくと夏休みの直前の三者面談で追試験が行われ、そこでも赤点を取ると夏休みに補習、と相成るわけであった。ちなみに、浬は赤点を回避した、と言っていたが、それどころか満点も狙える様な状況だった。
「はぁ・・・貴様ら、のんきだな・・・」
「フェルちゃんやミナちゃんはわかんないかもしんないけど、夏休みがなくなるのって地獄なの!」
「そうそう! 中学生最後の夏! おもいっきり遊ばないと!」
「貴方達・・・高校入試は良いんですか・・・?」
やれやれ、とフェルとアテネの二人がため息を吐いた。当たり前だが、来年の初頭には高校入試が迫っている。一応幸いな事に現段階では二人共推薦を貰える程度の学力ではあるのだが、油断は出来ない。そうして、そんな現実を突き付けられて、鳴海が落ち込む。
「うっ・・・思い出させないでよ・・・」
「楽する為に天桜系列に進むのなら、勉学も怠るなよ」
「うぅ・・・鬼・・・悪魔・・・一瞬も安寧には浸らせてくれないの・・・」
浬と鳴海はがっくりとフェルとアテネの言葉に膝を屈する。忘れていないわけではないが、テストが終わった後ぐらいは、忘れさせて欲しかった。
「ちなみに言うが、私は堕天使だ・・・まあ、休息を取るのも重要か。短縮期間ぐらいは、好きにしろ。が、夏休みに入れば、私もビシバシ行くからな。勿論、勉強も、だ」
「なっ・・・どうして!?」
フェルから告げられた言葉に、二人が顔を上げる。アテネでさえ厳しいのに、この上冷酷なフェルまで来るのだ。泣きたくなったらしい。
「ああ、貴様の兄に少し前に会いに行ってな。受験勉強も頼まれた」
「おや・・・そうだったのですね。私は如何せん少し理系は苦手でして・・・そちら、よろしくお願い致します」
フェルの言葉に、アテネが申し出る。アテネ――理系が苦手、というがそれは最難関の大学院入試で99点程度しか取れない、という程度――はカイトから頼まれていないが、勝手に面倒を見るつもりであった。
ちなみに、ここでのカイトは使い魔ではなく、異世界に存在する本体の方だ。と、そう言われた浬が、窓の外でのんきに毛づくろいをしていたカイト――の使い魔――を睨みつける。
「なっ・・・」
『睨んだって無駄だぞ? オレ、本体じゃねーもん。文句言いたきゃ異世界に居る本体にどーぞ』
「ちっ・・・そうだった・・・」
カイトからの返答に、浬が舌打ちする。幾ら兄の性格を持ちあわせていようとも、これは使い魔だ。言った所で無駄だ。最悪自爆することも出来る程度の使い捨てでしかない。
『まあ、そう言っても折角結構調子良さそうだったんだ。全員で飯行くか? 打ち上げだ。今日は部活も生徒会も無いだろ? そっちのお嬢さんも一緒にな』
舌打ちした浬だが、続いた兄の言葉に、顔を上げる。顔には喜色が浮かんでいたあたり、現金な事だった。そうして、鳴海も即座に頷いた。
「行きます!」
『はいはい・・・ルイスもアテネも来るだろ?』
「当たり前だ。高級店を予約しておけ」
「頂きます」
『おけおけ・・・じゃあ、ちょっと用意してくら』
アテネとフェルの返答を聞いたカイトが、レストランを予約する為に飛び立つ。現在時刻は11時前。これから終礼に連絡に気の早い教師によるテスト返却に、と考えれば帰れるのは11時半という所だ。
そこらを勘案すれば、今から予約を入れても間に合うだろう。まあ、知り合いの店なので電話一本でなんの問題も無いのだが。と、そうしてしばらくすると、御門が教室に入ってきた。
「おーし。全員着席なー」
相変わらず仕事中はやる気のない御門が、何処か気だるげな声で告げる。後は彼が連絡事項を伝えれば、終わりだった。
「今年は何時も通り終わったから、何時も通りこれから短縮期間に入るわけだが・・・残念ながら先生は昼からも仕事なんだよな。って、ことで、面倒だから部活生以外はさっさと帰れよ。それと・・・」
御門は何時も通りに、終礼の連絡事項を伝えていく。今日は期末試験の最終日だった為、それなりに連絡事項は多かったようだ。
「っと、それで、プリント回すぞ。三者面談の予定表だ。忘れんなよー・・・一応兄妹が居る場合は、前後合わせてるはずだ。もし間違いあったら明後日には言えよー。そこ最後だかんなー」
御門は最後の連絡事項として、この試験結果を踏まえた三者面談についてを言及する。ちなみに、何故明後日なのか、というと明日はテスト休み――と言う名の教師達のテストの採点日――だからだ。
そうして、最後の連絡が終わったのを見て全員が気を抜こうとして、御門がまだ一つ残っていた事を思い出した。
「っと。忘れてた・・・お前ら知ってるだろうけど、夏休み明けにアロン先生が復帰するらしい」
「「「えぇー!?」」」
御門からの言葉に、クラス中が騒然となる。アロンとは亜依の前の担任で、名前からもわかるが外国人だ。担当は英語。少々用事があるらしく4月に半年の休職を取って、生まれ故郷に戻っていたのである。
と言うか本来ならば亜依は副担任で、休職から担任の代役を務めていたのだ。それに妊娠が重なって、色々とあって御門が担任を、というわけだった。
彼の帰国はもう少し先になる、という予定だったのだが、予定が少々早まったのだろう。天桜学園の一件で長くなる事はあっても早まる事は無いだろうな、と思っていた生徒達にとって、まさに寝耳に水の出来事だった。
「って、先生はアロン先生知ってるんっすか?」
「ん? なわけねーだろ。知らねーよ」
まるで知っている様な口ぶりだった御門だが、どうやら知らなかったらしい様子に、クラス中がたたらを踏む。
「あらら・・・って、先生どうなるんっすか?」
「ああ、俺副担だな。三枝先生は当分は産休に入られるから、俺が副担に着く。その後はその後、だな。まあ、今年定年の先生もいらっしゃるから、その後釜に入るさ」
確かに、入って早々の教師が担任になることは珍しいだろう。今回は亜依の妊娠発覚という大事なので仕方がなし、と御門が裏の顔で強引に割り込んだわけなのだが、本来の担任が帰って来る為、通常通りに御門を副担任にアロンという教師を担任に、という事だった。
「さて・・・というわけで俺はますますサボれるわけなんだが・・・残念ながら男バス顧問はそのまま続行だ。お前ら俺に面倒掛けんなよ」
「せんせ、そう言いつつもいっつもにいが」
「ストーップ! それ以上は言うな! お前らも男だろ! その気持ちはわかんだろ!」
「あはははは!」
御門の焦った演技での制止を見て、生徒達が笑い声を上げる。そうして、そんな和やかなムードで、その日の終礼は終わったのだった。
一方、その頃。日本の別の所でも、事態は進んでいた。とは言え、こちらは何か大事になるわけではなく、ただ単に次は誰がちょっかいを掛けに行くか、という事を話し合っている程度だ。
「さて・・・次は誰が行く? 幸い鬼丸のおかげで向こうが少し本腰入れたらしいぜ?」
「・・・俺はパスる」
「じゃあ、俺もパスだ。こいつが出ねぇんなら、問題はねぇ・・・それに、こっちもガキの面倒がある」
「ああ、あれか・・・」
「と言うか、茨木。てめぇが行けや」
じゃらじゃらじゃら、と麻雀の牌をかき混ぜながら、一同が話し合う。この場に居るのは、茨木童子を筆頭に各地の大御所達だった。本来ならこんなペースで集まる事は滅多に無いのだが、昨今は天桜学園の関係でどの国の裏の世界も大慌てで揉め事が起きる気配が無く、全員暇で仕方がなかったのだ。
「俺が出りゃ、ウチの若い衆も出んだよ。数相手にするにゃ、まだだ」
「はぁ・・・頭首不在、というのも痛い所じゃな」
「ババアはどうよ?」
とりあえず牌の分配が終わった茨木が、自らの手を考えながら、最後の一人に問いかける。それは巫女服の様な着物を着流した妙齢の美女だった。そんな妙齢の美女は、自分をババアとのたまった茨木を睨みつける。
「こここ・・・今度ババアなぞと申せば、素っ首叩き落としてやろう」
「この場で一番年食ってんのてめぇじゃねえか・・・っとと。卓が壊れるから、刀は抜くなよ」
「ちっ・・・まあ、それも楽しそうではあるのう・・・」
妙齢の美女は九本のしっぽの一つに絡ませた刀で茨木童子を叩き切ろうとしたわけだが、それに気付けない茨木童子ではなかった。なので機先を制されて、矛を収める。
確かに勝負の最中だ。麻雀卓を破壊してお流れ、は少し興ざめだった。そうして、しばらくはどうするかを話し合いながら、麻雀を行う事になった。
「いっそ娘に向かわせろよ」
「こここ・・・あれはそんな悪戯が出来る娘では無い。それこそ男の形態を取らねばまともに色恋沙汰なぞ出来ぬ程に初な娘よ・・・リーチ」
「の割にゃ、ウチを壊滅させて大親父を殺したり鵺や土蜘蛛、玉藻のクソババアを封じたりとやりたい放題やってくれてたがな・・・」
「実際は頼光四天王だがな・・・なんでかあっちの方が有名だ・・・まあ、生まれる前の出来事でよかった、とマジで思うからな、俺達後進組としては・・・カン」
茨木童子の言葉に続けて、男の一人が告げる。おそらく二人の言葉を察するに、九尾の狐は葛の葉狐で、その娘とはかの陰陽師・安倍晴明なのだろう。
「ああ、そりゃ、俺もそう思う・・・あの化物が現役だったら、俺たち魔王は喧嘩なんぞしてなかっただろうよ・・・ちっ」
「こここ・・・それ、ロンじゃ。大三元」
「ぐっ・・・」
大男の捨てた牌を使い、葛の葉があがる。役満だった。しかも彼女が親だった。それに、全員が思わず一時停止する。そしてそれを受けて、葛の葉が扇子で口元を覆い隠して笑う。
「こここ・・・先のいたずらに夢中で、手元が疎かじゃったのう」
ふぁさふぁさ、と九本のしっぽをはためかせながら、葛の葉が告げる。ここらは年季の差、という所だった。この場の中では葛の葉が一番年上で、茨木童子がその次だ。一番年下は魔王・神野悪五郎と魔王・山ン本五郎左衛門で、同年代――と言っても数十年の差はあるが――だ。
「ちっ・・・どうにもババア相手だと調子が狂う・・・」
「まだ言うか・・・今度こそ、素っ首叩き落としてやろうかのう・・・これでも何処ぞの青髪曰く、肌のツヤは娘とタメを張る、と称賛しておったぞ?」
「どうどう・・・てめえがあれと身体重ねてようがどうでも良いからよう・・・」
別に葛の葉が誰と交わっていようとも茨木童子に興味のある所ではない。なので刀を今度は手に取った葛の葉に対して、彼は両手で制止する。
「次は残る右腕を頂こうかのう・・・」
「やめてくれ。あの化物相手ならともかく、こんな事で怪我したら大親父に合わせる顔がねえ」
「失のうたら義手でも装着しておけ」
刀を収めた葛の葉が茨木童子に告げる。ちなみに、今もそうだが通常時は彼も面倒なので失った左腕に義手を装着していた。普通の腕と変わらない高性能な義手で、魔力も通せるという魔術の品だった。
浬達の前で装着していなかったのは実は味方だ、という事を表す為だったりする。隻腕の鬼となると、彼が最も有名だからだ。現にそのおかげで、浬達は出会ったのが茨木童子だった、と気付けたわけである。
「で、まあ、そりゃどうでも良い・・・マジで誰が行く?」
「こここ・・・妾が行こう」
「あん?」
いきなりの翻意を受けて、全員が首を傾げる。そんな一同に対して、葛の葉が笑った。
「こここ・・・女心と秋の空と言うに。夏じゃがな。童らと遊んでやるのも、悪うわ無い。それにあれの妹達よ。腕っ節は仕方なしとしても、胆力は悪うは無かろ」
「何考えてる?」
「内緒じゃ内緒。女は秘密を着飾って、美しゅうなる・・・らしいからのう。まあ、秘密の無い女なぞ男からすれば単なる人形と代わりあるまい。妾は、ゴメンじゃ」
神野悪五郎の問いかけに、葛の葉は何も答えない、と明言する。術中権謀は狐が最も得意とする所だ。そうして、葛の葉は勝負が終わった事でその場から、消え去ったのだった。
お読み頂き有難う御座いました。明日はきちんと21時に投稿します。




