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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第61話 訓練と戦い?と

 各々が各々の訓練をはじめて、一週間と少し。7月も上旬の終わりかけの頃には、とりあえず訓練は一区切りつくようになっていた。が、その頃になり、一つの別な大問題に、浬達はぶち当たっていた。


「うきゃー! わかんないー! フェルちゃん! こっちにもヘルプー!」

「はぁ・・・そこは37ページの例題を見ろ」


 浬の絶叫からのヘルプ要請にに対して、今日も今日とて空中で足を組んで読書をしていたフェルが呆れ気味に指針を与える。

 彼女らが何をしていたのか、というとこれは簡単な話だ。今は7月の上旬。そして彼女らは中学生。つまりは、今は期末試験の真っ最中、だったのである。


「えっと・・・因数分解は・・・あ、これか・・・えーっと・・・」


 浬が教科書と参考書を見ながら、練習問題を解き始める。明日の試験は浬が最も苦手とする数学の試験だった。期末試験で慌てるのは何時もの事で、浬が――鳴海や侑子も一緒に――兄に泣きついてフェルに頼んでもらって何時も訓練をしている時間が狂った空間を試験勉強用に開放してもらったのである。


「うぅ・・・明日が一番ハード・・・英語とかわかんないし・・・」

「そうか? ここらは普通に映画で使われる言い回しだぞ。例えば、この間公開されたばかりの大作映画でも・・・」

「・・・ああ、これはこうなってるのか・・・」

「そういうわけです」


 鳴海が英語――彼女の唯一の弱点――の読解問題を煌士の解説を聞きながら解いて、侑子は詩乃の解説を受けながら浬と同じく数学の練習問題を解く。

 一方、そんな姉や姉の友人達を他所にこんな状況でも常に勉強を怠らなかった海瑠は復習をそこそこに、空也から剣道の手ほどきを受けていた。


「ふっ! はっ!」

「もう少し、軸足に体重をしっかりと乗せた方がいいよ」

「あ、はい・・・ふっ!」


 空也からの指導を頼りに、海瑠が竹刀を振るう。その横では空也も一緒に竹刀を振るっていた。彼の場合学校が違った為、すでに試験が終わっていたのであった。

 と、そんな風に少し賑やかな雰囲気で試験勉強を行う浬であったが、苦手な数学の公式とにらめっこをしていた所為か、少しずつ、ウトウトとし始める。


『<<兄の一撃(ブラザーズ・アタック)>>!』

「あいたっ!・・・はっ!」

『お目覚めか?』

「あ、あぶないあぶない・・・ホント、数学の専門書って何か睡眠の魔術でも掛かってるんじゃないの・・・」

『誰がんな手間の掛かる事やるんだよ。さっさとやれ。そこは27ページの公式と39ページの公式の組み合わせだ。入試でも良く出る類の問題だ』


 頭に勢い良く突っ込んできたカイトこと小鳥の一撃で目を覚ました浬は、ぶるぶる、と頭を振って目を覚ます。結構痛かったが、文句を言うよりも勉強だった。それぐらいには切羽詰まっていた。とは言え、何時までも勉強をしていれるわけでもなかった。


「・・・はい、一度そこまでです」


 時計を見たアテネが、各々の活動をしていた全員に告げる。実は全員、訓練の際に着用するジャージを着ながら、勉強をしていたのであった。そのため、時折休憩を兼ねて魔力の補給を、という手間が必要なのであった。これは休憩にもなるので、丁度良かった。


「ふぅ・・・ジュースジュース・・・」

「薬をジュースって・・・傍から見てるとヤク中だね」

「私トイレー」


 アテネの言葉に、全員が手を止めて休憩に入る。その動作にはよどみは無く、普通に自分の家でジャージを着ながら勉強をしている、という程度にしか見えなかった。そんな様子を見て、アテネが満足気に頷く。


「とりあえず、日常生活は送れる様になりましたか」

「これは基礎の基礎だがな」


 アテネの言葉に対して、フェルが何ら隠す事もなく告げる。そう、今浬達がやっている事は別に出来て可怪しい事や、褒められる事ではなかった。出来る者達は普通に出来るという、魔術を使う者にとっては至極普通の事だったのである。そうして、しばらくの間、試験勉強の名を借りた特訓が行われる。


「よし・・・これで、試験範囲の半分はなんとかなった・・・つ、疲れた・・・身体よりも心が疲れた・・・」

「魔力の消費は精神の消費。魔力を使えば、精神力が摩耗する。二重の意味で消耗したんでしょう」


 とりあえず勉強として一段落付けられる程度になったのを見て、アテネが満足気に頷く。まだ勉強は終わりでは無いが、魔力量を増大させる訓練の方は、これで終わりだった。

 実は魔力の保有量を増大させる訓練は長時間やればその分効果が出る、というわけではなく、筋肉と同じで休息と訓練を繰り返す方が、効果が出るのである。なので一日にこの訓練を行うのは3時間、と決めていた。それが今の浬達を考えた場合の限度時間だった。


「後半分・・・数学嫌い・・・」

「我輩は数学得意だぞ! 楽しいからな!」

「教えていらない・・・」


 中学校の勉強なぞお遊び以下の為、持ち込んだパソコンで大学から取り寄せた研究結果の解析作業を行っていた煌士が笑いながら告げる。彼のパソコンには所謂波動方程式と呼ばれる高度な方程式や重力場を解析する為に必要となる理論が山程並んでおり、浬としては見るのも嫌だった。


『おい、煌士。それ、外に持っていくのはいいが、絶対にどっかに忘れるなよ』

「分かっているぞ! 以前空兄に迷惑を掛けてしまったからな! それ以降は我輩から離れるとアラームが鳴る上にGPS装置を装着している! 他にも我輩のDNAデータが無ければ起動しないし、起動後我輩から100メートル離れれば、中のデータは完全消去される仕組みだ!」


 カイトからの指摘に対して、煌士が告げる。見た目からはわからないが、これは彼が自作したノートPCだったらしい。中に入っているデータの重要性から、紛失は厳禁だった。


『ふむ・・・SSDがぶっこ抜かれた場合は?』

「それにも対処しているぞ! その場合は問答無用に内部データが完全に物理的にロストする!」

『なるほど・・・中に何か仕込んだか』

「王水を少しな! 少々耐衝撃性には弱くなったが、内部情報が失われるよりマシだ! バックアップは常に取っているしな!」


 流石に見せはしないがな、と煌士は笑う。王水とは大抵の金属を溶かす液体だ。おそらくSSDは特注製で、何処かにノート・パソコンから取り外されると王水が内部に染みこむ様な工夫がされていたのだろう。ちなみに、実は遠隔操作でも王水を入れる事が出来るらしい。


『バックアップ・・・その腕時計か』

「む・・・」


 まさか見抜かれているとは思わず、煌士が目を瞬かせる。


「どうやって見抜かれた?」

『勘・・・ではあるが、何時も同じ時計をしているし、衣服とデザインが少し違うからな』

「むぅ・・・違和感がない様にしていたのだが・・・」


 どうやら腕時計については彼がデザインを行ったらしい。カイトはそれ故に、違和感を得たのだ。合わせられていなかったわけである。


『そういうな。総合的には悪くは無い。良くはない、というレベルでもあるが、だ。が、カモフラージュは出来ている』

「むぅ・・・」

「諦めろ。そいつは意外とセンスが良い。気障ったらしい事もやるしな」


 少し不満気というか拗ねた様子の煌士に対して、フェルが笑いながら告げる。カイトが上なのは彼女にとっては明白な事実だ。なのでそれに安易に勝とうと思った煌士については、ただただ笑うしかなかった。


「お兄ちゃんのセンスだけは、弥生さんに仕込まれてるもんね」

「あー・・・」


 浬の言葉に、鳴海も同意する様に頷く。弥生とはカイトの幼馴染の事だ。浬からは3つ年上の女性で、中学時代から読者モデルをやっていた程に容姿とセンスの優れた女性だった。

 更には実家は老舗の呉服屋という事もあり、服のセンスについては洋の東西を問わずに優れていた。それに仕込まれたおかげで、浬も然りで並外れたセンスを持っていたわけであった。


『だけは、つーな。ついでに小悪魔対策と偽装工作も仕込まれてる』

「「あー・・・」」


 カイトの更なる言葉に、浬と鳴海が頬を引きつらせて頷く。カイトの幼馴染は実は三人存在していて、その長女が弥生だった。その下に二人存在していて、その真ん中が小悪魔的な性格をしていた為、ここらの技能を仕込まれたのであった。

 偽装工作は彼氏役として駆り出される為、という所である。と、そうしてそんな弥生の話が出たからか、フェルが少しだけ顔を顰めた。


「ふむ・・・そういえば、弥生が居ないのは痛いな」

「あ・・・そういえば居ないんでしたか・・・」

「よくよく思えば奴が居ないと服装の相談が出来ん・・・仕方がない。時折出掛ける事にするか」

「・・・あれ? 弥生さんと知り合いなの?」


 普通は人の顔も名前も覚えるつもりのないフェルから出た明らかに知っている様な言葉に、浬が首を傾げる。更にはアテネも少し残念そうな口ぶりだった。


「うん? 当たり前だろう・・・ああ、そういえば語っていなかったか」


 何故驚いているのだ、と思っていたフェルだが、よくよく考えれば何も可怪しいわけではなかった。というのも、異族や陰陽師達については浬達に一切語っていなかったのだ。


「弥生は実は裏世界でも顔役をやっていてな。神様からも、そのデザインセンスは信頼されている程だぞ」

「え・・・ちょ、待って・・・どういうこと? なんで弥生さんまで?」


 フェルからの言葉に、浬が頭を押さえて問いかける。兄はまだ理解出来る。異世界に渡ったというのだ。信じがたいが、今の現状を見れば信じざるを得ない。だが、弥生の方は一切そんな風が無いのだ。


「何、少々同僚のストーカーに呪い紛いの事をされてな。カイトが解呪に世界中を奔走しただけだ。あの時のカイトは見ものだったな」

『う、うるせ』


 カイトはおそらく人型だと顔を真っ赤に染めていただろう。それぐらいには声に焦りが見えていた。


「呪い・・・」

『そのブレスレットは、その時の副産物だ。流石に如何ともし難い呪いでな。私も知らない、ティナも知らない。ゼウスも知らないオーディンも知らない、と大いに焦っていたぞ』

「あれは非常に危ない時期でしたね。あのまま暴発していれば、確実に都市が一つ消し飛んでいたでしょう」


 アテネが当時を思い出したらしく、苦笑しながら語る。とは言え、これを悪し様に言うつもりはない。愛する者の為に全力を尽くせる者こそを、彼女は好む。それこそが、英雄の証だからだ。

 だがそんな風に評されたカイトの方は、小鳥の姿にも関わらず真っ赤になっているのがわかる程に照れていた。当たり前といえば当たり前だが、妹や弟の前だ。そんな秘密を言われたくはなかった。


『うぅ・・・』

「その後も大泣きだのなんだのと、久しぶりに見させてもらった」

『もうやめてくれ・・・』


 フェルの茶化す様な言葉に、カイトは降伏を申し出る。もうこれ以上は罰ゲームだった。


「ふふん。まさか貴様のあんな姿が見れたとはな」

『うぅ・・・だってどうやっても解呪出来なかったんだから、しょーがねーだろ。一杯一杯だったんだよー』

「「あはは!」」


 真っ赤になって拗ねた様なカイトの言葉に、アテネとフェルが笑う。


「いいなー、あそこまで惚れられてみたいよねー」

「いや、お兄ちゃんが弥生さんに惚れてた事は知ってるけどさ・・・」

「う、うーん・・・」


 羨ましさを滲ませる鳴海の言葉に、浬と海瑠はどういう表情をすれば良いか対処を図りかねる。兄のやった事だ。茶化す事もしにくかった。と、そんな三兄妹には有り難い事に、丁度休憩終了のアラームが鳴る。


『よし! 休憩はここまで! 勉強再開だ!』

「あ、逃げた」

『いいからさっさと戻れ!』


 真っ赤――になっていると思われる――なカイトが、一同に告げる。そうして、そんなカイトに促されて、浬達は少し不満気だったが明日も試験なのだ。急がなければならなかった。が、当然、そんな試験勉強なぞしなくて良い奴らもまた、存在していた。


「私達には必要がないがな」

「そうですね。たまには、貴方で遊ぶのも良い事かもしれませんね」


 アテネとフェルの二人が、少しイタズラっぽい笑みで笑い合う。常日頃はあまり相性の良くない二人だが、どうやら今は共同歩調を取る事にしたようだ。そうして、二人は勉強の邪魔にならない様に音を遮断する様な結界を展開して、カイトを弄る事にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日21時です。

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