第53話 魔力保有量
幾つかのアクシデントがありつつもアテネから貸与されたジャージに身を包んだ浬達だが、そうしてリビングに集まって再びアテネからの説明が開始された。
「まず、貴方達がなすべきことは保有する魔力の最大値を伸ばす事。魔力の最大値を伸ばさなければ、何も出来ません。大魔術を行使するにも、超高速で動くにも、呪いを解呪するのにも、全てに魔力が必要です。今の貴方達は単なるひよこ。それも頭に殻が付いているひよこ同然です」
「アテネ殿。少々よろしいか?」
「なにか?」
アテネの説明を聞いて、煌士が挙手して問いかける。
「疑問なのだが、世界に満ちる魔力を使えば、なんとかなるのではないか?」
「知識の基礎は、できている様ですね。確かに、それが普通です。が、その世界の魔力を取り込むには、呼び水が必要。その呼び水となり得るのが、その当人の魔力です。そして同時に、どれだけ術者に取り込めるか、というのはその各個人の魔力保有量に左右されてしまいます。最大値以上には、魔力は得られませんし、利用出来ません」
「それに加えて、一度に扱える魔力についての上限値も絡んでくる。貴様らにわかりやすく言ってやれば、MPの最大値と魔法攻撃力を増大させてはじめて、攻撃力が上がるわけだ」
煌士とアテネのやり取りがいまいち理解出来ていなかった浬達に向けて、フェルが馴染みやすくゲームに例えて説明を補足する。それに、浬達もああ、と納得の表情を浮かべた。
ちなみに、MPとは『マジック・ポイント』の略称で、ゲームで魔術等を使う為に消費するポイントだった。魔力保有量と考えてよかった。
「ああ・・・つまり、消費MPを変えられるって意味?」
「そういうことだ。最低レベルの魔術はMP消費5とかだが、最上位の魔術はMP50とかと設定されているわけだが、現実的には消費MP5の魔術を消費MP50で威力を大強化、という事も出来るわけだ。当然、消費MP50の魔術を消費MP5では放てん。まあ、消費MP500で撃つ事は出来るがな」
「なるほど・・・」
ゲーム的に理解した事で、浬達もすんなりどういう風な考えなのかを理解する。と、そうして疑問になったのは、フェル達の保有量だった。
「ちなみに、フェルちゃんはMPどれぐらいなの?」
「私か? 私は・・・・50兆とかそんな所か? もっと多いか?」
「ゲーム的な表現ですべきではないでしょうが・・・ああ、そういえば・・・」
問いかけられたアテネが、ふと先の数値的な表現で何かを思い出す。そうして、ガサゴソと彼女が保有する物を収納する為の異空間――彼女の武装も通常はこの中に入れられている――を探し、水晶の様な物を取り出した。
「これに、触れてみなさい。今の魔力保有量を数値的に表示してくれます」
「あるんだ」
まさか出て来たゲーム的なマジックアイテムに、浬が思わず唖然とする。とは言え、数値化、というのは実は軍事的に見れば何よりも重要な事だ。こういうものが存在していて然るべき、なのだろう。そうして、一同の視線が先の流れからフェルに集まる。
「・・・ん? 私か? 私はぶっ壊れるからやらんぞ。所詮は携帯式の簡易型だ」
「そ、そうなんだ・・・」
簡易型とは言えぶっ壊れる程の数値なのだ、と一同が頬を引き攣らせる。ちなみに、念のために言えばこの中で最弱と言われる玉藻でもぶっ壊れる。
所謂、練習を開始したばかりの普通の人間用と考えれば良かった。と、言うわけで実は先ほどから試してみたくてうずうずとしていた煌士が手を伸ばした。
「では、我輩が試してみるぞ! 構わんな、詩乃!」
「どうぞ」
この現状で何か危険な物を出すはずも無い為、一応は護衛として問いかけられた詩乃が許可を出す。一応、煌士も自らの身については慮っていたようだ。そうして、そんな煌士が水晶に手を伸ばした。
「・・・何も起きんな」
「簡易型ですので、検査には少し時間が必要です・・・ああ、出ましたね。もう手をどけて構いません」
何も起きない事に少し不満気だった煌士だが、とりあえず測定結果が出たらしいので手をどける。すると、水晶には数値が表示されていた。
「6000・・・高いのですか?」
「並の人間にしては、高いでしょう。天道殿が祖先帰りの影響と考えれば、妥当な値でしょう。普通の成人男性で高くても100らしいですので、破格と言えるでしょう。それに、試練に際して魔術の調練も行っている。高めに出ても可怪しくはない」
煌士に問いかけられたアテネが、そう告げる。確かに、煌士の父親の覇王は祖先帰りだ。それも龍の祖先帰りである。高くても普通、だったのだろう。そうして、その言葉に、空也が口を開いた。
「では、私達も高そうですね」
「そう考えるのが妥当でしょう。曲がりなりにも名家天道家の一門。天城家もかなり高くなる事が予想出来ます」
「そうですか・・・では」
空也はそう言うと、水晶に手を当てる。そうして先と同じぐらいの時間で、検査結果が表示された。
「5000・・・1000程低いですね」
「詩乃。お前もやってみよ」
「はぁ・・・」
空也のを見るだけ見てやるつもりのなかった詩乃だが、煌士からの命令では仕方がないので、水晶に手を乗せる。そうして、検査結果が表示される。
「5500・・・空也さんよりも少々早めに訓練をしていたから、でしょうか・・・?」
「いや、どちらかと言えば、女の方が平均値は高い。そこが出ているんだろう。総じて女の方が魔術師向け、というのは腕力もあるが、その面も強い」
詩乃の疑問に対して、フェルが告げる。ちなみに、事実成人女性の魔力保有量の平均値は150程度と大体1.5倍程だった。
「そうなのですか・・・ありがとうございます」
「ああ・・・ついでだ。貴様らも測定しておけ」
「じゃあ、私やってみよ」
実は密かにうずうずとしていた浬が、フェルの言葉に水晶に手を乗せる。実は浬を見てフェルが許可を出したりしたのだが、それは言わぬが花だろう。と、そうしてしばらくすると、測定結果が算出されて、驚きの声があがった。
「8000!?」
「ど、どういうこと?」
訓練をしていた煌士達よりも遥かに上の値が出て、にわかに騒がしくなる。殆ど本格的な訓練をしていない上に天道家の末端だというのに、この値なのだ。驚くのも無理はなかった。とは言え、事情を知るフェルからすれば、驚くべき事でもなかった。
「当たり前だろう。貴様らのブレスレットはそもそも、その魔力を常に使って呪いに対して抗体を与えている様な物だ。まあ、謂わば常に訓練をしながら生活している様な感じだ」
「ああ、なるほど・・・」
説明されて、浬達も煌士達も納得する。魔力を使って動いている物である以上、常に身体に過負荷が掛かっている様な感じなのだ。それも、起きている間も寝ている間も関係なく、だ。しかも丁度良い負荷であるため、訓練を行う以上の結果が出ても不思議はなかった。
「我輩達も使わせてもらえないのか?」
「やめておけ。下手に使うと変な奴らを呼びこむだけだ。推奨はしない」
「むぅ・・・」
フェルから止められて、それはパワーアップの近道だ、と考えた煌士が少し残念そうな顔になる。やはりあれは非常用なので、使用後には幾つかの副作用があるのだ。使わないで済むのなら、使わないのが最適だった。
「あれを外した後はかなり身体に違和感を抱える事になる。常に放出していた魔力がいきなり閉ざされるわけだからな。外した後しばらくは、少々動くと違和感が絶えんぞ」
「違和感?」
「知らん。使った事は無いからな」
違和感、と言われて興味を覚えたらしいのだが、残念ながらフェルはあれを使った事はない。なので知らない事だった。
「とは言え・・・その為にあるのが、そのジャージだろう?」
「その通り」
フェルの問いかけに、アテネが頷いた。アテネは魔力保有量を増大しろ、と命じているのだ。なのでやるべき事は似ていたのである。そうして、再び話題の本題に戻った。
「そのジャージの魔石を起動させると、身体に適度な負荷が常に掛かる事になります。それで訓練を行えば、効果的な魔力保有量の増大訓練が行えます」
「ほう・・・」
「あ・・・」
言われて、煌士が魔石に触れる。と、どうやらそれがスイッチだったらしい。アテネが止める前に動いた煌士に、思わずあ、と口を開ける。
「む・・・む・・・?」
「どうした、煌士?」
何故か訝しげな顔をして動きを止めた煌士に対して、空也が首を傾げる。本当に正真正銘動いていなかった。動いているのは顔だけだった。
「う、動けん・・・」
「は・・・?」
「はぁ・・・何か説明をする前に触る馬鹿が居ますか・・・そのままで反省していなさい」
動けなくなった煌士に対して、アテネが罰ということでそのままの放置を決める。好奇心は猫をも殺す、とはまさにこの事だった。
「あのジャージは、魔力を使って動かす物です。魔力を常に使って、動きを補佐してやるわけです。魔力を使わねば、足を動かす事も手を動かす事も出来ません」
「なるほど・・・」
説明を聞いた煌士が、魔力を身体に漲らせ始める。すると、ジャージに入っていたラインが光り輝いて、煌士がゆっくりと動き始める。どうやら説明通りの物らしい。
「ぐ・・・ぬぬぬ・・・なかなかに、これは・・・」
あのジャージはどうやらそれ相応の力を必要とするものらしい。かなり必死な表情が煌士の顔に浮かんで、10秒程で、彼の手は再び魔石に触れた。
「はぁ・・・はぁ・・・こ、これはなかなかに・・・」
「凄そうだね」
「ああ・・・わ、我輩も死ぬかと思った・・・」
肩で息をする煌士が、空也の言葉を認める。どうやらあれだけで非常に疲れたようだ。
「やれやれ・・・本来ならば、ジャージに魔力を通して腕だけに魔力を纏わせてやるものです。全力を、それを全身に纏わせれば、そうもなります。過剰に力を込めすぎて逆に固くなってしまった、という所でしょう」
呆れながらも、煌士に対してアテネが告げる。どうやら彼の場合力を入れすぎて、動きが鈍くなってしまっただけのようだ。
「魔力とは意思の力。強引に動こうとすれば、身体の動きも固くなります。適度に柔らかく、適度に強度を持たせて、動くのです。そのジャージは、それを訓練する為の補助道具、という所でしょう。その副次的な効果として、魔力保有量の増大を行うわけです」
アテネが改めて一同に告げる。と、そこでふと、鳴海が気付いた。魔力保有量の増大ならば、自分達は先のブレスレットだけで良いのではないか、と。と、言うわけでそれを口に出して質問してみる。
「ブレスレットじゃだめ?」
「貴方達の場合、逆に身体の動きを補佐してやる事が出来ていません。そちらの訓練が必要です。逃げようと思っても、ダメですからね」
「うっ・・・」
アテネに魂胆を見抜かれて、鳴海が息を詰まらせる。先の煌士の辛そうな顔を見て、なんとか逃げられないかな、と考えていたわけであった。が、彼女らの場合、本来の性質の方が重要なのであった。
「さて・・・とは言え、説明に時間を取られましたしあまり時間も無いですから、今日は説明はこれまでにしておいて、慣らし運転ということで早速体験してもらう事にしましょう」
「あのー・・・」
早速訓練をやるか、と立ち上がったアテネに対して、海瑠がおずおずと挙手する。
「はい、何でしょう?」
「僕もそれ、触って良いですか・・・?」
おずおずと海瑠が先ほどの水晶を指差す。言い出そうと思っていて、話題が元に戻ってしまって言い出せなかったのだ。
「ああ、そういえば途中でしたね。先を知っておく為にも、きちんと検査をしておきましょう」
立ち上がったアテネだが、先に実情を知っておかねばならないだろう、と思い直したようだ。なので彼女は残りの三人に対して、触れる様に促す。が、そんな海瑠であるが、何故か先に鳴海と侑子に先を促した。
「あ、先どうぞ」
「え、いいの?」
「じ、実は・・・」
「ああ、なるほど・・・じゃあ、お先に」
海瑠は実は先ほどまで正座していた――神様の前なので正座の方が良いかな、と思っただけ――ので、足がしびれてしまっていたのだ。というわけで、照れ臭そうに足を指差した海瑠を見て、侑子と鳴海が先に測定する事にする。
「5000同士、かー・・・天道系じゃないもんね」
「まあ、妥当といえば、妥当でしょう・・・海瑠、いけますか?」
「あ、はい。ごめんなさい・・・えっと、手を乗せるだけで良いんですよね?」
「ええ」
ようやく足のしびれが取れた海瑠が、アテネの許可を得て水晶に手を乗せる。そうしてしばらくして、検査が終わった。が、この結果に、思わずアテネ達さえ、絶句する事になった。
「なっ・・・2万・・・?」
『なかなかに高いのう』
「大方、カイトの訓練が効いているんだろう。おまけにブレスレットもある。驚くべきでも無い」
「それはそうですが・・・」
フェルの言葉に、アテネが何処か訝しげに頷く。確かに、可怪しくはない。すでに年単位で海瑠は魔力を扱う訓練の基礎をしている。そこにブレスレットという魔道具が入った事により、身体が魔眼の過負荷に耐える為に浬達以上に増大していても不思議はなかった。
「それに、これだけ保有していた所で使い方を知らねば単なるプールの水と一緒だ。使えん。それを貴様が教えるのだろう?」
「・・・それはそうですね。申し訳ありません。少々、取り乱しました。では、行きましょう」
フェルの言葉に、アテネもようように気を取り戻す。そうして、再び浬達はアテネに従って、歩き始める事にするのだった。
お読み頂き有難う御座いました。ちなみに、『Re-Tale』主人公のカイトの初期の保有量は約10万です。
次回は来週土曜日21時です。




