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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第51話 見え始める敵

 ゼウスの試練にまつわる後始末で何故か茨木童子達日本のやんちゃ者達に遊ばれる事になった浬達だが、その訓練はアテネの転入のその日の内に、開始されることになる。


「というわけで、これからはだらしのないお二方とその駄狐に代わって、私が皆さんの調練を行います」


 夕方。風紀委員会の見回りを終えたアテネが隠れ家に訪れると、そのまま指揮を開始する。一方、だらしないお二方と駄狐と名指しされた方は、というと、これ幸いと何もしない事を選ぶ事にしたようだ。


「あー・・・助かるなー・・・」

「インドラともあろうものが・・・現金な奴じゃのう」

「あん? この間に俺は好き勝手に出来んだろ。なら、止める理由がねぇな」


 御門も流石にとりあえず今日ぐらいは顔を出すか、と来ていたらしいが、アテネが仕切るつもりの様子なのでそろそろ抜けるかな、と考えている様子だった。


「私は別にサボるつもりも無いが・・・貴様がやるのなら、お手並み拝見、と行こうか」

「戦神の本領。見せてさし上げましょう」

「好きにしろ」


 一方のルイスは、というと、どうやら彼女はアテネがどう出るか、という方に興味を覚えたらしく、とりあえずはさせたい様にさせるつもりのようだ。こちらはいざとなれば口も手も出すのだろうが、今は様子見らしい。と、そんなアテネに対して、おずおずと浬が申し出る。


「あのー・・・」

「はい、なんでしょう」

「アテネ様が解呪してくれちゃったりなんかしてくれちゃったりしてくれたりは・・・」


 浬の言葉は、ある種もっともな意見だった。なにせ呪いの解呪さえ出来てしまえば、後は何事も見なかった事にして、スルーすれば良いのだ。敢えて茨木童子やわけのわからない剣士に狙われる理由がなかった。

 そして、ここでそんな事に手を貸してくれそうなアテネが来たのだ。聞いてみるだけ、損は無い様な来がした。が、そんな甘い目論見は、脆くも崩れ去る。


「はぁ・・・あなた達人の子は何故そうもこうも神頼みで終わらせようと・・・」


 ため息を吐いた後、アテネがくどくどとお説教を始める。敢えて楽そうな道を進もうとした事に対して、少しおかんむりらしい。


「良いですか。今回神様に頼ることが出来るのは、ひとえに貴方の兄が死力を尽くせばこそ。本来は、貴方方は我々に目通りさえ叶わぬ身。たかだか呪いの解呪をしてもらえる様な立場では無いのです」

「ごめんなさい・・・」


 アテネからくどくどと語られるお説教を、浬達は正座で聞く事になる。達、なのは何故か矛先が他の面子にも向いていたから、だ。というよりも、どちらかと言うと人間全体に向けられている様な感じがあった。


「そもそも、貴方達人間は何かあれば神頼み、と神様を頼り過ぎる。特に日本人はその向きが大きい。何でもかんでも神頼み。少しは人の身で何とかする術を覚えなさい。そも、先の水鏡とて神頼み・・・まあ、あれは世界を越える為なので致し方がない上、きちんと儀式を行っているのですから問題は無いのですが・・・」

「も、申し訳ありません・・・」


 繰り出されるお説教に、浬がたまらず頭を下げる。と、そんな一同を笑って見ていたフェル――御門はこれ幸いとナンパに遁走した――がそろそろ良いか、と制止の手を入れた。


「まあ、そこらにしておけ。あまり夜遅くになると、今度はそれらの親が気にするぞ」

「あ・・・そうですね。では、今日はミーティングだけにするつもりでしたから、そのままで構いませんよ」

「え・・・」


 そのままで、と言われた浬達一同は、思わず信じられない、というような表情を浮かべる。アテネはそのまま、と言ったわけだが、そのまま、というのは正座のまま、だ。

 アテネは気付いていない様子だったのだが、正座は慣れていない中学生にとってはあまり楽な姿勢ではない。擬似的に罰を与えられている様な物だった。とは言え、気付いていない以上、アテネから何か手が差し伸べられるわけでも無い。


「はぁ・・・」


 そんな一同を見ていたフェルは、少しだけくいくい、と足を崩す様に身振りで指し示す。なにげに彼女はよく気の回る女だった。そうしてそれを見て、一同――と言っても慣れているらしい空也は別だが――は安堵の表情を密かに浮かべて、足を崩した。


「? まあ、良いでしょう。とりあえず、今の貴方達に足りていない物は、何より身体です。身体能力が低い。低すぎる。明日からは訓練メニューを構築してきますので、それに従って、行動してください」

「あの・・・それで、部活などは・・・」


 侑子がおずおずと問いかける。やはり大会が近い身としては、気になるのはそこだ。と、これは意外な事に、アテネは認める事にしていた。


「部活には毎日出てください。体作りこそ、戦いの基本。運動は良い物です。良い精神は良い身体に宿る。怠らないよう、しっかりと運動してください。運動しているのに馬鹿みたいな精神を持つ男も若干名居ますが、気にしない様に」

「ほぅ・・・」


 アテネの言葉に、浬と侑子が安堵のため息を吐いた。どうやらアテネの方は部活の運動を身体能力の向上として、逆に推奨してくれるようすだった。


「で、他にも休日などにランニングなどを行います。ジャージなどについてはこちらで用意しておきますので、それを着用してください」

「あ・・・そこまでしてくれるんですか?」

「ええ。確かに私が解呪をする事はしませんが、逆にトレーニングを行う分には、力を貸してさし上げましょう。そこの所は任せておきなさい」


 海瑠の問いかけを受けて、アテネがはっきりと請け負う。それに、少し一同は安堵した。フェル達はやってくれているのかやってくれていないのか不安な感じがあったが、アテネは真面目そのものだ。手抜かりがあるような感じはなかった。


「あの・・・それで、一つ聞いておきたいのですが・・・」

「なんですか、天道の子息」


 請け負ったのを一つの区切りとして、煌士がアテネに問いかける。それは今までまだ見えていない敵について、だった。ちなみに、彼が丁寧な言葉遣いなのは、父の関係もあり流石にダメだろう、という判断だった。


「それで、誰が我々の所に来るのでしょうか?」

「ああ、それですか・・・誰なのかは詳しくは知りませんね」

「電話をして聞けば早い」


 実は知らなかったアテネに対して、フェルがスマホを取り出して告げる。敵は日本の大妖怪やそれに比する者達であるのだが、彼らも日本で暮らしている以上普通にスマホも持ち合わせているし、使いこなしていた。意外と彼らも文明に染まっていたのである。


「・・・ああ、出たか。おい、茨木。貴様が今進めているちょっかい。誰が加わっている?」

『ああ? ああ、あれか・・・内緒』

「あ?」

『あ?』


 何も答えなかった事に対して少し怒気を滲ませたフェルに対して、逆に茨木と言われた相手が嫌そうに声を出す。とは言え、ため息混じりに、もう少しだけ、情報を開示してくれた。


『はぁ・・・誰でも良いだろ。適当に加わる奴は加わるし、加わらねえ奴は加わんねえ。後で見て興味覚えた奴はそっち行く。俺達は基本的にゃ相互不干渉だ。どっちかってと、今回加わったのはカイトに好意的な奴らだろ。思惑わかってんだからな』

「ふむ・・・それもそうか。声を掛けたのは?」

『祭り上げられてる様なの以外は大半に声をかけてるから、大半知ってんぜ・・・ああ、封印されてる奴らは、除くけどな』

「奴は?」

『はん・・・奴と遭遇してる、ってんなら、今頃あんたの耳に入ってないはずがねぇだろ。土蜘蛛はどっか行ってるぜ。時々、暴れてるって情報は入ってるけどな』


 茨木が少しの呆れを滲ませながら、そう告げる。それに、フェルもそれもそうか、と思い直して、情報はこれぐらいで良いか、と判断する。


「そうか。まあ、貴様が来る時は言っておけ。面白そうな奴を出してやる」

『あの化物の妹と弟で頼むぜ。ありゃ、面白そうだ』

「考えておいてやる」


 茨木の言葉に、フェルが笑みを滲ませながら告げる。別に彼が浬と海瑠を殺すという事はありえない。そこらは分別を弁えている。と言うか、彼とて後が怖い。そうして、通話を切ったフェルが、得た情報を開示する。


「わからん、だそうだ」

「あらら・・・」

「大半の奴に声を掛けたらしいからな。来る奴は来るだろうし、来ない奴は来ないだろう、だそうだ」


 親しげに話していた上に幾つかの情報を得ただろう風に見えたのだが、予想に反して皆無だった情報に、一同がたたらを踏む。とは言え、今のでも十分に情報だった。


「つまり、誰もわからない、ということか・・・」

「いえ、十分にそれで大丈夫です」


 少しだけ苦い顔をした空也に対して、アテネが断言する。大半の者に声を掛けた、と言って、その前にフェルは茨木、と名前を告げたのだ。そこから、気付くべきだった。


「今電話をしたのは、茨木童子。彼が発起人なのでしょう」

「茨木童子・・・それはもしや、かの酒呑童子伝説の茨木童子か!?」

「知ってるの?」


 出された名前に興奮した煌士に対して、浬が問いかける。まあ、酒呑童子伝説だ。今時の中学生ならば、知らない者が居ても不思議は無い。


「酒天童子とは大昔に京都を荒らしに荒らした大妖怪! 鬼の総大将とも言われる大御所だ! 茨木童子とはその配下の中でも腹心中の腹心! 唯一生き残っている可能性がある、とは思っていたが、まさかこんな所で聞けるとは!」


 もしかしたら会えるかも、ということで煌士が興奮を滲ませながら、茨木童子を知らない面子に対して解説を行う。知る者ぞ知る、という名前ではあったが、かなりの大御所だったようだ。彼の興奮っぷりから、一同はそれを悟る。


「ほう・・・どうやら貴方はそれなりには、知識は身に着けている様子。解説の必要はありませんね」

「うむ! 我輩、これでも神童と呼ばれている! 他にも茨木童子の特徴といえば、隻腕である事を忘れてはいかんな!」

「隻腕?」


 最大の特徴を出されて、海瑠はある事を思い出す。忘れられるはずもない。それは全ての始まりの日となった日に出会った大男の事だった。


「腕が無いんですか?」

「うむ・・・良くわかったな。<<鬼切丸(おにきりまる)>>、もしくは<<髭切(ひげきり)>>という刀で、右腕を切断されている」


 海瑠からの問いかけに、煌士が少し訝しげに頷く。これからそこらを説明しようか、と思っていた所だったらしい。


「それってもしかして、あの時の・・・」

「む?」


 海瑠の言葉に、浬達も同じく隻腕の大男の事を思い出す。そんな奇妙な反応に、煌士が更に疑問を深める。


「いえ・・・実は・・・」


 もしかして、と思った事を、海瑠がゆっくりと話し始める。その顔は少しだけ、青ざめていた。未だに、思い出すだけで恐怖が蘇るかの様だったらしい。

 とは言え、それを理解出来るのは魔眼を持つ彼だけだ。なので、煌士はどう考えても茨木童子だ、としか思えない大男と遭遇していた一同に、羨ましげに声を上げる。


「なんとぉ! 羨ましい! うらやましすぎるぞ! むむむ・・・あの時早く帰らねば・・・」


 祖父に呼び出されてあの日は早帰りをした煌士であるが、そうであるが故に会えなかった大物に、臍を噛む。おまけにもしも巻き込まれていれば御門ことインドラと明らかに上位の堕天使らしいフェルの戦いが見れたのだ。残念で他ならなかった。


「あんたね! あれ、無茶苦茶怖かったんだからね!」

「良いではないか! 現に助かっているのだからな! インドの神々の長たるインドラの戦いだぞ! 大枚叩いてでも見たいという者は山程居る! 我輩とて叶うなら全財産を叩いてでも見たい!」


 実際に見て恐怖した浬に対して、それを見る事が叶わなかった煌士が抗議の声を上げる。通常はだらしのない御門であるが、その真実はインドの神々の長のインドラだ。

 その戦いなぞ滅多な事で見れるものではない。普通は、彼の配下の誰かがやるべきであり、やることなのだ。動画を取って売りにでも出せば、数億円は下らないだろう。

 と、そうしてしばらくの間、二人は言い合いを始める。が、それもしばらく、だ。フェルが止めに入ったのである。


「はぁ・・・そろそろやめろ。無駄な時間をあまり使わせるな」

「あ・・・ごめん」

「むぅ・・・」


 フェルから注意されて、二人が矛を収める。そうして話が終わったのを見て、アテネが再び話し始めた。


「続けろ」

「やれやれ・・・さて、では続けましょうか。おそらく、敵は茨木童子を筆頭に、そこらの有名ドコロを調べれば良いでしょう。そこらは、あなた達がやりなさい」

「有名ドコロか・・・煌士、知っている名前を後でリストアップしてくれるか?」

「あいわかった! 有名ドコロを書き記していけば良いのだな!」


 名前は少し記憶を辿るだけでも山程頭の中に浮かんでくるし、今時少しネットで調べれば更に多く出て来るだろう。公然と調べて良いし、おまけに出会えるかもしれないのだ。煌士としては楽しみでならなかった。そうして、そんな煌士を横目に、とりあえずアテネが終了を告げる。


「と、言うわけですので、とりあえず今日は帰りなさい」

「あ、はい。これからよろしくお願いします」


 一同がアテネの言葉に、頭を下げる。こうして、この日から一同はアテネ指導の下、来るべき厄介者の相手をする為の訓練を始めるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日21時です。


 2018年6月23日 追記

・誤字修正

『告げる』が『告げr』となっていた所を修正しました。

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