第45話 御門 刀花
私事で非常に申し訳ないのですが、昨夜急な不幸があって非常に立て込んでおり、本日一日は感想を頂いてもお返事出来るかわかりません。ですので、ご返事が明日になるかもしれません。そこの所は、ご了承ください。
カイトと刀花の会話が終わって、すぐ。その異変は彼女らにとっては、あまりにも大々的な物だった。
「はぁ・・・」
「ん・・・?」
カイトがため息を吐いて、刀花が首を傾げる。二人共、共通して、違和感を感じていた。まあ、感覚の差から、カイトの方がどうやら鋭敏だったようだ。異変の隅から隅まで理解している様子だった。
「どっかの馬鹿が手を出したらしいな。まあ、どっかの馬鹿程度だ」
「それは日本を脅かした事のある大妖怪だと思うのだがな・・・」
カイトの言葉に、刀花が呆れ返る。カイトはかつて覇王が言った様に、彼以外に抑止が不可能な者達を、配下に引き入れている。
というよりも、カイトの門下に加わる事と引き換えに、日本国とその裏を支える皇家を中心とした陰陽師達からお目こぼしを貰う事を許可されていたのだ。
が、ここで問題なのは、カイトの門下に加わる、という所だ。これはカイトの指示を絶対として、日本国の法律に従う、という意味では無い。彼らは人間では無いのだ。人間の集合体を円満に動かすための日本国憲法や法律で縛ると、どうしても無理が出てくる。そして人間のために作られた物に従う彼らでは無い以上、若干のお目こぼしはしなければ、ならなかった。
カイトは程度にもよるが、彼らには好き放題させる事にしている。大妖怪と言われる奴らなのでそれが好き放題すればそれ相応に被害は出るが、その一人頭年に数人の死傷者は必要悪として、割り切っている。日本は人間以外を含む多種族国家である以上、そこの所は割りきらなければ為政者なぞやってられない。
それに、この世界に密かに存在している『魔物』と呼ばれる存在による被害の方が遥かに多い。その対処に彼らの強大な力が非常に有用である事を考えれば、たった数十人、多くて百人程度の犠牲を許容してでも、一億数千万人の生命を守るのは、至極当然の判断、だった。
彼らの有益性と不利益を天秤にかけて、有益性を日本国も陰陽師達も取ったのだ。巻き込まれた犠牲者達には悪いが、それはもはや諦めてもらうしか無い。安易に裏に触れた犠牲者達が悪いか、巻き込まれた不運を呪え、というだけだ。そして浬達は、この後者、だった。
「さて・・・では、どうするかね」
「カイト殿が向かわれないのか?」
「オレが? 悩ましいな」
「?」
カイトの言葉に、刀花が首を傾げる。囚われているのは、彼の弟妹と、彼の親友の弟、そして、彼の本体と関係の深い少女の弟とその護衛だ。彼の性格を考えれば、見過ごす道理が無かった。そんな疑問を浮かべる刀花を見て、カイトが苦笑する。誤解されている様子だった。
「ああ、いや、救わない、という話じゃない。覇王殿から頼まれた経緯があるから、偶然見た事にしてオレが行くのも良いが・・・と言うところだ」
「ああ、そういうことか」
「そういうこと」
刀花の疑問に答えたカイトは、店先で少しだけ、考える。確かに、自分が行くのもありといえば、ありだ。だが、少し理由付けは劣る。ということで、そんな悩みを見た刀花が申し出た。
「なら、私が行こう。丁度近くに居るからな。相談を受けた後すぐの一件のため、とでも言い訳が効く」
「・・・そうするか。頼んだ。オレはお前の実力がこの数年でどこまで高まったか、見せてもらおう」
「そうしてくれ」
刀花の言葉を聞いて、カイトが背中を向ける。人気のない所に向かい、小鳥の姿になるつもり、だった。そうして、他方刀花はそのまま、歩き始める。向かう先は当然、結界の境界面だ。
「ここか?」
「ああ、来たのか。久しいな」
結界の境界面に立つと、それと同時に内側に居た時とは違い洋服姿の男が片手を上げる。まあ、この応対を見ればわかるが、二人は知り合いだ。まあ、刀花もカイトの配下である以上、不思議は無かった。が、どうやら男の事を知っていたが故に、刀花は思わず、驚きを露わにする。
「ん? まさか御身までこのような戯れに参加しているのか?」
「いや、これは拙が仕掛けた物だ。なかなかに楽しい若人がいるのでな。たまさか遊ばせてもらおうとな」
かかと笑いながら、男が告げる。そこには悪辣さは無く、何処か朗らかさがあった。まあ、この様子を見れば、どうやら彼が真実中の浬達に害意は無い事が理解出来るだろう。
「うーん・・・とは言え、御身の仕業といえども、私も御門一門のトップとして、このような悪戯を見てしまっては見過ごすわけにはいかないのだが・・・」
「知っとる知っとる。だから、こうして出迎えてやったのだろうに」
職務としてこの様な悪戯紛いの事の制止をやっている以上、刀花が見過ごせない事は男も承知の上、だったようだ。時間稼ぎというか適度に邪魔されないために、自らが出てきたのだろう。
「ということは、私は試される事になる、ということか?」
「よくわかっているようだな。では、一試合所望する」
「やれやれ・・・」
言うや浬達がとらわれるとは別の結界を創り出した男の言葉に、刀花が肩を竦める。男の性質上、刀花を殺す事は無い。と言うより、殺せない。これはどちらかと言えば、男が殺そうとしないからだ。
「はぁ・・・装束を着替えるから、待ってもらえるか? これ、一応弥生殿のコーディネイトなので・・・失うと、まあ・・・申し訳が立たないというかなんというか・・・」
「カカカ! あの数年前はオシャレなぞには全く気を遣わぬ娘子が言いよるわ! 構わん構わん。拙はどうせ時間さえ稼げればそれで良い。ゆるり、着替えると良い」
数年前の自分を引き合いに出されて少し刀花は頬を染めるが、とりあえず着替えなければ彼の思う壺だ。そして刀花は少し物陰に隠れて、巫女装束に着替える。
「えっと・・・刀は・・・あった。彼相手だから、これの方が良いか」
巫女装束に着替えた刀花は、自分がカイトから与えられた魔道具を操って、収蔵している武器の中から一振りの刀を選ぶ。それは深い反りを持つ見事な刀、だった。
「ほぅ。拙を相手にそれを取り出してくるか」
「御身相手になまくらを出せば、即座に切り裂かれる。これを使わなければダメだと思うのだが?」
「結構結構。良い判断。数年の間カイトの下で修練を積んだ経験が出ておるな。まあ、優秀過ぎるのも、考えもの。いやさ残念。おんしがそれに認められなければ、と思うのだが」
「別に同時に認められても良いと思うのだが・・・」
「いやいや、やはりそこらは色々と思うのよ。あの剣聖殿やカイトであれば、確かにそれも悪くはない。だが、今のおんし程度の実力のおなごに浮気されては、立つ瀬がない」
カカカ、と笑いながら、男は身に纏う魔力を高めていく。別に何も呑気に雑談をしていたわけではないのだ。機を見る、という所だろう。
「では、御門一門当主・御門 刀花。御身に一太刀馳走致す!」
「よかろう。お相手仕る!」
刀花の名乗りに、男が応じる。そうして、二人は同時に、鯉口を切った。
「ふーむ。やはり見事な反り。美しい・・・拙から見ても、惚れ惚れする。嫉妬もない。<<大典太光世>>。まさに天下五剣に相応しい美しさよ」
「あまりその名前を出さないでもらいたい。バレると問題だ」
天下五剣。それは日本の刀の中でも特に優れたとされる5振りの刀の総称だ。刀花は少しの縁から、実はこの天下五剣の一つである<<大典太光世>>という刀の持ち主になっていたのである。
「まあ、そう言うな。<<大典太光世>>は見事な拵え。拙が褒めるのは当然よ」
刀を幾度も交えながら、何処か陶酔したような男が告げる。お互いに、まだまだ全力では無い。全力と言える段階には程遠い。だから、余裕があった。
「まあ、とは言え・・・<<大典太光世>>がおんしを選んだのは至極当然。御門一門としてではなく、皇分家の生まれとして、当代最大の力を持ち合わせたおんしであれば、そこまでの霊力を兼ね備えた<<大典太光世>>は扱えん。扱えん者を使い手や持ち手として選ぶ天下五剣ではない」
「では、その霊験あらたかな一撃・・・食らって満足に退場していただく!」
そろそろエンジンを掛けるか、と思ったらしい刀花が、一気に総身に魔力を漲らせる。それはさすがは天下五剣と男が褒めそやした<<大典太光世>>に収束して、その魔力と共鳴しあう。
「むぅ!?」
さすがの男も日本でも有数の霊験あらたかな刀の一撃には、目を見開く。使っているのが、日本でも有数の陰陽師――と言っても元、だが――である刀花であった事も大きい。とは言え、刀花の一撃は男の刀を切り裂いて、しかし、男の手のひらによって、止められた。
「ふぅー・・・」
「はぁ・・・この刀はもう使えんか・・・すまぬな・・・」
残心の様に息を吐いた刀花の前で、男は<<大典太光世>>から手を離すと、切り裂かれた刀に手を合わせて、鞘に大切に仕舞い込む。後で供養するので、無下には扱えないのであった。
「これで、満足召されたか?」
「ああ、良かろう。通れ」
刀花の言葉を受けて、男がその場から一歩だけずれる。そうして男のズレた先には、浬達が籠城をしている結界の中への裂け目があった。
そうして、刀花はその裂け目を通り、苦笑した。そこにはうじゃうじゃと式神達が屯していたのである。どう考えても、男の妨害工作だった。
「さて・・・まったく。どうせならば全て片付けてくれていれば良いものを」
刀花は一人そうごちると、殺到する目の前の式神達へと、先の<<大典太光世>>とは別の刀を取り出して、構える。
「この程度のおもちゃに手間を掛けるわけにはいかないな」
「ええ、そのとおりです」
いきなり聞こえてきた声に、刀花が首を傾げる。が、そうして現れた少女を見て、その疑問は氷解した。現れたのは、盾と槍を持った戦装束の美麗な女神だ。
「アテネ殿? 御身がどうされた?」
「いえ、少しショッピング・モールへ来たのですが・・・そこで偶然結界を見つけまして。何事か、と見たら貴方が居ましたので。何事かはわかりませんが、支援致します」
どうやらアテネは水瓶の関連でまだ滞在していたらしい。少し離れた所を見れば、彼女が買い揃えたらしい買い物袋が置かれていた。
ちなみに、アテネがこの結界の内部に平然と入り込める理由は、簡単だ。男よりも遥かに彼女の方が強いから、だ。如何に刀花を相手に戦った男でも、アテネを相手に時間稼ぎ、と考えるわけもなかった。
「それはありがたい。是非に、お願いしてよろしいか? 実は中にカイトの弟妹達が囚えられていて、その救援に向かうつもりなんです」
「彼女らが? わかりました。では、私は後ろ側を。貴方は前に進みなさい」
「かしこまった」
背中を守る様に移動したアテネの申し出を受けて、刀花が頷いて、刀を構える。煌士達は苦戦した式神であるが、彼女らにとっては、単なる雑魚だ。
まあ、煌士らを殺さない様にしたのだから、致し方がない話ではあっただろう。そうして、アテネが槍に魔力を通して、極太の魔力のレーザーを放つ。
「参ります!」
極太のレーザーで出来た隙間に、アテネが盾を構えて突っ込んでいく。そしてそれを背後に感じて、刀花も刀の鯉口を切った。
「さて・・・とりあえずは炎だな」
刀花は目の前に居並んだ式神達を見ると、抜き放った刀に手を当てて、意識を集中する。
「火之迦具土殿、力を貸してください・・・金は水を生み、水は木を生む。そして、木は火を生む・・・<<焔の太刀>>」
ごぅ、という音と共に、刀花が手に持った刀が炎に変わる。五行相生という理に則り、更に炎の神の力を借り受けて、刀身を炎へと変えたのだ。陰陽師ならではの戦い方、だった。
「ふっ!」
刀花は一息に、炎に変わった太刀を振るう。そうして、炎の刃が触れた式神は、それだけで塵に変わる。見た目に煌士達の火炎放射ほどのど派手さは無いが、その分火力は収束しており、攻撃力も段違いに高かった。
「手応えが無いな。なら・・・はっ!」
刀花は更に少しだけ更に魔力を込めて、炎の太刀を振るう。すると炎の太刀から、火炎の斬撃が飛び出して、紙で出来た式神達を薙ぎ払っていく。敵の防御力が弱かったので、この程度の攻撃で良いだろう、と判断したのである。
「良し。では、行くか」
炎の斬撃を放つ炎の太刀を振るいながら、刀花はアテネとは逆方向に歩き始める。敵は雑魚ばかりなので、よほど油断でもしなければ不意を打たれても問題は無かった。そうして暫く歩いて行くと、式神達がある一つの店を襲撃しているのが見えた。
「あれ、か?」
中に囚われているのは浬と海瑠の姉弟、煌士達三人組だけ、とはカイトから聞いていたが、それらとは別に居ない限らないし、彼らが一箇所にまとまっていない可能性もある。なので少し様子を伺う事にして耳を澄ますと、中から先ほど聞いた声が聞こえてきた。
「当たりか。アテネ殿、こちらが当たりだったようだ」
『そうですか。では、こちらは邪魔にならないように、この木偶の坊達を焼却しておきましょう』
「かたじけない」
刀花は念話と呼ばれる一種のテレパシーの様な魔術を使ってアテネに連絡を入れると、そのまま店に襲撃を掛けている式神達に向けて、炎の太刀を構えた。
「はっ!」
敵が一箇所に固まっているのを見て、刀花は更に魔力を込めた斬撃を放つ。その一撃で、店の前に屯していた式神達はほぼすべて、消し炭になった。そうして見えた火炎放射を見て、刀花が今何が起きているのか大体を把握する。
「<<火炎陣>>か。よく出来ているが・・・金は水を生む・・・<<流水の太刀>>」
とりあえず、このままではどうやっても店の中には入れないし、火炎放射の音が五月蝿くて中とやり取りは出来ない。なので刀花は一息に炎の太刀を今度は水の太刀に作り替えて、斬撃を放つ。
「え?」
「いや、遅れてすまないな。外で妨害にあってね」
いとも簡単に切り裂かれた火炎放射に呆然となる煌士達を前に、苦笑しながら、刀花が告げる。そうして、刀花は浬達の救助に成功するのだった。
お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日21時です。




