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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第3章 騒動の開始編

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第36話 もう一つの日常

 海瑠が日常を受け入れていた様に、浬もまた、日常を受け入れていた。それは当たり前で、代わり映えのしない一日だ。


「で、そういえばお兄ちゃんは元気なの?」

「それは当たり前だ。私が定期的に魔力補給をしているからな」


 浬の問いかけに、フェルが頷いた。別に戦う事さえ無ければ、大して動く必要も無いのだ。なので何かが問題が起きるはずは無い。

 ちなみに、本当は定期的に魔力を補給する必要は無く、ただ単にフェルが一人で寂しいというだけである。彼女は実は一人でいる事を結構嫌っているので、それを知るカイトがこまめに訪れているのであった。なので実はフェルの言う通い夫とはカイトの事であった。


「そういえば・・・フェルちゃんって来年はどうするの?」

「ん?」

「留学生って扱いなんでしょ?」


 丁度三者面談のお知らせのプリントを提出したところだったので、浬がフェルに問いかける。彼女が既に人外であることは既知だ。それ故、中学終了後について興味を覚えたのである。


「ああ、それか。当分は貴様と一緒の道に進むだけだ。御門はこの街の防衛がある。となれば、奴の家族を守るのは私しか居ない」

「なんだ」


 フェルの答えに、浬が少し面白くなさそうに言おうとして、はたと気付いた。


「って、ちょっと待って。どうやって私の進路探るつもり?」

「何だ? 気になるのか?」

「いや、気になるとかじゃないよ」


 どう考えてもプライベートの問題だ。フェルに言うつもりなら別だが、そのつもりは今のところ無い。まあ、聞かれれば答えるかもしれないが、その程度だった。


「普通にネットだ。今時種類を提出するにもネットだろう? 貴様も同じのはずだ」

「・・・うん。そうだけど・・・」

「なら、後はデータをハッキングすれば良いだけだ。まあ、そもそもで業務データそのものから貴様らの志願書は此方に回る様になっているがな」

「え・・・」


 かなり引き攣った顔で浬がフェルの顔を見る。プライバシーの侵害云々を全く気にしていない事に流石にドン引きするしかなかった。だが、そんな浬に対して、フェルが呆れ返る。


「あのな・・・貴様はカイトが何処の会社の重役か忘れたのか?」

「・・・え?えーっと・・・ごめん。事務所の顧問しか覚えてない」


 浬にとって最も印象に残ったのは、自身が熱心なファンを自称するエルザの事務所の事務所の顧問が兄だったことだ。それ以外の事は殆どどうでも良かった。


「はぁ・・・そのエルザ達は何処の会社の社長だ?」

「・・・え?あの二人って会社やってるの?」

「はぁ・・・」


 全く兄の話を聞いていなかった浬に、ため息を吐いてフェルが呆れる。だが、呆れたままでは会話は続かない。なので、フェルは本当に致し方がない感じで、解説を開始した。


「アルター社だ。貴様も聞いた事ぐらいはあるだろう。プログラムの設計から効率化までを行う老舗IT企業だ。天神市にある支社のシステムサーバの中には天桜の在籍情報等も入っているぐらいだぞ・・・天神市の殆どの学校・企業がアルターのシステムを導入している。天道財閥も提携している企業の一つだ」

「そ、そうなの?」

「なにせ、魔術と科学の融合の分野に掛けては最高の性能だ。使わない道理は無いだろう」


 浬の驚いた様子の問いかけに、フェルが楽しげに笑う。エリザが社長を務めるアルター社には当然だが、カイトが居る。というよりも、彼は真実としては幹部ではなく社主だ。

 なので彼はその立場と異世界の技術を応用して、地球では決して破る事の出来ない魔術を応用したハッキング対策ソフトを開発してのけたのであった。こればかりは、人間に出来る事ではなかった。

 実はカイトが運営するキズナサーバーが何処からも発見されないのは、魔術を応用した防御障壁が展開されている所為なのである。流石に魔術において数世代先を行く異世界の技術を応用して作った防壁を、単なるハッカーが破れるはずがなかった。

 とは言え、そのキズナサーバーにしても政府のシステムにしても、実は去年のアップデートで全てにアルター社の技術が採用されている。そしてカイト達しか知らないバックドアがあるので、簡単に情報を手に入れる事が出来たのであった。


「聞いたことは無いか? Alter(アルター)社は世界を創り変え、もう一つの世界を創り出します、と」

「あ・・・そういえばコマーシャルでもハッキング防御実績99%とか言ってたっけ・・・」

「残りの1%は自分達が雇ったハッカー役のプログラマだ」


 フェルが笑いながらコマーシャルの下の方に小さく書かれていた文言を告げる。つまり、身内しか破られていない防壁なのだ。しかも身内なのでそれが発見される度に改良されている。実質的に不敗に近かった。それは何処の企業でも採用するだろう。

 ちなみに、この防壁はあまりに強固すぎてハッキング出来ないと一度某国のお偉いさんから密かにお叱りと協力要請があったことは、横に置いておく。


「あのキズナサーバーがなぜ、発見されないかこれでわかったか?」

「それって・・・あのお兄ちゃんとティナさんがやってるサーバー?」

「それだ」

「もしかして・・・あれも?」

「市販品の数倍上の防御を敷いているらしいな。ティナが息巻いていた」


 フェルがクスクスと笑いながら浬の問いかけに答える。それを見て、浬は何処か納得の出来る様な出来ない様な気がした。だが、そんな浬を放っておいて、フェルはようやく本題に戻った。


「まあ、それは良いだろう。でだ。カイトと私は繋がっていて、カイトはアルター社とつながっている。となれば、今現在カイトの代理である私にも情報は上がってくる。アルターに命ずれば普通に貴様の進路なぞ手に取るようにわかるぞ」

「そ、そりゃまた・・・」


 フェルからあっけらかんと流出ルートをバラされて浬が引き攣った顔で納得する。そもそもで今の日本のほぼすべての情報網にアルターの技術が使われている。覇王を通してアルター社のデジタル防御技術導入を進言されて、必要ならばやるという性格の星矢が日本政府に採用を強く要望して、採用されたのであった。

 実はその御蔭でカイトの下には採用された多くの政府と企業の秘密情報が集まっていたりするが、そこはカイトという戦略家の悪どさであった。


「安心しろ。何もキズナサーバーでやり取りしたデータについてまで覗き見ているわけではない。そこまでアルターとて暇ではない・・・と言うより、そんな暇は無いからな」


 ぼそり、と最後は小さくフェルが呟いたお陰で、浬に聞かれる事はなかった。なので、浬はとりあえず目先の疑問が片付いた事もあって、進路に話を戻した。


「まあ、私はとりあえず桃女と天嶺を受けるつもりだよ。天嶺の方が近いから、なんとか自転車で通学出来ないわけじゃないし。天鳳は滑り止めかな」

「そうか。なら、桃女がおすすめだ」

「そうなの?」


 まさかフェルからアドバイスが貰えるとは思っていない浬は少しだけ目を瞬かせて問い返した。とは言え、これは単なるアドバイスなのではなく、別の思惑が滲んでいた。


「桃女にはカイトの知り合いが居る。私が貴様のおもりをしなくて済む」

「よ、要はフェルちゃんが楽したいだけね・・・」

「当たり前だ。貴様がカイトの妹でなければ、誰がガキのおもりをしてやるものか」


 そもそも惚れ込んだ男の妹、つまりは自分の未来の義妹であればこそ、フェルはここまで面倒を見ているのだ。そうでなければ面倒を見るはずがなかった。そうして、浬は浬で普通に日常生活を楽しむのであった。




 一方、その頃の空也はと言うと、彼は少しだけ思慮に耽っていた。思い返すのは、先ごろのゼウスの試練だ。


「父さんは今のレベルで十分に使い物になる、と言っていたけど・・・」


 そう呟いて、空也はため息を吐いた。確かに、今のレベルで護身術としては十分に役に立つだろう。それぐらいは、様々な危険が常に身近な空也は理解していた。今でも身体能力を強化しさえすれば、確実に拳銃を持った相手にだって竹刀一つで戦えるだろう。

 だが、それでも。それでなお、全く勝ち目の無い相手が居たのだ。いや、それどころかその状態でさえ手加減されていた事を空也は理解していた。

 なにせ後々落ち着いて考えれば、鷲が本気になれば大きな状態でも校舎の中に突っ込んでくる事は出来たはずなのだ。そうなれば、如何に自分達とて避ける事も防ぐ事も出来ずにただ捕まるしかない。つまりは、遊んでいてくれていたのである。


「ふぅ・・・全く。ままなりませんね」

「会長、考え事ですか?」

「ん、いえ・・・まあ、そんなところですね」


 ぼんやりとしていた所をどうやらクラスメイトに見られた様だ。ちなみに、空也が部長では無く会長と呼ばれたのは、彼が生徒会長も兼任しているからだった。此方は煌士と違い、しっかりと業務を堅実かつそつなくこなしている。


「会長でもそんな事があるんですね」

「あはは。私も人間です。スランプに陥る事はありますよ」


 もともと物静かな性格で、更に真面目で器用な性格だ。それ故どうやらクラスメイト達からは完璧な存在だと思われていたらしい。だが、実際には今の様に悩む事もある。それを表に出さないだけだ。


「会長の悩みってどんなことですか?」

「・・・そうですね。久しぶりに敗北を味わいました」

「・・・え?」


 物は試しで聞いてみたクラスメイトだったのだが、まさか帰ってきた答えが自分達に想像も出来ない事だとは思っても見なかったらしい。クラスメイト達は少しだけざわめき、顔を見合わせた。だが、その顔に浮かんでいたのは、どれもこれも眉の根を着けた怪訝そうな顔だった。


「・・・えっと、振られたんですか?」

「ぷっ・・・いえ、そうではないですよ。ただ単純に、少し遊ばれただけだったな、と」


 思わず帰ってきた頓珍漢な答えに吹き出した空也は少しだけ、語れる部分を語る。流石に変な誤解を与えたままにはしておきたくなかったらしい。


「は、はぁ・・・」


 空也から僅かにでも答えを告げられ、クラスメイト達は怪訝ながらもとりあえずは納得する。ともすれば中学生とは思えない様な運動能力を見せる空也を軽く弄ぶ相手を一切想像できなかったのだ。だが、そうでなければ空也が悩むとも思えない。


「・・・昼には少し、道場で落ち着きますか」


 悩んだ時には道場で瞑想するのが彼の行動だ。一度意識を休めてしっかりと現状を見つめ直せば、悩みが解決しないまでも、一区切り付けることは出来る。これが彼の流儀だった。


「さて・・・」


 昼休みに入り、食事を食べて顧問に一言断りを入れて空也は学校所有の剣道場にて正座を行う。すると、静かな静寂がすぐに訪れた。

 昼休みの喧騒はここまでは届かない。考え事をするには丁度良い空間だった。それに、魔力についてを考えるには、この場の誰もいない、という利点が最も役に立った。


「・・・これが、魔力。単なる魔素(マナ)なる物質の集まり・・・」


 掌に魔力の塊を創り出して、空也はぼんやりとそれを眺める。そして、ふと思い立ってそれを竹刀の形にまで変形させていく。だが、その途中でその試みは失敗した。直線状にはなったが、柄や先革、中結、弦と言った道具を創り出す所で、何時も失敗するのだった。


「まだ・・・私では自らの得物を創り出す事は出来ない、か」


 空也が無念さを滲ませて呟いた。熟達の戦士ならば、見る間に竹刀の形状に変化させるだけでなく、実際に竹刀と見紛うばかりの物を創り出すという。そして、実際に熟練の戦士である御門はそれをいとも簡単にやってみせた。

 だが、その為には若干の適正と無数の修練が必要で、更にはその作りたい道具についてをまるで自分の手足の様に把握していなければならないのだ。

 ちなみに、御門がバスケットボールを創り出す事が出来たのは簡単に言って、それがボールという簡単な物だったからに過ぎない。それがもし武器となると、難易度は桁違いになるのだった。


「剣の道を歩み始めて既に10年・・・まだ、私は自らの得物さえも習得していなかったわけか」


 そんな悩みを浮かべた空也に、ふと、誰もいないはずの剣道場に声が響いた。


『わっぱ・・・問おう』


 イキナリ聞こえてきた声に、空也は周囲を見渡す。だが、そこには誰も居なかった。声からすれば老齢の男の声なのだが、何処を探しても、そんな老人の姿は存在していなかった。


『おんしは刀は帯びた事があるか?』

「・・・いいえ」


 空也は少し悩んだ結果、正直に答える事にした。どう考えても魔術に関連する者のはずで、警戒しなければならないはずの相手だ。だが何故か、声からは敵意も何もなかった。だからこそ、空也は答えたのだ。


『竹刀は所詮、人を殺さぬ道具。わっぱはそこを勘違いしている。それで人を害する武器を創り出そうとしたところで、無理なのは道理。人を害する道具では無く、剣の道を極める道具を創る事を心がけてみよ』

「・・・一つ、問わせていただきたい」

『良かろう・・・』

「なぜ、御身は私に助言をくださるのですか?」


 声の主の助言に従う前に、空也はここを知っておく必要があった。現在までに、自分の属する集団がかなりの恨みを買っている事は既に空也も聞き及んでいる。安易に単なる助言だと思い込んで万が一があれば、ともすれば相手に利する行為になりかねなかったからだ。


『我が名は塚原 卜伝(つかはら ぼくでん)・・・わっぱの技量を見た者よ』

「なっ・・・」


 相手の名前を聞いて、空也が絶句する。塚原ト伝。剣を志す人間ならば、誰もが聞いた事のある名前だ。カイトの師・上泉信綱と並んで剣聖――卜伝は正確には剣鬼だが――と呼ばれる男だった。一剣士として、それを知らない方がどうかしていた。

 そして、空也はそれを疑う気はなかった。いや、それどころか出来なかった。なにせ絶句から我を取り戻して意識を前にやると、目の前に平然と老人が立っていたからだ。

 確かに、何らかの魔術による幻影の可能性は十分にありえた。だが、彼の有する立ち振舞こそが、それを否定していた。明らかに、剣の道を極めている。同じく剣の道を進む空也だからこそ、それを本能的に理解したのだ。


「わっぱ・・・今のおんしでは見るに耐えん・・・だが、筋は良い。故に、助言を与える」

「ありがたきお言葉・・・」


 見るに耐えん、という酷評よりも、筋が良いと褒められた事に空也は思わず感動し、平伏する。相手は剣聖。この地球において、まず間違いなく最高の剣術家の一人だ。後世の人物でありその遥か後ろを進む空也としては、最大の敬意を払うべき相手だった。


「儂が助言を与えるのは今回だけ・・・次からは無い。最後の助言だ。わっぱは瞑想なぞというて自らに閉じこもるのをやめよ。瞑想は世界と自らを繋ぐ為の物。自らに籠もり思慮に耽る為の物では無い。世界を感じ、世界に流れる力を感じよ。そうすれば、自ずと次の道は見える」

「ありがとうございます」


 助言を与えるだけ与えて、卜伝は去って行った。空也はそれをただただ平伏して、送り出す。そうして、思わぬ人物から助言を得られた空也はそれを胸に秘め、晴れやかな表情で道場を後にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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