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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第3章 騒動の開始編

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第34話 水鏡 ――見えた消息――

 浬がショッピングモールにて大量の衣服を購入した二日後。つまり、ゼウスの試練を越えてから三日後の事だ。その日は朝から快晴で、雲1つない夜空が拝めた。水鏡と呼ばれる水を使った儀式を行うには、これ以上ない状況だった。


「ふぅ・・・これで、準備は終わりか」

「おーう、そっちはどや?」

「ああ、天音さん。こっちは準備オッケーです」


 この日の彩斗達は朝から天道家の本邸にて儀式の準備に追われていたのだが、流石に休憩も食事も無しでは失敗が起こり得る。それ故、夕食から帰ってきた彩斗に、同じ部の一人が準備の進捗具合を報告した。輪番制で休憩を取るようにしていたのだ。


「水は富士の霊峰の更に奥にある千年桜の夜露にギリシャ神話の『天穹の水瓶』、合わせ鏡には伊勢神宮から借り受けた神器・『八咫の鏡(やたのかがみ)』・・・ようここまで集められたもんや」


 今回の儀式に使う道具の一覧の中でも特に貴重な物品を見て、彩斗が少しだけ感心した様に呟いた。どれもこれもが天道家や神宮寺家、一条家等の日本有数の名家の名と、天道財閥という世界最大級の財閥の力を使ってしか借り受けられない様な物ばかりだった。


「こりゃ、失敗できんなぁ・・・」

「それに、お前んところにゃ、一家総出で協力してもらったしな」

「覇王社長。来られたんですか?」


 呟いた彩斗に対して、覇王が笑いながら近づいてくる。横にはクレスとアテネ、陰陽師らしい服装の短い髪の少年が一緒だった。


「お、こりゃ久しぶりやな。鏡夜くん、元気しとったか?」

「ああ、おっちゃんも元気やったか?」

「おうおう。すまんなぁ、わざわざ協力してもろて」

「ええって。俺もカイトのダチや。無事かどうか知りたいしな。それに、俺ら陰陽師はこういうことが本来の仕事や。あやかし退治は本来副業。頼んでくれた方が随分ありがたいわ」


 二人は親しげに久しぶりの再会を喜ぶ。鏡夜はカイトの小学校時代の友人で、その当時よく遊んでいた仲間の一人でもあった。

 当たり前だがその当時の彩斗一家は陰陽師の存在等を一切知らない為、完全に個人としての友人関係だ。なので父親同士も運動会等で普通に一個人としての知り合いだったりする。その縁もあって、今回は彼が水鏡に協力してくれる事になったのだった。

 ちなみに、鏡夜は陰陽師としては既に当代きっての実力で、以前電話で話していた刀花と秋夜と呼ばれる鏡夜の従兄弟と合わせて、日本の三童子と褒めそやされる呼ばれる程の腕前だった。


「でや・・・もう御二方来られる事になっとる。出来りゃ、一度場をお清めしときたいんやけど・・・御二方とも構わんか?」

「ええ、良いでしょう。そちらの流儀に従います」

「私も構いません」


 鏡夜はクレスとアテネの了承を受けて、神様を迎え入れる為に準備を整え始める。それはまずは水で身を清める沐浴に始まり、塩の様な何か――魔石と呼ばれる物を砕いた物、だそうだ――でのお清め、玉串を使った場の祓い清め等様々な物だった。そうして一時間程でそれが終わると、鏡夜が陰陽師らしく木を使って何らかの祭壇を作り上げる。


「でや・・・お呼びするのは月読尊様と木之花咲耶姫様で宜しいんやな?」

「ああ、それで頼む。さくや姫はウチの大本である浅間神社が祀る祭神。天道家の子供が生まれると、あそこに初穂を奉ずるのが決まりだ。月詠様は月を使っての合わせ鏡に縁のある御方。ぜひともお願いしたい」

「わかった・・・まあ、二柱共かなり高位の神様やから、呼べるかどうかはわからんけど・・・とりあえずやらせてもらいますわ」


 鏡夜が少し自信なさげに覇王の言葉を受けて、お香を焚いて儀式に取り掛かる。神降ろしでは無く、神様そのものを呼び出す。如何に実力者の鏡夜であっても、困難な事だった。それ故に、自信なさげだったのだ。

 とは言え、これは普通は、なのだが。今回はとある人物に関係のある事として既にツクヨミが事前にちょっとしたルートを使って鏡夜に了承を示しているし、そもそもでアマテラス自身が協力を命じている。鏡夜としてもアテネ達にしても実はそれを知っているので、特に気負いなく儀式に取り掛かったのだった。

 そうして、それを十分ほど行うと、異変があった。祭壇にモヤがかかり、二人の人影が現れた。それに気付いて、クレスとアテネ、鏡夜以外の全員が平伏した。鏡夜が除外されているのは、鏡夜は儀式に掛り切りだからだ。

 なお、半神であるクレスも礼儀として平伏ではなく片膝を付いている。アテネは他神話とはいえ同じ神様として、上下関係を付けぬ意味で平伏をしなかったのだ。


「呼び出したのは草壁 鏡夜ですね。全て、見させていただきました。此度の一件・・・あなた方天道の強引さには少し言いたいことがありますが、それは後に致しましょう」

「申し訳ありません」


 モヤが晴れて二人の影が露わになると、片方の女性が口を開いて苦言を呈した。それは、天道家の最近の強引な道具の収集についてだった。それを受けて、武が謝罪する。

 現れたのは赤色系統の優美な着物姿の赤色の髪の美女と、同じく着物姿の男とも女ともわからぬ美人だ。二人共もはや人とは造形から違う美貌を有していた。美女が木之花咲耶姫で、男とも女ともわからぬ美人の方が月読尊だった。

 ちなみに、今は一応何も知らない面々の手前、ということで二人はしっかりと神様としての正装を身に纏って真剣な表情をしているが、カイトに作らせたつまみを片手に咲耶姫は数時間前までは酒を呷るように鯨飲し、ツクヨミはそれを横目に三貴子揃い踏みで30分程前までカイトと4人でゲーム合戦をしていたりする。知らぬが仏である。


「さて・・・それで、貴方達の望みは理解しています。私の力を借り受けて、月と合わせ鏡を応用して水鏡を行いたい、という事。相違ありませんか?」

「は・・・それで、お力はお借りできますでしょうか?」


 覇王がツクヨミに対して平伏したまま、問いかける。なお、本来ならばツクヨミも咲耶姫もまず彼らの平伏を解くのだが、今回は最近の暴走に対しての罰則、ということで平伏したままを暗に命じたのだ。これがわからぬ覇王達ではないので、それに従っていた。


「良いでしょう。我ら八百万にしましても、本来彼らは守るべき存在。その行方を知ろうとするあなた方の一途な思いに応えましょう」

「ありがたきお言葉です」


 ツクヨミの言葉に、覇王が平伏したまま礼を言う。それに、二人は頷いて、ようやく一同に顔を上げる様に指示を出した。


「顔をあげなさい・・・異邦の神とその子よ。此度は我らが氏子達に協力してくださり、感謝しています。後ほど、ゼウス殿には我々の使者が向かいますので、どうか、お受け頂きますよう」

「わかりました」


 咲耶姫の言葉にアテネが頷く。ちなみに、二人共お互い既知だしふざけ合う様な仲なので大して仰々しい挨拶をする必要は感じていないが、一応は公の場だ。きちんとしておいただけである。

 ちなみに、この時アテネが内心で咲耶姫に何故何時もこの真剣な姿を取れないのか、と嘆いていたらしい。彼女もアテネに説教される側だった。なお、ツクヨミについては既に諦めがあるらしい。


「さて・・・鏡夜。儀式の準備は整っていますか?」

「はい、できとります」


 ツクヨミの言葉に従い、鏡夜は二柱の神を水鏡を応用した儀式の祭場にまで案内する。どちらも大規模な術式になるため、近くに祭壇がつくれなかったのである。

 水鏡とは澄んだ水を器に張り、それに月を映す事で行う魔術だ。様々な使い方があるらしいのだが、今回行いたいのは探し物だ。なので、今回はそれに応じた儀式の構成に鏡夜は設定していた。これに更に合わせ鏡を用いて世界の境界線を超える力を創りだそう、という試みだった。

 鏡夜曰く都市伝説として有名な合わせ鏡は本来、魔術的に隠された存在を見る為の儀式の一種らしい。鏡を通して各個人の持つ魔術的な視力を高める儀式らしく、それが何かの拍子で成功してしまい、様々な要因が重なって都市伝説と化した、との事だ。今回、合わせ鏡で各個人の魔術的視力を高めるのでは無く、水鏡で探し物を見通す力を強化しよう、というのだった。


「見通すのは、世界を越えた世界・・・対象は天道 桜で相違ありませんね?」

「ええ、相違ありません」


 咲耶姫の言葉に覇王が頷く。桜とは、彼の娘で煌士の姉だ。彼女を水鏡の対象にしたのは端的に言って、最も魔術的な適性が高いと思われて、尚且つ今の場所に最も縁があるのが桜だからであった。

 彼らが儀式の場所に選んだ天道邸は地脈と呼ばれる地面の下を魔力の流れと、龍脈と呼ばれる空気中を流れる魔力の流れの交わる点に位置しており、まずはその縁で天道邸が選ばれた。

 そして、今彼らが儀式の用意を整えた場所は本邸の中の一本桜と家人達から呼ばれている桜の木の下で、桜の名前の由来でもあった。桜当人もこの桜の木を好んでおり、よく眺めに来ていたのだ。それ故、聞けば魔力的な匂いの様な物が最も色濃く残留しており、今回調査する対象に桜が選ばれたのである。


「咲耶姫、儀式の補佐はお願いします」

「畏まりました」


 ツクヨミの指示に従い、咲耶姫が頷いてそのすぐ斜め後ろに侍る。日本の神々の特質として、氏子には加護と呼ばれる特殊な力を与えているらしい。

 そして、桜の氏神は木之花咲耶姫だ。元来は不条理に魔術的な攻撃を受けた場合に手助けを出来るようにするためのマーカーの様な物なのだが、そこから対象の居場所まで道をつけよう、というのであった。


「では・・・開始します」


 ツクヨミの言葉を受けて、一同が息を飲んだ。ツクヨミが儀式の開始をスタートさせると、すぐに異変が起きる。

 まず、水鏡の水が月の光を受けて銀色に光り輝いた。それは始め緩やかに揺蕩うような光だったのだが、その光は八咫の鏡(やたのかがみ)に入ると、鏡の中の水鏡が光度を増す。そして、光度が増した光はそのまま八咫の鏡(やたのかがみ)の合わせ鏡となる水鏡の中に入り込み、更に此方に移る水鏡の光の光度を増していく。それは、無数の合わせ鏡によって膨大な光度を得て、ついには誰も目を開けていられない程の銀光となる。

 そんな中。トランス状態に入り、完全に神様としての力を使う為に目を開けていられたツクヨミと咲耶姫が世界の境界線へと、アクセスを果たした。


「咲耶姫。世界の境界線にまでたどり着きました・・・後はお願いします」

「わかりました」


 ツクヨミの言葉を受けて、咲耶姫は右手を光に突き出して、掌から薄っすらとした赤色の魔力の帯を放出する。自らの魔力を基点として、自らが加護を授けた存在が何処に居るのかを探っているのだ。


「・・・見つけた」


 探り始めてから10分。トランス状態に入った咲耶姫が、小さく呟いた。そうして、光に異変が起こる。今まで銀色だった光は一気に光度を失っていき、透明になったのだ。そうして完全に透明になった所で、咲耶姫が口を開いた。


「見つかりました・・・もう、目を開けて大丈夫ですよ」

「おぉ!」


 透明になった光の中に映った映像に、思わず武が声を上げる。そこには彼が探し求めていた孫娘の姿があったのだ。そして、その姿は自分が見知った物と同じく、非常に元気そうな姿だった。それに、武は思わず涙した。溺愛しているのはどうやら真実らしく、号泣に近かった。


「はぁ・・・木之花咲耶姫様。申しあワケありませんが、その他の者についても見通せますでしょうか?」


 覇王はそんな父にため息を吐くと、次に問うべき事を問いかける。それに、ツクヨミが笑いながら頷いた。


「ええ・・・というよりも、皆、一緒に居る様子です。少々、お待ちなさい」


 ツクヨミはそう言うと、光の中の映像を引いていく。すると、そこには消え失せたはずの天桜学園高等部の映像が映しだされた。


「おぉー!」


 一同の歓声があがる。そこには学生達が元気に生活している姿がきちんと映っており、時には各個人の顔が映り込む事もあった。流石に校舎の外から遠目なので校舎内の生徒達についてははっきりと確認出来ないのだが、それでも、元気な子供達の姿が見れて思わず涙する者は少なくなかった。


「向こうの現状等はお分かりになりませんか?」

「把握しています。どうやら、向こう側にもそれ相応に文明が存在している様子ですね。彼らが移動した国が彼らに好意的で、積極的に支援を行ってくれている様子です。当面の危機は無いでしょう」


 そうして引いた画面に映しだされた映像は何かのお祭り騒ぎの渦中だった。それはグラウンドと校舎の外を使い、何か武闘大会の様な大会を行っている様に見えた。


「にしては、戦いを行っている様な・・・」

「向こうには普通に魔術も魔物が存在するため、地球へ帰還する術を探す為に力を必要としている様子ですね。その為、武闘大会の様な物を開いて、お互いの研鑽に努めている様子です」

「なるほど・・・」


 覇王は苦笑に近い笑みを浮かべ、彼らの現状に納得する。小さな一歩だが、明日への活力を考えれば、大きな一歩だ。今まで誰もが心の奥底でもしかしたら、と抱いていた疑念が消え失せたのだ。

 ただ単に生きている事がわかった、という小さな答えだが、それでも彼らには大きな前進だ。なにせ、向こう側に生きているのだ。ならば、迷いはなくなる。そうして、無事が確認出来た所で、映像がいきなり乱れていき、ついには消え去った。


「あ・・・」

「おや」


 残念そうな声が響いて、ツクヨミは天を見上げる。すると朧月とまではいかなくても月に雲がかかっており、その影響で月光が少しだけ、薄らいでいた。そのせいで効力が落ちてしまったのだ。


「申し訳ありません。流石にもう一度儀式をやり直そうにも、水の入れ替えからやらねばなりません。もう、今日は無理でしょう」

「・・・いえ、感謝致します。月読尊様、木之花咲耶姫様、アテネ様、ヘラクレス殿。我々にとって、今回の一件は非常に大きな進展でした。この度の儀式が無ければ、何時かは心折れていたやもしれません。この御恩は決して」

「いえ、構いません。では、頑張りなさい。我々八百万の神々も、あなた方を見守っております。もし、何かあれば我らの力もある、とおぼえておきなさい。そして、ゆめ、今回の様な強引な手法は取らぬように」

「はい」


 去り際にツクヨミの言い残した言葉を胸に、関係者一同は捜索の再開では無く、次の段階、呼び戻しの開始を決める。此方は水鏡とは異なり、どうすれば良いのかさえわからないゼロからの手探りだ。困難さは今回の儀式の準備を遥かに上回る困難さとなるだろうことは、誰の目にも明らかだった。

 だが、誰の目にも諦めはなかった。なにせ探し物があることは確実で、その探し物は彼らにとっての宝物だ。ならば、諦めがあるはずがなかった。そうして、この日から天道財閥等大財閥主導の調査隊が組まれる事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年7月10日 追記

・誤字修正

『祭壇』が『裁断』になっていたのを修正しました。

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