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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第33話 遠き日の欠片

 フェルの住まうマンションの最上階を下りてバイクに乗り込んでからも暫く浬は赤面し続けていたが、それも服屋に入るまで、だった。服屋に入ってしまえば後は今時の中学生らしく、可愛い服やおしゃれな服に気をやって先ほどの一幕を完全に忘れていた。


「これもいい・・・でもこっちも良い・・・」


 今回、カイト――サングラスは着用したまま――からご褒美ということで予算に糸目をつけないで良くなった浬は高かろうが安かろうが関係なく、ただただ自らのファッションセンスに従って品物を見ていた。


「あ、でもさっきの店も良かったなー・・・」

「・・・おい」


 そんなこんなで幾つもの店を見て回り、予算に糸目をつけないで良くなった所為で逆に選択肢が広まって一向に決定しない浬に対して、フェルが半目で口を開いた。


「んー? なーにー?」

「貴様は何時まで選ぶつもりだ」


 選びながらなので間延びした反応の浬に対して、フェルが少しだけ怒りを滲ませながら問いかける。三人がファッションモールに来て既に2時間。大体13時を過ぎた頃になっていた。

 如何に人外のフェルといえども、魔術で身体能力を調整しない限りは普通に腹は減る。怒りが滲んで当然の時間だった。ちなみに、カイトは既に慣れているので、別になんとも思っていない。


「え?」

「時計を見ろ」

「あれ? もうこんな時間?」

「先に昼にするぞ」


 どうやらフェルは結構空腹に耐えかねている様子だった。浬にそう告げるやいなや、即座に移動を始める。


「あ、ごめん! すぐ行くから!」


 それを見た浬は大慌てで選別していた衣服を元の位置に片付けると、大慌てでフェルについていく。そうして、三人は一度近くのホテルにまで移動する。


「うそ! ここ良いの! しかもタダ! ここ一回来てみたかったんだー!」

「オレ持ちなだけだ」


 興奮した浬に対して、カイトが肩を竦める。三人がやってきたのは、ショッピング・モールからほど近い天道財閥系の高級ホテルのビュッフェだった。2時間6000円――平日は5000円――と少し高価な店である。

 実はこの店はテレビ等で幾度か紹介されており、その筋で浬はずっと一度行ってみたいとは思っていたのだ。だが、ここに中学生が来るには少し高すぎた。なのでずっと縁がなかったのである。


「私は先に料理を選んでくる。カイト、荷物は頼むぞ」

「はいはい」


 空腹に耐えかねていたフェルはカイトに荷物を預けると、そのままそそくさと料理の並ぶテーブルに歩を進める。


「浬、先に荷物を置くぞ」

「うん!」


 浬はごきげんにカイトの言葉に頷くと、一度係員の案内に従って自席へと移動する。一度来てみたかったお店に、タダで食べに来られたのだ。ごきげんにならないはずがなかった。


「よし! じゃあ私もいってきまーす!」


 そうして自席に鞄を置いてすぐに、浬は料理の選別に移る。それと入れ違いになるように、フェルが着席した。その手にはそれなりの量の料理が盛られたお皿が乗っていた。

 どうやらかなり空腹だったらしい。それは一つの種類を沢山、では無く、様々な種類の料理を盛りつけていた。それに気付いたカイトに、フェルが少しだけ照れた様子で口を開く。


「食べきるのに、これぐらいにしておかないとな」

「全種制覇、か」

「ああ」


 カイトの言葉をフェルが認める。この店を選んだのは、実は浬の為では無くフェルの為だ。実は彼女はかなりの美食家かつ、料理好きの一面を持ち合わせていた。とは言え、これには実は理由があるのだが。


「数千年・・・人の世から離れていただけで、この進歩だ。暇潰しに一人で行動している間も、世界中の料理を食した。が・・・やはりどれ一つとして、同じ料理は存在していなかったぞ」

「昔の料理は美味くなかったのか?」

「・・・ふふ、貴様は知っているだろう?」

「覚えてない、か」


 フェルの問いかけに対して、カイトが笑う。まあ、如何に超長寿の存在といえど、数千年前に食べた料理の味を覚えている方が可怪しいだろう。とは言え、そんなカイトに対して、フェルは続けた。


「だが・・・ここまで美味しくなかったのは、はっきりと覚えている。ノアに会いに行くついでに飲んだワインは今から考えれば不味い。泥水と同じだ・・・あんなものを聖なる物として嗜んでいた、とはな・・・全く。私も度し難い」


 フェルは笑いながら食事を食べていく。それは当時の自らを笑うものであり、今の料理を称賛する物であった。


「まったく・・・私からすれば当時の如何な貴族達が嗜んだ美酒よりも、今の安物のワインの方が圧倒的に美味い」

「そりゃ、ウチのお師匠様も言うだろうな。灘の酒は今の方が美味い、って」


 フェルの言葉に、カイトも楽しそうに同意する。なお、ここでのカイトの師は上泉信綱では無く、異世界・エネフィアで得た剣術のお師匠様の事だ。

 彼らもまたカイトと同じく日本出身者でありながら、様々な縁があってエネフィアにとどまる事を選択した者だった。そして今でも、エネフィアに居を構えていた。


「当たり前だ・・・だからこそ、善も悪も含めて、人間は愛おしい」


 フェルは覇王の様でありながら、慈母の如き微笑みを浮かべる。それは長き過去から永劫とも言える月日にわたって人間という種族そのものを愛し続けた物だけが浮かべる、超常の愛だった。


「たった数千年・・・それで、ここまで進歩し、退化する。しまいには私が惚れ込む男まで出て来る始末だ。人とはつくづく手に負えん」

「それは嬉しい言葉だな。オレも愛しているぞ、ルイス」


 覇王の如くに語ったフェルの言葉にカイトは笑いながらキスする。若干色々な料理の味がしたが、そこは気にする所では無いだろう。気にすべきは、こんな公衆の面前であることだ。と、そこに何の因果か、浬がやってきた。


「きゃあ! ふ、二人共こんなとこでキスしないでよ!」

「あはは、悪いな。ちょっとルイスから可愛い言葉が出たからな」

「全く・・・貴様は何時も何時も・・・」


 タイミングが悪い、そう、フェルが呟いた。


「じゃあ、丁度おじゃま虫も帰ってきたし、オレも料理を取り分けてくるとするかな」

「出来れば食って味を覚えろ。帰ってきてからも作らせる」


 立ち上がり去って行くカイトの背に向かい、フェルが告げる。今のカイトの身体は使い魔だが、かなり高度な使い魔であるため食事からも魔力の補給を行う事が出来る。その為、できるだけ食事は食べる様にしていたのだ。

 それに、カイトの本体が帰ってきた後にこの使い魔から記憶と経験を回収すれば、後々食べた料理や作った料理について把握して、再現する事が可能になるのだ。なので出来る限り、この使い魔の身体でも多くの経験をさせておくようにしているのだった。


「あ・・・もう。フェルちゃん、こんな所でキスしないでよ」

「悪いな」


 二人は暫くの間、無言で料理を食べ続ける。そうして更にカイトも帰ってきて全員の料理が半分程度無くなった所で、ふと、浬が気付いた。なので浬は少しだけ喋る口を止めて、兄とフェルの会話に注意する事にした。


「ルイス、そっちの料理、気に入ったのか?」

「ああ。牛ロースのワイン煮込みだ」

「後で食うか」

「そうしろ」

「・・・ねえ」


 試しに二人の会話を確認していた浬だが、違和感を確証して二人に問いかける。


「なんだ?」

「さっきからお兄ちゃん・・・フェルちゃんの事、ルイス、って呼んでない?」

「ん? ああ。ルイスって呼んでるな」

「ああ、そう呼ばせている」


 カイトとフェルは二人して浬の言葉を認める。浬が気付いたのは、兄だけは、フェルの事をルイスと呼んでいる事だった。


「フェルちゃんの本当の名前ってルイス、なの?」

「いや、違う。ただ単に、こいつの前で名乗った名前がルイスというだけだ」


 浬の誤解に、フェルが苦笑しながら頭を振った。つまり彼女の言葉が確かなら、いくつもの偽名があって、その中の一つがルイス、というわけなのだろう。


「・・・もしかして、お兄ちゃん結構愛されてない?」

「何故そうなる」

「まあ、しゃーないだろ」


 浬の言葉にフェルは呆れ、カイトは苦笑する。なにせ、愛していると言いながら、本名を教えられていないのだ。愛されていないと思っても不思議では無いだろう。さっきのキスを見ていなければ、だが。


「別に本当の名前で呼んでも良い・・・が、まあ、あの名前は少し有名だ。その自分と違うと言う意味でも、私はルイスと呼ばせているだけだ」

「ふーん・・・ねえ、本当の名前って何?」

「教えてやらん」

「えー! 良いじゃん、仲良くなったし!」


 目を細めてとても楽しげな笑みを浮かべながら、フェルは浬に告げる。それは覇王の様でありながら、見た目相応の少女の笑みを含んでいた。そんなフェルに、浬は少し拗ねた様に口を尖らせる。


「まあ、何時の日か、教えてやろう。なにせ、何時かは私は貴様の義姉になるからな」

「ごふっ」


 とは言え、このまま意地悪をしているのも何か、とフェルは思ったらしい。そうして告げた言葉に、浬が思わずむせた。これは意地悪では無いが、かなり茶化していた。


「ちょ、と、お兄ちゃん? ティナちゃんとか魅衣さんとか弥生さんとかどうすんの?」

「どーしようもないんだよ、縁談多すぎて」

「・・・え?」


 頭を掻いた兄から飛び出た一言に、浬が目を丸くして驚く。兄の口からよもやモテすぎて困る、というような発言が飛び出してくるとは露とも思っていなかったのだ。今の浬の顔を端的にいうならば、まさに鳩が豆鉄砲を食ったよう、であった。


「まったく・・・私のだ、と何度言えば・・・」

「なら、お前説得してみろよ」

「・・・分け与えてやらんでもない」


 どうやらフェルを以ってしてもカイトの専有は不可能らしい。カイトの言葉にフェルが少し不満気に答えた。この地球上において御門を遥かに越えた圧倒的強者であるはずのフェルでさえ、恋する乙女には同格の敵にならざるをえないのだった。


「・・・え、お兄ちゃん、マジで言ってる?」

「大マジ。親父にどうやって挨拶に向かわせるか考えるとマジで頭痛い」


 妹の引き攣った顔に、兄は何処か楽しげにため息混じりに告げる。


「・・・それ、もし結婚式あげたら私って・・・」

「親族で来いよ。流石に神様の前に緊張して家族来ませんでした、とか赤っ恥だぞ」

「既にヒルダあたりがドレスを見繕っている。まずはオーディンあたりにお目通りしないといけないだろうな」


 クスクスと笑いながら、フェルが浬に告げる。相手が弱って叩き込める時に叩き込むのが、彼女の趣味だった。流儀では無く趣味なのでたちが悪い。そんな二人の言葉に、浬が悲鳴を上げる。


「いやー!」

「諦めろ。貴様の兄はそんな男だ。流石にあれらが出れば、各国が超法規的措置で否が応でも重婚を認めるぞ」

「ゼウスの爺に、オーディン、インドラにアマテラス・・・さて、浬。誰に挨拶に行きたい? ポセイドンはやめとけ。ロリコンだから」

「全部嫌。後そんな情報聞かせないで」


 フェルとカイトの言葉を全て耳をふさいでシャットアウトした浬は、僅かに聞こえてきた情報も意識の俎上に載せ無い様に注意する。なお、ポセイドンがロリコンだ、と言うのは単なるギリシャ神話の神々達が茶化す冗談にすぎない。そうして、三人はその後も楽しくおしゃべりしながら食事を食べ続けるのであった。




 食事を食べ終えてから更に2時間後。腹ごなしを兼ねてショッピングモールの散策に戻った三人だが、やはり浬は何も決まらない。

 まあ、その原因はフェルにもあった。空腹が満たされたことで機嫌が修正されて、彼女のノリの良さが出てしまったのだ。


「貴様・・・何時まで悩むつもりだ」

「うーん・・・だって、こっちもいいし、あっちもいいじゃん・・・あ、こっちなんかフェルちゃんに似合うと思うよ」

「何・・・む、確かに良いな。カイト、どうだ?」

「お、良いな。たまにゃそんな可愛い格好も見たい」

「ふん・・・少し待っていろ」


 カイトに褒められたフェルは少し上機嫌に更衣室に入り、浬が選んだ衣服に着替えて出てきた。それは少しだけフリルのあしらわれた可愛らしいワンピースだった。途中で店員から薦められた白色の帽子も一緒だ。


「わー! かわいー!」

「とても良くお似合いですよ!」

「当たり前だ」


 浬と店員の二人から絶賛されたフェルは上機嫌にカイトの所にまで歩いて行く。なお、フェルという圧倒的な美少女が居る為、店前に少しだけ人集りが出来ているのはご愛嬌だった。


「どうだ?」

「オレの天使は最高だな」


 その言葉にフェルはごきげんにカイトに抱きついて、しばしイチャイチャする二人。浬としては人集りが出来ているのでやめて欲しい所だったが、この二人が気にするはずが無い。

 つまり、フェルが時折気に入った衣服を見繕って着替えていた為、時間がかかってしまったのである。ちなみに、気に入った衣服は全て購入しているため、カイトの両手には既に大きな紙袋が携えられていた。


「でだ・・・貴様は何時まで悩むんだ?」

「だってー・・・これもいいしあれもいいし」


 少し拗ねた様子で浬は頭を悩ませる。先ほどまではここでフェルがため息を吐いて終わりだったのだが、流石に時間が時間だったらしく、フェルが告げる。


「はぁ・・・いっそ全て買え。衣服が親御さんにバレると拙いのなら、ウチにおいておけ。こいつが帰ってくるまでは私はこっちに居る。終わってからはこいつが全てなんとかする」

「全部オレに丸投げかよ・・・」

「え、お金良いの?」

「んな妹が頑張ったご褒美でケチるかよ・・・好きなだけ買っとけ」

「やったー!」


 カイトのため息混じりの言葉に、浬が大いに喜びの声を上げる。そもそも、浬が買う様な値段の衣服を全部買ったところで、財布は全く痛まない。

 カイトはもともと、魔術を行使したチートスレスレの株式投資を行っていて、数千万の資産を有していた。それに加えて蘇芳翁やエリザ達の後を継いだ時に得た資産で数億に膨れ上がった資産を、ティナという絶対的な幸運と勝負運、更には絶対的な経済感覚を持つ者が様々な分野へと分散投資を行った結果、総資産額は数百億円に達しているのだった。

 痛むどころかショッピングモールそのものを買った所で大丈夫だった。まあ、その資産の半分程度は異族達の為に使うので、全てを自由に使えるわけでは無いのだが。


「・・・あ。ねえ、お兄ちゃん。それだけのにも・・・あれ?」

「どした?」


 浬がふと気付いた違和感に、カイトが首を傾げる。まあ、その違和感の内容に気付いているので、カイトは非常に面白そうな顔をしているが。


「荷物は?」

「オレはマジシャンだからな」

「異空間の中に突っ込んでいるだけだ」


 カイトのニヒルな笑いと共に告げた言葉に対して、フェルが補足する。それに、ようやく浬も魔術の存在を思い出して納得した。そうして、この日浬は非常に大満足して、家に帰宅するのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日の21時です。

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