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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第31話 見ていた者達

 当たり前だが、この一連の試練はゼウス他、クレスにもアテネにも見られていた。なので、試練が終わると同時に、ゼウスが薄く笑みを浮かべて、呟いた。


「ほう・・・試練を乗り越えたか」

「これで、貸出に応じていただけますか?」


 ゼウスの呟きを受けて、覇王が問いかける。神話では試練の達成を受けてその方法論等にいちゃもんを付けられて認められない事は多かった。それ故、ゼウスからきちんと貸し出しを明言されるまで、彼は油断していなかった。


「よかろう。我ら神は試練を乗り越えた者に力を貸し与える。それは、古来からのしきたり・・・クレス、アテネも異論は無いな?」

「はい」

「ええ」


 ゼウスの問いかけに、クレスもアテネも頷いた。それを受けて、覇王もその横の武もようやく、一心地付いた様子でため息を漏らした。


「だが、流石にそのままとはいかん。我が子らは置いていく」

「それについては、受け入れさせて頂きます」


 一切言われていなかった事だが、覇王にしても断る必要の無い事だった。なので、覇王は即座にそれを受け入れる。それと同時だった。その場に、拍手が鳴り響いた。


「誰だ!?」


 覇王の周囲の護衛達が、一気に銃を引き抜く。この場に来ている人員で、拍手をする様な面子は居ないのだ。それ故に、このタイミングで拍手をするとなれば、不審者しかあり得ないと判断したのだ。

 そして、その考えは正解だった。そこに居たのは半分だけの道化師のお面を被り、見える素顔に意味深な笑みを浮かべた中性的な顔立ちの人物だった。服装はゆったりとした服で、性別は判別出来ない。だが、それはゼウスにとっては知り合いだった。


「ロキか。何用じゃ」

「ロキ? 北欧の道化神(トリックスター)・・・?」


 ゼウスの言葉を聞いて、覇王達が一気に警戒心をにじませる。ロキ、と言われれば名だたるトリックスター達の中でも最も有名ないたずら好きな神様だ。それがこんなタイミングで出て、警戒されないはずがなかった。とは言え、その必要はなかった。


「あはは! そんなに警戒しなくてもいいよ! 私は別に君たちの得た物を掠め取ろうというわけじゃないね!」


 中性的な声で、ロキは笑い声を上げる。だが、それが一層、覇王達の警戒心を強くする。とは言え、此方から何かを言えるわけではない。幾らトリックスターと言われようとも、紛うこと無く、ロキは一つの神話で主神と敵対出来るだけの力量と組織力を持つのだ。そんな相手に対して、おいそれと手を出せるはずがなかった。と、そこに更に酔っぱらって赤面しているスサノオが現れる。


「おーう。ロキー、次の酒の追加が来たぞー」

「あ、ホント? じゃあ、これで・・・ゼウス、私達は先に飲んでるよ?」

「・・・む、むぅ」


 少しだけバツの悪そうなゼウスを見て、二人は肩を組むとそのまま飛び去って行った。なお、ロキが何をしたかったのか、というと、覇王達の前で威厳たっぷりのゼウスの鼻っ柱を叩き折りたかっただけ、とのことである。酔っていたので、悪気の無い単なるいたずらだろう。


「父よ、少々失礼して宜しいでしょうか? ロキ殿に少々説教したく」

「やめておけ。それで聞く様な相手ではない」


 アテネの言葉に対して、ゼウスがため息混じりに告げる。トリックスターの代名詞とも言えるロキはまさにいたずら好きだ。アテネ程度の説教で更生するはずがなかった。一方、覇王達はロキを連れて行った着物姿の男性の正体が気にかかった。


「・・・あの、今のもうお一人は?」

「お主らの言葉で言えば、三貴子の一人じゃ」

「なっ・・・」


 覇王達は絶句する。今回の一件の裏には、密かに、多くの神々が居る事をここで初めて把握したのだった。そして同時に、今の彼らがどれだけ注目されているのかも再度把握する。


「では、余はもう去ろう。試練を越えたのなら、英雄はしっかりと労ってやるが良い」

「はい」


 そう言い残してゼウスはクレスとアテネを残し去って行った。そうして、それを見送り、クレスが口を開いた。


「では、『天穹の水瓶』について説明を行います。場所はありますか?」

「あ・・・少々、お待ちを」


 クレスの言葉を受けて、覇王が周囲の者に号令を掛けて浮かれる一同の気を引き締める。これで終わり、では無いのだ。それどころか、これでようやく準備が整った、というだけだ。それに、貸し出しにも期限がある。なので、のんびりと試練を越えられた事を喜んでもいられなかった。


「では、此方へ」

「ありがとうございます」


 覇王自ら案内を買って出て、クレスを案内していく。そうして、後に残るのはアテネただ一人――当然、周囲には天道家の使用人は居る――だ。


「ほう・・・さすが、といいますか・・・カイトの妹はやはり筋が良い」


 誰にも聞こえない様に、アテネが今の一幕の感想を呟く。彼女は戦神だ。それ故、運動神経や反射神経等戦いに関する才能については、誰よりも見抜く才能があった。


「にしても・・・あの魔眼は少し気になりますね」


 浬については『優』の評価を下したアテネだったが、先の試練を見て、少しだけ訝しむ様に呟いた。本来、如何に魔眼であってもゼウスの鷲の転移を見抜く事は出来るはずが無いのだ。それを成し遂げた魔眼の正体に、彼女も興味を抱いたのだった。


「父に相談してみますか」


 曲がりなりにも、全能神とまで言われたゼウスだ。知恵を借り受けるのは当たり前の判断だった。それに、彼女は真面目だし、とんでもなく面倒見が良い。まかり間違って今の一件の影響で変な事になった場合、確実に心を痛める者一人が居るのだ。それを知る彼女が、見過ごすはずがなかった。


「さて・・・あちらでしたね。皆さん、私も少し気になる事が出来ましたので、今は失礼させて頂きます」


 クレスことヘラクレスの力量については、異母兄弟である彼女も信頼している。それ故、『天穹の水瓶』については何ら気にする事は無いと判断して、アテネもまた、宴もたけなわな神様達の宴会場へと、移動するのだった。




 アテネが移動したのとほぼ同時。今回の一件を神様達と同じく見ていた者達が居る。この間、海瑠に対して事の起こりを告げた隻腕の大男もまた、その一人だった。彼らは遠く、神様達にも気付かれぬ程遠くから、今の試練の全てを見ていた。


「いいねぇ、あら、おお化けすんぜ」

「拙としては、あの剣士に興味がある」

「剣士同士、惹かれる者があるのかえ?」


 鬼の笑い声につづいて、同じく今の光景を見ていた者達が笑いながら話し合う。彼らは全員、この日本においてカイトが抑えてきた者達だった。面白いものが見れる、という鬼の呼びかけに応じて、珍しく全員が集合したのである。

 そうして、半数程度は鬼の言葉通りに、自らを抑えていた者の弟妹と同じく試練に挑んだ者達に興味を持つ。


「さて・・・俺からの提案だ。誰かあれにちょっかい出すって奴は居ないか?」


 隻腕の大男が一同に問いかける。かくいう彼自身、ちょっかいと言う名の喧嘩を売りに行くつもりだった。彼はもともと食いでが無い、と浬と海瑠に対して嘆いていたのだが、海瑠が魔眼持ちだと知り、俄然姉の浬にも興味を抱いたのである。

 そうして今回彼女の動きを見てみれば、カイトの指揮の下ではあったものの、彼の評価では決して、悪いレベルではなかった。そうなれば、後は食いでが出るまで待つ、では無く、食いでが出る様にするのだった。


「拙は乗ろう」

「朕は興味ないぞ。かようなわらべ達にいたずらをして喜ぶ趣味は無い」

「わっちは・・・まあ、気分次第でありんす」

「妾は家の事もある・・・程々にしてくれるのなら、眼を瞑る事にするかのう」


 反応はまちまちだが、それでも、興味を抱いた者は少なくない。もともと全員が面白いことが大好きで、特に、それが戦いが絡めばなお良し、というような者達だ。乗らないはずがなかった。


「で、おんしはどうするつもりじゃ?」

「俺は・・・とりあえず京都に帰る。山の事もあるし、大親父の捜索も続けねえといけねえしな」

「相変わらず、忠義者よ」


 隻腕の大男の言葉を受けて、周囲が苦笑とも称賛とも取れる笑い声を上げる。だが、それら一切に嘲りはなかった。この場に居るのは、周囲から色々言われようとも、全員が根は悪く無い奴らなのだ。

 ただ単に、人間とは価値観が異なるだけだ。だからこそ、カイトに封じられる事も無く、自由な活動を許されていたのだった。


「さて・・・じゃあ、散開しようぜ。集まってくれて悪かったな」

「いや、良い物が見れた」

「そうか? 俺はイマイチ興味無かったな」


 隻腕の大男が集めた以上、散開の合図も隻腕の大男のものだった。それを受けて、集まった一同が三々五々に散開していく。


「さって・・・俺は少しの間、様子見すっかな」


 隻腕の大男は最後まで残り、去り際にそう言い残して、彼もまた、何処ぞと知れぬ闇の中に消えていくのだった。




 一方、そんな多種多様な評価を下されていた浬だが、そんなことは知りもしないので、ただただ、破れた服についてを嘆いていた。


「うぅ・・・服が・・・これ、1万もしたのに・・・」

『諦めろって。明日にでも新しい服を買ってやる』


 一応、今回の一件は新製品のモニターだ。なので、試練の後には感想を記述する時間が設けられていた。そこで浬は嬉しそうにざわめく研究者達――表向きは初のクリア者が出たということにしている――に扮した天道財閥の面々に対して、嘆きながら最後のバイトの〆を行っていく。

 ちなみに、彼女が破けたのは服だけだが、ズボンの方にも若干のほつれが生まれている。ズボンにしても神様が来るということでそれなりに高価な物を履いていたので、総じて収支はマイナスだった。


『・・・本当に買ってくれる?』

『安心しろ。通帳やらはこっちのセーフハウスにも分散させているからな。そこから出せばなんとでもなる』

『買わなかったら恨むからね。と言うか、その存在お母さん達にいうからね』

『やめてくれ・・・』


 浬の言葉に、カイトがため息を吐いた。こんなくだらない事で表沙汰になりたくはなかった。


『で、一つ良い?』

『なんだ?』

『セーフハウスって・・・何?』


 浬の言葉に、カイトは思わず浬の肩の上からずり落ちそうになる。


『まあ、隠れ家だ。色々避難させる奴とか居ないでも無いしな』

「かくいう私も、実はカイトのセーフハウス暮らしだ」

『フェルちゃん!?』


 イキナリ割り込んできた声に、浬が思わず大声を上げそうになる。と言うか、大声を上げたがフェルの魔術によって周囲には漏れていなかった。


「丁度鳴海と侑子を送り届けてきた所でな。帰る前に一度此方に来ただけだ」

「あ、うん・・・」

「貴様も私の部屋に一度来ても良いぞ。どうせ貴様の兄の部屋だ」


 フェルはそう言うと、少しだけ、考えこんだ。


「今度案内を・・・いや、明日案内してやる」

「え・・・」

「朝の10時ぐらいで良いだろう。ではな」

「あ、ちょっと!」


 勝手に決めて、勝手に去って行ったフェルを見て、浬が思わず立ち上がって待ったを掛けた。だが、その時には既に結界は消失していたし、そもそもで消していたのは音だけだ。なので当然、周囲の全員がイキナリの大声に目を見開いて驚いた。


「・・・なんや、浬。どないした? なんや怪我でも見つけたか?」

「あ・・・ううん、なんでもない」


 彩斗に問いかけられた浬は、頭を振って再び席に着く。ちなみに、浬の怪我についてはきちんとカイトが手を打っていた為、あれだけ激しくヘッドスライディングをしても怪我一つ負っていなかった。なにげにカイトは過保護なのである。


「・・・はい。確かにこれで今回のお仕事は終わりです。浬さん、海瑠くん、急な手伝いだったけど、ありがとう」


 荒垣が提出された紙を受け取って、二人に礼を言う。今回、何ら揉め事も無く事が進み、無理だと思われたクリアを成し遂げたのは、ひとえに、彼らのおかげだった。なので、子供の安否を何よりも心配する彼としてはまさに恩人なのであった。ちなみに、荒垣は彩斗よりも少しだけ年若の男性だった。


「今回、初クリアだったから、少しだけおまけしておいたよ。今度もあれば、よろしく頼むよ」

「あ、はい」


 封筒に入ったバイト代を受け取って、浬と海瑠が頷く。確かに色々あったが、お金を手にすればそれなりに悪くはなかった。そうして、姉弟に礼を言って、更に荒垣は彩斗にも一応の礼を言う。


「いや、天音さんもすいませんね。急に持ち込んで」

「いやいや、ええってええって。幸い今は似た様な仕事しとるしな。助け合いや」

「そう言って貰えると助かります」


 二人は密かに目だけでお互いを労い合う。実は彩斗が走り回る間、荒垣は荒垣で妙な横槍が入らない様に必死で周囲の警護にあたっていたのだった。

 ちなみに、このやり取りはもともと決められていた物だったし、彩斗は裏の裏の事情を知っている。なので、バイト代は出ない。


「じゃあ、俺達は後片付けありますんで」

「おう、じゃあ、先に失礼させてもらうわ。覇王社長にもよろしくな」

「ええ」


 今回は単なる子供達の付き添い、という体である以上、彩斗は後片付けまで加わるのはあまりよろしくないと判断されて、後片付けには加わらない。まあ、それ以上に、魔力を全力で行使して誰よりも疲れ果てるであろう彩斗を休ませる様に覇王が命じたのである。


「じゃ、空也くんも煌士くんも詩乃ちゃんも、またな」

「はい、では」

「うむ! 彩斗殿! また後日会おう!」

「ご協力、有難う御座いました」


 三者三様の返事を聞いて、彩斗は浬と海瑠を連れて、妻の待つ自宅へと帰るのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回はまた来週土曜日21時です。

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