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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第26話 処女神 ――アテネ――

 アテネから逃れたカイトだが、その後、天神市の第8中学校にまで逃げ帰っていた。


「ひ、ひどい目にあった・・・」

「何だ、大方アテネでも来ていたか?」


 息を切らせながらため息を吐いたカイトに対して、フェルが笑いながら告げる。彼女にしてもゼウスとヘラクレスが来る事は知っていても、それ以外については知らないのだ。だが、カイトのこの様子から、他にも誰かが来たであろう事は容易に想像が出来たのである。


「よくわかったな」

「貴様が大慌てで逃げ帰る相手となると、そうは多くない。今日来るはずの面子を考えれば、アテネが妥当だろうぐらいは簡単に想像出来る」

「ったく・・・なんでんなに絡んでくるかねぇ・・・」


 フェルの言葉にカイトはため息を吐いて、屋上の椅子に腰掛ける。幸いにして、今は授業中だ。誰も屋上にはおらず、カイトが人型形態で屯していた所で誰にも見つからない。なので、フェルがその腰に腰掛けた所で、誰にも問題にはされなかった。

 ちなみに、カイトはアテネの対応が照れ隠しである事に気づいていない。実はアテネは自分がこれだ、と見込んだ相手にほど生活態度の改変等を迫るお節介焼きの性格なのであった。


「はぁ・・・」


 そんなカイトに対して、フェルがため息を吐いた。傍目八目、周りから見れば実はアテネの対応が照れ隠しが多分に含まれている事はそれなりに把握されていた。知らぬは当人ばかりなり、という物である。

 ちなみに、カイトが鈍いわけではなく、流石に当人が把握出来ていない感情まで把握する事は出来ないのだった。


「?・・・まあ、いいか。でだ、明日は試練だが、何か対応をしてやったのか?」

「貴様も見ていただろう。何かしたわけではない」

「まあ、それもそうか」


 フェルの言葉に、カイトが笑う。そうしてのんびりと立ち止まっていたのが、悪かった。ふと二人は妙な風を感じる。何か生暖かい様な感じのある風だ。それなのに、何故か寒気がした。二人はゆっくりと、後ろを振り返る。


「これはこれは・・・珍しい方までいらっしゃっていた様子ですね」

「げっ・・・アテネ・・・」

「ふんっ、何の用事だ?」


 後ろに居たアテネに対して、フェルが問いかける。ちなみに、カイトだけでなく、傲岸不遜で唯我独尊なフェルも自由奔放にして女好きの御門も生真面目なアテネとは相性が悪い。なので、フェルも少しだけ、気後れした様子である。


「さて・・・かの熾天使よ。カイトを渡してもらいましょうか。彼にはお説教をせねばなりません」

「ふん、お断りだ。分身体とは言え、こいつは私のだ。まあ、貴様が閨の中に入る、というのであれば、分け与えんわけではない」

「ぐっ・・・貴方は相も変わらず破廉恥な・・・」


 意味を悟ったアテネはぼんっ、と一気に頬を真っ赤にして、フェルを睨みつける。この生真面目さと性に対する耐性の無さが、三人との相性の悪さなのであった。まあ、それゆえにカイトに引っかかったのだが。


「相変わらず初心だな。別にこの程度の会話ならば、今時の中学生でも交わし合うだろうに」

「なんと・・・嘆かわしい。女子たるもの、真なる英傑に出会うまで身を慎み・・・」


 アテネは処女の神にして、戦神だ。しかも、ドが付くほどに生真面目だ。なので、フェルの言葉を聞いて、止めどなく現代中学生に対する愚痴を語っていく。ちなみに、この隙にカイトが逃げ出した事には気づいていない。


「であるからにして、貴方も少しは・・・あれ?」


 そうして止めどなく説教を行っていたつもりのアテネだが、ふと、フェルの下にカイトが居ない事に気付く。実は途中から数多の美女を侍らせるカイトに対して説教をしていた、つもりであった。


「・・・既に逃げたぞ」

「なっ・・・」


 この場合、逃げられている事に気づかず説教をしていたアテネに呆れれば良いのか、逃げられた事に気付かせなかったカイトを称賛すれば良いのかは判断の分かれる所だろう。

 ちなみに、カイトが出て行ったので、既にフェルは一人気ままにワインを嗜んでいた。なお、今日も今日とてカイトも一緒に飲ませてもらった。

 と、そこにもう一人、お説教出来る相手が現れる。まあ、言うまでもなく、御門なのだが。彼は丁度授業終わりだったこともあって、浬達を引き連れて昼食会に参加してきたのである。


「フェルちゃん。また今日もサボり?」

「まあな」


 相も変わらず今日も今日とて屋上に居たフェルに、浬が問いかける。もう何度も分身を見ている為、別にそんなに驚く必要が無いとなれてしまったのである。そうして、それに続いて御門が入ってきた。


「おーう、飯だ飯。昼間での仕事は終わったし、ぜんい」


 その瞬間、御門がかちん、と凍りついた。まあ、当たり前だが、アテネに気付いたからだ。


「おっと、俺、仕事あったんだったな。さーて、仕事仕事」


 一瞬で後ろを振り向くや、即座に御門は職員室へと取って返す。基本的に、カイトと御門はアテネに出会うとゼウスと共に説教をされるのだ。

 まあ、理由は簡単で、この三人は色々と奔放だ。特に、女性関連で物凄い奔放だ。それ故、ド真面目で性に対して耐性の無いアテネにとっては風紀を乱す存在として、なんとしてでも更生させるべき対象として写っているらしい。その中でも最も年若のカイトに最も目を掛けているのはまだ立ち直れる、と言う自分自身への言い訳だった。


「これはいいところに。インドラ殿。同じ軍神として、貴方の奔放さにはとても心苦しく思っていた所。少々、お話をしたく存じます」

「い、いや、俺はこれから仕事が・・・」

「いえ、先ほど仕事は終わった、ときちんと仰っておいでです」


 逃げ出した御門だが、そうは問屋が卸さなかった。後ろを振り向くと同時に、アテネが一瞬で彼の肩を握る。掴むでは無く、万力の如き力で、握る。イキナリ現れた美少女にきょとん、となる一同だが、それは放っておいてフェルが口を開いた。


「気にするな。いつものことだ。さっさと飯を食え」

「え、いや、あの・・・誰あの娘?」


 気にするな、と言われた所で、鎧姿の美少女だ。気にならないはずが無かった。その美少女だが、御門を捕獲するとそのままの流れで説教を行っていた。


「気にするな、と言ったんだ。気にした所で意味は無い」

「え、あの・・・うん」


 どうやら説明は得られそうにないらしい、浬達はそれを把握する。そうして気にはなりつつも、一同は食事を食べ始める。

 ちなみに、どうやらアテネの周囲には認識を阻害する類の結界が敷かれているらしく、昼ごはんを食べに屋上に上がってきた生徒達の誰も気付くことは無かった。


「いいですか、インドラ殿。貴方ももう良いお年なのですから、そろそろ落ち着かれてはどうですか?奥方もいらっしゃるのですから、変に女性を口説かれるなどという不埒な真似はせず・・・」


 アテネの説教をBGMに、一同は昼食を食べ続ける。当たり前だが、説教のおかげで御門は昼食が手についていないし、一同にしても会話は無しだ。そんなことを気にしないフェルが何か話せば別だろうが、彼女にそのつもりがないのなら、沈黙を保つしか無かった。


「この間などはペネロペらから苦情が・・・ああ、そうだ。インドラ殿。貴方からもカイトに一言苦言を呈しては頂けませんか?貴方とカイトは昵懇の仲と聞いています。あれの奔放さは実に如何ともし難い」


 兄の名前が出た瞬間、弟妹の口から勢い良くお茶が吹き出した。


「おい! 汚いな!」

「げふっ、げふっ・・・ご、ごめん」


 対面して座っていたものだから、思い切りフェルに向けてお茶を噴射した浬が済まなさそうに謝罪する。なお、噴出されたお茶はフェルの魔術によって氷となって地面に落下した為、何ら問題は起きていない。そうして、後始末の必要が無かったので、浬がおずおずと手を上げてアテネに問いかける。


「あ、あのー・・・お兄ちゃんが何かしましたか?」

「おや、あなた方は・・・と、申し遅れました。私はアテネ、もしくはアーテネーと申す者。このような衣服での挨拶は申し訳ありません」

「アテネ、ってもしかして・・・あの、アテネ様・・・ですか?ギリシア神話の」


 名乗られた名前に一度全員顔を見合わせた後、浬が再びおずおずと問いかける。


「はい、そのアテネです」

「はぁ・・・」


 そうして此方に注目したアテネの姿をじっくりと観察して、その美貌に思わず同じ女である浬達でさえ、ため息を吐いた。

 まさに女神、その言葉がしっくり来るような美貌だった。そして手に持つ盾や槍、古代ローマの神が着るであろう衣服の上から鎧を身に纏うその姿は、彼女らにも、彼女が戦の神様である事が理解出来る物だった。


「まあ、俺が紹介しとくと、こっちの二人が姉弟で、あいつの弟妹。こっちが最近噂の巻き込まれた少女達。左が木場 鳴海で右が成瀬 侑子。」

「ああ、最近噂の。」


 御門の言葉に、アテネが少しだけ哀れみの表情で一同を見る。ちなみに、御門はアテネの興味が浬達に移ったのを見て、即座に昼食を食べ始める。アテネはド真面目なので、昼食を食べ始めてしまえば、行儀が悪いと説教はしないのだ。


「う、噂?」

「ええ、何やら日本の荒れている現状に巻き込まれた4人組が居て、その中の二人はカイトの弟妹だ、と」


 噂になっている、と言われた鳴海がアテネに問いかける。ちなみに、この情報は御門ではなく、ヨミが流した物だ。御門達に手を借りているので、彼らが日本に居る事を隠すためにヨミが仲介役になって情報を流しているのである。


「そういや、最近インしてないが、今どうなっている?」

「・・・聞きたいですか?」


 ごごご、と怒気を纏いながら、アテネが御門に問いかける。その様子を見て、御門はおおよそ何があったのかを把握した。


「いーや、遠慮しておく」

「はぁ・・・今回の護衛もエウリュアレらが行くと言って聞かないわヒルダも来るといって暴走するわ・・・はぁ・・・どうしてあれに誑し込まれた女の子はそこまで熱心に点数を稼ごうと必死なんでしょうか・・・」

「お前もその一人だと気付かんか・・・」


 フェルが誰にも聞かれない様につぶやくが、これは実は事実だった。実際、本当はアテネは来る予定は無かった。それを戦神としての見地から更に裏を掻くべきだ、ということで強引にねじ込んだのである。自分への言い訳は、カイトへの説教だが。まあ、言い訳が必要な時点で詰んでいるだろう。


「にしても、そこまで不確かでは無さそうですね」

「あ、あはは・・・まあ、色々と手筈を整えてくれてるしさ」


 アテネの言葉に、侑子が苦笑して頷いた。確かに何もわからない、打つ手が無い状況なら、ここまで平然とはしていられないだろう。それがここまで平気なのは、ひとえにフェルや御門達がつきっきりで面倒を見てくれているからだった。


「ああ、そうだ。皆に告げておきます。御門殿がいらっしゃるとお伺いしましたので、アルジェナ殿より伝言を預かって参りました」

「げっ・・・あいつ、なんて?」


 非常に嫌な予感がした御門だが、聞かない、と言ったら言ったでアテネに怒られるのだ。なので、仕方がなく伝言を聞く事にする。


「後々お伺いに参ります、先方にご迷惑をおかけにならないように、とのことです」

「はぁ・・・あいつは俺の母親か・・・」


 既に日本に来て一ヶ月と少し。既に此方に生活の基盤も出来ているし、そろそろキズナサーバーにインしておかないと情報が錯綜してしまう可能性もある。なので御門はため息を吐きつつも、ここらで一度ログインする事に決める。そうして、伝言が終わったのを見てそろそろ良いか、とフェルが口を開いた。


「はぁ・・・一つ良いか?」

「なんでしょうか?」

「お前、何らかの仕事で来たのではないのか?」

「あ・・・」


 一瞬アテネがぽかん、と口を開けて、自分の不手際に気付く。そもそも彼女は今回『天穹の水瓶』の護衛に来たのだ。その護衛をほっぽり出してこんな所で呑気にお説教をしているわけにはいかなかった。


「で、では、また明日」

「はぁ・・・ゼウスには酒を用意して待っていると伝えてくれ」

「承りました、父には、そうお伝えしておきます。かの熾天使殿、ご忠告、感謝致します」


 フェルにそう告げると、アテネは即座に消え去る。仕事を思い出し、その仕事に戻ったのだ。


「あの・・・お兄ちゃんは一体何を・・・」

「ん?」


 アテネが去った後。ずっと聞けなかった事を浬が問いかける。神様から諫言を呈される様な事を聞いて、かなり怯えていた。


「ああ、気にするな。あれが取っ替え引っ替え女を侍らせるから、嫉妬しているだけだ」

「当人も気づいてないしなー」


 フェルの言葉に、御門がため息混じりに告げる。だが、姉弟の方は、フェルの言葉を聞いて顔を見合わせてその意味を咀嚼しようと努力していた。


「取っ替え引っ替え?」

「女を侍らせる?」


 無い、姉弟は顔を見合わせて即座にそう切って捨てる。常に冷静沈着、よくつるむ面子や男なのか女なのかわからない幼馴染以外には一切女っけが無い兄に、女を取っ替え引っ替えする様な事があるとは思えなかったのだ。

 というより、姉弟にとってそんな事が起きるのなら、世界が滅びる方が早いだろう、とさえ思っていた。


「・・・貴様らに良い写真を見せてやろう」


 そんな姉弟にフェルが少し楽しげな顔でスマホを弄る。そうして数分で、何かの写真を画面に映しだして、一同に見せた。そこに映っていたのは、一人の男性の写真だった。

 それも、単なる男性では無い。幼さが一切存在しない精悍な顔付きで、180センチは超えているであろう高身長。筋肉はその美しさを損なわぬ程に付いており、同性の海瑠でさえ、思わずため息が出る程の美丈夫だった。


「・・・うわぁ・・・」

「ねぇ・・・これ誰?」


 浬が思わず見惚れてため息を吐いて、鳴海が陶酔とした様子でフェルに問いかける。が、フェルは何も言わずに、一同の反応を楽しむだけだった。


「やっぱりさ・・・女を取っ替え引っ替えっていうのはこういう人がやる物だと思うよ。ウチのお兄ちゃんじゃ無くてさ」


 ぼー、と真っ赤になりつつ、浬が告げる。その顔はまさに恋に恋する乙女の表情だった。


「でもこのきりっ、とした顔立ちとかだとさ、多分そんなのやらない人じゃないかな・・・」


 不断は男っぽく色恋沙汰には疎い侑子も少しだけ陶酔しながら浬の言葉に反論する。


「ぷっ・・・」


 そんな一同を見ながら、御門が少し遠い所で笑いを堪える。フェルもスマホを掲げながら、薄くだが笑みを浮かべていた。敢えて御門もフェルもこの写真の人物の正体を言わない。それは一同の表情を楽しむためだ。


「はぁ・・・」


 再び、4人の中の誰かが誰かがため息を吐いた。あまりの美丈夫を見た姉弟は気付かない。この美丈夫こそが、兄の本当の姿だということに。

 だが、彼ら姉弟でさえ気付かぬのも無理は無かった。彼らが見ている今の兄は、ここまで並外れた美丈夫では無い。そうなる事の想像も出来ない。確かに美丈夫に近くはあるが、それでも、空也や空也の兄の空、浬の同級生が褒めそやした瞬に比べれば、一段から二段程劣るのだった。

 だが、それは歳相応の幼さが彼本来の精悍さと不協和音を起こしてしまっていただけのことだ。それが歳を重ねて無くなった上、彼に刻まれた忘れられぬ戦いの数々が彼を大英雄や勇者と呼ばれるに相応しい尋常ならざる美丈夫へと成長させたのだった。


『ふぁーあ・・・良いのかねぇ・・・もう飯の時間終わるのに』


 そんな一同の様子を見ながら、中学校の上空にて小鳥の姿に戻った兄の意識を持つ使い魔があくび混じりに呟いた。昼休みの終わりまで、後5分。既に人波も殆ど消えており、教室に戻り始めていた。この調子だと、別に授業に出る気なぞさらさら無いフェルやアテネに説教されてやる気を削がれた御門はさておいて、浬達4人は大急ぎで戻るハメになるだろう。

 そうして、そんな一同は結局、写真に映る人物の正体を知らされぬまま、フェルと御門のおもちゃになるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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