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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第25話 全能神 ――ゼウス――

 浬達がカイトとの奇妙な再開を果たした翌々日。羽田空港に、二人の男性が降り立った。まあ、正確には彼らのお付きらしい人物が何人も居るので、2人だけでは無かったのだが。


「ほぉ、これが羽田か。表の玄関口からは初めて来たな」

「父上、あまり立ち止まられますと、後ろの者達が・・・」

「む、おぉおぉ。そうじゃった」


 老年の男性が、男の言葉に少しだけ照れを見せて歩き始める。彼は白髪に白い顎髭を蓄えた筋肉質の老人だった。

 父上、というからには二人は親子なのだろう。まあ、それが納得出来るぐらいには、二人共似ては居た。が、それにしては、少しだけ年の離れた親子ではあった。老年の男性がおよそ60代後半に見えるのに対して、父上、と呼んだ男は20代後半に見えた。


「で、クレス。これから先の旅の予定は把握しておるな?」

「はっ、もう暫く待てば、かの者達から向かえが来るはずです」


 クレス、と呼ばれた若者が父親の問いかけに応じて頷く。彼は筋肉質のかなり大柄で顔つきにも野生が見て取れるのだが、そんな物が些細なほどに、気品が漂っていた。

 そしてそれがまさしく真実である事を示す様に所作には洗練された優雅さが存在していて、身だしなみにしてもきちんと整えられている。言うなれば、獰猛でありながら気品を兼ね備える百獣の王の様な男だった。

 そんな彼だが、今は少し大きめのトランクを大切そうに手に持っており、決して何処かに忘れたり失くさない様に様に紐で括りつけていた。

 そうして、クレスの言う通りに、5分程で黒服の集団が彼らを迎えに来た。いや、正確には、黒服の集団に守られたスーツ姿の覇王――流石に今回ばかりはきちんと着ている――と着物姿の武が迎えに来たのである。当たり前だが、横には交渉にあたった彩斗も一緒だ。そうして、彩斗が口を開いた。


「お久しぶりです、ゼウス様。横に居るのが、我が社の社長です」

「お初にお目にかかります。ゼウス殿。天道家当主、天道 覇王、といいます」


 流石にこんな場で、相手が相手だ。覇王とてこだわりを捨てて、『はお』で名乗った。それを受けて、ゼウスが名乗りも無く問いかける。だが、これは無礼ではない。彼は神、それもかなり有名な神話の全能神とも言われる程の高位の神だ。神として来たのならば知っていない方が、無礼だった。名乗る必要が無い、という事だ。


「そなたが、長で間違いないな?」

「はい。此方は父の武です」

「お初、お目にかかります。此度はお会いできて光栄です」


 覇王の紹介を受けて、武がゼウスに挨拶する。それも決して彼が滅多に浮かべる事の無い緊張を浮かべて、だ。


「して・・・例の物は?」

「気が早いな。まあ、それが人の子か」


 挨拶をそこそこに出た武の問いかけに、ゼウスが苦笑する。とは言え、彼が焦っているのも理解は出来た。なので、ゼウスはクレスに命じてトランクを開かせた。


「クレス、見せてやれ」

「これが、『天穹の水瓶』になります」

「これが・・・」


 この場に居合わせたゼウス側以外の全員が、思わず息を呑む。確かに、その見た目は普通の青色の水瓶だった。だが、その水瓶はとてつもない魔力を放っていた。それこそ、誰にでもこれが神々の持つ至高の品だとわかるぐらいに、である。


「そこの若いの・・・取れるのなら、取ってみせい。鷲の試練では無く、そちらでも良い。いや、その場合は貸出では無く、そなたらに授与してやろう」

「・・・は?」


 トランクを開いた瞬間に荒垣が浮かべた一瞬の感情を目ざとく見て取って、ゼウスが不敵な笑みを浮かべて告げる。

 貸与では無く授与。無制限に使えるのだ。それを受けて、一瞬荒垣にはその試練に挑戦しようか、という無茶が鎌首をもたげる。だが、続いた言葉にさすがの荒垣でさえ、この申し出を断る事になる。


「まあ、もしそなたが、我が子ヘラクレスに挑み、勝つ事の出来る勇者であると思うておるのなら、という話だが」

「なっ!?」


 告げられた名前に、今度は天道側の全員が絶句する。その名前と偉業は例え異国の彼らにとて、つぶさに知られていた。ゼウスは今回の貸出において、その物品の護衛に彼の子供の中で最もの武勇を誇る大英雄を連れてきたのである。そうしてその紹介を受けて、ようやくクレスが自己紹介を行う。


「申し遅れました。私は父・ゼウスと母・アルクメネが一子、ケイロンが弟子、ヘラクレスと申します。どうぞ、気軽にクレス、とお呼びください」


 紳士的に、丁寧な口調でクレスが自己紹介を行う。誰もが、彼がヘラクレスだと気付けなかったのは当たり前だった。ヘラクレスといえば12の難行と義母ヘラの嫉妬による狂気の行動で有名で、このような紳士的な青年だとは思えなかったのだ。

 とは言え、この意外感は彼にとっても慣れっこだったらしい。彼は少し苦笑に近い微笑みを浮かべて一同に告げる。


「申し訳ありません、イメージにそぐわず」

「まあ、うむ・・・スマヌ。大抵の悪評は儂の所為じゃ。そこの所、お主ら人の子に違和感があるじゃろうが、目を瞑ってやってくれ」


 何処か照れた様に、ゼウスが笑って天道の一同に告げる。そもそもで彼の浮気症で出来た子供が、このヘラクレスだ。それをヘラに見つかりその嫉妬からとばっちりで苦難を得たのが、ヘラクレスの12の苦行なのである。

 荒々しいのは殆ど武勇に関する事で、アウゲイアスの家畜小屋の清掃では知恵を働かせたり、アルゴナウタイなどでは仲間の英雄を叱咤するなど、本来は大英雄に相応しいだけの資質を持ち合わせているのだ。


「とは言え・・・クレス・・・ヘラクレスの武勇に関しては、まさに大英雄よ。そなたら人の子で挑むのなら、覚悟せよ。余の子の中でも最大の英雄が、相手になろう。ここ久しく、コヤツの武芸を見ておらん。楽しむことが出来れば、勝てぬでも貸出には応じてやらんでもない」

「まあ、少し前に挑んだ男が居ましたが」

「これ、言うでない」


 クレスの言葉に、ゼウスが笑う。これでは折角久しく見ていないと言ったのが嘘になってしまうのだ。それを聞いて、覇王がゼウスに問いかけた。


「・・・ちなみに、一つよろしいか?」

「よかろう」

「その結末は?」


 どうやら覇王は少しだけ興味が湧いたらしい。それを受けて、ゼウスは少しだけ考えて、クレスに問いかけた。実は戦いをけしかけたものの、途中から彼は酔って寝てしまったのである。


「ふむ・・・クレス、あの戦いは結局どうなったのだ?」

「は・・・まあ、オリンポスの周囲にあった山を5つ程打ち壊し、川を3つ程氾濫させた所で父上がお眠りになられましたので終会にしました。その後は彼が愚痴を言いながら元に戻されていたのですが、ご存知ありませんか?」

「そ、そういえば後々かなり言っておったな・・・」

「そ、そうですか・・・」


 ゼウス自身が命じた事なのにすっかり忘れていたらしい。それを指摘されて、ゼウスが思わず苦笑で藪蛇だったと苦笑する。まあ、そんな二人のやり取りを受けて、覇王が頬を引きつらせるしか出来なかったのだが。


「ち、ちなみに、もう一つ良いですか?」

「誰か、であろう?」

「は・・・」

「<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>よ」


 その瞬間、静かに、されど大きくざわめきが生まれる。まさかこんな所で出るとは思わなかった名前だった。


「しつれ」

「その問いかけには、答えられんな」


 覇王が問おうとしたその正体を問う問いかけに対して、ゼウスは機先を制して拒絶を示す。そして、更にその理由を告げる。


「あれは、我らにとっても有益な男。やすやすと懐中の玉を開陳する事はあるまい」


 ゼウスが笑って告げる。カイトは表向き正体不明であるが故に、自由に動けるのだ。その利点を潰す意味は無かった。まあ、一神教の神使達の中にもカイトの正体を知っている者も居ないでは無いが、熾天使の一人がカイトとフェルに対して融和的であるが故に、その情報は彼女の手によって伏せられている。

 とは言え、この情報を匂わされて、安々と引けぬのも道理だ。なので、覇王が交渉に乗り出した。


「その情報、どのようにすれば、教えて頂けるか?」

「ふむ・・・さて、かつてあ奴は我が弟が一子オリオンの弓術に我が子ペルセウスのメドゥーサ討伐に似せた試練、ハデスの求めに応じてオルフェウスの呼び出しをやってのけたな・・・それに比する偉業を成し遂げてもらおう」

「父よ。それに加えて、アテネ殿の命でヒュドラの子の討伐もやっています」

「おお、それもあったか」


 クレスの言葉に、ゼウスがぽむ、と手を叩く。ちなみに、本来は3つで良かったのだが、増えたのには理由がある。

 メドゥーサに一発で良いから攻撃を食らわせろ、という指令を受けたのだが、そのやり方にいちゃもんを付けられた結果、もう一つとしてヒュドラというヘラクレスの倒した竜の子供を討伐してみせる事を命ぜられたのであった。


「さて・・・この4つを為した男の情報よ・・・それなら、それを上回る偉業を為して」

「いや、申し訳ない。今の話は忘れてください」


 ゼウスの言葉を遮って、覇王が話を取り下げる。今のどれか一つの試練であっても、ここの全員で挑んでもクリア不可能なのだ。それを上回る偉業を為せ、と言われた所でどだい無理な話だった。


「そうか? ともすれば、我が娘をく」

「・・・」

「忘れろ。頼む」


 フードを深く被った従者の一人の少女から、ゼウスが非常に強い眼力で睨まれて即座に撤回する。そうして、従者のはずの少女が前に出てきて、ゼウスに問いかける。


「父よ、その先の言葉を仰って頂けますか?」

「なんでもない。気にしてくれるな」

「あの・・・ゼウス殿、そちらはもしや・・・」


 非常に嫌な予感はしつつも、覇王がゼウスに問いかける。今回、『天穹の水瓶』の護衛はたった一人だと聞いていたのだ。まあ、信じては居なかったし、この様子だと真実、そうだったのだが。


「申し遅れました。私、アーテネー、もしくはパラス・アテネと申す者です。此度はヘラクレスと共に護衛にあたっていたのですが・・・父よ、再度、問います。先ほどの言葉の先は?」


 覇王の問いかけに応じて、アテネがフードを下ろして名乗る。そうして現れたのは、流れる様な金糸の髪に、戦の女神に相応しい精悍な顔。だがその美貌は戦の女神と言うに似合わぬ程に美しく、そして、気高さがあった。まあ、それと同時にかなり気の強そうな雰囲気もあったが。

 ちなみに、身長は160センチ程で高身長のゼウスとクレスの二人と並べばかなり小柄だ。体つきはしなやかさが前面にでたスレンダーな体系。モデルの様に整った肉体だった。


「いや、なに・・・ほれ、男っ気の無いお主に夫でも見繕うてやろうと・・・」

「父よ・・・わ・た・く・し・は! 処女の誓いを立てている事をお忘れですか!」

「い、いや、すまぬ・・・」


 どうやら、娘に勝てないのはどの世界も一緒らしい。アテネに説教をされて落ち込むゼウスの姿があった。そうして、覇王達を置き去りに一通り説教をして満足したのか、アテネが先陣を切って歩き始める。


「皆、行きますよ!」

「わかりました、アテネ殿」


 どうやらこの流れはクレスには見えていたらしい。父の説教の間何も言わなかった彼は、アテネの号令で歩き始める。そうして歩き始めて、ゼウスが少し苦笑しつつ覇王達に謝罪した。


「いや、スマヌな。あれはどうにも戦神として少々武張った性格でのう」

「いえ、戦神として、真あるべき姿かと・・・」

「あれの美しさは儂の娘の中でも抜群じゃが、同時に頭の硬さでも抜群でのう。勝手に処女の誓いを立てるわと頭を痛めておる」

「あはは、処女の誓いはアテネ殿には必須の言い伝え。破るわけにもいきますまい」


 ゼウスの苦言に対して、覇王は苦笑混じりにも世間話的に返すしか無い。だが、そんな覇王に対して、ゼウスがトンデモ発言を行う。


「いや、のう。あれが処女の誓いを立てたのは彼氏の一人も出来ぬあれが男を取っ替え引っ替えしておるアフロディーテへの単なる見栄・・・ん?」

「父よ。失言は、せぬ方が良いと思います」


 覇王達が立ち止まった事に気付いて、ゼウスが首を傾げると同時に、彼が何か固い物にぶつかる。それはクレスだった。彼は苦言を呈すると、横にずれる。


「これ、クレス。立ち止まるで・・・」


 いきなり立ち止まったクレスに対して、ゼウスが苦言を呈そうとして、クレスがずれたお陰で異変に気付いた。目の前に右手に美麗なやりを携え、左手に見事な盾を構え、戦士達が嘆息する程見事な戦装束を身に纏う女神が立っていたのだ。

 しかも、その美しさを称える様にとんでもなく高濃度の魔力の光を纏って、である。おまけにその魔力に煽られる様に髪はたなびき、それが更に彼女の尋常ではない美しさを際立てていた。


「父よ。そろそろ、宜しいでしょうか?」


 まあ、言うまでもなく、アテネである。思い切り家族しか知らない真実を暴露した上に、彼女に苦言を呈しまくったのだ。誇り高い彼女が怒らないはずは無かった。


「の、のう、アテネよ・・・何も図星を指されたからと言うて、その対応は無いのではないか? こ、これでも一応儂は主神ゼウス・・・そしてお主の父」

「ほう、父よ・・・まだ、そんな事を申しますか」


 ずい、と槍の切っ先をゼウスの口先に突っ込んで、アテネが告げる。この対応を見れば、処女の誓いの話は誰もが事実である様な気がした。

 そうして、槍にとんでもない魔力が収束していく。別に彼女が全力でやった所で、ゼウスは死なないのだ。煙を上げて黒焦げになる程度である。まあ、空港には甚大な被害がでかねないが、クレスが何らかの魔術を展開しようとしているので、被害は出ないのだろう。


「あの・・・アテネ殿? 出来れば・・・」

「何でしょうか?」

「いえ、何も・・・」


 覇王がやんわりと止めに入ろうとしたが、アテネに睨まれて取り下げる。人の身の辛い所で、本気の神様を前にしては諫言は言い難いのだ。

 ちなみに、幸いにしてVIP用のロビーで人気は少ないし、ここら一体には結界を敷いてあるおかげで異変に気付かれては居ない。が、こんな所で彼女がぶっ放せば、幾らクレスが対処しても確実に後始末は面倒な事になるだろう。だが、その事態は寸前で避けられた。


「っと、待ったー! こんなとこでんなもんぶっぱしようとすんじゃねえ! 最悪飛行機が落ちたりして、大変な事になるだろーが!」

「貴方は・・・」

「お、おぉ! 助かった! さすがじゃ!」


 唐突に結界に入り込んだ狐面の男に、アテネが少しだけ顔を顰めるが、すぐにその正体に気付く。そしてそれはゼウスも一緒だった。彼は非常に嬉しそうな顔でその狐面に礼を言う。死なないとは言え、黒焦げになれば無茶苦茶痛いのだ。死なないから良い、というわけではなかった。


「爺! アテネ相手に図星はつくなって言ったの爺だろ!・・・あ」

「良いでしょう。貴方が、相手になってくださるというのですね。貴方には一度灸をすえておくべきだと思っていた所です」


 助かったのは、ゼウスだけだった。今度は狐面に対してアテネがやりを突き付ける。とは言え、今度の彼女の顔は非常に嬉しそうな表情だった。まあ、因縁のある相手に公然と攻撃出来る理由を見つけたから、なのだが。


「じゃ、爺。オレ帰るわ」

「うむ」

「逃しませんっ!」


 ゼウスの答えを聞いてひゅん、と消えた狐面を追うように、アテネもまた消える。どうやら狐面の方が手を回しているらしく、何か破壊音が聞こえてくる事は無かった。それに覇王達はとりあえず、一安心する。


「はぁ・・・アテネ殿もあれが照れ隠しだと気付くのは何時なのでしょうね」

「さぁのう・・・」

「・・・父よ、三姉妹と併せて、あれに全て任せますか?」

「厄介払いはそれでよかろう」


 親子は去って行った娘を見つつ、苦笑して語り合う。アテネはゼウスにとって目の上のたんこぶに近い厄介者だ。

 とは言え、知名度や色々な兼ね合いから、安易に排除は出来ない。と言うか排除するつもりはあまりない。が、遠くに送れるのなら、ぜひとも送りたいという女神だった。というわけでの、決断だ。


「にしても・・・相変わらず厄介な娘に好まれる男じゃのう・・・」

「あれはどちらかと言うと、厄介な娘を好んでいるのだと思います」

「悪喰じゃな」

「かと」


 親子二人は去って行った狐面の男に対して、そう評価を下す。そう、とどのつまりあの狐面の下は、カイトなのであった。空港が破壊されるのを止められない覇王達を見るに見かねて、ゼウス達を密かに出迎えようとしたカイトが介入したのだ。

 ちなみに、実はこれに気付けたが故にアテネは護衛名目で説教に来たのだが、その説教自体が、カイトに会う為の口実だと気付くのは、まだまだずっと、先の事であった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回はまた来週土曜日の21時です。

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