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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第24話 交わり始める道

 ゼウスの試練が始まる三日前。かねてよりの予定通り、彩斗は家に帰ると煌士の策通りに切り出した。


「なあ、浬、海瑠、ちょっとええー?」


 夕食後。のんびりとテレビを見ていた二人に対して、電話をして仕事の話をしていた様子を演じていた彩斗が声を掛けた。


「なに、お父さん?」


 だらーとソファに寝転がりテレビを見ていた浬がそのままの姿勢で父親の言葉に顔を向ける。

 ちなみに、今二人が見ていたのは、日本に来日した――と言うより、一時帰国した――エルザが出ている歌番組であった。

 なお、訓練の二週間の間に浬は保存用と観賞用にエリザ達4人からサインを2つ貰っていた。正体が人魚であったと知っても、ファンなのには変わりなかったのである。


「お前らバイトする気無いか? 三日後の土曜日なんやけど」

「んー・・・面倒だからやだ」

「海瑠は?」

「んー・・・僕は良いけど?」


 少し考えただけで再びテレビに戻った浬はあまり乗り気では無いらしいが、同じく少しだけ考えこんだ海瑠は少しだけやる気を見せる。


「ちょっと天道で作っとる新製品のモニターの仕事やねんけど・・・一日のそれも2時間ぐらいで終わるやつで、日当も出してくれるらしいわ」

「え? お金出るの?」


 お金が出ると聞いた途端食い付いた娘に、彩斗は少し苦笑する。まあ、この年代は幾ら遊んでも遊び足りないのに、満足にバイトが出来るわけでもない。なので、簡単に臨時収入が得られるとなれば食いつくのは当たり前だった。


「あ、日当5000円な。まあ、実際に動くのは10分ぐらいで、後は2時間ほど試験の説明やら準備の待ち時間やら感想やらなんやらだけらしいわ」

「時給2500円・・・ううん、実質10分で5000円・・・・お父さん、私もやるっ!」


 浬は即座にそろばんを弾き、時給幾らかをはじき出す。この点は彼の兄も同じような性格なので、もしかしたら兄妹として似ているのかもしれない。


「おう。じゃあ、会社にもそう伝えといたるわ」


 彩斗はそう言うと、再び受話器を取って覇王への直通回線を使い、結果を報告する。実は今回の一件の手筈を考えたのは、煌士のアイデアを聞いた覇王だった。彼の見立ては見事で、物の見事に浬はそれに釣られてしまったのである。


『おう、彩斗だな。結果は?』

「はい、上々ですわ」

『おう、じゃあ、こっちもそれをゼウス神に伝えとく。悪いな、お前ら一家には総出で協力してもらって』

「あはは、構いませんって。体のいいバイト、つーことにしとりますからね」

『あはは、そうか・・・当日俺も向かう。まあ、後は頼むわ』

「はい」


 簡潔に要件を伝え終えると、彩斗は受話器を置く。これで、必要な手筈は全て整え終えた。後は三日、煌士達の行ってゼウスの試練に備えるだけだった。そうして、リビングに戻って彩斗が口を開いた。


「はぁ・・・いや、悪いな。なんやもともと別のモニターがおったらしいんやけど、なんや巻き込まれ事故で怪我しおって出られんらしい。で、急遽誰かおらんか、ってちょい知り合いから連絡があってな」

「ふーん・・・」


 彩斗の説明に、浬は殆ど興味なさげに返事をする。真実を知らない彼女としては、怪我した人には悪いが、割のいいバイトが回ってきてくれてラッキー程度にしか思っていなかった。

 ちなみに、この知り合いというのを誰かに聞かれた場合は荒垣という事になっている。彼は本来は映像機器部門の開発・試験担当で、モニターを招いての試験も携わっていた。それ故、今の部署として知り合いである彩斗にお鉢が回ってきても可怪しくはないだろう、という判断だった。


「まあ、今更言うのもなんやけど、バイト内容はまあ、単純な鬼ごっこや。今ウチで映像投影技術の詰めを行っとってな。それで創り出した映像から、逃げて欲しいそうや。どのぐらいの速度で追えて、何処まで投影出来るんか、ってのを見たいんやと」

「なんだ、そんな試験なんだ。じゃあ、別に別の人じゃ無くて良かったんじゃないの?」


 どんな試験なのか、と少し興味深げだった海瑠だったのだが、彩斗の説明を聞いて本当に簡単そうだ、と笑う。彼にしても、試験内容を聞いて殆ど気負いが無くなった。


「いやな、まあ、年代別に試験をやっとるらしいんやけど・・・つうか、今やっとったらしい。そこでなんや来る予定やった奴が何人か事故ったらしいわ。それで、おんなじ年齢探しとったらしいわ。つっても今日はもう無理らしいから、今度の土曜日、つうことらしい」

「じゃあ、僕ら以外にも誰か居るの?」


 空也の問いかけに、彩斗が少し考えこんで答える。なお、当たり前だがこれは嘘で、彩斗も加わる事になっている。この理由としては、更にもう一人必要だったのだが、それが集められなかった為、急遽彩斗に頼む、という手筈になっている。


「ん? ああ、そら、居るわな。えっと・・・さっき聞いたところやと・・・空也くんに天道家のご子息、それとその使用人、つー女の子が来るらしいわ。」

「あ、空也来るんだ」

「良かった」


 興味が無さそうな浬に対して、知り合いが来るならば、なおのことやりやすいか、と海瑠が少しだけ安堵を浮かべる。

 兄同士が親友で、空也と浬、海瑠も知り合いなのだ。まあ、浬は以前に覇王が言及した数年前の誘拐事件に偶然出会わせてしまって巻き込まれた事があり、その縁で知り合っているのだが。


「おう・・・っと、そういや天道家のご子息は二人共の中学校の生徒会長らしいわ。知り合いか?」

「げっ・・・」

「ん? どした?」


 浬の顔に浮かんだしかめっ面を見て、彩斗は内心の笑みを隠して問いかける。二人の仲については既に既知だが、知らないふりをしたのである。


「あ、ううん。なんでもない。じゃ、詩乃ちゃんも一緒か」


 折角手に入れた割の良いバイトだ。まかり間違っても手放すつもりは無かった。なので浬はとりあえず、適当にはぐらかす事にした。


「ふーん・・・まあ、それならええわ」

「うん。じゃあ、土曜日空けとくね」

「おーう」


 そうして、誰も何も疑問に思わずうちに、二人の参戦も決定したのだった。




 その翌日。当たり前だが、この事はフェル達の知る所となる。ゼウスと彼女らがつながっているのだから、当たり前だった。


「土曜日、貴様らはゼウスの試練に挑むらしいな」

「・・・はい?」


 昼食中。この時間だけは、フェルも参加して進捗具合を話し合う時間だった。そうして浬と海瑠に対して告げられた言葉に、二人はきょとん、となる。そんな二人に、フェルは楽しげな笑みを浮かべる。


「やはり知らんか」

「・・・ごめん。きちんと説明してくれない?」


 楽しげなフェルに対して、浬が頭の中を探りながら問いかける。一体どういう原理が働けばそんな事になるのか、一切不明だった。


「良いだろう。教えてやる」


 ちなみに、フェルとしては説明した所で逃げられない様にするつもりだった。だから、非常に上機嫌に裏では何が起きていたのかを教えてやる。


「と、言うわけだ。頑張れよ」

「んなっ・・・」

「そっか、そんな事が起きてたんだ・・・」


 愕然と成る姉弟二人に対して、鳴海と侑子は裏では天道財閥などが真剣に消えた学園の行方を探していた事に少しだけ安堵を見せる。ちなみに、二人も共に兄と姉が学園に通っていた為、気にならないはずは無かったのである。


「か、帰って速攻やめよ・・・」

「却下だ」


 事の次第を悟った浬が呟いた言葉だが、有無を言わせぬ迫力でフェルが告げる。そもそもこんな面白そうなイベントを逃すはずが無かった。というより、見逃すはずも無い。既にフェルと御門、そしてスサノオ他楽しい事大好きな面子――酒瓶片手に――が観戦を予定していた。


「今後も私達の指導を受けたければ、見事試練をクリアしてこい」

「そん・・・な・・・」

「がんばんなよ」

「頑張れー」


 浬が愕然となるのに対して、完全に他人事の侑子と鳴海が笑って告げる。まあ、今回は本当に他人事なので、彼女らは家でゆっくり、となるはずが無かった。


「ああ、貴様らは1階で観戦しろ。それで掴める物もあるはずだ」

「・・・土曜日出かけたいんだけど」

「部活が・・・」

「安心しろ。ゼウスの試練は夜だ。自宅にはきちんと分身を送り出してやる。行き帰りも気にするな。私が送り届けてやろう」

「見たい番組・・・」


 フェルの楽しげな言葉に、鳴海が愕然となる。どうやら彼女は夜は夜で見たい番組があったらしい。まあ、録画すれば良いだろう。


「まあ、安心しろ。流石に今回の一件だけはお前らの家族の事もあるし、日本の国力にも影響する。私からも手助けは加えてやるつもりだ」

「手を貸してくれるの!?」


 フェルの言葉に、落ち込んでいた浬が顔を上げて歓喜を浮かべる。フェルの正体は未だに判明していないが、少なくとも帝釈天と言われる御門よりも強い事はわかっているのだ。その手助けとなれば、十分に期待出来た。


「私じゃない。おい、居るだろう。出てこい」


 浬の嬉しそうな言葉を聞いてフェルは苦笑して、どこかへ向かって語りかける。そうして現れたのは、一羽の蒼い小鳥だった。


「海瑠。お前は天道の奴らの予定では、鷲の転移の兆候を見定める役目だ。色々と理由をつけて、それが装置の誤差とでも言ってな。魔眼は知っているらしい。浬、貴様はこの小鳥を肩に乗せて試練を受けろ。安心しろ、誰にも気付かれん」

「えぇー・・・こんなの乗っけて逃げるわけ・・・?」

「安心しろ。下手にはたき落とそうとでもしない限りは、噛み付いたりはせんさ」


 フェルは笑いながら浬に蒼い小鳥を手渡して、その肩の上に載せる様に命ずる。それを受けて小鳥は羽ばたくと浬の肩へと乗った。


「後は、そいつの指示に従え」

「え・・・あ、もしかして、これからフェルちゃんの声が聞こえるとか?」

「そんなわけがあるか。私は屋上で貴様らのダンスを存分に楽しませてもらう」


 浬の期待混じりの問いかけだが、フェルは憮然とした表情で告げる。


「おい、いい加減に何か話してやれ。結界は敷いている。まただんまりを通すのなら、その綺麗な羽を毟り取って私のアクセサリーにでもしてやるぞ」


 そうして更に一向に話すつもりのない小鳥に対して、フェルが命ずる。そんな一同の会話を一切無視して毛繕いをしていた小鳥だが、それに、本当に小さくため息を吐いた。


『はぁ・・・やれやれ。オレはあまり力を使いたくないんだがな』

「うきゃあ!」

「しゃ、しゃべったー!」


 耳元で声がした浬が思わず飛び跳ねて、声を聞いた他の三人が飛び上がらんばかりに驚く。まあ、今まで小鳥が流暢に話した所なぞ聞いたことが無いのだから、当然だろう。それを小鳥は楽しげに眺めてから、浬の肩から飛び立って一同が自分を見れるベンチの上に着陸する。


「ふん、それが嫌なら、貴様がゼウスに言って、『天穹の水瓶』の貸出を言ったらどうだ?」

『お断りだ』

「そ、そんな権力あるの!?」


 可愛らしい見た目に反して偉そうな態度と共に出たゼウスをも動かせるという言葉に、鳴海が思わず声を出す。それに、二人が視線を鳴海に向ける。


「こいつの本来なら、軽々と試練をクリアするからな。まあ、それに『天穹の水瓶』の精巧な偽物を創り出すのも出来るだろう」

『ま、数少ない特技だからな』


 小鳥は両羽を器用に操って肩を竦めるポーズを行う。まあ、そんな小鳥だが、浬がブルブルと震えているのに気付いた。そうして気づくと同時に、浬が口を開いた。


「ごめん・・・ちょっと良い?」

『何だ?』


 その瞬間、浬が小鳥を抱き竦める。偉そうな態度とそれに反して見た目が可愛らしい小鳥であったので、ギャップ萌えが理解出来る女子には非常にウケが良かったのである。


「ちょっと、これなに! むちゃくちゃ可愛い! これ欲しい! と言うか、フェルちゃん! 返さなくていい!?」

「持って帰ってもいいが・・・それ、貴様らの兄だぞ」


 その瞬間、浬だけでなく他の三人までも全ての時が停止する。


『お前は・・・15年も一緒の兄の声がわからんか・・・』


 ぶるぶると震えていたのはてっきり自らの正体に気付いたからだ、と思っていた小鳥ことカイト。気付かれなくて実は少しだけ傷付いていた。そうして、次に動き始めた時には全員何も無かった事にして、再度の答えを望んだ。


「・・・え? ごめん、聞き逃したみたいだから、もう一回お願い」

「だから、それは貴様らの兄だ」


 尚も抱き竦める浬に対して、フェルが非常に悪辣で、楽しそうな笑みと共に告げる。


「・・・え?」

『はぁ・・・この鳥はオレの使い魔だ。お前らに万が一があっては、と思って常に待機させてるんだよ。オレの意識の一部をコピーしてな』


 力が抜けた浬の腕から抜けだしたカイトは、浬の前に滞空して告げる。つまり、毎朝姉弟を見守っていた小鳥は、その実兄のカイトだったのだった。まあ、彼は異世界の勇者だというのだ。この程度出来ても不思議ではないし、家族を慮ってこの程度やっておくのも普通だろう。


「あの・・・もしかして、始めから消えるの知ってたんですか?」


 あまりに準備が良かったカイトに対して、思わず侑子が問いかける。これほどまでに自分が消えた後の手筈が整えられているのだ。それを疑いたくなっても仕方がないだろう。だが、これは半分正解で、半分間違いだった。


『オレが消える可能性は、考慮していた。まさか学校そのものが吹き飛ばされるとは考えてもみなかったがな』


 苦笑気味に告げたカイトが、海瑠を見る。すると、それでどうやら彼には理解出来たらしい。ようやくあの時の会話の意味が理解出来て、海瑠は目を見開いて驚く。


「そっか・・・だから、あの時・・・」

『そういうこと。オレの不意な転移は考慮の上だ・・・うん・・・考慮なんてしたくないんだが・・・本気でやっといて良かった・・・』


 何処か諦めの滲んだ声で、カイトが影を含んで笑った。


「あのー・・・それに巻き込まれたとかは・・・」

『無い。あのバカ姉でもそんな大それた芸当なんぞ出来やしねえ。一応はあんな天然でも大魔術師かつ転移術を含んだ空間系魔術ならば世界最高の才能を持っている。それで無理なら、オレの線は無しだ。そもそも、アウラがいたらもっと楽に原因も掴めるってのに、この100年行方不明とか抜かすし・・・』

「ひゃ、100年・・・ですか?」

『だってアウラだぞ。100年ぐらい平然と行方不明になる』


 鳴海の問いかけに対して、カイトは深いため息を吐いた。ちなみに、カイトは平然とアウラという名前を出したが、誰にもわからなかった。まあ、わからないのは当たり前で、彼女は異世界の存在で、異世界に渡った当時のカイトの引取先の娘、つまりは義姉なのであった。


『と言うか、誰もそれに疑問を持たないのが可怪しい。幾ら代行業つっても公爵だぞ、公爵・・・それをほっぽって100年とか何考えてんだ・・・って、オレの召喚しか考えてねえんだよな、うん。オレも疑問に思わない。あはは・・・』


 呆れれば良いのか笑えば良いのかわからないらしいが、とりあえずカイトからは止めどなく愚痴が流れてくる。ちなみに、このカイトの意識は転移してフェルが一度異世界に渡った後に持ち帰ったデータだ。なので、向こうのおおよその状況は把握しているのだった。


『はぁ・・・とりあえず、オレも援護してやる。浬、頑張れよ。海瑠、しっかり、約束は守れよ』

「えぇー・・・」

「うん!」


 片や嫌そうに、片や元気に、カイトの激励に答える。そうして、怒涛のごとく、昼休みは終了したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。次は明日21時です。

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