第百三話 vs第四の柱、二
今回は戦闘回です!
では第百三話です!
マルク国王に指定された場所に向かう前。
「いいか、妃愛。今回の戦いは絶対に前に出るなよ?」
「どうして?」
「確かに妃愛は以前よりも強くなったし、力だって使えるようになった。でも、今回の敵はあまりにも危険すぎる。一番最初の戦闘が五皇柱っていうのはさすがに無理がある気がするんだ」
「で、でも私、お兄ちゃんが傷つくのは………」
「そう思ってくれてるのは俺も嬉しいよ。でも、今の状態だと俺よりも妃愛が傷つく可能性の方が高い。力を使えるようになったからといって、それが相手に通用するとは限らないし、むしろ反撃される可能性の方が高いんだ」
「そ、それはそうだけど………」
「だから妃愛はミストの近くにいて、彼女を守ってやってくれ。おそらく今回マルクはどこかの隙をついてミストに攻撃を仕掛けるはずだ。マルクとしてもミストが隠し持っている神器は喉から手が出るほど欲しいはず。その場所がわからない今、持ち主であるミストを襲いかねないんだ」
そうお兄ちゃんはいうと、優しく私の頭を撫でながら西郷にこう呟いてきた。
「頼んだぞ、妃愛。これだけは約束だからな」
その言葉に私は素直に返事を返すことができなかった。結局声を発さず頷くことしかできずに、時間だけが進んでいく。でも私の心はまだ納得していなかった。
この数ヶ月間、私はかなり努力してきた。努力なんて今の今までそんなにしたことはなかったけど、今回ばかりはその努力が必要になったのだ。
私の体に流れている得体の知れない力。それをコントールして使えるようにする。それがこの数ヶ月の目標だった。そしてそれは一定のレベルで達成された。お兄ちゃんには敵わないけど、自分の力を制御することはできるようになったし、もう暴走だってしないはずだ。
だからこそ、私はある意味自分の力に自信を持っていた。天狗になるというのはまさにこのことかも知れないが、そう思っても問題ないくらいの力を身につけていると自負していたのだ。
だからこそ確かにフォースシンボルは怖いものの、どうにかなるという考えを心に抱いてしまっていた。月見里さんたちと戦った時はこのような気持ちにはなっていない。それは私には力がなく、お兄ちゃんに守られるだけの存在だったからだ。
でも、今は違う。
私だってできることはあるはずだ。きっとお兄ちゃんの役に立ってみせる。
そんな気概が心の中で渦巻いていた。
今回の戦いは私からすると正直言ってそこまで関係の深い戦いではない。以前の戦いは月見里さんや時雨ちゃんが関わっていたこともあり、失ってしまう可能性の高いものがたくさんあった。
だが今回は。
それが極端に少ない。
だからこそ、私の心には一定の余裕が出てきてしまっていた。
お兄ちゃんに何を言われようと、私ならもっと活躍できる。そんな慢心が私の中で芽生えてしまっていたのだ。
しかし。
それが間違いだということに私はその後気がついた。
だが気がついた時にはもう取り返しのつかない段階まで現実が進んでしまっていたのだ。
ゆえに私はまた泣いている。
泣くことしかできない。
勇敢に戦うお兄ちゃんの姿を見ながら。
私は、まだまだ無力だとそう実感させられるのだった。
「お、お前、その剣は………!?」
「ん?坊主、この剣を知っているのか?」
「い、いや、なんでもない………。い、今初めて見たよ………。多分、その剣が放つ圧倒的な力に驚いただけだ………。あは、あはは………」
「そうか。ならさっさと準備をしろ。フォースシンボルはもう目覚めている。隠蔽術式は一応張っているが、日本政府にはとっくにやつの存在は知れ渡っているはずだ。ここまで大きいと隠蔽術式も隠しきれん」
「ということは、もうじき自衛隊が動き出すということですね。これは困りました。ますます被害が広がってしまいます」
「………」
マルクとミストが日本政府やら自衛隊やらの話をしているが、今の俺にはまったくその話は入ってこなかった。俺が考えているのはただ一点。マルクの右腕に握られている真紅の細剣だ。
あの剣を俺は知っている。
その剣が放つ力も気配も、その全てを俺は感じたことがある。なんなら俺はあの剣に体を切り刻まれているのだ。忘れるはずがない。
あの剣の名は………。
「血剣サンギーラ………。サシリが使い、その後サスタに渡った吸血鬼の剣。だ、だがあれは………」
そう、あれは厳密にいうと神器ではない。というかそもそも神宝ではないのだ。
あの武器はアリエスたちが住んでいた世界で生み出されたもの。この世界においてリアが作り出した武器が神宝を呼ばれている以上、あの剣が神器になり得ることは絶対にないはずなのだ。
だが。
今こうして対峙してみてわかったことがある。
あのマルクが持つ剣、あれは間違いなく神器だということだ。
俺が知っている血剣サンギーラと同じ見た目をしているが、おそらくサシリが使っていた純粋な血剣サンギーラとは全くの別物らしい。その理由はいくつかあるが、やはりこの世界が俺たちの知っている世界とは異なっているという点が大きな理由だろう。
麗奈と戦った時も、カラバリビアの鍵の性能はアリエスが持っているものとは大きく違っていた。となると、カラバリビアの鍵と同じように神宝の性能や成り立ちが違っていても何らおかしくないのだ。
もしかすると、別世界の武器が神宝として確立している可能性も………。
ゆえに俺はそう知覚した瞬間、思考を切り替えていった。あの剣は血剣サンギーラに似てはいるが俺の知っている血剣サンギーラではないということ。
その事実さえ理解できていれば、今の俺には十分だった。
なぜなら。
血剣サンギーラがどれだけ強力な武器か、俺が一番知っているからだ。
それこそリアが作り出した神宝に並ぶ、もしくはそれ以上の力をあの剣は持っている。血神祖サシリのために用意されたと言っても過言ではないあの剣は、イレギュラーとして誕生したサシリの力の全てを受け止めることができる。
それはつまり生半可な神器よりも血剣サンギーラが協力だということを示しているのだ。
だから俺はある意味心配しなかった。
むしろ心強かった。
こんな異世界で、またあの血剣サンギーラに出会えたことが。
俺はそう考えると、一歩前に出ているマルクの隣まで移動し、少しだけ頬をあげながらこう呟いていく。
「だったら自衛隊が動き出す前に蹴りをつけるぞ。確かに馬鹿でかい図体だが、相手にできないほどじゃない。初めから全力でぶっつぶすぞ」
「いいだろう。であれば早々に決着をつけようではないか。あのフォースシンボルの力はまだわかっていない。だがその力で出る前に叩き潰すことができれば、問題はないだろうからな」
「わかってるじゃないか。だったら、早速いくぞ。俺の速さについてこられるか?」
そう呟いた瞬間、俺はフォースシンボルの眼前に移動して自分の拳をその額に叩きつけていった。
「はああっ!」
「キュウウエエエエエチュウアアアアアアアアアア!?」
その攻撃はフォースシンボルの重心を後ろへ移動させ、バランスを大きく崩していく。加えて俺の拳がめり込んだ場所は紫色の液体が噴出しており、それなりに大きなダメージが入っていることが確認できた。
と、その時。
「では俺もいくとしよう」
そんな声が聞こえた。
そしてその声が俺の脳内で反芻された直後、フォースシンボルの体から生えていた無数のツノのようなものがいくつか切断される。
んで、ここで血剣サンギーラの能力が発動。
切られたツノはどんどん赤く染まり、最終的に血のような液体へ変化してしまった。そしてその液体は血剣サンギーラの中に吸い込まれて赤い輝きを放っていく。
これこそが血剣サンギーラの力だ。切断したものを血液へと変換し、それを養分として吸い取る。その結果、使用者の力を大幅に上昇させるのだ。
だがサシリの場合はこの力を自身の持つ能力と併用していた。細い糸のようなものを出現させ、それに触れたものを血液に変換していた記憶がある。
しかしあとあとサシリにその力について聞いてみたところ、あの能力は元々血剣サンギーラが持っていた能力を抽出して自分のものにした力らしい。
つまり完全な血剣サンギーラには上記の能力が宿っていたということだ。
と、その時。
俺やマルクですら想像していなかった出来事が起きる。
「グギャアアアア………。コロス、イヤス、コロス、イヤス………。か、カイフク………。シヨウジュンビ………。シドウ………」
「ッ!?」
「………傷が一瞬で癒えていくか。なるほど、これは厄介だな。俺の剣が吸収した力まで消えている。やはり一筋縄ではいかないか」
違う。
あれはただ回復してるんじゃない。
ただの回復であればマルクの血剣サンギーラが吸収した力が消えることはないはずだ。だがそれすらも消えているということは、もはやこれは事象の巻き戻しに近い。現実に干渉して過去の自分を投影しているようなものだ。
それをここまで世界に負担をかけず行えるということは………。
「………なるほどね。こいつは確かに化け物らしい。再生じゃなくてやり直し。相手にとって不足はないが、それでも骨が折れそうだ」
「ん?何か言ったか?」
「………いや、なんでも。それより、そろそろくるぞ。やつの反撃が」
そう言いながら俺はフォースシンボルに視線を流していった。そこにいたフォースシンボルは何やら頭を振りながらブツブツと呟いており、それと同時に両手に持っている剣が徐々に空へ上がりはじめていた。
「コロス、コロス、コロス、タオス、コロスっ!!!キュガアアフエっ!!!………コロス!!!」
と、次の瞬間。
フォースシンボルの姿が消えたかと思うと、いつの間にか俺の背後にそれは迫っていた。
「ぐっ!?」
振り下ろされる二本の巨大な長剣。とっさにエルテナを出して受け止めるが、あまりの重さに俺はそのまま地面へ叩きつけられた。
「が、はっ!?………く、くそ、なんて重さだ。攻撃の威力をまったく殺せなかった」
「コロスっ!」
なんて呟いている暇はない。
そんなことをしている間にフォースシンボルは二本の剣を縦横無尽に振り下ろしながら俺の首を取りにくる。もはや爆弾でも落とされているのかと錯覚してしまいそうなその攻撃は、地面に当たるたび砂埃を巻き上げ大地を破壊していった。
「くっ………。本当、無茶苦茶な攻撃だな………」
大きな体を持ち、大きな剣でしか攻撃できない以上、その動きはわりと読みやすくなる。スピードはかなり出ているものの、いかんせん動作が大きすぎるため躱すことが容易なのだ。
しかし俺は妙な違和感を覚えていた。
………どんどん攻撃の精度が上がってるな。最初はそれこそ地面を破壊するだけで俺に当てる気すら見えなかったのに、今じゃ的確に俺の動きを狭めてきている………。
これはもしや………。
と、一つの結論に到かけたその時。
俺の頭上から二つの剣とは別にフォースシンボルの大きな足が突きつけられてきた。それは俺の体を軽く吹き飛ばし、いくつもの瓦礫に叩きつけていく。
「があああっ!?」
「コロス、コロス、ゼッタイニコロスっ!」
「く、くそ………。あんまり調子にのるなよ!」
俺はそう呟くと、気配創造の力を発動して無数の刃を打ち出そうとした。だがそんな俺に向かって空中に浮かんでいたマルクの鋭い声が響いてくる。
「馬鹿か、お前は!………上だ!」
「なに!?」
そう言われて顔を上げた俺の目の前に迫っていたのは鈍い青色の光を帯びたフォースシンボルの剣だった。二本ともその光に包まれており、何やら奇妙な力を感じる。
反射的にあの攻撃は受けない方がいいと判断した俺だったが、気配創造の準備をしていたせいで回避が間に合わない。
その光景を見ていた妃愛が俺に向かって声を上げてくる。
「お兄ちゃん、逃げて!!!」
「っ………」
だが次の瞬間。
避けることのできない俺に二本の剣が振り下ろされた。
地面をえぐる爆発と砂埃が宙に舞い、静寂が辺りを包んでいく。
だが。
まだ戦いは終わっていなかった。
「ッ!?………ほう。あの攻撃を受けてもまだ倒れないのか。さすがだな、坊主」
「こ、この力はまさか………」
「よ、よかった、お兄ちゃん………」
マルク、ミスト、妃愛の声が空から降ってきた直後。
周囲の状況は一変した。
フォースシンボルの剣を何かが押し返すと、その中から金色の光を帯びた俺が出現する。その瞳は赤く輝いており、神の気配を体に巻きつけていた。
「………ふう。今のはさすがに危なかったぞ。まさかこんなにも早く神妃化を使うことになるとは思わなかった。だが使ってしまった以上、もう手加減はなしだ。一気に決めさせてもらうぞ!」
神妃化。
俺の代名詞とも言えるその力がついに火を噴いた。
それによりこの戦いはさらに激化していくことになる。
だがまだまだこの戦いは終わる兆しを見せなかった。
次回はこの戦いの続きとなります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




