第百二話 vs第四の柱、一
今回からフォースシンボルとの戦いが始まります!
では第百二話です!
『はい?………今、なんと?まさかと思いますが、私に対して「好き」なんていいませんでしたよね?』
『いや、俺は確かにそう言った。それは間違いない』
『………どうやらその目は本気みたいですね』
『ああ』
『では一つだけ言っておきましょう。この手の話はしっかり返事を返すものだと私も理解しています』
『………』
『あなたに返す返事は当然「お断り」です。私とあなたの関係は姉弟子と弟弟子。それだけです。おじさまを師として仰いでいる。それだけなのです。それ以上でも以下でもない。この先に踏み込みたいとも思いません』
『それでも俺はお前が好きなのだ。どんなお前でも俺は受け止めたいと思っている』
『………もう一度よく考えてください。あなたの立場を考えれば私なんかを娶っていいわけないでしょう?一国の国王が人間ですらない魔人を妻に迎えるなどあってはならないことです』
『それは俺の愛を阻む要因にはならない。何があっても俺はお前を愛している』
『………なるほど。では何があっても諦めないと、あなたはそう言うのですか?』
『ああ』
『………そうですか。では私から言えることはもう本当に一つしかありません』
『なに?』
『私に関わることはやめた方がいいです。いずれ、いえ必ずあなたは私を殺したくなってしまう。これだけは決定事項なのです。私が魔人であるから、私が人間ではないから、そんな理由ではありません。単に心に沸く憎悪の問題です』
『ど、どういうことだ?』
『言った通りの意味ですよ。ですから私はあなたの思いに応えることはできません。これ以上踏み込めばきっとあなたが後悔する。その確信が私にはあります』
『ま、待て!ど、どこにいく!?』
『私から話せるのは以上です。そう言っているのですよ』
『ま、待ってくれ!お、俺はお前を………!』
『さようなら』
そんな過去を思い出していた。
思い出そうとすると頭の奥が強く痛む。あの頃の俺はまだ若かった。まだ言葉で説得できると思っていたのだ。
だが。
結局あの時。
我が姫、ミストが言っていたことは本当だった。
もし仮にあの場で俺の告白がミストに受け入れられていたらそれこそ俺は本当に後悔していただろう。人間と魔人。決して交わることのない存在だった俺たちが近づいた瞬間、どうなるかなど初めから分かっていたことだったはずだ。
そしてそれを理解していたからこそ、自分の気持ちとは別にミストは俺を遠ざけた。もちろん、単純に恋愛感情がなかったことも原因の一つだろうが、それよりも「かつての事件」の方が大きな理由となっているだろう。
今になってもそう思えてしまうほど、俺とミストを引き裂いた「あの出来事」は衝撃的だった。凄惨と言うべきか残酷というべきか。いや、どちらにしても俺にとってはかなり辛い出来事だったことだけは確かだ。
そしてそれはミストも………。
「はあ………。いや、それはあり得ないか。あの女は俺に………」
と、そこまで思い出した瞬間。
急に何かが震えるような振動が伝わってくる。それはポケットに入れていたスマートフォンでそこには俺が今一番知りたがっていた情報が記載されていた。そしてそれを見た俺は目を見開いて立ち上がる。
「………意外と早かったな。確かにあの場所にフォースシンボルが現れることは想定していたが、まさかここまで早いとは。隠蔽術式の準備も完璧ではない。これは少々派手に動くことになりそうだな」
そう呟いた俺、マルクは壁に立てかけられていた「二本の剣」を手に持ち、今いた部屋から退出する。その剣は俺の手に収まった瞬間、鈍い光を放ちながら輝き始めた。
だがそのうち、短剣のような「大きな穴」があいた剣はその光を力なく消失させてしまった。しかし俺はそんなことには目もくれずもう片方の「赤く細い剣」を腰にさして目的地まで向かっていく。
この細剣は俺の神器だ。
おそらく今回の戦いはこいつを抜かないといけないことが出てくるだろう。
つまり、それだけの相手と戦うことになる。
ミストとの因縁はさておき、今は世界の崩壊がかかった戦いを優先しなければいけない状況に俺は追い込まれていた。
そしてそれはあの青年たちも同じ。
「………さて、早速現場に向かうとしよう。あの坊主の力をとくと見せてもらうことにしよう」
明らかに俺よりも強い青年。
その実力を持ってフォースシンボルを撃破する。
それが俺の計画だった。そしてその計画が成就した先に俺の目的がある。そこに到達するまでは立ち止まるわけにはいかない。
「師匠の墓を掘り起こしてまで進めてきた」この計画を絶対に成功させる。そうしなければ師匠に申し訳が立たない。
そんな考えのもと俺はこの対戦に臨んでいた。
ゆえに敗北も失敗も許されない。フォースシンボルはもちろん、あの青年すら退ける必要がある。それが今回俺の掲げている目標だった。
そして俺は動き出す。
俺の全てを決める戦いへ向けて。
その結果、魔人の屍を積み上げることになったとしても。
「さて、結局指定された場所にきてしまったわけだが………」
「こ、ここって森だよね………?」
「ええ。それも東京の奥地に生い茂っているただの森林。周囲に住宅はありませんが、一定の住民は確認できています。ここでフォースシンボルが暴れるとなると少々問題ですね」
俺たちは今、マルクに指定されたとある場所にやってきていた。場所的にはミストが言ったように東京の奥地なのだが、そこはどういうわけか土地名がついておらず、完全に孤立した場所となっている。だが少なからず人は住んでいるようで、ここでの戦闘は少々難しいという判断が俺たちの中では下されていた。
空に浮かびながらみま追っている俺たちには今のところフォースシンボルらしき気配は確認できない。マルクの指示には日付は書いてなかったため、とりあえずこの場所にやってきてみたというのが本当のところだ。
とはいえ妙な空気が流れているのは知覚していた。空気が淀んでいるというか、何かが起きてもおかしくない不安感、そんな感覚がこの周囲を支配している。
「………あまり気持ちのいい場所ではありませんね。自然が多い割に空気が重すぎます。森林地帯というのはもっとこう、マイナスイオンとか森林浴とか、そういったイメージがあったのですが………」
「ここにはそれがない。それどころか息が詰まりそうな緊張感が流れている。人が出している雰囲気じゃない。この場にいる自然全てが悲鳴を上げているみたいだ」
「お、お兄ちゃん!あ、あれみて!」
「ん?」
と、その時。
妃愛が何かを指差した。
そこにあったのは少々大きく盛り上がったコブのような山。この森林地帯の中でもひときわ存在感の大きかった自然の塊だった。
だが、それが今はどういうわけか小刻みに震えている。もしやあれがフォースシンボルなのかと思って気配探知で探ってみるがそれでも気配は感じられない。だがそれを知覚した瞬間、その周囲の森が同じように揺れ始めていることに気がついた。
「な、なんだ、この現象は………!?」
「わ、わかりません。た、ただ良からぬことが起きているのは確かだと思います」
と、次の瞬間。
一番初めに揺れ始めたコブのような山がいきなり目の前で弾け飛んだ。
『ッ!?』
その光景に俺も妃愛もミストも、全員が言葉を失ってしまう。
だがその弾け飛んだ場所には何もない。気配どころか魔力すら何も感じられなかった。しかしその直後、聞き慣れた男の声が俺たちの背後から飛んでくる。
「ようやく動き出したか………」
「ま、マルク!?どうしてここに………」
「どうしても何もこの場所を教えたのは俺のはずだが?やっとフォースシンボルが動き出すという時に駆けつけないわけがないだろう」
「い、いや、それはそうだが………」
と、俺は反射的にマルクと会話してしまったのだが、そんな俺の背後に隠れるようにミストはマルクに警戒していった。ミストの傷はまだ完全に癒えたわけではない。魔人の回復力のおかげでなんとか戦えるレベルには戻っているが、それでも無理してることに変わりはないだろう。
ゆえにミストはマルクを睨みつける。しかしマルクはそれすら気にしていないと言いたげな表情でこう呟いてきた。
「がはははははは!久しいな、我が姫!どうだ、その後の調子は?傷は癒えたか?」
「………ええ、もうそれはとっくに。なんと言っても私は最強の魔人ですからね。傷を癒すくらい容易いものです」
「………強がりはよした方がいいぞ?」
「強がってなんていませんよ、ただの事実です」
「………」
「………」
こ、こわ………。
当事者じゃないからなんとも言えないが、はたから見てると本当に怖いぞ、このやりとり………。
どうやら妃愛も俺と同じことを考えていたようで、若干二人のやりとりに引きながら俺の腕に体を寄せてきた。だがそんな妃愛の体温を感じる前に信じられない現象が俺たち体に叩きつけられてくる。
『ギュキュケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエキャアアアアアアアアアアアアフウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
「ッ!?な、なんだ、この音!?」
「こ、怖い………。鳥肌が止まらないよ………」
「ついにお目覚めか」
「お目覚め?マルク、あなたは一体何を知っているというのですか?」
「俺とて知っている情報は少ない。俺はフォースシンボルが『この場所に眠っている』ということを突き止めたにすぎないからな」
「ね、眠っているですか?」
「そうだ。そしてもうすぐ、それは目を覚ます」
と、マルクがそんなことを口にした瞬間。
それは出現した。
森が、山が。
一瞬にして崩れ去った。
いや、正確には地面から押し上げられたというべきなのかもしれない。根っこから引きちぎられるように空へ吹き飛んだ木々が爆音とともに雨のように降り注ぎ、地面の中に埋まっていた「何か」を出現させる。
「ま、待て………。ま、まさか、あれがフォースシンボルだという気なのか………?」
「それ以外に何がある?」
そこにいたのは。
土に埋もれた得体の知れない巨大生物だった。
その全長はゆうに百メートルを超えている。体は人間を大きくしたような姿にモンスターのようなツノが体のいたるところから生えていた。加えてその腕には巨大な大きな剣が二つ握られており、頭の上には漆黒の天輪が浮かんでいる。そしてその体が黒く輝きながらゆっくりと土の中から起き上がってきた。
『キュギャアアアアアフヒェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』
体の芯から恐怖に漬け込むような咆哮。それは俺や妃愛、マルクやミストの背中に悪寒を走らせ、今までの五皇柱とはまったく違う存在であることを理解させてきた。
そしてその体が俺たちと同じ高さまで起き上がった段階で俺は知覚する。
圧倒的な気配とその量を。
「………こ、こんな馬鹿でかい気配が地面の中に埋まってだと!?ば、バカな、だとしたらどうして気付けなかった!?」
「それは簡単だ。言ったはずだぞ、やつは眠っていたと。その眠りはいわば冬眠に近い。エネルギーを蓄える期間だったと考えれば、その気配がどこにでもいる動物レベルでもおかしくはないだろう。ようは気配を悟られないように省エネ主義を貫いていたということだ」
「んな、無茶苦茶な………」
「無茶苦茶なことでもそれを現実に変えてくるのがフォースシンボルだ。歴代のフォースシンボルも今のやつを同じくらい化け物性能だったと聞いている。今更驚くようなことじゃない」
マルクはそういうと腰に刺さっていたとある剣を引き抜いていった。
それは鞘から引き抜かれた瞬間、暴力的な力を周囲に撒き散らし赤光を反射していく。
だが。
それを見た瞬間。
俺は凍りついた。
おそらくマルクはフォースシンボルを倒すために自らの神器を引き抜いたのだろう。だからこそなんらおかしなことはしていない。
だが俺はそんなフォースシンボルよりもその神器に驚きが隠せなかった。
なぜならその剣は。
かつて吸血鬼の姫だったものが使っていた剣とそっくりだったからだ。
血神祖。
その称号を持つものが持っていた細剣。
その名も………。
血剣サンギーラ。
血神祖サシリが使っていた細剣が、神宝ではないはずなのに神器としてこの世界には存在していたのだ。
次回は妃愛の視点でお送りします!
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次回の更新は明日の午後九時になります!




