表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
982/1020

第九十八話 協力と目的

今回はハクの視点でお送りします!

では第九十八話です!

「ふう………。まあまあのお茶ですね。及第点です」


「そ、そうですか………」


 なんという言い草だろうか。それなりにお高いお茶を用意しているのに。スーパーで買える最高級のお茶さえもミストの口には合わなかったようだ。そんなミストを見ながらどんなダメージを負っても性格は変わらないことを確認した俺は、息を吐き出しながらもう一度椅子に座り直してミストに視線を投げていく。同時に妃愛や産駒も椅子に腰を落としていった。


「とはいえ、あなた方には迷惑をかけてしまいました。この場でお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」


「お、おう………」


「なんですか?その鳩が豆鉄砲食らったような顔は。私が誰かに頭を下げてお礼を言う姿がそんなに珍しいですか?」


「ま、まあな。お前は常に人を上から見下ろすような性格だと思っていた。それがお前のアイデンティティなのかと思っていたし、口を出す気はなかったんだが………」


「ここまであっさりそのアイデンティティを捨てられると反応に困る、というわけですね。まあ、確かに言いたいことはわかりますが、私はあなたが思っているほど完璧な存在ではありませんよ?」


「………どういうことだ?」


「簡単です。自分の命に危険が迫っていると自覚すれば、敵すらも味方につけて弟弟子を倒そうと考えてるんですから」


「そ、それはっ!?」


「………マルクのことか」


 俺と妃愛の声が重なる。妃愛の声は辛い気持ちを叫びに変換しているような声で俺の声はただただ冷静に事実を確認するような声になっている。とはいえ、二人とも考えていることは同じなので、ミストもそれを踏まえて会話を続けていった。


「他に誰がいると思いますか?どうせあなた方も知っているのでしょう?マルクと私が同じ師匠の下についていたことを。であれば、今の状況がどれだけねじれてどれだけ面倒なことになっているのか理解できるはずです」


「………。まあ、わからないとは言わない。だがお前たち二人の間にどんないざこざがあるのか、どんな関係になってしまったのか、それは俺たちも知らないことだ。一応俺も妃愛をマルクに襲われた身だ。その借りは返さないといけないと思っている。とはいえ、お前と協力するか否か、その問題はまた別だぞ」


「ええ、それはわかっていますよ。だからこそ、こちらは一定の情報を開示すると言っているのです。………例えば、マルクが狙っている神器の場所とか」


「………」


「お、お兄ちゃん………?」


 ミストの言葉は間違いなく俺を揺さぶってきている。それを感じ取っているからこそ妃愛は俺に心配そうな声を向けてきているのだ。しかし俺はミストを見つめたまま動こうとしない。ミストが俺に向けている言葉や些細な仕草からミストの真意を探ろうとしていたのだ。

 だがそこはミストも慣れている。こちらがいかに観察しようがなんの情報も得ることはできなかった。ゆえに俺は黙っているサンクに視線を流しながらこう呟いていった。


「その情報はサンクが開示することを渋っていたものだ。そんな大切な情報を敵か見方かもわからない俺たちにバラしていいのか?」


「私は別にどうとも思っていません。サンクの忠誠心には感謝していますし、その判断は正しかったと言い切れますが、当の本人である私がいいと言っているのです。そこに問題が生じるはずがありません。それにここであなた方が協力してくだされば、一時的とはいえ協力関係になるのです。いつ裏切るかもわからない協力関係ですが」


 その言葉には妙な圧があった。

 つまりミストはいつか必ず俺たちを裏切る、そう宣言しているのだ。ミストにとってマルクとの戦いは本命ではない。彼女が求めているのはあくまで白包であってマルクに打ち勝つことではないのだ。

 ゆえに仮に協力関係を結ぶことになってもいつかはぜ隊に裏切る、そう言っているのだろう。だがそれはある意味当然だ。俺だってミストに気を許したわけではないし、妃愛だって同じ気持ちだろう。

 それは理解している。

 だからこそ今あるアドバンテージは絶対に生かさないといけないと俺は思ってしまった。

 俺はミストの言葉に腕を組むと、威圧するような鋭い視線をミストに向けながらこう切り返していく。


「………お前、自分が今どんな立場に置かれてるのか、わかってるのか?」


「と、言いますと?」


「その様子だとそれすら理解した上で言ってるんだろが、一応位置から説明してやる。お前は今、この家に匿われてる状況だ。加えてお前は深手を負っている。つまり俺が何を言いたいかというと………」


「つまりあなたは私がどうしてこんなにも強気な態度でいられるのか、それが不思議なのですね?」


「違う。不思議なんじゃない。確かに俺の言葉をそのまま受け取ればそういう解釈もできる。だがその裏の話を俺は尋ねたい。俺が聞きたいのは、どうして俺たちと協力することがお前の安全だと思えているのか、それが疑問なんだ」


 確かに俺たちがミストを見捨てれば又してもマルクたちに襲われるだろう。その事実は揺るがない。だが問題はそこではないのだ。


 どうしてミストは俺たちを信用できるのか。


 それだけがどうしても疑問だった。

 よく考えてみてほしい。確かにマルクは今のミストにとって敵なのだろう。しかしその条件は俺と妃愛にすら当てはまってしまう。真話対戦という大きな戦いで見れば白包を狙うミストにとって俺たちは邪魔者なはずだ。つまり敵同士なのである。俺たちは別に帝人を倒すつもりはなくても、ミストがそう思っていればいずれ争うことになるのは事実だ。

 であればそんな未来の敵に対して借りを作ったり弱みを見せたりするのはあまりにも不自然だ。

 そもそもどうしてサンクがこの家にミストを運び込んだのかも気になっている。ミストほどの財力と権力を持っている存在ならば、母国ではない日本においても自分を匿える場所はいくらでも持っているはずだ。だというのに結局はオレッ隊を頼っている。そのおかしな状況に対する説明を述べてほしいのだ。

 するとミストはその言葉に対して軽く微笑むと、サンクと俺に視線を流しながらこう呟いてきた。


「なるほど、そう切り返してきましたか。ですがそれはそんな難しい話ではないのです。もともと私は自分が襲われるようなことがあれば、サンクにあなた方を頼るように言いつけていました。その理由は単純に戦力として信用できるから、ただそれだけです」


「戦力として?」


「あなた方はこの数ヶ月の間にファーストシンボル、セカンドシンボル、そしてサードシンボルすらも討伐してしまいました。対戦が始まってまだ半分も経過していないこの状況で、です。力というのはある意味、どんなものよりも相手を信頼する指標になります。この方なら自分を守れるほどの力がる。それを引き受けてくれるかはおいておいて、それが可能な力があれば可能性はゼロではない。それが相手を信頼する最初の一歩なのですよ」


「………つまり、お前は五皇柱たちを倒した俺たちをそれなりに評価してるってことか?」


「ええ。少なくとも私の部下に私を守らせておくよりは安全だと認識しています。おそらくですが、あなたもまだまだ本気は隠しているのでしょう?」


「………」


「………」


 その瞬間、空気が凍りついた。

 俺とミストの視線がぶつかり思考の探り合いが勃発する。それは強者だけが織りなすことのできる雰囲気の激戦。自分の思考を相手に悟られないようにする戦いが声を発さずに行われた。

 しかしそれは意外にもミストから切り上げてくる。目を閉じて俺から視線を外すと軽い調子でこう返してきた。


「まあ、何度も言っていますが私はマルクの件であなた方に牙を向くつもりはありませんよ。わかっているとは思いますが、私の目的はマルクを退けることではありません。ただ過去の因縁はそろそろ断ち切りたいと思っていました。ある意味ちょうどいい機会なのかもしれません」


「………その因縁に俺たちを巻き込んで欲しくないんだが」


「ですからそれ相応の報酬はお支払いすると言っているでしょう?私が開示する情報は何もマルクに関するものだけではありません。残されている二人の帝人、そして皇獣や黒包について。そいう情報もあるんですよ?」


「ッ!」


 さすがにその言葉には驚いてしまった。

 ミストは俺や妃愛よりこの戦いに詳しいと思っていたが、それを聞き出す方法が今まで見つからなかった。だがそれをミストは開示してくれると言ってきている。いうならばこれはチャンスだ。より安全に対戦を進めるために必要な武器とも言える。

 だが。

 ここで俺は一度冷静になった。

 このミストという女は何を考えているか本当にわからない存在だ。つまりその言葉もどこまで信じられるかわからない。下手をすれば今背中を向けた瞬間、殺害される可能性だってあるのだ。

 俺はそう考えながらミストにどんな言葉を返そうか思案していたのだが、そんな俺に対してミストは少しだけ呆れたような表情を向けてこう呟いてきた。


「………どうやらそう簡単に信じてはいただけないようですね。ですが、考えてみてください。先ほどのあなたの質問に戻りますが、こんな敵陣のど真ん中で手負いの私があなた方に反旗を翻すことができると思いますか?仮にそれをやってしまえばマルクと真正面から戦うよりも危険なことだと私は理解しているのです」


「そ、それは………」


「だからといってあなた方の気持ちがわからないとまでは言いません。皇獣や帝人に襲われ続けたあなた方の心は疑心暗鬼になっていることでしょう。それは私も理解しています。ですが、ある意味、マルクがあなた方に言ったことは当たっているのです」


「どういう意味だ?」


 俺はその言葉の意味がわからず首を傾げてしまったのだが、その声に対してミストは自分の胸に手を当ててこう喋りだした。


「マルクが言うように私が持つ戒錠の時計という神器は使い方を謝れば多くの人間を殺害できてしまう力を持っています。ただ、彼が唯一嘘をついた点。それは………」


 流れる沈黙。

 そして放たれる真実。

 それを聞いた俺たちは一瞬ミストが何を言っているのか理解できなかった。




「私が誰かを殺してしまうのではなく、マルクがこの神器を使って死体の山を築こうとしているのです」




 それがマルクの嘘。

 俺たちが見破れなかった真実。

 そしてミストは驚いて言葉も出せない俺たちに向かってこう続けていく。


「一応前払いとしてもうこの情報は言っておきましょう。戒錠の時計は今、私の体内にあります。それは万が一のことがあった場合でもそう簡単にこの神器を奪わせないようにするためです。おそらくですがマルクはその事実に気づいていません。だからこそ今回はギリギリのところで窮地を脱することができました。もし仮に私の体内それがあると知れていれば、私を殺すではなく確保する流れになっていたはずですから」


「か、確保して、ど、どうするつもりだったんですか………?」


 妃愛がおもむろにそう呟いていく。

 それは聞いてはいけない質問だとわかりつつも、口が勝手に動いてしまった。そう言いたげな表情を妃愛は浮かべていた。

 本当ならその言葉は相手の神経を逆なでするはずなのだが、ミストはそれでも笑いながらこう返してきた。


「おそらく体をバラバラに切り刻まれた後、神器を奪われていたはずです。まあ、一度殺してから体の中を開いていた可能性もありますけど」


「………で、どういうことなんだ。そのマルクが死体の山を築くっていうのは」


 すかさず俺も口を挟んでしまう。この会話においてそれが一番聞いておかなければいけないことだった。マルクの話ではミストがその神宝を持っているから人が死ぬという話だった。だが今ミストから語られたのはその逆。そしてミストがそう断言するからにはその理由があるはずだ。

 俺はそれを聞くためにそう問い返した。だがそんな俺に帰ってきた言葉は耳を疑ってしまうものだった。




「………正直言って、これはかなり言いづらいことなのですが、言わなければ話は進みませんし話すことにしましょう。マルクが掲げている目標は神器を奪うことでも私を殺害することでもありません。マルクは『魔人』をこの世から消滅させようとしています。そのために戒錠の時計が必要なのです。その力を使ってこの世に存在する魔人を全滅させる、それが彼の目的なのですよ」




 魔人の消滅。

 それは前代未聞の偉業。

 だがそれをマルクは本気で達成しようと考えているようだった。


次回はついにハクとミストが動き出します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ