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第九十三話 奪われた秘宝

お待たせしました!今日からまそらいろ完全復活です!

ごりごり本編を執筆していきます!

では第九十三話です!

「何しにきた、か………。そんなに俺がお前の前に現れたのが不思議だったか?」


「………それは」


「同じ帝人同士、いつかは交わる運命にある。それはお前とて理解しているだろう。そして聞けばお前は全帝人中最弱と聞いている。であればそんなお前をいつまでも泳がせておくと思うか?」


「………」


 もっともな理論だった。

 この戦いに参加している以上、国王であろうが平民であろうが立場は関係ない。それはある意味平等と捉えることもできるのかもしれないが、言い換えればそれは本来あるべき人権が消失してしまっていることを意味している。

 国王だから平民だから人の命を奪ってはいけないなんてルールはどこにも残っていないのだ。加えてこの対戦の趣旨は皇獣を倒すことの他に帝人同士の白包を狙った抗争にも焦点が当てられる。

 つまりいくら月見里さんの脅威が過ぎ去ったからといって私はまったく油断することはできないのだ。

 とはいえ、私もかつての私ではない。お兄ちゃんは力を持つことは力を呼び寄せる種にしかならないと言っていたが、それは逆に自衛する能力を身につけることにつながっている。数ヶ月前の私ならマルク国王の登場に驚いて動くこともできなかったかもしれないが、今はまだ気持ちに余裕が残っていた。

 ゆえに私は意を決してマルク国王に向かって言葉をぶつけていく。


「………だからお兄ちゃんがいないときを狙ったんですか?」


「お兄ちゃん?お前とあの坊主の間にはそのような血縁関係はなかったはずだが?」


「質問に質問で返すのやめていただけますか?」


「む………。まあ、それもそうか。俺としたことが少々先走ってしまったようだな。………確かにお前があの坊主から離れるのを待っていたのは事実だ。俺はものの気配をある程度消すことができる。ゆえに今もあの坊主は俺がお前に接触していることを知らないはずだ」


「………そこまでして私を殺したいんですか?」


「誰もそうとは言っていないだろう」


「だ、だって………!」


 普通に考えれば単独の私を狙う理由は帝人の数を減らすため、そう考えるのが自然だろう。なんといっても私は帝人の中で最弱。先ほどマルク国王が言ったように狙われるのは当たり前とさえ言えてしまうレベルだ。

 しかしそれをマルク国王は否定してきた。先ほどと言っていることが違うじゃないか、というツッコミが喉の奥からでかかるがそれはマルク国王の言葉によって遮られてしまった。


「確かに俺はお前を泳がせておく気はないと言った。だが殺すとは言っていない。あの坊主を避けたのは単に面倒ごとを回避するためだ」


「面倒ごと?」


「そうだ。あの坊主は強い。加えて勘も鋭いだろう。そんな男がいると計画が狂ってしまう恐れがある。それは俺も困るからな」


「それ、私のことバカにしてます?」


「所詮中学生のお前に俺の考えが読めるとは思えないからな、がははははははははははは!」


 失礼な王様だ。

 本当に失礼な王様だ。

 こう見えても私は学内トップの成績があるというのに。

 ………まあ、それでもこの人からすれば気にとめるようなことじゃないのかもしれないが。というかマルク国王が言っている「所詮」という意味は単純な頭脳を指しているのではないのだろう。これまで積み上げてきた戦歴やその場だから体験できる駆け引きの経験。これら全てを総称して、私を「所詮」と称したのだ。

 そう考えると妙に納得できてしまう。

 おそらくここで私がマルク国王と舌戦を行なっても勝てないことは目に見えている。火を見るより明らかとはまさにこのことだろう。

 単純な実力ではなく、己が持つありとあらゆる力がマルク国王には敵わない、そう私は思ってしまった。

 ゆえにむすっとした顔を浮かべはしたが、すぐに元の表情を取り戻して冷静を装っていく。正直なところ、一国の国王が自分の前にいるというだけで心臓がはち切れそうなのだが、それよりも帝人が放つこの独特な緊張感のほうが私を苦しめていた。

 するとマルク国王は不意にこんなことを呟いてくる。


「まあ、だからといってお前が無力だとは思っていない。その身に宿っている力。まだ不完全だとはいえ、それなりに鍛えているように見えるからな。コントロールできない力などあってないようなもの。それを理解して鍛錬を積んでいるのであれば、多少は感嘆するというものだ」


「………」


「どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔になってるぞ?」


「い、いえ、別になんでもないです………。ただ、あなたの口から他人を褒めるような言葉がでるとは思わなくて………」


「随分な物言いだな。王とて誰かを褒めることぐらいある。どんな偏見を持っているのだ

お前は。………ほら、思い出してみろ。我が姫を俺は褒めちぎっていただろう?何もおかしなことはしてないぞ」


「あー、あれは………。褒めるというよりただの求婚では………?」


「そうともいう!がははははははははははははは!」


 だ、だめだ、会話のペースがつかめない………。というか掴ませてくれない。もはやここまでの流れがずっと掌握されていたような感覚だ。

 もし仮に意図的にこの状況を作り出しているのだとすれば、やはりマルク国王は本物だろう。お兄ちゃんとはまた違うタイプだが、かなりの舌戦をくぐり抜けてきている気がする。

 私はそう考えると、ガラス片が飛び散っていないベッドの上に気を失っている時雨ちゃんを寝かすと、マルク国王に向き直るように立ち上がってこう呟いていった。


「………で、結局私に何のようなんですか?まさかと思いますが、ただ単に驚かせにきたなんて言わないですよね?」


「馬鹿か、お前は。一国の王がただのイタズラで一般人に関わると思うか。………まあ、いい。俺もそろそろ本題に入らなければいけないと思っていたところだ。丁度いいだろう」

 マルク国王はそう呟くと、自身が叩き割ったガラス片を魔術のような何かで吹き飛ばすと、部屋に置かれていた椅子に腰掛けていった。そして急に真剣な顔を作ってこう切り出してくる。


「………お前は我が姫のことをどれくらい知っている?」


「わ、我が姫ってミストさんのことですか………?」


「ああ」


 って言われても………。

 私が知ってることってミストさんが世界に一人だけ存在する先天性の魔人ってことぐらいしかないんだけど………。というかむしろ私が知りたいくらいだし。

 一応お兄ちゃんには力を扱うにあたって、今確認されている帝人に関する話は聞いていた。お兄ちゃんも全てを知っているわけではないらしいけど、それでも断片的な情報は話してくれた。

 その中には当然ミストさんに関する情報も含まれている。とはいえ理解できた部分が少なすぎるため、いざ言葉にして説明しろと言われてもなかなか苦戦してしまうのだ。

 とはいえこのまま話さなかったら話が進まないので小さな声ではあるが返事を返していく。


「………ミストさんは『純然たる魔人(ホワイトデーモン)って呼ばれてる魔人で、世界に一人しかいない先天的な魔人。それくらいしか聞いてません』


「ほう、そうか。であれば当然俺と姫の関係は聞いていないのだな?」


「は、はい………」


「であれば、色々と都合がいいな。余計な情報が入らずに話を進めることができる」


「どういうことですか?」


 私は反射的にそう聞き返してしまったのだが、そんな私に向かってマルク国王はどこからともなく取り出した写真を一枚差し出してきた。そこには今と変わらない姿のミストさんと随分地若いマルク国王、そして白いひげを生やした一人のご老人が写っていた。


「こ、これは………?」


「俺と我が姫、そして俺たちの『師匠』が写った写真だ」


「し、師匠!?」


「簡単に言えば戦闘技術を俺たちに叩き込んでくれた恩人、というところだな。まあ、我が姫の場合は戦闘技術というより精神コントロールの方が主だったらしいが。………まあ、この師匠はすでに他界している。この写真も十年前のものだ」


「は、はあ………」


 マルク国王とあのミストさんに師匠なんて人がいたのか、という驚愕に見舞われた私はしばらくの間固まって動けなかった。しかし徐々に状況を頭が整理しだすと、口と体が動くようになっていく。私はその話に何を言っていいかわからかったので、とりあえず自分の心の中に浮かんだ疑問をそのままぶつけてみることにした。


「え、えっと、その話をどうして私に?」


「簡単だ。俺はお前にこの師匠が持っていた『とあるもの』の捜索を頼みにきた。そのためには一度事情を説明しておかなければいけなかった、それだけだ」


「は、はあ!?」


 な、何を言ってるの、この人は!?

 だ、だって、私たち敵だよ!?い、いや、正確には敵じゃないかもしれないけど、帝人って争うものなんでしょ!?ど、どうしてそんな私に頼み事なんて………。

 と、思っているとそんな私の思考を先読みしていたマルク国王が間髪入れずに言葉を紡いできた。


「言いたいことはわかる。だが、これが最後のチャンスなのだ。そのチャンスをものにできるならどんな恥だって惜しまん。敵の協力を仰ぐことも同意だ。そしてそのチャンスを掴むにはお前という存在が適任だったのだ」


「………その適任って言い切れる理由は?」


「子供だから」


「ん?理由は?」


「何度も言わせるな、子供だからだ」


「………」


「………」


 その一瞬で、私の中に流れていた緊張の糸が切れた。

 というか怒りに沸点が爆発したとでもいうべきか。

 真面目な空気だったのに、それを容赦なくぶち壊してくるマルク国王の態度に私は呆れてしまった。


「………帰ります」


「お、おい、待て!べ、別にふざけているわけではない!単純に子供のお前の方が怪しまれなくて済むと思って………」


「そうやってあなたは何人もの子供を利用してきたんですね、わかります。やっぱり最低ですね、あなたという人は」


「だ、だから話を聞け!お、おそらくだが、俺の『探し物』は我が姫が持っているのだ!」


「ミストさんが?」


「そ、そうだ。お前もわかっていると思うが、帝人と一般人を関わらせるのは禁忌とされている。そうなると我が姫に自然に接触できのはお前しかいないのだ!無論、俺や坊主では怪しまれてしまう。そういう意味での子供、だ!」


「………なんか、ものすごく怪しんですけど。というか、私がそれを引き受ける理由も必要もありませんよね?あなたがどんな過去を背負って、どんな思いで私に接触してきたのかわかりませんけど、それを聞く義務は私にはありません」

 どんなことをマルク国王が私に囁こうがここで頷く義務はない。マルク国王が言ったことだ。この戦いに参加していれば地位も立場も関係ないと。だから私がその頼み事を聞く必要はどこにもないのだ。

 しかし次にマルク国王が呟いてきた言葉を私は無視できなかった。


「………このまま放っておけば、大量の人間が死ぬことになるとわかっていても、お前は俺の言葉を聞かないつもりか?」


「………どういう意味ですか?」


「そのままの意味だ。俺が探している『それ』は使い方によってはこの世界を崩壊させられるほどの力を持った品だ。一般人が持っている分にはそれほど問題ないが、いかんせん強力すぎるゆえ早急に手を打ちたいというのが本音だ」


「………」


「加えてその品は今、我が姫が保管している」


「は………?」


「元々『それ』は我が師匠が保管していたものなのだ。そしてその品は師匠の死とともに姿を消した。師匠が死んでから俺は必死にその品を探していたのだが、ついに俺は我が姫が持っているという情報にたどり着いたのだ。だが見ての通り、我が姫は強い。もしかしたら『それ』の使い方も知っているかもしれない。そうなると迂闊に動けないのだ」


「だから、私にそれを取りに行けと?」


「そうだ。そして我が姫がその力を一度でも発動させてしまえば、おそらくここら一帯の人は全て死んでしまうだろう。我が姫は『それ』のコントロール方法を知らない。つまり『それ』を暴走させてしまうおそれがあるのだ」


「………で、そのコントロールはあなたならできると?」


「無論だ」


 ………そう言われると無視できない自分がいる。

 どこまでも甘い、甘すぎると言われそうだが、これはもう私の性格なのでどうすることもできない。私がここで首を横に振ったせいで多くの人が死んでしまえばそれこそ目覚めが悪い、という罪悪感で死んでも死にきれないだろう。

 そう考えた私は小さくため息を吐き出してこう返していったのだった。


「わ、わかりました。話だけは聞きます………」


 だが。

 この会話がのちに大きな問題を引き起こしてしまうことに私が気がついていなかったのだった。


次回はマルクが探し求めている品について迫っていきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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