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第八十話 凍った愛

今回は麗奈の視点でお送りします!

では第八十話です!

 私を愛してくれた人なんて誰もいなかった。

 私の周りにいた人といえば、私をただの道具としててしか思っていないクズどもに、血が繋がっていながら愛情をまったく向けようとしない腐った両親ぐらいだった。

 そんな中で生活してきていれば人間の価値観なんて大きく歪んでしまう。というよりは、そんな環境でしか育ったことがない以上、自分がどれだけおかしいのかさえ理解することはできなかった。

 でも、痛みや苦痛といったどうやっても抗えない感覚というものは何をしても蓄積していくものだ。それを私に与え続けてきていた家族やその他の連中に対する憎悪は溜まっていくばかりで、いつしか絶対復讐しようという感情が芽生えていった。

 味方なんていない。愛を向けてくれる人もいない。私は一人だ、一人で生きていくしかないんだ。でも絶対に復讐しよう。私が私でいるために、この感情をあいつらにぶつけよう。

 そんなことを考えながら私、月見里麗奈、もとい「九条麗奈」は幼少期を過ごしていった。

 だがそんな日々も私が高校を卒業するタイミングで終わりがきてしまう。丁度その頃、私の家は魔術や魔人がらみの知識や技術の相続でもめていた。きたる真話対戦のために誰が上に立ち、誰が指揮をとるのか、そんな無駄すぎる争いが続いていた気がする。

 当然、その対戦のために用意された私は高校を卒業してもこの家の奴隷であることは変わらず、来る日も来る日も魔人にはなれないのに、魔人になるための行為を自ら行う日々が続いていた。

 しかしそんな私に転機が訪れる。

 いつも通り一人で部屋にこもりながら自らの体を傷つけようとしていたその時、私は聞いてしまったのだ。この家が保有している魔術や魔人に関する知識が隠されている秘密の場所の存在を。それはこの家の当主であった私の父親と母親が話していたもので、その会話がたまたま私の耳に入ってきてしまったのだ。

 だがその情報は分家や他の関係者は絶対に知らない情報らしく、この情報こそがこの家の覇権を争う鍵になるらしかった。

 つまりこれはキラーカード、私の両親がこの家の権利を得るための切り札になる情報ということになる。それを知った私はどうにかして自分の状況を変えようと、その情報を利用することにした。

 まず、その知識が隠されている場所に一人で潜入し、そこに隠されているものを全て焼き払った。当然だがコピーは用意している。魔術道具や変えのきかないものなどは現物を見つからない場所へ移動させたが、あとは全てカメラで撮影するなり手でメモを残すなりして、その他は全て焼却した。

 それによってどうなるか。

 当然だが、私は一気にこの家の覇権を手に入れることになった。両親はその場所が焼き尽くされたことによって生気を失ったかのように私に従うようになり、その他の人間も私が手にしている情報の存在を知るとすぐに私に平伏するようになっていった。

 ようはそれだけ私の両親が隠していた情報というのは大きな力を持っていたということだ。魔術や魔人の知識というのはそう簡単に入手できるものではない。根底にある知識はほとんど同じだが、それから派生した知識は本来秘匿されるべきものらしい。

 その中でも私の家系は代々その知識が受け継がれ、さらにどんどん発展していっていたらしく、関係者の中ではその情報が欲しいがためにこの家に養子を嫁がせてくるなんてこともままあったそうだ。

 そんな情報がたった一人の奴隷の手に落ちた。その事実はこの家の関係者全員を驚愕させ、一気に私の立場を変えていくものとなった。

 しかし、だからといって私が彼らを許すはずがない。私につけられた傷は心にも体にも深く刻まれている。その復讐をしなければ私の怒りは収まらない。

 だから。

 私は。




 私に関わった人間を全て皆殺しにした。




 魔人でもない一介の少女が仮にも魔術をかじっている連中を殺すのは正直いって無理がある。だがこちらにあるのはこの家が積み上げてきた叡智の結晶だ。それをふりかざせばその程度の戦力差など簡単に覆ってしまう。

 ゆえに簡単だった。

 この家を血の海に変えることぐらい造作もなかった。

 その際に両親からはテンプレートのような「お前なんて産まなければよかった」なんて言われたが、それはこっちの台詞なので無視した。お前らが私を産まなければ私はこんな苦しい思いをせずに済んだのだ。そんな怒りもと、私は両親の首すら切り飛ばした。

 まあ、そんなこんなで私の一族は私を除いて全滅した。

 その処理は非常に困難を極めたが、基本的に裏の裏を生きている私たち一族はそれをもみ消すことのできる連中とも繋がっている。ゆえにそれすらもつつがなく終わらせることができた。

 というわけで晴れて自由を得た私だったが、そのままごく普通の生活に戻れるというわけではなかった。

 すでに私の体は取り返しのつかないレベルまで崩壊していた。

 魔人にはなれなかったが、魔人になるための行為を体が勝手に求めてしまうようになっていたのだ。別に性行為のように深い快感があるわけではない。むしろ苦痛だ。痛みと苦しみしかない。だが妙な中毒性が体と心を刺激し、家族から解放された後も私はその行為に勤しむことになった。

 だがそれがきっかけで、私は唯一の願望を見つけてしまった。

 こんな体は嫌だ。元に戻りたい。いや、そもそもこんな人生なかったことにしたい、そう考えるようになったのだ。

 すでにこの時、私は自分が生きている意味を見出せなかった。無駄にあるお金を消費しながら生活する日々は何の楽しみも見出せず、ただ苦しむだけの生活。そんなものに生き甲斐など見つけられるわけがない。

 でもこの時、ようやく私は何かにすがってみたいと思えるようになった。

 人はダメだ。絶対に裏切られるし信用はできない。であれば、絶対に裏切らない確固とした信頼がおけるものにすがればいい。

 そう考えた結果、私がたどり着いたのが「白包」だった。

 奇しくも私が道具として育てられた原因である真話対戦にすがることになるとは思ってなかったが、それでもこの世の全て可能にしてしまう白包があれば私の願望も叶えてしまえるのではないか、そう思ったのだ。

 そしてそれからの私は変わった。

 その目的のためにひたすら動き続けた。気がつけば花の十代なんてとっくに終わってしまっていたし、体の老化すら徐々に感じるようになってしまった。


 しかし。


 ここで二度目の転機を私は迎えることになる。


 それは真話対戦に勝利するために、ある程度影響力のある集団ないし家系がないか探していた時のこと。そこで私は崩壊寸前の月見里家という存在に目をつけた。経営難が続き、あと数日もすれば全ての株を失って会社は外部に奪われてしまう、そんな絶望的な状況に陥っていたのだ。

 その会社を私はその社長であった月見里貴教と結婚する条件で立て直した。裏社会の力を使ってしまえばその程度造作もなかったし、丁度私は対戦で勝ち抜くために後ろ盾が欲しいと思っていたところだった。

 だから当初、私はその一族全てを巻き込んで利用するつもりだった。というか、その計画は全てうまくいったし、会社の権利も株も全て私が掌握していった。


 だが、ここで私は色々な「初めて」を体験する。


 晴れて夫となった貴教は、どういうわけか私に惚れ込んでいた。私の目的も打算も全て話した上で、それでも私に愛を向けてきていた。

 はっきり言ってそれは受け入れがたい反吐がでる感情だった。しかしそれなりに容姿のよかった私は学生自体もそこそこモテてていたし、夫が惚れ込むのも仕方がないと諦めていた。

 だがそんな生活が続くと、徐々にその感情が薄らいでいった。

 誰かに愛されるというの気持ちの柔らかさに安らぎを感じていったのだ。別にだからといって私の中にある黒い感情が消えるわけではない。でも、この人には私を傷つける意思がないのだと理解してしまうと、その気持ちを無下にはできなくなっていったのだ。

 それから。

 私は少しの間だけ人生の幸せというものを味わった。

 目的も忘れて夫と一緒にいる時間を作り、その腕の中でまどろむ。暖かくて柔らかくて、優しくて。とても安心した。

 そして私は身籠もることになる。

 自分の体の中に小さな命が宿り、一緒に生きているんだと思うとすごく幸せだった。

 だから麗子が生まれた時は本当に泣きそうだった。こんな自分でも、こんなに幸せになれるんだと実感してしまった。だからこの時は思っていた。真話対戦に参加するのは私だけでいい。そして晴れて普通の人間に戻れたら、今度こそ三人で幸せな家庭を築こうとそう思っていた。




 だけど。




 そうはならなかった。

 出産直後で体調が崩れていた時、それは起きた。

 急に私は人を「喰らいたい」という衝動に駆られてしまったのだ。

 その衝動は魔人、もしくは皇獣にしかないものだ。だから私は「ああ、ついに私も魔人になってしまった」そう思った。

 しかし現実はもっと残酷だった。

 私が変化したのは魔人ではなく、皇獣だったのだ。

 どうしてそんな現象が起きたのか、それはわからない。でも魔人になることを拒否し続けた体が、その限界を超えて皇獣になってしまった、そう考えることしか私にはできなかった。

 だからそれが発覚した直後は、わたしは狂ったように荒れた。突然叫んだり、暴れまわったり、人を襲おうとしたり。そんな日々が続いてしまった。

 そして最悪な事態が起きる。

 ある日、私はふと目を覚ました。その時、隣には血だらけになった麗子が寝ていて私の手は真っ赤に濡れていた。

 正直、何が起きているのか理解できなかった。だが記憶は残っている。その記憶には私が麗子の体に刃をつきたて、その体を魔人に変えようとしていた光景が映し出されていた。

 その瞬間、私は自分が自分でなくなっていっている事実に気がついた。己の目的のためにただひたすら突き進む化け物になってしまっていることに、ここでようやく気がついたのだ。


 それからはよく覚えていない。

 家族に対する愛情も、信頼も全て自分から捨てて対戦に勝つことだけを考えるようになっていったと思う。麗子を魔人へ変えて、貴教を傷つけて追い込んで、挙句の果てにここにもないひどい言葉をぶつけた。

 そんなことを続けていればどうなるかぐらい考えるまでもない。

 家族だった二人は私を嫌うようになり、どうにかして私の手の中から抜けだそうと考えるようになった。だがそれすらどうでもいいと考えてしまう自分がいる。そんな自分に絶望しても、それすら言葉にできなくなるほど私は人間を失っていた。

 そして対戦が始まった。

 私が召喚した神器はどういうわけか人格を持っていた。ゆえにその神器だけは私の中にある気持ちを理解してくれていた。ゆえに、私は自分の人格を半分預ける代わりに皇獣特有の捕食欲を封じ込めるように頼んだのだ。

 その代わり、私が対戦に勝利した際に手に入れる白包を一つ分け与えるという条件で。

 その結果、私は晴れて帝人となった。

 だがすでにその時の私は人としての感情をほぼ全て失い、己の欲望のためだけに動く自分こそが自分だと認識し始めていた。その結果、私は麗子を殺し、関係のない人間にまで力を振るっている。

 これに関してはカラバリビアでも抑えることができなかったらしく、「お前はもう手遅れだ」とさえ言われてしまった。

 でも私には進むしか道は残されていなかった。言葉にできなくても、心さえ塗り替えられても、体が化け物になってしまっても、いつかあの幸せな時間を取り戻したいと、その気持ちだけが私を突き動かしていった。

 そんな気持ちを言葉にできないのは本当に苦しかったが、その苦しさも終盤には忘れてしまうほど私は壊れていった。


 だがその時。

 私の前に貴教が立ちふさがった。

 今の貴教はただの人間。だから私が力を振るえばすぐに殺すことができる。そう思った。私の目的を邪魔するなら夫の貴教だって殺す。そんな狂気じみた思考が腕を動かしていく。


 しかし。

 結局それはできなかった。

 困惑する偽りの心。動きたいのに動けない体。

 それはまるで、私の中にかつての私が残っていたかのようなそんな状態だった。孤独だった私を唯一向かい入れてくれた貴教を傷つけられない。そんな感情が全身に広がっていく。


 そして気がつけば。


 私は貴教に拘束されていた。

 その体の暖かさはあの時と変わっていない。

 そんな体温が少しだけ私を元に戻し、一滴の涙を瞳にためていく。




 そしてその涙が地面に落ちた瞬間、私は最愛の夫と最期の時を迎えるのだった。


次回はついにこの小説を執筆して二周年を迎えます!

というわけで以前から感想欄にきていたアリエスが現実世界に初めてやってきたときのお話をお送りしたいと思います!全三話くらいの構成になりますので、お楽しみください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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