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第六十五話 汚れた戦い、七

今回はハクの無双回です!

では第六十五話です!

「あ、ああ………。あ、あれって、ほ、本当に、お兄ちゃん………?ふ、雰囲気が違うというか、そ、その神々しいっていうか………」


「はあ………。まったく周りのことなんか気にしないでさっさと力を解放すればよかったのに、あの坊やはそういうところが甘いわよね。そもそも私の『準備』だって早々に終わってたんだから、早く呼びつければよかったものを」


 ガイアさんは光り輝くお兄ちゃんを見ながらそう呟くと大きなため息を吐き出しながら肩を落としていく。しかしその言葉は今の私には届いておらず、二つの瞳は目の前にいるお兄ちゃんに釘付けになっていた。

 金色の髪の毛が少しだけ伸び、瞳から発せられる赤い輝きがさらに増している。加えて見ているだけで震えてしまいそうなほど大きな気配と、圧倒的な威圧感。その全てが今のお兄ちゃんから放たれていた。

 はっきり言って、超常的な力に詳しくない私であっても、今のお兄ちゃんがどれだけ常識を超えた力を身につけているのか理解することができる。立っている地面から伝わってくる震え。これはこの星そのものが震えている振動だ。たった一人の人間が持っていていい力ではない。

 神器も強力ではあるが、それをさらに凌ぐ力をお兄ちゃんはこの場で見せつけたのだ。


「でも、さすがは坊やね。初めて神妃化を使ったときとは比べものにならないくらい強くなってる。同じ出力でも、その気配の規模が段違いよ。これは、多分勝負にすらならないわね」


「ど、どういうこと………?」


「強すぎるのよ、単純に。だから坊やは渋ってたの。通常の状態から一段階リミッターを外すだけでここまで次元が変わってしまうから。あの坊やはいつだって周りの目を気にしてる。どうなろうが全て握りつぶせるだけの力があるにも関わらず、どこまでも臆病で気を使って、弱気なのよ。でも、それが外れたってことは、あの二人に勝ち目はないわ。だって、今の坊やはやろうと思えば拳一つで星や宇宙を超えて、この世界丸ごと破壊できるのだから」


「せ、世界を破壊!?」


 もはやどれだけどれだけ大きなスケールで話が展開されているか想像もつかなかった。ガイアさんかの口から出てくる言葉の全てが私の理解を超えている。加えて私が普段持っていたお兄ちゃんのイメージがどんどん崩れ、月見里さんとそのお父さんを鋭い目線で見つめる雰囲気の変わったお兄ちゃんに塗り変わっていった。

 ………こ、これがお兄ちゃんの本当の姿。体が震えるくらい強くて、でも静かで。それでいて熱い。実際の温度じゃない。お兄ちゃんの心から伝わってくる何かがとてつもない熱を持ってる………。

 そう考えた時、私はお兄ちゃんに見入って動けなくなってしまった。私を抱きしめてくれているガイアさんの腕に体重を預けながらその体はまったく動こうとしない。というか動かせない。今から起きるであろう戦いでお兄ちゃんがどう動くのか、それが気になって仕方がなかったのだ。

 するとそんな私にガイアさんは何かを思い出すようにこんなことを呟いてきた。


「でも、あんな坊やもちょっと前までは普通の人間だったのよ?血を見ただけで吐き出すような、どこにでもいる普通の男子。そんな男子が今や神々の頂点に立つ神妃様だもの。本当に何がオイルかわからない世界よね」


「え………?お、お兄ちゃんが神妃様?そ、それって確か神様のことだよね?で、でもお兄ちゃんは人間で………」


「確かに姿形は人間そのものよ。でも根元を辿ればそもそも人間の姿は神を模倣して出来上がったもの。つまり順序的には坊やや私があなたたちに似てるんじゃなくて、あなたたちが私たちに似せてるの。まあ、それでもあの坊やは元人間で、現神妃様なんていう微妙な肩書きだけど」


「は、はあ………。わ、わかったような、わからないような………」


「まあ、簡単に言えばあの坊やは神々の中で最も強い神様ってことよ。あの坊やはあなたに隠してたみたいだけど、あの力を使った以上誤魔化すほうが面倒。ただこの世界にいた神妃様とはまったく別物だし、始中世界の神妃様である坊やの方がずっと格上なんだけど………。それはそれとして、そろそろ始まるみたいよ」


「え?」


「これではっきりするわ。神宝に使われているだけの人間と、修羅場を乗り越えて最強に至った神妃様の違いが。絶対に埋められない圧倒的な戦力差がね」


 そう言ってガイアさんは喋らなくなってしまった。頬を歪ませながら楽しそうに目の前の光景を見つめている。それにつられて私もお兄ちゃんに視線を戻していった。

 空気が乾燥し、唾を飲む音さえも出しづらい。本気になったであろうお兄ちゃんが発する空気がこの空間の全てを掌握していった。

 そして。

 お兄ちゃんが持っていた剣を地面へ突き刺し、両手を開けたその瞬間。

 お兄ちゃんの姿が消えて先頭が始まっていったのだった。














「………それが貴様の本気か?」


「本気?まさか、笑わせるなよ?俺が本気を出せばお前は今頃ここにはいない。これでも手加減はしてるんだ。それすらわかっていないようなら、お前の実力はその程度だということ。すでに勝負はついている」


「力を解放して冷静になったか。いいだろう、その虚言を吐き出す口を今すぐに切り裂いてやる。覚悟しろ」


「冷静?バカ言え。俺はかつてないほど怒っている。怒りという感情が心の中から湧き上がって止まらない。わかるか?部下も娘も、その他大勢の支持していた人間の気持ちを潰してまで戦うお前が、俺には腹立たしいんだよ。誇りなんて格好つけたものはいらない。だが、それでも人である以上超えちゃいけない一線ってものがある。それを軽々超えたお前に俺は怒ってるんだ」


「無意味な怒りだな。所詮は子供。大人にすらなりきれてない若造か。そのような小さな器で俺の前に立とうとは、それこそ腹立たしい」


「言ってろ。今わからせてやる。お前には超えられない絶対的な壁をな」


 俺はそう言うと両手に持っていたエルテナとリーザグラムを地面へ突き刺して両手を開けていった。そして息を吐き出しながら呼吸を整え、威圧とともに貴教へ視線を向けていく。

 しかしそんな俺の様子が気に食わなかったのか、貴教は怪訝そうな視線を俺に向けながらこう話かけてきた。


「どうした?なぜ武器を捨てる?あれだけ大口を叩いておいてまさか諦める気じゃないだろうな?」


「俺は本来武器を使った戦いは不得意なんだよ。どちらかと言えば拳を使う穂が性に合ってる。お前ごときにこのスタイルを披露することになるとは思ってなかったが、どうしても剣を使う気にはなれなかった。ただ、それだけだ」


 そして俺はゆっくりと目を閉じていった。流れる静寂、呼吸の音すらうるさく感じる無音の空間。風が耳に入り込む音だけが響き、それ以外の感覚は全てシャットアウトされていく。

 だが俺には見えていた。貴教の気配。どこにやつがいて、何をしようとしているのか。どれだけ進めばやつの間合いに入り、能力が飛んでくるのか。その全てを把握していく。

 そして。

 ついに。


 戦いは始まった。

 目を開く。そして思いっきり地面を蹴って貴教の眼前へ移動した。その時間は光よりも早い。何が起きたのかわからないという顔すらさせる前に、俺は貴教の顔面に拳を叩き込んだ。


「がはっ!?」


「………」


 その攻撃をまともに食らった貴教は、いまだに自分が殴られたという時間が湧いていないようで吹き飛ばされながらも体を動かせないでいる。しかし俺はそんな貴教に攻撃を加え続けた。貴教の落下点まで先回りし、右手を地面へ突き立てて左足を回しながら空へ突き出していく。その一撃は貴教の背中に直撃し、やつを上空へと突き飛ばしていった。


「がああああっ!?く、くぅ………!な、何が起きている!?」


「………」


 どうやらここでようやく貴教は自分が攻撃されていることを悟ったらしい。しかしそれは遅すぎだ。俺はすかさず体制を立て直すと、左手を空へ掲げ力を集中していく。気配創造を発動し、集めた気配をエネルギー砲のような形で打ち出していった。


「はぁぁぁぁぁあああああ!!!」


「な、なに!?」


 その攻撃は猛スピードで貴教に接近し、あっという間に体を飲み込んでいく。しかし貴教もそう簡単にやられるようなやつではない。咄嗟にカラバリビアの鍵を発動して、俺の力ごと封印しようとしていった。鍵から放たれた無数の鎖が俺のエネルギー砲に絡みつき、縛り上げていく。

 だが無駄だ。

 正規の所有者でもない人間がその力を使ったところで俺の力を抑え込めるはずがない。もし仮に相手がアリエスや星神であったなら、神妃化ごときでは太刀打ちできないだろう。

 しかし今回はそうじゃない。ただの人間。それも例外に例外を重ねたような形で神宝を扱っている存在だ。そんなやつに神妃の座を継いでいる俺が負けるはずがない。

 ゆえに俺の力は鍵の力すらも粉砕しながら今度こそ貴教の体を飲み込んだ。上空で大爆発が起き、空気が一瞬だけ吸い込まれ、直後に突風となって吐き出されてくる。その風を浴びながらも俺は視線を離さなかった。なぜなら、戦いはまだ終わっていないからだ。

 俺はすぐに空へ飛び上がり爆煙の中に飛び込んでいく。そして俺の攻撃を直撃したであろう貴教のさらに上へ移動し、その脳天を足で蹴り飛ばした。


「だああっ!」


「ぐはあああああああっ!?」


 それによってボロボロになった貴教が地面へ落下していく。その速度は到底生身の人間が受けていいものではなく、大きなダメージに繋がることは言うまでもなかった。

 地震のような振動が地面に走り、大きなクレーターを作りながら貴教は倒れ伏した。たった一瞬の攻防だったが、その隙についたダメージはかなり大きい。帝人となることによって多少身体能力は上がっているのだろうが、そもそも戦いの次元すら違う俺の攻撃を受けて無事なはずがない。

 ゆえに俺はクレーターの縁に立つようにゆっくりと地面へ降り立つと気配創造を使って鎖を作り出し、それを地面に埋まっている貴教に巻きつけていった。そしてそのままやつの体を引き上げて宙に浮かす。


「………四発、四発だ。俺がお前に加えた攻撃はそれだけ。それだけだというのに、お前は立ち上がれない。粋がっていた割にはどうしようもなく弱いな、お前」


「が、がはっ………!?ば、ばか、な………。こ、こんなことがあって、いいはずが………」


「いいことを教えてやる。お前たち帝人は確かに神器を得て強くなったかもしれない。皇獣を倒せるだけの力は得たかもしれない。だが、だからといってお前たち自身の力が強くなったわけじゃない。だからこうなる。神器の力を発揮する前に勝負がつくんだよ。能力を発動させる隙すら与えなければ、勝負にすらならない」


 俺はそう呟くと、貴教の手に握られていたカラバリビアの鍵に新たな鎖を巻きつけていった。そしてそれを取り上げ、こちらに引き寄せていく。


「な、何を、する!?」


「お前を帝人としている最も大きな要因はこの神器だ。これさえなければお前はこの対戦に参加する資格すら失うことになる。そうなれば万事解決だと、俺は思っているんだが?」


「や、やめろっ!そ、それだけはやめてくれ!お、俺はいい。だ、だが麗子まで『殺されて』しまう!」


「お、お父様!それは………!」


「………なに?」


 言っている意味がわからなかった。ここで俺が鍵を破壊したところでこの二人を俺が見逃せばその命は守られるはず。その事実は誰がどうみても明らかだ。だというのに貴教はまるで「俺以外の誰か」から殺されると言わんばかりの姫を俺に向けて放ってきた。

 とはいえ、この状況でその言葉を信じる理由はない。命乞いにしか聞こえないその言葉を聞き入れる必要なないのだ。

 ゆえに俺は気配創造を使って一本の剣を作り出すと、その剣に気配殺しを付与させて振りかぶっていく。そして目の前に吊るされた鍵に向かって容赦無くその剣を振り下ろしていった。


「や、やめろおおおおおっ!」


 そんな貴教の叫びが聞こえた気がした。

 しかし俺の腕は止まらない。


 だが。


 俺の剣は鍵に当たらなかった。


「な、なに!?」


 鎖に繋がれていたはずの鍵がひとりでに動き出し、拘束を振り払ってどこかへ飛んでいてしまう。その飛んで言った方向、そこに全員の視線が集まると、鍵は誰かにに要られて動きを止めた。


 そこにいたのは月見里麗子をそのまま大きくしたような女性だった。

 黒い髪に黒い瞳。そしてどういうわけか空に浮かんでいる。

 だがその女性を見た月見里麗子は耳を疑うような一言を呟いていったのだった。




「お、お母様………」




 そう。

 この瞬間。

 俺たちは想像すらしていなかった人物とか邂逅することになる。


本当はハクと貴教の戦いはもっと書こうと思っていたのですが、この戦いのメインはこれからなので短めにしました(笑)

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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