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第四十二話 状況整理

今回はハクの視点でお送りします!

では第四十二話です!

「悪いがコーヒーで我慢してくれ。しかもかなり甘い」


「別にいいわよ。食文化だけは神々が生きていた時代よりははるかにいいんだから」


 俺はそう言うとリビングに置かれたテーブルに肘をつきながら座っているガイアに向かって入れたてのホットコーヒーを差し出していった。ガイアはこう言うものの、妃愛が苦いもの嫌いなこともあって家にあるコーヒーはかなり甘い。いわゆるすでに阿東やらミルクやらがブレンドされた既製品のコーヒーだ。味は普通なはずだが神であるガイアに合うかどうかは微妙なところだろう。

 そんなことを考えながらガイアと向かい合うように座った俺は、同じく用意した自分のコーヒーを口に含みながらその味を舌の上で転がしていった。そして現状を整理すべく思考を整えていく。

 現在。

 妃愛が裏山で襲われてから七時間ほど経過し、深夜ゼロ時。部屋の明かりはこの机周り以外全て落とされており、ひどい頭痛に悩まされていた妃愛はすでに眠っている。

 いきなり襲われたこともあって疲労が溜まっていたであろう妃愛には早めに飯を食べさせて、風呂に入って寝るように言っておいた。その言葉を素直に受け入れた妃愛の小さな寝息が聞こえてきたところで、今に至っている。

 今から行われるのはいわば作戦会議だ。相手の実力からして俺一人でもなんら問題ないとは思うのだが、知恵というのは集まれば集まるほど大きな力を発揮する。ただ現状を理解し、相談相手になってくれそうな人物はあの場に一緒にいたガイアしかいない。

 というわけでいっぱいのコーヒーを手に早速話し合いを始めようかと思っていたのだが、そんな真面目な空気を壊すようにガイアはこんなことを投げかけてきた。


「………まったく、坊やったら。女の子と一つ屋根の下で生活してるなんて、お姫様に知られたらどうなるかわかったものじゃないわよ?」


「ぶっつぅぅ!?い、いきなり何を言いだすんだ、お前は!?むせただろうが、テーブルびちゃびちゃだろうががあぁ!!!」


「それはやましいことがあったって証拠かしら?あとでこっそりいいつけとくわね」


「だ、か、ら!事実を捏造するな!俺は何があってもアリエス一筋。そこは絶対だ!」


「お熱いことで。まあ、でもここにいたのが仮にお姫様でだったとしても、同じ景色が出来上がってたと思うわよ?」


「………どういう意味だよ?」


「結局あなたとお姫様は似た者同士ってわけ。多分妃愛とお姫様が出会ってたとしても、あなたと同じ行動に出たと思うわ」


「………そ、それは喜んでいいのかな?」


「さあ、どうかしらね。まあ、夫婦円満っていうのはいいことだと思うわ。私とウラノスはそうはならなかったもの。どうせ、お姫様も今頃見ず知らずの子供を拾って育ててるんじゃないかしら、今のあなたみたいに」


 ガイアはあっけらかんと言った感じでそう呟くと、マグカップを両手で包むように持つと、それを可愛く口に近づけてコーヒーを口に含んでいく。その際に「あつっ!?」と舌を出していたのは神としてかなり不甲斐ないものだったので忘れることにする。

 ただ実際。

 ガイアが言っていることは大方当たっていた。

 ティカルティアと呼ばれる世界にいるアリエスは現在「アナ」と呼ばれる赤ちゃんを拾って育てるらしい。直接会いにいったわけではないのでわからないが、魔眼を使って世界を覗くとそのような光景が出来上がっていた。

 別にアリエスが何をしようと俺は口をはさむつもりはないので特に言うことはない。赤ちゃんを育てようが、別世界で友達を作ろうが、全てはアリエスの自由だ。ゆえにアリエスが別世界で何をしていても、俺は見守る姿勢を崩さなかった。

 まあ、そんな話は置いておいて。

 今はこちらのことを考えなければいけない。俺はコホンと一つ咳払いをすると、ガイアに向かってこう切り出していった。


「いきなりで悪いが、お前はどう思う?この真話対戦という戦いについて」


「………そうねえ。………本来あり得ないことが起きている、ということは間違い無いんじゃないかしら」


「というと?」


「本来、神宝と呼ばれる武器は通常の神々が持っている固有武器を除けば、全て神妃が持つ蔵に直結する。そしてその所有者は何があっても神妃。あなたのように蔵の空間を分け与えたり、所有者権限を書き換えたりしなければ、全て神妃のもののはず。だというのにこの世界は」


「人間が神妃の神宝を使ってる。神妃は死に、他の神々も残らず消えているにも関わらず」


「神妃が死ねば誰もその蔵と神宝には手をつけられないっていうのが一般的。それなのに、どうして人間があの武器たちを持ち出せているのか、ってところが第一の疑問ね」


「だから、あり得ない、と」


「そう。そもそも一番初めに対峙した神宝があの鍵っていうのはどうなのよ?厳密にはオリジナルじゃなにいしろ、あれはレプリカなんかじゃなく本物よ、本物。神妃ですら扱えなかった一品が一介の人間に扱えてる時点で大きすぎる矛盾が生じてるわ」


 ガイアの言っていることはもっともだ。

 確かに、神妃が死に、その神宝の所有者がいなくなれば神宝の担い手は消える。それがどこかに捨てられるとなれば、后咲が言ったように限定的な条件下で召喚することはできるだろう。

 だがあの武器たちは腐っても神宝だ。神宝は何があっても神妃の命令を聞くようにできている。それなのに、その命令を無視して人間の手に渡っているという現実はどう考えても不自然だ。

 そしてあのカラバリビアの鍵。

 俺たちの世界から分岐したであろう世界には言うまでもなく俺たちが使っている神宝が存在している。とはいえ、完璧なオリジナルは始中世界が中心なので、それらの世界にある神宝も正確にはオリジナルではない。

 その証拠に俺たちの世界とは別の世界に存在しているカラバリビアの鍵は時空の壁を開けることができない。先ほどみた鍵もどうやらそのようだった。

 とはいえである。

 この世界においては紛れもなく本物だ。万物を封印し、万能の力を持つ最強の神宝。その力はどう考えも人間の手には余るものだ。

 そんな武器たちを使って行われるこの対戦はネジが飛んでいるだけでは済まない問題を抱えている。それが俺とガイアの結論だった。


「………やはりもう一度、后咲に話を聞く必要があるな」


「素直に喋るかわからないわよ?側から見てただけだけど、あの女は『普通』じゃないわ。どちらかといえば私たち側よ。まあ、それはあなたもわかってると思うけど」


「ああ。だが心を無理矢理読んで下手に警戒されても困る。この戦いを潰すことが目的なら容赦なくそうさせてもらうが、今の目標は妃愛を普通の生活に戻してあげることだ。下手に首は突っ込みたくない」


「はあー………。本当に甘いわねー、あなたは。だからさっきも神妃化すら使わなかったの?あんな人間、あなたなら拳一発で片付けられたでしょうに」


「下手に情報を渡したくないだけだ。この世界に俺に匹敵する強さを持ったやつがいるとは思えないけど、念には念をおしておきたい。………だがまあ、それでいうと。ミストが言っていた通り、月見里家が動き出してしまった。しかも妃愛の友達を人質にとるような言葉で学校の裏山に呼び出すなんて卑怯な真似をしてきた。はっきり言って気分は最悪だ、虫唾が走る」


 一応妃愛が寝る前に、今日学校で起きたことを全て聞いておいた。そこで語られたのは裏山に行くことになった経緯と、時雨ちゃんという女の子が狙われるかもという情報だった。

 まあ、こんな対戦だからまともな攻め方はしないだろうとは思っていたが、まさか娘の力と学校という環境を使ってまで攻撃してくるとは思っていなかった。普通に生活してほしいと願っている俺にとって、この状況は最悪と言っていいだろう。俺やガイアが妃愛を守ったところで、妃愛が学校を怖がるようになってしまえばそれは本末転倒だ。

 ゆえに俺は必死に頭を動かしながら今日あったことをさらに分析していく。


「あの親子はタッグで戦っているようなものだろう。意識の共有や魔眼による情報分析。相手の能力を盗み見る低位の魔眼のようだが、あれがあるのとないのとでは天と地ほどの差が出る。それを考えると、あの娘の方もどうにかしないといけないかもしれない」


「そうねえ………。これが単純に赤の他人同士が手を組んでるって言うなら話は早いんだけど、家族ぐるみだとちょっとねえ………。最悪洗脳されて操られてるっていう線もなくはないものね」


「今のところ洗脳術式とかは見受けられなかった。だけど、これまでの人生の中で人格を歪められている可能性だってある。あの二人の関係は正直言ってまだ見えてこない。とはいえ無闇に攻撃してもいいのか、悩むところではあるな」


 一応とはいえあの麗子という子は妃愛のクラスメイトだ。いじめの主犯であり、常日頃から妃愛を傷つけてきているとはいえ、まだ子供だ。そんな子に剣を向けてしまっていいのか、それがわからない。

 甘すぎると言われてしまうかもしれないが、まだあの子にはことの善悪の判断がついていない可能性もある。それがわからない以上、あの子の血を剣に吸わせるのはどうかと思うのだ。

 だがガイアはそんな俺の心を読んだのか、否定的な意見を示してきた。


「ああは言ったけど、私は早々に始末した方がいいと思うわ」


「理由は………ああ、いい。聞かなくてもなんとなくわかる」


「そういうことよ。あんな目の前で私たちを攻撃してきたのに、そんな悠長なことは言ってられないわ。脅威を脅威としとて捉えられないのなら、それはもう神としても人間としても色々と壊れてるわ」


「辛辣だな。まあ、そういうところが俺のいけないところなんだろうけど………」


「一応聞いておくけど、あの二人の居場所は掴んでるの?」


「いや、気配が完全に消えてる。大方カラバリビアの鍵で己の気配ごと封印してるんだろう。こうなるとさすがの俺も索敵は厳しい。事象の生成を使えばできなくはないが………」


「相手が鍵となると世界にかかる負担も以上なまでに膨れ上がる、加えて抑止力がいない今、次元境界が裂けると色々と面倒だものね。………なら、まあいいわ。次はどうせ鍵が来ても対処できる防具やら神宝を妃愛に持たせるんでしょ?だったらいつ奇襲させても問題ないわね」


「ああ。それは大丈夫だ。気配創造の防御膜はもちろん、俺の座標を強制的に移動させる神宝も用意した。お前たち神々の手を煩わせるようなことにはならないだろう」


「そう。ならいいわ。だとしたこれからすべきことは………」


「早々に蹴りをつける、この一点だけだ」


 今から一週間後。

 妃愛は学校の修学旅行に出かけてしまう。妃愛の普通の生活を願っている俺からすれば、このイベントは何がなんでも楽しんできてほしい。だがそうなると、そこに月見里麗子という存在が、今のままでいられると非常に面倒なことになる。うまく無力化するか、この一件を解決してしまわなければ、安心して修学旅行は楽しめないはずだ。

 ゆえにタイムリミットは今日から一週間。

 その間に月見里家をどうにかする必要がある。


「だがこうなってくると、やはり気をつけなければいけないのは」


「妃愛のお友達ってところかしら?今日でさえ人質に取られかけたのに、家柄まで敵対してるとなると、煽り要素としては十分すぎるわ。いつ本格的に襲われてもおかしくない」


「ああ。だからガイア。お前にはその時雨ちゃんとかいう子の調査をしてきてほしい。学校にいる分には妃愛もいるし何かあれば俺を呼べるだろが、その子の家族まではどうにもできない。相手が鍵なだけにお目でも荷が重いかもしれないが、俺との魔力パスは常に繋いでおくから最悪全力を解放して迎え撃ってくれ。これなら開造剣も本来の力を出せるだろう」


「まあ、乗りかかった船だもの、一応引き受けるわ。でもあまり期待しないことね。知っての通り私は戦闘タイプじゃないのよ。こういう荒っぽいことはゼウスあたりに任せるのが一番だわ」


「あいつはダメだよ。勢い余って妃愛を襲いかねない。あいつが何股かけてたか、お前だったら知ってるだろ?」


「それを言われると耳が痛いわ。………まあ、とにかく明日から適当に動いておくわ。それじゃあ、今日はこんなところでいいかしら?今日は久しぶりに運動したから少し眠いのよ。そこのソファー借りるわね」


「それはいいけど、あのソファーで寝られるのか?お前一応神だろ?なんだったらテンジカぐらい出すけど………」


 こいつも神だ。リビングに置いてあるソファーが悪いとは言わないが、神が使っている寝具には敵わない。ゆえに俺は蔵の中からテンジカを取り出そうとしたのだが、それはガイアによって阻まれてしまった。


「いいのよ、別に。たまには今の時代に浸ってみたいわ。オーディンの瞳の中に閉じ込められてるのはもう飽きたもの」


 その言葉はガイアの精一杯の皮肉だ。

 そう言われてしまうと俺も返す言葉がない。ゆえに俺はガイアと俺の分のマグカップを洗い、部屋の電気を消すとそのまま借りている自分の部屋に戻っていった。

 そしてベッドに寝転びながら何もない天井を見上げてこう呟いていく。


「………思った以上に、これは荒れるかもな」


 この戦い。

 俺の想像をはるかに超える規模の対戦になるような気がした。


 そんな危機感を抱きながら俺は、目を閉じていくのだった。


次回は視点を別の人物に変えていきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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