第八十一話 ルルン=エルヴィニア
今回はハクの少しの無双とルルンの試験です!
では第八十一話です!
「ハッ!言うじゃねえかガキ!それによく見たら綺麗な嬢ちゃんたちつれてるじゃねえか!どうだ?そんな冴えないガキじゃなくて俺たちのところに来ねえか?」
その冒険者らしき集団のリーダー風の男はアリエスたちを見てそう呟いた。
それに真っ先に反応したのは性格が丸くなったとはいえプライドが高いキラであった。
「ぬかせ人間風情が。マスターと侮辱すると………」
「黙れ、雑魚が。その首が消し飛びたくなければ今すぐここから去るんだな」
俺は文句を言おうとしているキラに左手をかざして制した後、声のトーンを落としそう呟いた。
「ああ!?てめえには聞いてないんだよ!引っ込んでろ!」
すると先程のリーダーではなくまた別の男が声をあげた。
「ここは私に任せてほしいかな。こういう人たちを追い払うのも私の仕事だから」
いまだにエルテナによって行く手を阻まれているルルンがそう俺に問いかけてくる。
だが俺はその瞬間、奴らの背後に移動し一番後ろにいた奴を空いていた左腕で吹き飛ばした。
「ガッ!?」
その男はおそらくルルンが張ったであろうダンジョンの結界に激突すると直ぐに気を失った。
「てめえ!やりやがったな!」
その行動に遅れて気づいたその他のメンバーはすぐさま剣や槍、杖、弓を抜き俺に攻撃してきた。だがそれは俺には当たることはない。というより避ける必要もない。
その攻撃は俺の体に触れた瞬間、全て掻き消えてしまう。原理としては気配創造の効果範囲を俺の体を覆うように設定しているためその範囲に入った瞬間、全てのものは消え失せるという仕組みである。
俺はゆっくりとその集団に近づき一人一人気絶させていく。
「あれは完全に怒ってるね、ハクにぃ」
「ええ、ルルンさんにあれだけ長時間待たされた後ですからね。それはああなりますよ」
「ええ!?わ、私のせいなの!?」
「まあそういうことだ」
アリエス、エリア、ルルン、キラが口々に俺のことを話しているが、今の俺の耳には入ってこない。
「ぐ、て、てめえはなんなんだ!?一体何者なんだよう!?」
最終的に一人になったそのリーダー的なやつは怯えた目を差しを向けて、なおも俺に剣を振り続けていた。しかしその剣は既にボロボロであり、もう何合かで完全に折れてしまうだろう。
俺はそのままそいつに一瞬で接近し、胸倉を掴み背負い投げると地面に打ち付けられた顔の右隣に思いっきり蹴りを叩き込む。
それは瞬時に地面を抉り小さめのクレーターを作り出す。
「ひ、ひぃい!?」
「いいか、よく聞けよ。俺はSSSランク冒険者だ。お前らを消すのなんて朝飯前なんだよ。わかったらもう二度とこの秘境には姿を現すな」
俺はその言葉と共に六人全員を集団転移で里の外に放り投げた。
「ふう……」
俺はそう息をつくと、エルテナを自分の体の前で軽く回すと腰に提げてある鞘に音を立てて収める。
その後ろからなにやらパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。
「さすがハクにぃだね!怒ってるところも格好よかったよ!」
「お疲れ様ですハク様」
「ハク様、さすがです………」
「い、いまの動きもう一度だけやっていただけませんか?私の妄想の材料にするので!」
「怒っているマスターも悪くないな」
『しても、あやつら情けなかったのう。もう少し意地というものをみせてほしかったものじゃ』
と俺のパーティーメンバーが近寄ってくる。
にしても俺そんなに怒っていただろうか?うーん、あんまり自覚がないな……。
というか明らかにエリアの発言がおかしかった、というか怖かったんだけど!?
俺はそんな仲間達を一度全て見つめて呟いた。
「あいつらはいきなり割り込もうとしてきたし、あまつさえ皆に手を出そうとしたんだ。それ相応の罰は必要だったからな。まあ少しやりすぎたかもしれないけど………」
と自分でも反省しているのか、自分の行動を正当化しようとしているかのような台詞を呟きながら、先程の奴らのことを考える。
俺たちはこの里に入るときかなり苦戦した。であればあれほど下心が見えた連中など本来この秘境に入ることも出来ないはずだ。
しかし実際はこのダンジョンの前までやって来ている。
ということは俺たちよりも早くこの秘境に到着していたことになる。
つまり………。
「やりすぎってことはないわ。あの人達は数日前からこの里に入ってきて、いきなりダンジョンに挑もうとしたの。それで私に返り討ちにあって、それから色々と暴走しだしたのよ。正直言って早くこの里から出て行ってほしかったのだけれど、一度滞在を許してしまった以上、なかなかそうは言えなくて困っていたから助かったわ」
とルルンが先程のアイドルキャラではなく冷静な態度で俺たちに話しかけてきた。
というかやはり俺たちがこの里に入れなくなった原因の一つであった。あの門番の男性が言っていた冒険者は既にここから去っているようだが、まだあのような輩がこの里にはいたらしい。
「改めて御礼を言うわ。ありがとう、人族のお兄さん」
「いえ、別に俺が勝手にやったことですので、気にしないでください。で、選定というのの続きをやりますか?」
そう、あの冒険者達がやってきたタイミングは丁度、俺とルルンが戦う前だったのである。それを続けるか俺は問いかけた。
「うーん。その前に自己紹介をさせてほしいかな。さっきは私も熱くなっちゃって、そういうの全て無視しちゃったからね。私の名前はルルン=エルヴィニア。一応このダンジョンの門番と、さっきみたいなアイドル活動をやっているわ。年齢は五百歳ってところね!」
へえー、ルルン=エルヴィニアっていうのか………。
ってエルヴィニア!?
しかも五百歳!?
あ、いやエルフだからそれくらいは当然なのか。
いやでもそのなびかせている黒髪はかさつくこともなく、肌もまだまだ二十代の女性そのものに見える。
恐るべしエルフ。
「え、あのエルヴィニアていうのは………」
「ああ、それね。私の家系は昔、この里を治めていた家系なのよ。その名残でいまだに家名が残っているけど、今の里長はハルカちゃんの家だから、私はそんなに凄い人じゃないのよ?」
は、はあ………さいですか。
すると俺の隣でずっと俺の手を握っているアリエスが徐に口を開いた。
「でもルルンさんはシーナさんのお師匠さんなんですよね?」
「ん?今シーナって言った?どこでそれを……」
「まあそれも含めてお話しますよ」
俺はぐいぐいと顔を寄せてくるルルンを押しとどめると、今までの出来事を掻い摘んで説明した。
その話に目をキラキラさせてルルンは聞いていたのだった。
「ふーん、なるほどね。どうりで君達がシーナを知っているわけだ。だけどあの子も元気でやっているみたいで安心したかな」
俺たちが話し終えるとどこかホッとしたような表情を浮かべ、ルルンは息を吐いた。
「で、君達がダンジョンの中に入りたいのはわかったわ。確かに私も最近ダンジョンの様子がおかしいのは薄々気づいていたし、それにキラ様の頼みとなれば答えないわけにはいかないわ」
「それじゃあ………」
「でも選定はやるわよ。そんな危険なところに実力も見ないで行かせるなんて、さすがに馬鹿すぎるもの」
「それじゃあ、また先程の続きですか?」
「うーん、それもいいけどあなたとキラ様にはどうやっても敵わないから、それはいいわ。あなたたち二人は選定なしで通してあげる。でも残りの四人はちょっと付き合ってもらうわよ?」
おいおい、なんか目が笑ってないぞ?
そういえば、シーナがこの試練は戦闘に関係ないことをやるとか、言っていたっけ?であれば今からそれをやるのだろうか。
「行くわよ、あなた達!私についてきなさい!」
「「「「は、はい!」」」」
というわけでなにがなんだかわからないまま事態は進行していった。
だがこの選定から逃れた俺とキラはこの後本当によかったと改めて思うのだ。
誰だっていきなりあんなことはしたくないのだから。
「はい、そこ!遅れてるよ!アリエスちゃん、少し前に出て!」
「は、はい!」
「こら、シルちゃんは走りすぎ!もう少しスピード落として!」
「はい………」
「うん、エリアちゃんはいい感じね。強いて言えばもう少しキレを出したほうがいいかな?」
「は、はいぃぃぃぃ!」
「シラちゃんは羞恥を捨てなさい!でないと上手くはなれないわよ!」
「で、ですが……。こんな恥ずかしいこと」
「言い訳無用!」
というわけで俺とキラはアリエスたちから少しだけ離れた場所でその選定とやらの行く末を見つめていた。
「なあ、マスター?」
「なんだ、キラ」
「妾はあの中には絶対に入りたくないのだが、これは妾だけなのか?」
「いやまったく同意見だ。俺だって絶対にあんなことはしたくない」
そう、今ルルンがアリエスたち叩き込んでいるのは、足捌きという名のダンスである。それも先程歌っていたアイドル曲の。
というのも、あの後一度四人はルルンと模擬戦をした。その結果シラ、シルにいたっては相手にならず、アリエスは魔術を使う前に負け、エリアは唯一善戦したがあと一歩のところで敗北してしまった。
それからというもののルルンはその動き方を矯正するといきなり言い出し、アリエスたちにダンスの練習をさせ始めたのだ。
普通はこの前の模擬戦の段階で弾かれてしまうことが殆どなのだが、今回は俺とキラが既に通過しているため、特別措置なのだという。
なんでもルルンはまだこのダンジョンの門番になる前冒険者をやっていたらしく、そのときについた二つ名が「舞踏姫」だったそうだ。
確かに俺の眼から見ても、その足捌きは剣を振るっていながらも、まるで踊っているようで実に美しかった。
つまりその技術をアリエスたちに叩き込もうとしているわけだが、そんな簡単に取得できるものではないと思ってしまう。
おそらくこれがシーナの言っていた戦闘に関係ない試験という奴であろう。
しかも受けるたびにこれが変わるというのだからたちが悪い。シーナの足捌きは今のルルンのようなものではなかったので、シーナはこの動き方を諦めたのだろうが、それにしても難易度が高い動きである。
というのも普通ダンス、または踊りの動きというものは戦闘で使える動きではない。ダンスも瞬発力が問われる動きではあるのだが、戦闘はそれに状況判断と反応速度という問題が付きまとう。それゆえより臨機応変さが求められるため剣術でもない限り、本来型のようなものに当てはめることは難しいのだ。
その壁を超越してしまっているルルンはとてつもなく凄いのだが、それを他人に伝授できるかはまた別問題である。
多分ルルンの中では、強者というもののイメージがその足裁きにあるようで、その動きを極めない限りこのダンジョンへの侵入を許可しないらしい。
で、俺たちはその光景をじっと眺めているのだが。
「マスター、これはいつになったら終わるんだ?」
「俺に聞くなよ………」
キラは自分の膝の上で小さくとぐろを巻いているクビロを撫でながらそう聞いてきたのだが、そんなことは俺にもわかるはずがない。
結局、その選定が終わるころにはすっかり日は沈みこんでいた。
しかし、目の前にある第三ダンジョンから放たれる殺気はどんどん強くなっていたのだった。
次回は少しだけこの秘境を探検します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




