第二百九十九話 星神オルナミリス
今回は星神の正体が明かされます!
では第二百九十九話です!
「あのころの僕は本当に弱かった。それこそ今の君なら一瞬で捻りつぶせるくらいにね」
俺のパーティー全員の記憶と世界に残されていた俺という存在の記録を消去した星神はかつての自分を思い出すように言葉を発していく。
俺はその話を黙って聞いているしかなかった。なにせ体が動かせず今の俺では奴に何をやっても敵う気がしなかったからだ。仮に体力が全快状態でもあのカラバリビアの鍵という神宝を持っている奴を倒すのはおそらく不可能だ。
あれは俺にそれだけの恐怖を感じさせるほど強力な代物なのだ。近くにいるだけで震えが止まらず星神の力と混ざり合ってさらなる領域に足を踏み入れている。気配殺しを直撃させれば破壊できるかもしれないが、そもそもそんな隙すらありはしない。
つまり俺に反撃という手段は残されていないのだ。
「『再生』といっても一から呼び戻せるわけじゃない。世界に記憶されている記録からそれを具現化し呼び起こす。だからそこに転がっている二妃の抜け殻は体と記憶は戻せても魂だけは再生させることが出来なかった。魂の所有権は世界ではなくその人物そのものが持つ。ゆえに二妃の中身だけは偽物を用意したというわけさ。だが、僕にとってそれは劣等感でしかなかった」
星神はそこで声のトーンを一段階下げるとさらに話を続けていく。
「神妃や十二階神という力を見せつけられればどうしても僕の力のなさに自分で絶望する。それは僕が自分で自分を鍛えても到底届く場所じゃなかった。だからこそ僕は考えた。神妃の力そのものを扱えればそれもひっくり返るんじゃないかと。そこで僕は死ぬ覚悟で神妃の住処、というか住まう空間に忍び込んだ」
するとここで俺の中にいるリアが非常に重たい声でそんな星神に対して言葉を並べていく。
『道理でお前から懐かしい気配がするはずじゃ。神核に埋め込まれていた力の杭を見た時から思っていたが、その出身が私の世界だというなら頷ける。それに神話大戦の前に私の空間に忍び込んだ無粋者がおったのも記憶している。それがお前というならば全て辻褄があってしまう………』
しかし星神はそんなリアの言葉にはあえて何も返答することはなく言葉を発し続ける。
「そしてそこで神妃が秘密裏に制作している『カラバリビアの鍵』という存在を知った。それを見たときに僕は確信したよ。これさえあれば誰にも負けない絶対最強の力が手に入るってね。そんな時にあの神話大戦がおきた。他の神々に混ざるように僕も眺めていたが、その戦いから逃れるように一つの光が僕の目に飛び込んできたんだ。それは戦いとはまったく別方向に飛んでいて、強大な力を感じたのさ。カラバリビアの鍵の詳細を知っていた僕はそれがその鍵であることを悟ったんだ。カラバリビアの鍵は自ら勝手に空間を飛翔する。その存在に神妃が気が付いていないということは、まさしく記憶まで吹き飛んだことも理解したよ。このまま放置すれば一生手に入れられないと思って僕は必死に追いかけた」
「お、おい、かけた、だと?」
時空を飛翔というものがどれだけ凄いものかはわからないが、それでも現に俺が元の世界に自力で帰れないことを考えると、そんな俺よりも弱かったかつての星神がカラバリビアの鍵を追いかけることなど出来るはずがない。追いかける以前に見失って空間に締め出されるはずなのである。
「まあ、追いかけたというのは語弊があるけどね。率直に言えば飛びついたかな?だけど結果的にその存在に引っ張られるように時空をめぐる旅に付き合わされた僕は、ようやくカラバリビアの鍵が拠り所として定めたこの世界にたどり着いたんだ。しかしそれと同時にカラバリビアの鍵は僕の手の中から消え、姿を消した。右も左もわからない世界にはまだ生命というものは見当たらず比較的若い世界だということは理解できた。だけどこの世界はどういうわけか神という存在すらおらず、世界が世界を作り出し回していたんだ」
「ちょ、ちょっと、待て………。貴様………。まさか、初めからこの世界の神……じゃ、ないのか………?」
今ではこの世界でおとぎ話として語られている星神オルナミリスだが、今の話を整理するとリアの世界の弱小神でカラバリビアの鍵に引き寄せられただけの存在だ。
つまりこの世界とは縁もゆかりもなく十二階神やヘル、パンドラのように神話や伝承にも残っていなかったただの雑魚神ということになるのだ。
「そうだよ。だから僕はこの世界の神になることにした。それは世界を服従させることと同意だったけど神妃が作り出した世界よりも弱かったし簡単だったよ。結局その後は精霊や人類を作り出しその陰でカラバリビアの鍵を探した。だけどそれはまったく見つからなかったし、あろうことか人類は醜い争いばかりを繰り広げ僕の怒りを増幅させていったんだ。だからこそそんな人類を破壊しようと思って人類の守護者である神核を洗脳したんだ。すると世界は必死に君という強大で絶対的な神妃の力を宿した人間を最後のもがきで呼び出した。これには僕も驚いたけど、同時にチャンスだとも思ったよ」
『チャンスというのはどういうことじゃ?主様はお前にとって確実に脅威にしかならない存在じゃろう。ましてその中には私という存在もおるし、主様の実力を考えればいずれ神核と当たることは予想できたはずじゃ』
星神はその言葉に対して少しだけ微笑むと、自身の体をくるくると横に回転させながら俺に対して言葉を投げかけてくる。
「ハク=リアスリオン。なぜ僕が君の存在をこの世界に留まらせることを許容したと思う?」
「し、知るか………。そ、そんなこと」
「神妃の言っていることは当たっている。実際に今も君は僕の脅威でしかない。だけどその頃の僕ではいくら強くなったと言ってもまだ君という存在には勝てなかったんだ。精々精霊女王を超えるくらいの力かな?だからこそ僕は君を利用した」
利用?
アリエスの記憶を消し俺をこのような状況に追い込んだことはこいつの計画通りなのかもしれないが、少なくとも俺の行動を利用されたり誘導された記憶はない。
だが星神は淡々と事実だけを嘲笑するような顔で放っていく。
「君がこの世界で使った力を全て僕は吸収したんだよ」
「な!?」
『馬鹿な!?力の循環など、世界の摂理さを捻じ曲げねばできる話では………。まさか、お前!』
「ご明察だ、神妃。言っただろう?僕はこの世界よりも強いって。それに君をこの世界に呼び込んだことで世界自身は相当力を消費していた。そんな中で僕の力を弾けると思うかい?つまり世界そのものに君の力を吸収するシステムを組み込んだのさ。と言っても君自身の力の上限値ごと減るわけじゃないし、あくまでその場で使用した力だけだけどね。だけどもうそれも必要ない。だって僕はもう最強だから!」
その瞬間、星神は動きを止め殺気と圧倒的な力の波動を俺にぶつけてきた。それは空気を一瞬で吹き飛ばしビリビリと空間自体を振動させている。
「さあここで君に僕は問いかけよう。全ての計画が達成された今、僕の望みはたった一つだ。それは神妃の力を持つ君を全力の状態で倒すこと。僕は言った通り神妃という存在に憧れていた。だからこそその存在を超えることこそが僕の望みなんだ。ゆえに僕は君を君の望みが叶う場所で待っている。残っている神核を倒し見事僕すら倒すことができれば仲間の記憶も戻るかもしれない。だがそれは同時に君が完全消滅する可能性も含んでいる。なにせ今の僕は地の力で君を超え、さらにカラバリビアの鍵を持っているんだ。そんな僕に殺される可能性も十分ある。でも君は仲間を復活させたいなら、僕の下に来るしかない」
確かにあのカラバリビアの鍵の力でアリエスたちの記憶が消去されたのであれば俺が持っている事象の生成程度の力ではそれを取り戻すことは出来ない。力とはいかに出力が高くともそもそもランクが違う力には通用しないのだ。ゆえに星神が言っていることは全て的を射ている。
だがそれは同時に罠であることも理解している。
星神の住処というのは完全に星神のテリトリーだ。そんなところに単騎で突撃するのは危険極まりない。
しかし俺の前で散って仲間で見捨てることが俺にできるだろうか?
「ああ、それと。仮に僕の空間の扉を開ければ、そこから大量に僕の使徒たちが流れ出てくるよ?それはもちろん人類を全滅させることを命令させてある。君の存在とは関係なくこの世界の人類は滅ぼそうと決めていたからね。ゆえに君は仲間の存在か、全人類か、その二つを天秤に乗せないといけないわけだ。とはいえ君がこのまま何もしなければ元の世界に帰ることは出来ないし、そもそも君は一人で生きることになる。その意味をしっかりと理解して考えるといい」
星神はそう言い残すと、空に向けて上昇しその姿を消していく。
「だけど僕は信じているよ。君は絶対に僕の下に来る。それは確定だ。誰にも認識されず生き続けるのは死ぬよりも辛いことだと思うよ?」
完全に勝利の顔を浮かばせながら星神は今度こそ完全に消えた。取り残されたのは俺とリア、そして魂が宿っていないアリスの体だけ。近くには俺がよく使っている三本の剣、エルテナ、リーザグラム、絶離剣が転がっている。
俺はしばらく茫然として、こんな時でも青く輝いている空を眺めた。頭が空っぽになって何も考えることが出来ず耳には何の音も聞こえてこない。
ああ、俺はまた一人だ………。
思えば俺に仲間なんて贅沢なものだったのかもしれない。
今までだって自ら仲間や友達を作らないようにしてきた。学校は絶対に一人で佇んでいたし話しかけもしなかった。
それがアリスに出会い、異世界に呼び出されたことで全てが変わったのだ。いや、変わったと錯覚していただけだ。
実際は俺自身何も変わってない。仲間が消えていく瞬間、肝心の俺は一切何もできなかったのだ。情けないという言葉が無限に出てきても足りない。
するとその瞬間、記憶が消される直前のシラの顔が不意に思い浮かんだ。
その顔は悲しそうで涙を流していて、触れたらすぐに折れてしまいそうな表情をしていた。
違う、違うだろ!
あの時、あのルモス村近くの海でみんなの笑っている顔を見た時。俺は心に決めたんだ。
絶対にこの光景だけは守ってみせるって!
だがそう考えると同時に、あの嘲笑ってきた星神の顔が同時に頭によぎる。それは腹立たしくて、憎くて、殺したくて、どうしようもなく黒い感情が浮かんできた。
俺はその感情をバネにするように少しだけ回復した体を持ち上げると、一際大きなさけびを空に発した。
「ちくしょうがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
それは空間を崩壊させるほどの力を呼び出し、予め強化していた次元境界をさらに揺らしてしまう。地面は大量のヒビが入り小さな岩がその力で空中に浮かび上がる。
『主様!!!落ち着くのじゃ!!!気持ちはわかるが今は冷静になって考えるんじゃ!!!』
リアが俺の心の中で俺に対して縋るような言葉を投げつけてくる。その声は今にも泣きだしそうな声で、今までに聞いたことのない神妃の悲痛の叫びだった。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。わ、わかってる……………」
俺は一度大きく深呼吸すると、残った力で事象の生成を使用し体の傷を完全回復させた。さすがにアリスの攻撃によってつけられた傷はまだ回復しないがそれでもあと数分もすればなくなってしまうだろう。
俺は体の痛みが消失したと同時にもう一度大きく背中を打ち付けるような形で倒れこんだ。そして自然と口から乾いた笑い声が漏れ出てきた。
「は、ははは………。まーた、独りぼっちになっちまったよ………。もう血も涙も流せない………。どうしようもないな………」
するとリアは心の中で俺を揺さぶるように声をかけてくる。
『独りぼっちではないのじゃ。主様には私がついておる。この世界に来た時から一緒におもるじゃろうが。だからこれからも、この先もずっと私は主様の味方じゃ。だからまた二人で始めればいいんじゃよ』
その言葉は物凄く温かい言葉で俺の凍り付いた心を少しだけ溶かしていく。リアは俺の中に入っているせいで自ら行動を起こすことは出来ない。ゆえにおそらく自分が表に出ることができないことにもどかしさを隠せないのだろう。
本当ならその頭を撫でてやりたいところだが、今はその感情を喉の奥に仕舞い。これからの行動を脳内にまとめ上げようとする。
するとそこに聞きなれた言葉が投げかけられた。
「まったく、ハクって私がいないと何にもできないよね。悪いけど、二人ぼっちじゃなくて三人ぼっちだから。私を忘れないでね?」
その声の主はかつて真話大戦で共に戦ったパートナーで一度は自分の手で殺し、先程の戦いで死闘を繰り広げた一人の少女だった。
「アリス!?」
俺はその声に引っ張られるように飛び起きると、目の前に映し出されている光景を二つの瞳に反射させていく。
「さあ、今までの鬱憤もあるし、あの星神っていう奴をサクッと倒しちゃおうか」
絶望のどん底に落とされた俺は、またしてもこの少女の存在によって救い出されていくのであった。
ようやく覚醒したアリス。そして仲間を失ったハクがかつての真話大戦のパートナーと共に最後の戦いへ赴きます!
次回はアリスの復活した原因を描きます!
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