表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
297/1020

第二百九十六話 vsアリス、三

今回でアリスとの戦いは終了です!

では第二百九十六話です!

 口の中に大量に湧き出てくる血液を俺は勢いよく吐き出すと全身に漂っている脱力感を振り払うようにして俺はアリスに向かって剣をなんとか構える。

 既に俺の体は満身創痍で神妃化も辛うじて発動できているが、それさえもいつ解除されてしまってもおかしくない状況に立たされていた。

 先程アリスが放った二妃の力を消滅させるためにリアの神歌を全力で使用してしまったので、その負荷がダイレクトに俺の体に飛んできているのだ。それは自らの体を内側から破壊し、内臓を抉るように傷つけてきている。

 そのためもはや俺は体を動かすことすら厳しいのだが、それはどうやらアリスも同じようだ。俺とは違いアリスは既に地面に対して膝をつき、立ち上がることすらできていない。

 お互いの体力が限界ギリギリまで削られている今、この勝敗はいまだに予想がつかないものになっていた。


「はあ、はあ、はあ。…………。目が霞んできている……か。こ、これは早く決めないと、本当に死んでしまうかもな………」


 俺はそう呟くと、ゆっくりと歩くような足取りでアリスに対して足を向けていく。しかしそれを阻むように妃の器の制限が俺の体にさらなる負荷をかけてきた。


「ぐっ!?こ、ここで、まだこれが働くのか………。ま、まったく、迷惑な体だ」


 俺の力は戦闘が経過していく流れにそって消費されているが、それに反するように妃の器の制限はアリスの体を傷つける度にどんどん強くなっていっている。しかもそれは次第に痛みに変換されるようになってきており、体全体と脳を揺さぶるような鈍痛が俺を襲っているのだ。

 だが、それでも。

 俺はこのアリスという少女にだけは絶対に負けられない。ましてその器を被っている偽物に負けるなどあってはならないことだ。

 このアリスは星神が仕掛けたものであるが、それでも今の俺にとってはかつての因縁を大きく含んだ相手である。そのアリスに対して俺が出来ることは今その器に宿っているその贋作を叩き出すことだけだ。

 俺は心の中でそう呟くと、ようやくたどり着いたアリスの下で、右手に握り締められているエルテナを振りかぶると、切れ切れの声を吐き出しながらアリスに言葉を放っていく。


「お、終わりだ………。今の時点で立つことのできていない、お前は、もう、俺に勝つことは出来ない……。お、大人しく俺に殺されろ………」


 すると、そんな俺の言葉に対してアリスは睨むような視線を向けながら不敵な笑みを浮かべ返答する。


「ひ、妃の器であるハクは、どんなに頑張っても私を殺せない………。それくらいわかってるでしょ?」


 確かに俺の体は二妃を殺せないような制限が掛かっている。それは俺には絶対に解除できないし、今の俺に力ではそんなことを考えている余裕すらない。

 だが、それは俺もわかっているし、そもそもそんなことは戦う前から承知の上だ。だからこそ、それに対抗する策を今まで温存してきたのである。


「こ、この俺が……二妃のお前に対して無策で挑むと思うか…………?」


 またしても胃の中からこみ上げてくる血液を俺は地面に吐き出すと、口を左手でぬぐいながらそう呟く。

 アリスはその言葉にひどく驚きを示したようだが、すぐさま視線を一度自分の佇んでいる上空に向けると、ニヤリと微笑み震えながらも自らの足で立ち上がる。


「そ、そんな嘘なんて信じない…………。だ、だからあなたはこれで潰れてしまえばいいの!!!」


 その言葉と同時に、俺の頭上に置かれていた影がゆっくりと動き出す。それは真っ直ぐに俺の下に近づいてきており、このままではアリスはともかく俺は確実に直撃してしまうだろう。


「あ、あれは!?ま、まさかさっきの攻撃の………!?」


 そう、その陰の正体は先程アリスが俺に攻撃を放つために呼び出していた巨大な剣である。それは二妃の力によって生成されたもので、俺がその攻撃自体を破壊した今でも、その攻撃を放っていた巨大な二本の剣は残り続けていたのだ。

 くそ!

 目が霞んで存在に気が付いていなかった!!!

 俺は必死にその場から逃げようとするが、完全に体力を失っている俺はその場から動くことすらできない。

 よってその巨大な剣は俺に対してその重たい重量を直で体に打ち付けてきた。その衝撃は周囲の地面に乗っかっている土を舞い上がらせ大量の砂煙を放出する。さらに倒れた剣は深く地面にめり込んでおり、二、三メートルは軽く沈んでいた。


「こ、これでようやくハクを倒したよね…………」


 アリスは顔に喜びの表情を浮かばせながらそう呟くと、完全にその体を起こし息を整えていく。切り傷がついている肌はまだ痛々しいものではあるが、二妃の力がすぐに修復しにかかっているようで、見る見るうちに塞がっていった。

 アリスは俺の死を確実に確認するように、重い足を引きずりながら倒れている剣があった場所に歩き出す。俺を押しつぶした剣は、その後アリスの力の接続から解除させ空気に溶けるようにして消えていく。

 だがその瞬間、消失する前の巨大な剣を俺はとある武器を使ってその根元からへし折った。


「ッッッ!?な、なんで!?なんであの攻撃を受けて生きてるの!?」


 俺の左手に握られていたそれは、赤黒い刀身を持っている絶対的な力を秘めた剣で、今までに遭遇した戦闘で何度も俺を助けてくれた武器であった。


「絶離剣………。お、お前だって知らないわけじゃないだろ………」

 

「防御不可の力!?で、でも、あの一瞬でその剣を抜く暇はなかったはず………」


「ああ、その通りだ………。だから右目と右腕は完全に持っていかれた………。神妃の回復能力でもそう簡単に再生はしないだろう………。極めて俺の力に似た二妃の力で攻撃されたんだ。修復が追い付くはずがない………」


 俺の言葉通り、今の俺は顔の右半分を真っ赤な血で濡らし右目の視力を失っている。また同様に右腕もすでに感覚はなくこの戦闘で使い物になることはもうないだろう。しかしそれを代償に俺はなんとかアリスの一撃を耐えきったのだ。

 そして、俺はその場に絶離剣を放り投げ、本来右手に握られていたエルテナを左手で再度掴み上げると、そのままアリスに向かって今出せる全ての力を解き放って接近していく。

 すると俺の持っているエルテナが緑と黄色の光を帯び始め、絡み合うように巻き付いていくと、この一撃のためにとっておいた俺の力を容赦なく吸い取っていった。


「今度こそ終わりだ、アリス!俺はこの攻撃でお前を沈める!!!」


「ま、まだそんな力が!?」


 アリスは俺の剣から放出される力に大きく狼狽えており、全力で俺から遠ざかろうと足を動かすが、俺と同じように疲労したアリスに素早い動きができるはずもなく、一瞬で俺はアリスの下に詰め寄った。だがそれでもアリスはまだあきらめていないようで、今しがた回復したであろう少量の力を俺に対して振るってくる。

 しかしそれは俺の剣から放たれている光に触れた瞬間、一瞬で消失した。

 そして俺はその光り輝くエルテナを勢いよくアリスの体に叩き落とす。


「くたばりやがれえええええええええええええええええええ!!!」


「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 その攻撃を受けたアリスはもはや声になっていない言葉を発すると、その体には一切の傷が作られないまま地面に倒れ伏した。


「な、なんで……………。わ、私を、こ、殺せる、の………!?」


 アリスは俺の一撃を受けてもなお、意識があるようでそう呟いてくる。

 俺は自分の体をそのまま後ろにある地面に倒すと、空を眺めながらその声に返答を返した。


「た、単純に、アリスという名の器に宿っている、お前という異物だけを、切り裂いた、だけだ………。赤の章(エリアブレイク)が通用しないお前を倒すには、確実に、その中に入っている魂だけを殺さないといけない………。じゃないと、俺の器が制限をかけてくるからな………」


「だ、だから、どうやって、私の魂に攻撃を与えたの…………!?」


緑の章(ターゲットポイント)黄の章(キリングライフ)の、合わせ、技だ………。本来これは、気配殺しを使う、前提で、使用しなければいけない剣技で、俺も使い道がないものだったんだが、今この瞬間だけは、別だった。緑の章(ターゲットポイント)は任意のものだけを切り裂く技、黄の章(キリングライフ)は気配殺しを剣に纏わせることでその威力を倍増させる技。どっちも気配殺しが使えなきゃ使用することすらできない。だが、あいつを取り込んだ俺ならそれだってコントロールできるんだよ………」


 この二つの剣技は気配殺しをより効率的に使用するために開発した技だ。しかし作り出したはいいもののそのときの俺は気配殺しを、まともに扱うことが出来なかったため使う機会がなかったのだ。

 だがそれは今ここでアリスの中に潜んでいる別物の魂だけを切り裂くために使われ、完全に消滅させようとしている。仮にも気配殺しが宿った攻撃だ。再生はおろか復活することもできないだろう。


「が、があああ、そ、そんな、馬鹿な………ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アリスは最後にそう呟くと、どす黒いオーラをまき散らしながら気を失い、顔を地面につける。俺が放った技は俺に対してアリスの中にいた魂が消え去ったことを最後に伝えてくると、そのまま俺に残された全ての力を吸い上げ同じく消失した。

 か、勝った………。

 俺は勝ったんだ………。

 普段なら、喜んで笑みを浮かべるところだが、今はそんな気力すらなくひたすら空を眺めていることしかできない。

 アリスの様子は、魂や宿っていないにも関わらず安らかな寝息が聞こえてきておりその体自体は生きているようだ。


『やったな、主様』


 リアがそんな俺に対して言葉をかけてくる。その声色はどこか嬉しそうで、そして悲しそうだった。


「ああ、俺はアリスを倒したよ。まあ、あれは本当のアリスじゃなかったけどな」


 そう呟いた直後に帝都上空にイロアの魔力が含まれた魔術の花火が打ちあがる。それはイロアたちが帝国の皇帝を仕留めたという合図だった。

 するとここで地面に寝転がっている俺の下に各々の戦場を切り抜けてきたであろう仲間たちが駆けつけてくる。所々怪我をしている者もいるようだが、一時間もすれば俺も回復するので治癒はそれまで待ってもらう必要がある。だがそれでも仲間の無事は率直に嬉しかった。


 だが。

 ここで勝利した俺たちを嘲笑うかのように膨大な魔力が膨れ上がったかと思うと、俺たちが戦っていた戦場の真上に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「な、なに!?」


 俺は動かない体を必死に動かそうと首を捻りながらそれを確認する。どうやらそれはこの戦場にいる全ての者に放たれようとしているものらしい。

 こ、このタイミングでこんなものを帝国は隠していたのか!?

 ま、まさか、第一ダンジョンの魔石たちはこの魔術のために用意されたものなのか?だとすれば、帝国がわざわざこの場所を戦場にしたのはこれが理由ということか!

 俺は血だらけになった頭でそう考えると、さらに気配探知でその魔法陣に含まれている魔力量を探っていく。

 ま、マズいな………。気配殺しが使えれば一瞬で破壊できるが、今の俺は指一本すら動かせない。それにキラやサシリが全力で攻撃を放ったとしてもあの魔力量は絶対に止められないぞ………。

 残酷なまでに突きつけられた事実を高速で処理した俺は、その光景を見つめながら必死に何か方法はないか考える。

 だ、ダメだ。何も思いつかない。

 あんな馬鹿げた攻撃を防ぐ手段なんてそう簡単にあるはずが………。

 と、俺が思考を投げかけたその時。


 静かにその魔法陣に近づいていく人影が俺の目に映し出された。

 その人物は白く長い髪を携えた少女で、首には青く輝いている大きなネックレスがぶら下がっている。瞳には光が宿っておらず、放たれている風格のいつもの彼女のものとは大きく異なっているようだ。


「あ、アリエス…………?」


 俺はその少女の名前を半ば反射的に口にすると、その言葉が合図となったかのようにアリスの口が小さく動いた。




「消えて」




 そしてその瞬間、俺たちを絶望に叩き落とそうとしていた巨大な魔法陣が粉々に砕け散ったのだった。


次回はようやく、ようやくあの人物が登場します!

単純にこのキャラクターが出てくるのには時間がかかりました。しかし圧倒的な風格を持つあの人はやはり物語が終盤に近付いていくことで姿を現すのです!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ