第二百九十三話 vsオナミス帝国、十五
今回はようやく事態が動き出します!
では第二百九十三話です!
サシリやエリアたちが戦場で勇者たちと戦っているころ。
同じくアリエスも自分が担当する勇者を相手取りながら魔術や剣を打ち放っていた。アリエスが相手にしている勇者は拘束の雷光という力を使用することができる勇者で、相手の動きを強制的に拘束する能力だ。
とはいえアリエスはハクから貰った絶離剣レプリカを所持しているため、そのような力は通用せず常に戦いを有利に進めることが出来ていたのだ。
「な、なんで!?私の拘束の雷光がそんな簡単に打ち破られるなんて…………ありえない!!!」
「そんなことはどうでもいいの。私はあなたを倒すためにここにいる。だから手段なんて私は気にしない。それにあなたの力が私に通用しないのは単純に実力差がありすぎるからだよ」
アリエスは冷酷にそう呟くと、そのまま魔本を勢いよく開き魔術を展開する。
「極地の星根」
その魔術が発動された途端、アリエスの体から膨大な魔力が膨れ上がったかと思うと地面から大量の巨大な木の根が出現し勇者の体を縛り付けていく。
「きゃあああああああ!?な、なにこれ!?う、動けない!?」
リアが開発し魔本に閉じ込めていた魔術なのでそう簡単に逃れられるわけはないのだが、それ以前にアリエスはこの魔術を発動した時に一つの違和感を覚えていた。
(この感じ………。エルヴィニアの時と一緒だ。魔力が無限に湧いてくるような、それでいて自分じゃないような感覚…………。頭だけが冴えてて体は浮いているみたいな)
それはアリエスがエルヴィニアでヘルに助けられた後に顕現していた力でエリアに一種の不安を与えていたものだった。この状態になったアリエスはほぼ無限に魔力を使うことができる。リアの所有している魔術もこの時だけは躊躇いもなく使用できるのだ。
アリエスはその感覚に一瞬だけ疑問を覚えたが、それでも今は戦闘に集中するべく意識を目の前の勇者に戻す。
「私はエルヴィニアであなた達に殺されかけた。でもそれを許したとしてもエルフの人たちを傷つけたことは絶対に許せない。あれは故意とか、未遂だとかっていう問題じゃない。あなた達がやったことはそれだけ重たいことなの!」
「う、うるさい!だったらどうしろっていうの!帝国の外に出ることが出来ない私たちは帝国の意思に従うしかないのよ。それなのに自分の意思を尊重して行動なんてできるわけないじゃない!」
(帝国の外に出られない?…………それってどういう意味なのかな?)
アリエスは勇者の口から出てきた言葉に対して少しだけ疑問符を並べるが、それでもその目は明確な憎悪を滲ませている。
そのまま絶離剣を鞘に納めたアリエスは戦いを終了させるために、自分が一番得意としている魔術を今放てる全力の魔力を注いで発動させた。
「あなたにどんな事情があってどんな問題を抱えているか知らないけど、この場に立っている以上、私のやることは変わらないの。だから、これで沈んで!」
その言葉と同時に拘束されている勇者の頭上に巨大な水色の魔法陣が展開される。
「氷の終焉!!!」
瞬間、膨大な魔力が現象に変換され、大量の雪と氷が勇者の体に叩き落とされた。
「あ、あ、、あ、きゃああああああああああああああああああああああああ!?」
それは完全に勇者の体を飲み込み、その体力を全損させると大地に大穴を開け、大爆発を引き起こす。周囲にある瓦礫は全て吹き飛び、空気は凍り付き、地面を揺らした。
アリエスは氷の終焉が消失し、その中心で意識を失っている勇者を確認すると魔本を服の中にしまい息をつく。
「これで終わりかな。みんなの戦闘も終わってるみたいだし、私が一番最後になっちゃった」
するとアリエスがそう言葉を発した瞬間、倒れていた勇者の体が急に光りだし空気に溶けるように消えていった。
(き、消えた………?も、もしかして転移?で、でも他の勇者の気配も消えてるし………、大丈夫なのかな?)
アリエスが勇者が消失したポイントをを首を傾げながら眺めていると、その後ろから同じ場所で戦っていたサシリ、エリア、ルルンが駆け寄ってきた。
「アリエス!そちらは大丈夫ですか?」
「うん、問題ないよ。ってちょっと!?ルルン姉怪我してるよ!それ、大丈夫なの?」
アリエスは声をかけてきたエリアに対して笑いながらそう問いかけると、左手から血を流しているルルンに心配そうな声をかける。
「あはは、大丈夫大丈夫!これは、自分でつけたようなものだからねー。後で治癒魔術をかけておけばすぐに治るよ」
「そ、そっか……」
そんな会話をルルンの後ろで聞いていたサシリはシーナたち軍隊が戦っているさらに向こう側をジッと見つめて言葉を発する。
「あっちもどうやら無事みたいね。合流したほうがいいかしら?」
「そうですね。力の流れ的にハク様の戦闘は終わっていないようですけど、キラたちとは一度集まったほうがいいと思います」
するとここでルルンが得意そうな表情を浮かべてみんなの手を取って肌を触れ合わせた。
「なら私の転移で行くよー!それの方が早いからね!」
「ちょ!?ルルン姉!?そ、そんなに魔力使って体は平気なの!?」
ルルンの転移はハクと違ってまだ発展途上だ。ゆえに消費魔力が大きく、一度転移するだけで相当な疲労が溜まってしまう。
しかし当のルルンはまったく気にしていないような顔を浮かべてアリエスに返答する。
「まあ、その通りなんだけど、もう戦闘っていうのはないだろうし魔術が使えない私にはこれくらいしか出来ないからね。…………さあ、行くよ!」
ルルンはアリエスの制止を振り払うように転移を実行するとキラたちが集まっている場所にアリエスたちを一瞬で移動させた。
「む、噂をすればだな。なるほど、ルルンの転移でやってきたのか。見たところそちらも無事そうだな」
キラはいきなり目の前に現れたアリエスたちにそのような言葉をかけると柔らかな笑顔を向けてくる。
しかしその瞬間、アリエスたちの手を握っていたルルンがその場に崩れ落ちてしまう。
「「「ルルン姉!」ルルン!」」
やはり今のルルンには転移という力は重たいようで額からは大量の汗を流している。体力的ではなく魔力的に消耗しているだけので多少休めば回復はするが、それでも戦闘で既に一度転移を使用しているルルンにとって二回目の転移はかなりの負荷がかかっているようだ。
『しばらくそこに寝かせておけばいいじゃろう。キラ、済まぬがルルンに治癒の根源を施してくれんかのう?』
元の小さな姿に戻ったクビロはシルの肩の上に乗りながらそう呟いた。
「心得た」
キラはそんなクビロの声に大きく頷くと疲弊したルルンに治癒の根源を放っていく。さすがにハクの事象の生成ほどの回復力はないが、それでも精霊女王が直々に放っている根源だ。魔力補充くらいならば一瞬で回復してしまうだろう。
キラの根源を受けたルルンは徐々に顔色を戻していき呼吸も整っていく。
「まあ、これで問題ないだろう。とはいえ今はまだ体を休ませておけ」
「う、うん。ありがとうキラちゃん」
ルルンはキラに対して笑いながらそう呟くと、そのまま地面に自分の全体重を預けていく。
するとここでそのルルンの体を支えていたサシリがキラに対して質問を投げかけた。
「で、どうなっているの、ハクの戦いは?」
サシリたちが戦っていた戦場では、シーナたち軍隊がハクたちが戦っている戦場を覆い隠しているのでその姿を確認することは出来ないのだ。一方キラたちは一応遠くではあるがその姿を視認できる場所にいたのでサシリはそれを理解して問いかけている。
「どう、と言われてもな………。マスターもそうだが、あのアリスという少女は相当な実力者だ。はっきり言って妾達が踏みこむ隙はないだろう。だが、すでに戦闘が開始されてからかなりの時間が経過している。お互いに消耗しているようだし、そろそろ決着がつきそうなのではないか?」
ハクとアリスの戦いはいまだに遠くの地面で繰り広げられているものの、キラが言うようにお互いにかなり疲弊しているようで、それが感じられる気配から伝わってきた。
その言葉を聞いたメンバーはこれからどうしようか迷っていると、そこにとある一本の知らせが打ち上がる。
それは帝国内の宮殿上空に一つの光球を放つと、勢いよく爆発した。
「あれはまさか!」
「でしょうね。イロアさんたちが皇帝を打ち倒したのでしょう」
シラの驚きの声にかぶせるようにエリアがそれに対して返答する。
イロアの最終的な作戦の中には、皇帝を仕留めたときには魔術による花火を打ち上げるというはずになっていた。ゆえに今の知らせはイロアたちが完全に勝利したということだろう。
「ふっ、あのSSSランク冒険者もなかなかやるではないか」
キラはそう笑いながら呟くと、首に手を当てながら体をほぐしていく。
さらにそれと同時にハクとアリスが戦っている方角から、とてつもない力が沸き上がるとその二つが衝突し、その片方が完全に消失した。
「ハクにぃのほうもなんとか終わったみたいだね」
「そうね。だったら私たちもハク様の下に戻りましょうか」
アリエスの言葉に頷いたシラは肩の荷を下ろすかのような表情を浮かばせると、そのままハクが戦っていた方向に向けて足を踏み出す。
ルルンに関してはサシリが抱き上げながら運んでいく。
見れば戦場で戦っていたシーナたち軍隊や冒険者たちは一斉に声を上げて喜んでいるようで、勝利の雰囲気がその場に木霊していた。
そしてアリエスたちはハクとアリスがお互いに倒れ伏している場所に近づくと、倒れながらも笑っているハクを発見し安堵の表情を浮かべる。
だが。
ここでアリエスたちがいる真上。
いや今もなお大量の軍隊や冒険者がいる頭上を覆い隠す形で見たこともないほどの巨大な魔法陣が展開された。
「な!?こ、これはなんだ!?」
キラが珍しく慌てた声を上げ、周囲を確認する。
それは属性すら読み取れないほど高度な魔法のようで、空間を破壊するレベルの魔力が込められたものだった。
その瞬間、パーティーの参謀役であるシラの頭に一つの推測が浮かび上がる。
「まさか、あの魔石はこれのために………?」
「ど、どういうことなんですか、これは!シラ、説明してください!」
「た、多分だけど、帝国がこの戦争のために集めていたとされる魔石の使い道がまだ見つかってない。第一ダンジョンにあったあの強大な魔石をまだ帝国は使用していないのよ!だからもし、それが全てこの魔法のために用意されたものだとすれば……」
つまり帝国がなぜこの場所で戦いをしたかったのか、という理由にそれは直結する。おそらく帝国はこの魔法を発動させ確実に直撃させるために、魔法を予めセットし魔石を集めていたのだ。
これこそが帝国軍の最後の切り札にして目的。
自身の国の負けを認めた段階でこの魔法を放つことで敵を全滅させる。
今までの戦いは全て囮だったということだ。
「こ、こんな力………。仮に全力を出しても止められないわよ!」
サシリが誰に問いかけるわけでもなくそう呟く。
頼みの綱であるハクも少し離れた地面で倒れており、意識はあるものの体は動かせないようだ。
だれもがその状況に諦めかけていたその時。
同じくその光景を見ていたアリエスに変化が訪れる。
それは一度アリエスの心臓を大きく跳ね上がらせると、急にアリエスの息を詰まらせた。
(な、なに、これ!?ちょ、ちょっと、待って!?違う、違う、違う!これ、私の力じゃない!く、苦しい!?で、でも止められない!!)
「あ、あ、あうあ、がっ!?」
「アリエス?」
急におかしな反応を示しだしたアリエスに対してエリア心配そうな表情を向ける。
しかしアリエスの容態は変わらない。
「ぎ、があ、ひゅ、うあ……」
(な、なんなのこれ!?う、うまく喋れない!だ、ダメ!もう抑えられない!!!)
そしてその瞬間、アリエスの意識は完全に消失し、うつろな瞳を携えたアリエスのような少女が佇んでいた。
そしてこれこそがリアが作り出したとある力が顕現した瞬間だった。
今回はついにアリエスの秘密が垣間見えてきたお話となりました!
次回はハクとアリスの戦いを描きます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




