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第二百九十一話 vsオナミス帝国、十三

今回はキラがメインとなります!

では第二百九十一話です!

 場所は変わりサシリたちがたたっている反対側の戦場にて。

 そこではハクのパーティーの中で最も強いと謳われている虹色の髪を携えている精霊女王の姿があった。

 その身には武器を一切持たず見ただけで命を奪われてしまいそうな殺気を笑顔のまま滲ませながら自分の担当である二人の勇者を睨みつけている。

 この二人の勇者はかつてエルヴィニアにてクビロにあっけなく敗北した勇者たちで、能力の詳細が判明していない者たちだ。ゆえにこの場はキラという戦力を用いて対抗するのだが、その実力差は誰が見ても明らかであった。


「むう………、つまらん。学園王国で一度倒しているとはいえ、この程度の力しか出せなかったか?ならば本当に期待外れだ。楽しむことすらできんぞ」


「くそ!この女、化け物すぎるだろ!?なんで剣の刃を指一本で受け止めるんだよ!」


「ま、まだあきらめるな!絶対に勝機はある!」


 キラは先程からこの勇者たちの攻撃を軽くいなしているのだが、それはキラの体に傷をつけるどころか、そもそもダメージすら与えることすらできていない。それは種族的な問題もあるが、それ以前に地の力が違いすぎるのだ。

 キラはこの世界が創造されてから直後に生み出された存在だ。それゆえ精霊の長を務めており、今現存している生物の中では一番長寿だろう。そしてそれは長い年月で培った戦歴を如実に表している。

 つまり経験も実力も頭脳も、全てがキラの独壇場なのだ。そんな展開が開かれていると気づいてすらいない勇者たちには勝機などという夢物語はやってこない。

 仮にハクのようにそれすらも凌駕する絶対的な力を用意できるとすれば別だが、この勇者たちからそのような気配は感じられない。

 キラはそれを戦闘開始と同時に察すると、まるで遊ぶような視線をぶつけながらその二人の相手をしていたのだ。


「勇者という連中と戦うのはこれで三回目になるが、ここまで雑魚になってくると本当に救いようがないな。まあ、多少力は上がっているようだがそれも微々たるものだ」


「黙っていろ!今すぐ、その笑いを消してやる!」


 すると勇者は剣を再び構え直し、全身に何やら力を流していくと、そのままキラに向かって高速で動き始めた。

 それは今までよりも数倍のスピードに上がっており、キラもその現象には少しだけ驚かされた。

 キラは突き出されてくる剣を根源を滲ませた腕を差し出すことで防御していく。本来ならばそんな自ら腕を差し出す行為は自傷行為となんら変わらないのだが、根源という強大な力を付与させているキラにとってその動作はそれこそ己の武器を振るっているのと等しい動作なのだ。


「ほう、やればできるではないか。さっさとその力を使っておけばいいものを」


「この『魔神化』はそう安売りできる能力じゃないんだよ!」


 今この勇者が使っている能力は「魔神化」と呼ばれている力だ。当然それは勇者特有の能力であるが、その性能は拓馬の「覇王」に似ている。全体のステータスを上昇させ、その身体能力を何倍にも膨れ上がらせるというものだ。

 しかし拓馬の覇王と違う点は、それ以上の汎用性がないということだ。拓馬の覇王の場合、身体能力上昇の他にも魔術に似た力や結衣の剣撃にも対抗できる力を発動することができるが、この魔神化と呼ばれる能力は単に筋力を増強させるものでしかない。

 だが同時にそれは覇王の能力よりも上昇率は高く、動きだけならば拓馬よりも上のランクに到達することが出来るのだ。

 しかしそんな攻撃もキラの綺麗な腕によって阻まれてしまう。


「そうか。ならばもっと本気を出せるように調教してやろう」


「させるかよ!」


 そんな台詞をキラは勇者に放ったのだが、その一瞬の隙にもう一人の勇者が攻め込んできた。どうやらこの二人はそれなりにそのコンビネーションを練習しているようで、一方が攻撃を仕掛けている時はもう一方は周囲を警戒し、入れかわるときは息を合わせているようだ。

 となると必然的に魔神化を発動している勇者は引き下がり、控えていた勇者が目に進み出る。


「今度はお前か。なるほど、鈍器、いやハンマーと言ったほうがいいか。なかなか珍しい武器を使っているな」


「お前にこの一撃が防げるか?」


 そう呟いた勇者は全力でキラの体に自身の武器であるハンマーを叩きつけていく。

 そもそもハンマーとは大剣や片手剣と違い、相手の肉を切り裂くことで絶命させる武器ではない。

 その圧倒的な一撃の重さで内臓を破壊したり、急所を狙うことで確実にその位置の血を仕留めていくスタイルが一般的だ。また多人数で戦闘を進める場合は、その威力を生かして敵を弱らせたりタンク役になったりと基本的に主力としてもサポートとしても、どちらにも回ることのできる武器なのである。

 今回はキラという人型の相手をしているので完全な攻撃役で、今もキラの脳天にその重たい一撃を繰り出してきていた。

 キラはそんな勇者の姿を見ながら右手を差し出すと、今度は生身で受け止めるのではなく根源そのものを打ち放った。


根源の起爆ハイトナルハソノイノチ


 それはとてつもない熱気を秘めた光で、太古の昔から存在している火の原点を模したものであった。

 瞬間的にキラの根源はその勇者の体を包み込みその体を勢いよく吹き飛ばす。


「がああああああああああああ!?」


「いい反応だったが、それでもまだ遅い。妾の根源の速度を上回れないようでは、妾の体に触ることすら叶わんぞ?」


 キラはそう呟くと、さらに追い打ちをかけるべく新たな根源を発動しようとするのだが、またしてもここでもう一人の勇者が攻撃を仕掛けてくる。


「魔神化!!!」


「またお前か。どれ、先程よりもさらに強くなったみたいだが妾に届くか?」


 勇者が踏み出した大地はそのすさまじい力によって粉砕され、粉々に砕け散ってしまう。そしてその流れを残しつつ勇者はもはや自分でも信じられないスピードでキラに切りかかった。


「はああああああああああ!!!」


「ふん!」


 それはまたしてもキラの腕によって受け止められるのだが、今回はまた違った現象を呼び起こした。


「ッ!?………攻撃に斬撃を乗せてきたか。この一撃は囮で、斬撃に重きを置く。なるほど、考えているな」


 目を細めたキラがそう呟くと、そのキラの右耳から赤い血が溢れだす。耳自体は飛ばされなかったものの放たれた斬撃によって傷つけられたようだ。


「チッ!これでもその程度のダメージなのか!?」


 勇者はまたしても一度距離を取ると、キラの根源によって吹き飛ばされた勇者の下に駆け寄りその体を起こし上げる。

 とはいえあのキラの体に明確な傷を与える時点で本来ならば賞賛に値するのだが、勇者たちの目的はあくまでもキラの討伐なので満足はしていないようだ。

 だが対照的にキラはその痛みを味わうようにして顔にさらなる笑みを浮かべると、そのまま本来のスペックである精霊女王としての力を解放した。

 それは空に覆いかぶさっている雲を全て弾き飛ばし青空を浮かばせると、どこから発生しているのかわからない稲妻を身に纏わせ、勇者たちを睨みつけた。


「さあ、どこからでもかかってくるがいい。妾は久しぶりの戦闘に高揚感が抑えられないのだ。この傷もそれを増長させている。もっと妾を楽しませてくれ!」


 キラはそう呟くと、そのまま両手を勇者たちに差し出して大量の力を注ぎ込んで根源を発動させた。


根源の爆撃マタタキハハカイノウタ!」


 それは以前エルヴィニアでも学園王国でも勇者に向けて放った技であり、巨大なレーザー砲のような高圧力の一撃が勇者二人に向けて放出された。

 精霊の長に立っているものだけが使用できる根源は空気や音さえも焼き尽くす勢いで放たれており、直撃すればあのハクとて無事では済まないだろう。

 するとその攻撃を見ていた勇者の一人は咄嗟に両腕を目の前に差し出し、キラの根源に迎え撃とうとする。


「日光臨!!!」


 勇者が放った一撃はキラの力によって晴れ渡った空から太陽の光を凝縮させ、莫大な熱線を出現させた。

 そしてそれはキラの根源と真正面から激突し火花を散らせた。


「いいぞ、いいぞいいぞ!それでこそ戦いというものだ。だがその一撃どこまで持たせられる!!!」


 キラはその攻撃を目に焼き付けると自身の持っている力をさらに放出していく。


「ぐっ!?が、がああ!?こ、こんなところで、負けるわけには、いかないんだよ!!!」


 すると徐々にではあるがキラの根源が押され始め、拮抗が揺らぎだした。虹色の光と太陽の眩い光はしのぎを削りながらお互いの力をぶつけながら激突していたが、それはキラの根源が消失することで勝負がついた。

 キラは反対に向かってくる勇者の日光臨の熱線を自らの体に触れるタイミングで左手を振り上げるような形で弾き飛ばす。

 それでもキラの表情にはまだ余裕の表情が浮かんでおり、戦いを楽しむような雰囲気を滲ませていた。

 しかし相手の勇者はまったくの正反対な顔をしており、額からは大量の汗を沸き上がらせ、肩を大きく揺らすように荒い息を繰り返している。


「今のはいい攻撃だったぞ。まさか妾の根源をはじき返すとは、少々感心した。これだから長く生きるということは止められん」


「くそ!な、なんで、あおの攻撃を腕だけで弾き飛ばせるんだよ………。これじゃあ、俺たちは初めから勝てなと言われているようなものじゃないか!」


「ようやく気が付いたか?お前が言うようにこの戦いは戦う前から勝敗がわかっているのだ。もし妾を殺したければマスターのような存在を持ってこない限り不可能だ。………ゆえに、妾はこの戦いをただ単に楽しんでいた。だが、それももう十分だ。これで最後にしてやる」


 キラはそう言うと自身の両腕をもう一度その勇者たちに差し出すと自身が持っている最強クラスの根源をノータイムで繰り出す。


根源の停滞ハジマリハカイキスルトキノナガレ!!!」


 放たれた一撃は先帆の根源よりも広範囲に、そして闇すら飲み込んでしまうほど漆黒に染まった攻撃だった。

 第二ダンジョンでハクに対して放った最強の根源。

 それをキラはこの戦いの最後に勇者に向けて使用したのだ。


「くっ!?日光臨!!!」


 勇者はすかさず先程の熱線を使用するが、今回はキラの根源に触れた瞬間、逆に溶け消されてしまうかのように吹き飛ばされてしまった。


「な、なんだと!?」


「終わりだ、精々笑いながら死ね」


 キラはそう呟くと勇者に向けて容赦なくその根源を叩き込んだ。


「ぎゃあああああああああああああ!?」


「がああああああああああああああ!?」


 戦場に巨大なクレーターを作り出したこの攻撃は見事に勇者の意識を吹き飛ばし、地面に伏せさせる。当然その体を消滅させることも出来たのだが、それはこの戦いに対するキラのプライドが許さなかった。


「この程度の連中に妾の根源を汚されるのは御免だ。ゆえに意識だけ刈り取らせてもらったぞ?」


 するとその瞬間、倒れた勇者たちの体が光の粒子へと変換され消えていく。

 どうやら先に戦闘を終えているシラやクビロたちも同じ現象を目撃しているようなので、キラはそのまま放置して仲間の下へと進んでいく。


「しかし、少しばかり熱くなりすぎたかもしれないな」


 キラが最後に呟いたその声は風の音に飲まれるように消えていったのだった。

 

次回は再びイロアたちSSSランク冒険者サイドに視点を移します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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